監修:秀道広先生(医師・広島市立病院機構理事長)
遺伝性血管性浮腫(HAE)は、皮膚や内臓のさまざまな部位に腫れ・むくみが生じることを特徴とする遺伝性の希少疾患です。特に、上気道や腸で起こります。のどや舌での発症は特に危険であり、ただちに治療しないと窒息して命にかかわることもあります。
HAEの発生率は、世界的には5万人に1人程度の割合であると推定されています。日本にはおよそ2,500人程度の患者さんがいると推定されていますが、診断のついている患者さんは現在約700名と推測されています。近年、診断がついた患者さんの数は増えていますが、HAEの推定患者数に対し約28%に留まっているのが実情です。
個人差がありますが、10歳から20歳代に発症することが多く、発作はその後も繰り返し起こります。その頻度は人によってまちまちで、週に数回の人もいれば、年に1~2回、数年に1回しか起こらない人もいます。
HAEの発症時には皮膚や粘膜の急な腫れがみられ、主に手足、顔面、首、お尻や生殖器に影響を及ぼします。この皮膚の腫れはかゆみを伴うことはほとんどありませんが、緊張感を引き起こし、緊張感の程度は不快感から痛みを伴うものまでさまざまです。顔の腫れは外観を損なうことがあります。また、腸壁に浮腫が起こることもあります。この腫れは、激しい痛みを伴い、下痢、嘔吐、循環器の障害を引き起こす可能性があります。ひどい場合には、腸管麻痺や腸閉塞が生じる可能性もあります。
HAEの症状として最も危険性が高いのは、のどや上気道の腫れです。こうした症状をすみやかに治療しないと、窒息により死亡することがあります。
発作の頻度、持続時間、重症度は、人によってまちまちです。発作の頻度は週に数回の人もいれば、年に1~2回、数年に1回しか起こらない人もいます。また、同じ人でも発作の頻度と程度は変化します。
多くの場合、HAEの症状は一過性のもので、12~36時間かけて進行し、その後2~5日間かけて徐々におさまります。しかし、予測できない発作が発生することで、患者さんにとって大きな負担となり、時として通常の生活が送れなくなることがあります。
のどの発作を伴うHAEが発症した場合、気道閉塞を引き起こし、窒息死に至る可能性があります。のどの粘膜が腫れ始めたら、ただちに治療を受ける必要があります。適切な薬剤がない場合は、気管の挿管や緊急切開(気管切開)が必要となる場合もあります。
HAEは、遺伝子の変異が原因でおもに血液の中にあるC1インヒビターが欠損またはその機能が低下する病気です。HAEの発作にはC1インヒビターとブラジキニンという2つの物質が関わっています。ブラジキニンは、血管から増えすぎた水分を漏れ出させて腫れを起こす物質ですが、C1インヒビターによる抑制が効かなくなると、ブラジキニンが過剰に作られてしまい、腫れやむくみ、強い痛みなどが起こります。
HAEは、多くの場合、明らかなきっかけもなく発症します。しかし、原因が特定できるケースもあります。例えば、感染症、軽いけが、圧迫などの刺激により発作が誘発されることがあります。歯科治療や扁桃腺を切除する手術は、のどの腫れを引き起こす可能性があるため、特に気をつける必要があります。感情的、精神的なストレスや疲労が発作のきっかけになることが多くあります。
ホルモン因子も、HAE発作の原因であることがわかっています。例えば、エストロゲンを含む製剤(「ピル」)や更年期障害治療薬を服用している女性や、生理中の女性は、発症の頻度が高くなることがあります。
のどは、自然に腫れることも、歯科治療中などに口腔粘膜が傷ついた後などに腫れることもあります。最初の徴候は、飲み込みにくさ、声の変化、声のかすれです。風邪などでのどが痛くなる時はHAEによるものか分かりにくいので、気をつける必要があります。また、風邪がHAEの発作を誘発する可能性もありますので注意が必要です。
のどの腫れが大きくなると息苦しくなり、ひどい場合には窒息することがあります。これらの症状が患者さんにあらわれた場合は、すぐに医療機関を受診してください。
手足、顔面、首、お腹などに繰り返し浮腫を生じ、数時間から数日続くようであれば、HAEの診断を考慮する必要があります。HAEは、嘔吐や下痢を伴う腹腔内の再発性疼痛の原因になることもあります。
HAEの診断は以下の手順で行われます。
- 医療機関での受診と問診: まずは医療機関を受診し、医師による問診を受けます。問診の結果、HAEの可能性が疑われた場合、次のステップに進みます。
- 血液検査: HAEの可能性が判断された場合、その場で採血が行われ、血液検査が実施されます。この血液検査では、主に以下の項目が調べられます。
①補体C4濃度: 通常よりも低いかどうかを確認します。
②C1インヒビター活性: 通常よりも低いかどうかを確認します。
これらの検査結果に基づいて、総合的に診断が下されます。
家族にHAEの人がいる場合、血縁者、特に近親の家族にHAEを疑うことは極めて合理的です。家族にHAEの診断がついている人がいる場合は、症状の有無にかかわらず検査を受けることをおすすめします。
HAEは生殖能力を損なわないため、HAEの女性も妊娠することができます。ただし、アンドロゲンは女性の受胎能力を損なう可能性があるため、アンドロゲンによる治療(ダナゾールなど)を受けている女性は服用を中止する必要があります。その場合は早めに主治医の先生と相談してください。
HAEの発作回数は、妊娠中に増加することも減少することもあります。浮腫の程度も同様です。妊娠期間中は、主治医と適切な治療法について話し合ってください。
HAEは希少疾患で医師にもあまり知られていない病気です。さらに、HAEの症状は、アレルギーや虫垂炎など、よくある病気の症状と似ています。そのため、HAEを正しく診断することが難しくなります。
発作が主に胃腸に起きている場合、HAEの診断は特に困難です。HAEが疑われる場合は、多くの場合は血液検査で診断を確定することができます。
HAEの治療には、発作時の治療、長期予防および短期予防の3つの治療法が確立されています。治療には高額な医療費がかかります。その負担を軽減するために医療補助制度をご利用ください。
詳しくは「HAEの医療補助制度」をご覧ください。
発作時の治療の目的は、浮腫の進行を止め症状を改善することです。特に咽喉(のど)に発作が出現した時は、治療せずに放置すると死に至ることがあります。発作が出た時はできるだけはやめに治療を行うことで効果があがります。
日本では、発作時の治療として、ブラジキニンB2受容体拮抗薬「フィラジル®皮下注30mgシリンジ」と血漿由来C1インヒビター製剤「ベリナート®静注用500」の2つのHAE治療薬が認められています。「フィラジル®皮下注30mgシリンジ」は、医療従事者、またはトレーニングを受けた患者さんが皮下注射し、「ベリナート®静注用500」は医療従事者が静脈内に投与する必要があります。
詳しくは「HAEの治療」をご覧ください。
長期予防治療は、この病気によって生活の質が明らかに低下している患者さんに適用されます。この治療はHAEの発作の頻度や重症度を低減することを目的としています。日本では現在、長期予防治療に使用できる治療薬は、「オラデオ®カプセル150mg」「タクザイロ®皮下注300mgシリンジ」「ベリナート®皮下注2000」、「アナエブリ®皮下注200mgペン」の4つが認められています。
詳しくは「HAEの治療」をご覧ください。
通常、短期予防は外科的処置や歯科治療によって起こる発作のリスクを減らすために、外科的処置や歯科治療の前に行われます。
日本では、血漿由来C1インヒビター製剤「ベリナート® P静注用」が利用可能であり、処置の1~1時間半前(6時間以内)に点滴で静脈内に投与します。
詳しくは「HAEの治療」をご覧ください。
HAEの原因である11番染色体の中にあるC1インヒビター遺伝子の欠損または変異は、男女に等しく見られ、その子どもの男女ともに受け継がれる可能性があります。HAEは常染色体顕性(優性)遺伝性疾患であるため、罹患した親から子どもが病気を受け継ぐ可能性は50%です。子どもがHAEを受け継ぐ可能性に男女の差はありません。
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