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マガジン一覧

サステナビジネス解体新書

サステナビジネスの世界は、美談だけでは語れない。 華々しい成長の裏にある経営判断。 撤退の背景に潜む市場構造。 理念を貫いたブランドと、手放したブランドを分けたもの。 このマガジンでは、国内外のサステナビリティ領域のビジネスにまつわるニュースや事例を取り上げ、その表層をめくり、構造を解体していく。 エシカルブランドの生存戦略から、EVやエネルギー、フードテックまで。 トレンドの賞味期限が切れた後に残るものは何か? 市場の数字が本当に語っていることは何か? きれいな言葉の奥にある力学は何か? サステナビリティを、構造から理解するための記録。

ティム・クックが履いたのは、サシコギャルズが縫ったスニーカーだった

「エシカル」という言葉が日本で急速に広まったのは、2015年前後のことだった。 SDGsの採択、ESG投資の拡大、消費者庁の「倫理的消費」調査研究会。 そういった流れの中で、日本にもエシカルの波がやってきた。 企業はこぞってSDGsバッジを胸につけ、ESGレポートを発行し、「サステナブル」を冠した新ブランドや新商品を世に送り出した。 あれから約10年。今、何が残っているだろう? 2025年12月、フランス発のオーガニックコスメブランド「メルヴィータ」が日本市場からの

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サステナブルファッションとSNSの構造的敗北。アルゴリズムは、最初から味方ではなかった

2025年の終わり頃、ガーナのスローファッションブランド「Osei-Duro」が幕を閉じた。 関税の変動、ウルトラファストファッションとの競争、コスト高騰。 閉鎖の理由はいくつもあった。 でもこのブランドがInstagramの投稿で挙げた要因の一つに、聞き慣れない言葉があった。 「アルゴリズム・アバンダンメント(algorithm abandonment)」。 アルゴリズムに見捨てられた、という意味だ。 ガーナの伝統的な手染め技法で服を作り、職人に公正な賃金を支払

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Allbirdsが手放したもの、Vejaが手放さなかったもの

Allbirds(オールバーズ)の行く末が気になり始めたのは、2024年頃だった。 サステナブルブランドのSNSマーケティングに関わるようになり、エシカル市場やD2Cブランドの勝ち筋を調べていた時期だ。 ちょうどその頃、ある週刊誌が高級食パンやタピオカ屋の閉店ラッシュと同列に並べて、「エシカルブームも終わった」と書いていた。 本当にそうか?気になってかなりリサーチした。 蓋を開けてみれば、フェアトレードの国内購入額は年々伸びているし、サステナブルファッションやビューテ

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WEBマーケティング戦略:エシカルブランドのための「弱者の兵法」

2020年11月。サステラという旗を掲げたあの日から、5年以上の月日が流れた。この歳月の中で、私は数えきれないほどの志に出会ってきた。 地球環境への負荷を抑えた素材選び、途上国の生産者の生活を支えるフェアな取引、そして、それらを裏支えする創業者の震えるような情熱。 交流会、タイアップ、インタビュー、取材、イベントの現場で彼らと対話するたび、私はその熱量に、自らの背筋を正される思いがしたものだ。 しかし、5年という月日は、残酷なまでの選別の記録でもある。 かつて共に熱く

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ファッションの解剖学:衣服の不都合な真実

一枚の服を通して、「わたしたちは、何のために、どう生きるべきか」という根源的な問いを探求している。 サステラが追求するサステナビリティの根幹にある思想を、具体的な事例(綿の生産背景、サプライチェーン、縫製技術)を通じて展開。 経済的な効率性だけを追求する現代社会へのアンチテーゼとして、文化、精神性、美意識といった高次な価値に光を当てる。 服は、私たちの世界観を映し出す鏡。 このマガジンを通じて、表面的なトレンドではなく、服に込められた歴史、労働、そして未来の希望を読み解き、新しい消費哲学を確立したいと願うすべての読者に送る。

ティム・クックが履いたのは、サシコギャルズが縫ったスニーカーだった

「エシカル」という言葉が日本で急速に広まったのは、2015年前後のことだった。 SDGsの採択、ESG投資の拡大、消費者庁の「倫理的消費」調査研究会。 そういった流れの中で、日本にもエシカルの波がやってきた。 企業はこぞってSDGsバッジを胸につけ、ESGレポートを発行し、「サステナブル」を冠した新ブランドや新商品を世に送り出した。 あれから約10年。今、何が残っているだろう? 2025年12月、フランス発のオーガニックコスメブランド「メルヴィータ」が日本市場からの

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サステナブルファッションとSNSの構造的敗北。アルゴリズムは、最初から味方ではなかった

2025年の終わり頃、ガーナのスローファッションブランド「Osei-Duro」が幕を閉じた。 関税の変動、ウルトラファストファッションとの競争、コスト高騰。 閉鎖の理由はいくつもあった。 でもこのブランドがInstagramの投稿で挙げた要因の一つに、聞き慣れない言葉があった。 「アルゴリズム・アバンダンメント(algorithm abandonment)」。 アルゴリズムに見捨てられた、という意味だ。 ガーナの伝統的な手染め技法で服を作り、職人に公正な賃金を支払

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ツタンカーメンは布を繕っていた。私たちはなぜやめたのか

1922年、考古学者ハワード・カーターがツタンカーメンの墓を開けたとき、黄金のマスクや豪華な副葬品に世界中が沸いた。 だが、その墓にはもう一つ、あまり注目されなかった遺物があった。 修繕されたリネンのケルチーフだ。 紀元前14世紀。 古代エジプトのファラオといえば、人類史上最も裕福な存在の一人。 望めばいくらでも新しい布を手に入れられたはずの王の墓から、繕われた布が出てきた。 ファラオですら、布を直して使っていた。 これは古代エジプトだけの話ではない。 18世

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ジュネーブの密約と陳腐化の罠。アルゴリズムという檻の中で「主権」を奪い返すには

1924年のクリスマス・イブ。雪に包まれたスイス・ジュネーブの一室で、近代経済のあり方を根底から変えてしまう「密約」が交わされた。 集まったのは、オスラム(ドイツ)、フィリップス(オランダ)、ゼネラル・エレクトリック(アメリカ)といった、当時の世界市場を支配していた電球メーカーの首脳陣である。 彼らが結成した「フェーバス・カルテル」の目的は、一見すると技術革新への背信行為であった。 それは、当時すでに2500時間以上の寿命を誇っていた電球の寿命を、「あえて1000時間に

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SNS分断時代のグレーの歩き方

なぜ嘘は真実の6倍速く拡散するのか? なぜ科学的根拠のある情報は「バズらない」のか? なぜ気候変動の否定論がSNS上でこれほどの勢力を持つのか? 18万人にフォローされる環境メディア「サステラ」の運営を通じて、私はこの問いと5年間向き合い続けてきた。 このマガジンでは、SNS上の偽情報・アルゴリズムによる分断・AIが加速させる情報汚染の構造を、学術研究と現場の実感の両面から解きほぐしていく。 世界は白か黒かで割り切れるほど単純ではない。 複雑な問題を複雑なまま受け止め、「わからない」に耐えながら、それでも自分の頭で考え続ける。 そのための「思考の補助線」を、ここに置いていく。

サステナブルファッションとSNSの構造的敗北。アルゴリズムは、最初から味方ではなかった

2025年の終わり頃、ガーナのスローファッションブランド「Osei-Duro」が幕を閉じた。 関税の変動、ウルトラファストファッションとの競争、コスト高騰。 閉鎖の理由はいくつもあった。 でもこのブランドがInstagramの投稿で挙げた要因の一つに、聞き慣れない言葉があった。 「アルゴリズム・アバンダンメント(algorithm abandonment)」。 アルゴリズムに見捨てられた、という意味だ。 ガーナの伝統的な手染め技法で服を作り、職人に公正な賃金を支払

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Xが言語の壁を壊した日、分断も国境を越えた

2026年3月30日、SNSの歴史にとって、静かに、しかし決定的な転換点が訪れた。 X(旧Twitter)が、Grokによる自動翻訳+レコメンド機能を本格的に始動させたのだ。 これまでSNSの世界では、言語の壁がそのまま情報の壁だった。 日本語の投稿は日本語圏のユーザーに、英語の投稿は英語圏のユーザーに届く。 どのプラットフォームもその前提の上に成り立っていた。 Xの新機能は、その前提を根本から覆す。 日本語で書かれた投稿がGrokによって翻訳され、英語圏のユーザ

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SNSが映す「世論」は、世論ではない。びっくりハウスの鏡が歪める社会の真実

SNSを開くたびに、こんなふうに感じたことはないだろうか? 「世の中、こんなに怒っている人ばかりなのか」と。 タイムラインをスクロールすれば、誰かが誰かを糾弾し、誰かが誰かに失望し、誰かが誰かを敵と見なしている。 社会は深く分断され、対話は不可能になり、人々はどんどん過激になっているように見える。 でも、一度スマホを置いて、周りを見渡してみてほしい。 職場の同僚、近所の人、スーパーの店員。 彼らは怒りに震えているだろうか? 社会の分断について叫んでいるだろうか?

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批判も、フォロワー減も覚悟の上で。それでも私がSNSで問いを立てた理由

ここ最近、立て続けにSNSで投稿をした。 気候変動、メガソーラー、パーム油。 どれも、意見が割れやすいテーマばかり。 案の定、いろんな反応があった。 共感の声もあれば、批判もあった。 フォロワーが減った日もあった。 なぜ、わざわざそんなことをしたのか? この記事では、その理由について書いてみたい。 「批判一色」の空気の中で最もためらいが大きかったのが、メガソーラーについての投稿だった。 なぜメガソーラーがこれほど反発を招くのか、それ自体は理解できる。 豊か

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サステラ編集長の試行錯誤

WEBメディア「サステラ」編集長Ryuによる、思想と実践の記録。 借金を背負い、虚栄心が死んだどん底で、剥き出しの「生存本能」からサステナビリティの勝算を見出した一人の「実践者」。 18万人のフォロワーを抱えるメディアを運営する中で直面した絶望、アルゴリズムの濁流、そして「正しい情報だけでは人は動かない」という冷徹な現実。 それらに対峙し、社会構造をメタ認知することで獲得してきた思考の足跡。

5年間、届いていると思っていた。届いていなかった。

同じアカウントから、同じ週に出した投稿で、片方は23人にしかフォローされず、もう片方は1,666人にフォローされた。 70倍以上の差だ。 コンテンツの質が違ったわけではない。 かけた労力も、調べた時間も、ほとんど変わらない。 違ったのは「言葉の選び方」だけだった。 この差を目の当たりにしたとき、私は5年間の盲点にようやく気がついた。 自分が使い慣れた言葉こそが、届けたい相手との間に壁を作っていたのだと。 これは、Instagramで18万人のフォロワーを持つメデ

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真理など存在しない。科学とは、終わりのない「仮説の集積」である

深夜0時。部屋の明かりを落とし、パソコンのバックライトだけが手元をぼんやりと照らしている。 街の喧騒が完全に死に絶え、時折、家の骨組みが温度差で小さく軋む音だけが、夜の深さを教えてくれる。 そんな時、机の上に置いたスマートフォンが短く震え、画面に青白い光が灯った。 一件のダイレクトメッセージ。 「あなたの記事、この部分が間違っています。この論文を読めば、地球温暖化が人為的なものではないことは明らかです。速やかに訂正された方がいいですよ」 メッセージには、学術論文のリ

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瓶を揺らすのは誰?民主主義がハックされる今、怒りのアルゴリズムを脱するためのメタ認知

2020年11月のアカウント開設以来、サステラでは毎回、選挙のたびに「投票へいこう」という趣旨の投稿を繰り返してきた。 サステナビリティを掲げるメディアとして、社会の仕組みを決定する政治というプロセスに関心を持つことは、活動の根幹に関わる不可欠なアクションだと信じていたからだ。 なぜ、私はこれほどまでに選挙のたびに発信を続けてきたのか? その大きな動機となっているのは、2021年の衆議院選挙で得た、ある種強烈な成功体験である。 当時、投票を呼びかける投稿をしたところ、

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岩陰から飛び出し、世界を変える「実験」を始めよう。

私は今、サステラというメディアを運営することに、かつてないほどの「限界」を感じています。 設立から5年。Instagramのフォロワーは18万人を超え、数字だけを見れば順調に見えるかもしれません。 しかし、日々押し寄せる情報の濁流や、複雑さを増す社会課題を前に、「正解」を届けようとすればするほど、身動きが取れなくなる無力感を抱えてきました。 この閉塞感を打破するために、サステラは「一方的に情報を届ける場所」としての看板を下ろします。 2026年1月。 皆さんと共に悩み

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最前線ドキュメント

「サステラ」は、地球環境と社会課題の今を、現場の最前線からお届けする。 このマガジンでは、持続可能な社会(サステナブル)の実現に向けた取り組みを進める企業、NPO、研究者、そして個人に焦点を当てた「取材記事」だけを厳選して収録。 生態系が破壊される熱帯雨林から、海洋プラスチックが漂着する島まで。 データやニュースだけでは伝わらない、活動にかける想い、乗り越えた課題、そして未来へのビジョンを、当事者の生の声とともにお伝えする。 環境問題や社会問題は、遠いどこかの出来事ではない。私たちの日常に直結する課題に対し、具体的にどのようなアクションが起こされているのか。そのリアルを知ることで、あなた自身の「サステナブルな一歩」のヒントが見つかるだろう。 一歩先の未来を創る人々のストーリーを、ぜひチェックしてほしい。

森が海を育み、海が島を守る。奄美大島で知った持続可能性の本当の意味

奄美大島に降り立った瞬間、冬の東京では考えられない湿り気を帯びた風が肌にまとわりついた。 2月だというのに、空気の中に花と潮が混ざったような生暖かさがある。 そのまま車で島を南下する。 空港周辺のリゾート開発を抜けると、道はやがて山の中に吸い込まれていく。 片側一車線の国道を覆う亜熱帯の照葉樹林。 トンネルを抜けるたびに、車窓の海の色が変わる。 約2時間、文明の痕跡が少しずつ剥がれ落ちていく道のりの先に、最南端のホテルがあった。 2026年2月11日。 朝、窓

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楽園に「出口」はない。石垣・西表島の海を守るために、資本主義の矢印を曲げる試み。

羽田空港を飛び立ってから約3時間。 機体の窓から見下ろす景色は、徐々に分厚い雲に覆われていった。 南ぬ島(ぱいぬしま)石垣空港に降り立つと、小雨がアスファルトを叩く音とともに、ねっとりとした濃密な空気が肌にまとわりつく。 あいにくの空模様だ。 けれど、10月下旬だというのに、東京の冷たい雨とは違う。 植物たちが呼吸しているような、温かく、生命力に満ちた湿気だった。 「ああ、遠くへ来たんだ」 理屈ではなく、皮膚感覚でそう理解する瞬間だ。 ターミナルを出て、バスに揺

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山陽製紙が描く紙の未来:驚きのサービス「PELP!」とは?

歴史を振り返れば、人類の進化は「情報の外部化」という闘争の歴史であった。 紀元前3000年頃、古代エジプトではナイル川河畔に自生する植物、パピルスを加工した書写材が誕生した。 パピルスは、それまでの粘土板や石に比べてはるかに軽量で持ち運びやすく、大量の情報を記録できる画期的な媒体となった。 そして、中国では西暦105年頃、後漢の蔡倫(さいりん)によって、現代に繋がる紙の製法が確立された。 蔡倫の製法は、パピルスよりも安価で大量生産が可能であり、品質も安定していたため、

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【取材】歴史の立役者「昆布」が直面する、海の砂漠化と再生への挑戦

「近代国家たる日本の礎を築いたのは誰か?」 と問われれば、大久保利通や西郷隆盛など明治維新の中心人物の名を思い浮かべる人は多いだろう。 確かに教科書的に言えばその通りだが、実際の歴史は、決してスポットライトが当たることのない、名もなき人々によって支えられてきたことは忘れたくないものだ。 さらにいうと、時代のうねりを生み出す存在は、必ずしも「人」とは限らない。 江戸時代の中期から幕末、そして明治時代にかけて、蝦夷地(現在の北海道)で収穫された昆布は、日本列島を縦断し、さ

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Blue Paradox:海を救うための、不都合な真実。

「プラスチック=悪」という単純な二元論では、この蒼い惑星の危機は救えない。 海の持続可能性を巡る「割り切れない矛盾(パラドックス)」を、各地の一次情報から読み解き続ける記録。 西表・石垣:物資は入るがゴミは出せない。離島という閉鎖系が抱える「物流の非対称性」という構造的病理。 対馬:潮流という不可抗力によって、他者の捨てた「文明の澱(おり)」を背負わされる国境の島の悲劇。 函館:かつての日本を支えた昆布の歴史と、海面下で静かに砂漠化が進む「磯焼け」の最前線 。 論考:海洋汚染対策がCO2排出を増やす。LCA(ライフサイクル)が突きつける、科学的で残酷なジレンマ。 国内外の「海」の現場から、複雑な現実をそのままに報告。 安易な正解に逃げず、現場の手触りから「マシな未来」への等高線を描き出すための、終わりのない思考の旅。

森が海を育み、海が島を守る。奄美大島で知った持続可能性の本当の意味

奄美大島に降り立った瞬間、冬の東京では考えられない湿り気を帯びた風が肌にまとわりついた。 2月だというのに、空気の中に花と潮が混ざったような生暖かさがある。 そのまま車で島を南下する。 空港周辺のリゾート開発を抜けると、道はやがて山の中に吸い込まれていく。 片側一車線の国道を覆う亜熱帯の照葉樹林。 トンネルを抜けるたびに、車窓の海の色が変わる。 約2時間、文明の痕跡が少しずつ剥がれ落ちていく道のりの先に、最南端のホテルがあった。 2026年2月11日。 朝、窓

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プラスチックゴミ問題のジレンマ。海洋汚染・リサイクル・CO2のグレーな領域を読み解く

夜8時を過ぎたスーパーマーケットの青果売り場は、どこか演劇の舞台裏のような、ひっそりとした熱気を帯びている。 煌々と照らす蛍光灯の白い光が、整然と並べられた野菜たちの肌を無機質に叩く。 仕事帰りの重い足取りでその一角に立ち寄った私は、三本入りのきゅうりの袋を手に取った。 指先がその薄いポリプロピレンの膜に触れた瞬間、カサリ、という乾いた音が鼓膜を震わせる。 この音を、私はいつからこれほどまでに疎ましく感じるようになったのだろう。 かつては単なる「清潔さの証」であり、

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楽園に「出口」はない。石垣・西表島の海を守るために、資本主義の矢印を曲げる試み。

羽田空港を飛び立ってから約3時間。 機体の窓から見下ろす景色は、徐々に分厚い雲に覆われていった。 南ぬ島(ぱいぬしま)石垣空港に降り立つと、小雨がアスファルトを叩く音とともに、ねっとりとした濃密な空気が肌にまとわりつく。 あいにくの空模様だ。 けれど、10月下旬だというのに、東京の冷たい雨とは違う。 植物たちが呼吸しているような、温かく、生命力に満ちた湿気だった。 「ああ、遠くへ来たんだ」 理屈ではなく、皮膚感覚でそう理解する瞬間だ。 ターミナルを出て、バスに揺

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【取材】歴史の立役者「昆布」が直面する、海の砂漠化と再生への挑戦

「近代国家たる日本の礎を築いたのは誰か?」 と問われれば、大久保利通や西郷隆盛など明治維新の中心人物の名を思い浮かべる人は多いだろう。 確かに教科書的に言えばその通りだが、実際の歴史は、決してスポットライトが当たることのない、名もなき人々によって支えられてきたことは忘れたくないものだ。 さらにいうと、時代のうねりを生み出す存在は、必ずしも「人」とは限らない。 江戸時代の中期から幕末、そして明治時代にかけて、蝦夷地(現在の北海道)で収穫された昆布は、日本列島を縦断し、さ

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弱者の兵法:エシカルブランドのWEBマーケティング戦略論

「数」の暴力に、志は勝てるか。 大資本による広告枠の独占や、アルゴリズムに翻弄されるSNS運用。 潤沢な資金を持たない小さなブランドが、強者と同じ土俵で戦い続けるのは不可能だ。しかし、それは「勝機がない」ことを意味しない。 本連載では、WEBメディア「サステラ」運営者であり、10年以上にわたりインターネットビジネスの裏方で数字と格闘してきたRyuが、エシカルブランドのための「弱者の兵法」を明かす。 巨大モールへの依存を脱し、AI検索時代の信頼を構造化し、一人の熱狂を資産に変える。志という名の「灯火」を消さないために、マーケティングという冷徹な武器をどう扱うべきか。思想を、単なる理想で終わらせないための「WEBマーケティング戦略」の実践書。

SNSで商品を売るのをやめれば、ブランドは売れ始める。エシカルD2Cの「想起」戦略

2026年の現在、多くのエシカルブランドがSNSマーケティングの停滞に頭を抱えている。 しかし、その悩みの根源を辿れば、極めてシンプルで致命的な一つの誤解に行き着く。 多くのブランドはSNSを「商品を売るための空間」だと誤解しているのだ。 まず大前提としてお伝えしたいのが、「買い物をしよう」という目的でSNSのアプリを起動するユーザーなど存在しないということだ。 Instagramであれ、Xであれ、あるいは新興の分散型SNSであれ、ユーザーがスマホの画面をタップする動

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¥980

棚に並ぶ前に勝負は決まっている。エシカルブランドがデジタルを最優先すべき生存戦略

2026年現在、消費者がブランドと出会い、その思想に共鳴するプロセスの大半はデジタル上で完結している。 かつて「一等地のセレクトショップに商品が置かれること」はブランドの成功を意味したが、そこに戦略が宿っていなければ、もはや消耗戦の入り口に過ぎない。 現代の消費、特に国内市場の主役であるミレニアル世代やZ世代にとって、デジタル上の情報は単なる選択肢の一つではない。 そのブランドが「この世に存在しているか」を判断するための、唯一かつ絶対的な基準である。 彼らが新しい商品

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¥980

美容プロトコル:化粧品の裏側と未来

洗面台に並ぶ化粧品の数々。 華やかなラベルの裏側には、私たちが直視すべき多くの課題が隠されている。 石油やパーム油といった海外資源への過度な依存、製造過程における環境負荷、そして動物実験をはじめとする倫理的課題。 現在の「美」の多くは、地球環境や声を持たぬ生命の犠牲の上に成り立つ危ういバランスの上に存在している。今の心地よさが未来の資源を削り取っているのだとしたら、その美しさに持続性はない。 本マガジンでは、化粧品におけるサステナビリティを考察し、記録する。 既存の消費構造を問い直し、輸入資源に頼らない自律した美しさや、誰の犠牲も強いない誠実な選択とは何か。 目指すのは、一時的なトレンドではなく、100年後の地球と肌に誇れる「美」の再定義。 日常の「選ぶ」という行為を、未来を創るための確かな意思表示へ。 本質的な美しさを守り抜くための探究の軌跡。

日焼け止めを塗った。海には関係ないと思っていた

正直に言うと、私はあまり海で遊ぶタイプの人間ではない。 サーフィンもしないし、シュノーケリングもしない。 海との関わりといえば、ビーチクリーンに参加して、砂浜に打ち上げられたペットボトルやプラスチック片を黙々と拾い集めることくらいだ。 そんな私でも、夏場は日焼け止めを塗る。 いや、正直に言えばここ最近はほぼ一年中塗っている。 今年で37歳。肌の曲がり角は、とっくに曲がり終えている。 せめて下り坂をゆっくり降りたい、という切実な抵抗だ。 でも、ある事実を知ったとき

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美の残骸をどう愛するか?透明な容器に閉じ込められた「不都合な真実」と循環の形

深夜、日付が変わる少し前の洗面所は、一日のうちで最も静謐な時間が流れる場所だ。 鏡に映る自分の顔を眺めながら、手のひらに化粧水を垂らす。 瑞々しい感触とともに、かすかな花の香りが鼻先をくすぐる。 肌に吸い付くようなテクスチャーを楽しみ、一息つく。 その儀式の終わり、最後の一滴を使い切ったボトルをゴミ箱に放る。 「カラン」という、乾いた、どこか所在なげな音が響く。 その瞬間、数分前まで「美しさの源泉」として敬意を払われていたその容器は、突如として無価値な「プラスチッ

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化粧品における環境負荷はやはり容器なのかもしれない・・・

長年、化粧品業界で製品企画を続けていると バルク(中身)よりも環境負荷が高いのは容器だと思う。 ドラッグストアに並ぶ様々な化粧品たち、その個性を彩る容器には様々な素材が使われている。また、化粧品容器にはいくつかの役割がある ①バルクの品質を担保するための保護的役割 ②化粧品の製品名や製造責任などを法律(薬機法)に従い印字する表示責任の役割 ③製品の特長を訴求するプレゼンテーションの役割 一番大切なのは①であるが、売れるためには③のデザインも大切である。 毎日眺めていて、気

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国産の原料生産から日本の化粧品業界を変えていきたい

25年間化粧品業界にかかわる間にどんどん業界は変化し続けました。 1991年化粧品業界には大きな変化が起こりました。 それは厚生労働省が製品に配合する成分をすべて表示する義務を課したことです。(狂牛病や一部の化粧品メーカーの不正がことの発端ですが~) 全成分一覧の登場です。 こちらについては以前に記載した記事を参照いただければと思います。 それまでは大手化粧品メーカー(SHISEIDO、KANEBO、KAO、KOSE、POLAなど)が研究、開発、製造まで責任を担い長い時間

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微細藻類ジャーナル

「日本は資源のない国」という常識を覆すためのマガジン。 私たちには、世界第6位の広大な海がある。そこに生息する微細藻類こそが、次世代のエネルギーであり、食料であり、環境浄化の鍵となる「緑の原油(GREEN OIL)」だ。 化石燃料やパーム油を輸入し続ける時代から、国産の藻類を培養して活用する時代へ。 0.001mmの小さな生命が起こす、エネルギー安全保障とサステナビリティの革命。 その最前線と未来の可能性を発信していく。

ちょっと寄り道:太陽光発電と何を比較する?目的により評価は異なる。

今回は脇道にそれる話を一つ。 微細藻類の活用の一つでエネルギー生産が語られます。 私もプレゼンした際に、同じ土地があったら微細藻類を生産した方が良いか、太陽光発電で電気を生産したら良いか、と尋ねられることがありました。 これ、皆さんどちらが良いかと思われます? CO2を取り込んで燃料オイルを生産し、発電して電気を作るから微細藻類が良い!と思った方もいるかと思います。 実は問いに関して本質を身誤ると大変なミスリードになるんです。 まず、何を生産したいかで技術の優劣がきまりま

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【第20話】スーパースターの株に向けて~

ソラリスはオイルをたくさん生産する株として見出しました。 実験室での能力については、以前お話しましたように非常に優秀でした。 しかし、スーパースターになるためには、まず、屋外でしっかりと培養できるかです。 そこで、まず50L程度の円形の培養装置を組みあげました。 その装置を温室の中に置き、培養試験を試みました(図)。 結果、ソラリスはしっかりと生育することが確認できました。 さらに、水温が40度を超えても死ぬことはありませんでした。また、温室内で雨風に曝されるわけではない

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【第19話】スーパースターになる条件とは~

前回この12項目の中で、みなさん最も重要な項目はどれかと皆さんに問いました。多くはオイル生産性やオイル蓄積率、生育の速さ、などを注目すると思います。この項目もとても重要です、最初の選抜においては。社会実装の視点で見た場合、実は12番目の項目が一番大切になります。 それではなぜ、12番目の項目が重要でしょうか。皆さんに質問ばかりですが、考えてみてください。その答えは、微細藻類という生き物の自然界での位置づけになります。皆さんは食物連鎖という言葉を学んだと思います。植物プランク

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【第18話】ソラリスがスター株になった理由とは

ソラリスは航空機燃料用オイル生産を目指して探索されましたので、オイル生産性能が高いという条件については、他の微細藻類に比べ、申し分ない性能を示しました。   しかし、有名な微細藻類へ仲間入り(社会実装されている微細藻類たち)するには、オイル生産能力以外にも様々な条件をクリアしていく必要があります(表)。 この表には、オイル生産用の微細藻類が具備しておく能力を示しました。 12項目ありますが、厳密にはまだあるかもしれません。 ()の中は、どこの生産工程に影響するか示していま

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パーム油の深層:正義が招く別の破壊

世界で最も消費される植物油、パーム油。安価で便利なこの油は、私たちの食卓や日用品に溢れているが、その裏側には壮絶な歴史と深刻な問題が隠されている。 本マガジンでは、パーム油が奴隷貿易を支えた歴史から、現代の気候変動、熱帯雨林の破壊、絶滅危惧種の危機、そして児童労働や小規模農家の抱える構造的な問題まで、その全貌を徹底解説する。 そして「パーム油=環境に悪い」という単純な認識を超え、複雑なグローバルサプライチェーンの中で私たち消費者が取るべき「最もベターな選択」とは何か。知識と倫理に基づいた選択のために、パーム油の過去、現在、そして未来を紐解いていく。

なぜパーム油は世界を支配したのか?100年の「脂肪の乗り換え史」が映す、正しさの連鎖と熱帯雨林の消失

昨日、Threadsに「パーム油と森林伐採」というスレッドを投稿した。 「この4つ、全部パーム油。」 という一文に、原材料表示の写真を添えた投稿だ。 予想を超える反応をいただいた。 その中で、いくつかの声が繰り返し寄せられた。 「知らなかった」 「でも、なぜパーム油がここまで使われているの?」 この問いに答えるには、パーム油そのものではなく、私たちがこの100年で「脂肪」をどう選んできたかの歴史を辿る必要がある。 結論を先に書いてしまうと、私たちは過去100年で

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【現地報告】「ゾウの悲しみ」から辿り着いたクアラルンプール:国際会議で見えた日本でRSPOラベルが消える「構造的な理由」

私たちの情報発信活動は、2023年に訪れたマレーシア領ボルネオ島の森の記憶に深く根ざしている。 当時、私が目の当たりにしたのは、人類の飽くなき需要と、地球の限界が激しく衝突する悲劇の光景だった。 広大な熱帯雨林がパーム油農園へと姿を変える中で、住処を追われたボルネオゾウの群れや、オランウータンの絶望に満ちた瞳は、パーム油問題の深刻さを、理屈ではなく、種の存亡をかけた無言の訴えとして肌で感じさせた。 この衝撃的な体験は、私にとっての「パーム油問題」の核心を決定づけた。

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RSPOが「不完全な最善解」である理由:パーム油問題の構造と進化する国際基準

私たちの身の回りにある多くの製品、チョコレート、ポテトチップス、シャンプー、洗剤に至るまで、驚くほど多種多様なものにパーム油が使われている。 その理由は、パーム油が非常に効率的で、安価に生産できる植物油だからだ。 世界の植物油の需要が急増する中、パーム油は不可欠な存在となった。 しかし、この植物油には暗い側面があった。 需要の急増に応えるため、パーム油の原料となるアブラヤシのプランテーションは急速に拡大した。 結果として、特にインドネシアやマレーシアといった主要生産

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ボルネオ島に行って見えてきたパーム油の根本的な問題とは?

私たちの生活を支える「パーム油」。 それは、インスタント食品、洗剤、化粧品、そしてバイオ燃料にまで姿を変え、あまりにも身近な存在である。 世界で最も大量に生産・消費される植物油であり、日本人も年間約5kgを消費している。 しかし、この油を追いかけるとき、その「光」の裏側には、広大な熱帯雨林の破壊、先住民族の土地の喪失、そして劣悪な労働環境といった、新たな形の「闇」が生まれていることを知る。 絶滅の危機に瀕するオランウータンの棲家を奪うこの問題が、なぜ世間の注目を集めな

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