
異動や転職など、ビジネスパーソンにとって人間関係の変化はつきものです。「新しい人たちとうまくやっていけるだろうか」と不安になり、周囲に気を遣いすぎて疲れることもあるでしょう。「チームメンバーの〇〇さんとうまくいかない」などと、思い悩むこともあるかもしれません。
誰にだって、そういうときがありますよね……。
しかし、そればかりが続いてしまうと、みなさんの心がもちません。仕事にも差し障りがあるでしょう。
人間関係の悩みは、抱え込みすぎると飲み込まれてしまうものです。でも、悩みは簡単に手放せないからこそ「悩み」です。
手放せないなら、どうすればいいのか。それは、悩みの「扱い方」を手にすることです。
それはいったいどういうことなのか……? よく知れば、想像するよりもずっと「実践しやすい」と感じられるはずです。本記事で詳しく説明しましょう。
1. 感情は、そのまま受け止める
お悩み
人間関係に悩むあなたは、もしかしたら早々に自分の感情を評価しているかもしれません。たとえば「いつまでもウジウジして情けない」「これくらいで怒るなんて心が狭い」など――。
なぜ?
自分の感情にダメ出ししてしまうのは、それだけ自分の気持ちと真剣に向き合っているということ。「情けない」「心が狭い」と感じてしまうのも、もっとちゃんとしたい、よくありたいという、あなたのやさしさや誠実さの裏返しです。
ただ、その自分へのダメ出し(罪悪感、自己嫌悪)が、かえって悩みを長引かせてしまうことがあります。ストレスで余計にネガティブな感情が強まり、本来の解決策を考える余裕がなくなってしまうからです。
内科医で心理カウンセラーの野上徳子氏も、怒り、悲しみ、不安などのネガティブな感情は「心が外界に適応しようとする正常な反応」だといいます。にもかかわらず、その感情を否定してしまうケースが多いと、野上氏は指摘します。
感情を否定し続けると、私たちは「自分が何を感じているのか」がわからなくなり、ストレスの原因も見えなくなってしまうそうです。*1
どうする
まずは、「自分の感情を評価しても仕方がない」と認識することが第一歩です。人間関係の不安を感じても、自分の感情にダメ出ししない。
まずは、感情を紙に書き出す
そうは言っても、ネガティブな感情を、すぐ肯定できる人はなかなかいませんよね。では、どうしたらいいのかと言えば――最も簡単な方法は、感情を評価する前に、紙に書き出してしまうことです。
アメリカの心理学者ジェームズ・ペネベーカー氏が提唱した「エクスプレッシブ・ライティング」は、頭のなかにある感情や思考を評価せず、そのまま自由に書き出すことで、ストレス軽減や免疫機能の改善などの効果が報告されています。*1
前出の野上氏も、そうした感情の記録が「セルフケアの基本」だと述べ、次の手順を紹介しています。*1
・タイマーを5分にセット
・今いちばん強い感情を一言で書く
・理由や正しさは考えず、そのまま書き続ける
・読み返さず、深呼吸してノートを閉じる
内側に溜め込まず、誰にも知られず、どこでもできる安全な方法で、自分の感情を外に出すことは、心身の健康を守るための非常に重要なスキルと言えるでしょう。

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2. ひと呼吸おいて、相手を見る
お悩み
職場に、どう接していいか迷ってしまう人がいる。失礼があってはいけないと気をつかううちに、なんだかぎこちなくなってしまう――。そんな相手は、あなたにもいませんか。
なぜ?
もしかするとその苦手意識は、相手を「こういう人だ」と早々に決めつけてしまうことから生まれているのかもしれません。でも、それはあなたの心が狭いからではありません。よく知らない相手にも、失礼な対応をして嫌な思いをさせたくない――だからこそ、つい先回りして「こういう人」と見立ててしまう。相手を気づかうやさしさの裏返しでもあるのです。
たとえば、第一印象や肩書だけで、相手をこんなふうに判断していませんか。
- 【この後輩、ちょっと苦手かも】
「一流大学卒だから、下手なことを言って失礼にあたらないかな」と先回りして身構え、自然に話せなくなっている。 - 【この上司、どう接していいかわからない】
敏腕だと噂される新しい上司に「きっと厳しいはず。粗相があってはまずい」と決め込み、つい目の前に立つと萎縮してしまう。 - 【あの人とは、どう距離をとればいい?】
初日の印象だけで「こういうタイプ」と見立て、嫌な思いをさせないようにと気をつかううち、かえってぎこちなくなっている。
――こうした覚えはありませんか?
こうして相手の目立つ特徴(学歴、評判、第一印象など)に引きずられ、その全体像まで歪めてしまう。これを心理学では「ハロー効果」と呼びます。*2
どうする
意識して、違う視点を取り入れる
関西大学社会学部心理学専攻教授の藤田政博氏は、ハロー効果に左右されず、冷静で客観的な判断を行なう対策として、以下を示しています。*2
- 明確な評価基準をもつ
- 判断プロセスに第三者の視点を入れる
- 過去の実績だけでなく、現在の状況を分析する
なので、たとえば――
- 「高学歴のあの人は仕事ができるに違いない」ではなく
→「実際にどんな成果を出しているのか」で判断する。 - 「あの人の言葉は絶対に私をバカにしている……!」ではなく
→同僚や友人、家族が同じことを言われたらどう感じるか、第三者目線の意見を聞いてみる。 - 「あの上司は昔、とても厳しいと噂されていた」ではなく
→「最近も厳しいのだろうか?」「実際に接した人の評判は?」と、現在および現実にフォーカスしてみる。 - 苦手な後輩のミスに対し「あー本当にイラッとする」ではなく
→「もしも自分が信頼しているお気に入りの後輩だったら、同じようにイラっとするだろうか?」と主語を入れ替えて想像してみる。
といったことが有効だと考えられます。

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3. 付き合い方は、自分で選ぶ
お悩み
私たち人間は多くの場合、無意識のうちに職場の全員と仲良くなろうとしてしまいます。それが仕事や人間関係をすべてよくする最適解ではないのですが、私たちはそう思い込んでいる節があります。
なぜ?
全員と仲良くしようとしてしまうのは、それだけあなたがまわりの人を大切にしているということ。誰のことも邪険にしたくないという、あなたのやさしさや思いやりの表れです。
ただ、臨床心理士の中島美鈴氏によれば、私たちがつらくなるのは、たとえ嫌いでも「その人とうまくやらなければならない」というスキーマ(思い込み)があるからだといいます。本能的な「好き・嫌い」だけならシンプルな話が、そこに「仲良くせねば」が重なると、とたんに苦しくなってしまうのです。*3
しかも、物心ついたときから「みんなと仲良くしましょう」と教えられてきた私たちは、「嫌い」というネガティブな感情を抱かないよう、つい自分を抑え込んでしまいます。*3
幼いころに身についた価値観は、なかなか変えられないもの。では、どうしたらよいのでしょう?
どうする
「やらないこと」を、先に決めておく
前出の中島氏は、職場の苦手な人に対し、事前に「やること・やらないこと」を決めておくようすすめています。*3
たとえば【やること】は、職場で必要最低限のマナーとルールを守るための行動。報告や連絡、挨拶に、ランチや会社行事などでの会話、必要に応じた謝罪などです。
一方で、同氏が挙げた【やらないこと】の例は以下のとおり。*3
- 表面的なお付き合い(雑談、お世辞)
- 過剰なプライベートの踏み込み・共有(お土産、個人質問、相談)
- 業務外の無理な貢献と、見返りへの期待(範囲外の依頼、好かれようとすること)
幼いころから培われてきたスキーマを書き換え、変わろうとするのは大変なこと。でも、こうやって、あらかじめ行動を決めておけば、多少なりともあなたの防護柵として機能するはずです。
このほかにも、自分が「こんなことにストレスを感じる」「いつもこれをやって疲弊している」という項目をピックアップして、自分専用の「苦手な人にしないことリスト」をつくってみてはいかがでしょう。
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人間関係の悩みは、誰にでもあります。そして、こうして悩めるのは、あなたが人とちゃんと向き合い、相手を大切にしようとしている証拠でもあります。
悩みを抱え込まずに「扱う」ことができれば、いまよりずっと、気持ちよく働けるはずです。
ぜひ今回ご紹介した習慣を身につけて、「悩みに飲み込まれず、扱う」感覚をつかんでくださいね。
よくある質問(FAQ)
Q人間関係の悩みを「抱える」のと「扱う」のは、何が違うのですか?
「抱える」とは、ネガティブな感情をそのまま溜め込み、自分を責めてしまう状態です。一方「扱う」とは、感情を評価せずに書き出したり、思い込みを見直したりして、悩みに飲み込まれず対処すること。同じ悩みでも、向き合い方を変えるだけで心の負担は大きく軽くなります。
Qネガティブな感情を抱いてしまう自分は、心が狭いのでしょうか?
いいえ。怒りや不安などのネガティブな感情は、心が外界に適応しようとする正常な反応です。それを「情けない」「心が狭い」と評価してしまうと、かえって自己嫌悪が強まり悩みが長期化します。まずは感情を評価せず、そのまま受け止めることが第一歩です。
Q苦手な相手を「こういう人だ」と決めつけてしまいます。どうすれば?
学歴や評判、第一印象などの目立つ特徴に引きずられて相手の全体像を歪める現象を「ハロー効果」と呼びます。明確な評価基準をもつ、第三者の視点を入れる、過去ではなく現在の状況で判断する――こうした工夫で、思い込みに振り回されず冷静に相手を見られるようになります。
Q職場の全員と仲良くしなければ、と思うと疲れてしまいます。
全員と仲良くするのが最適解とは限りません。つらくなるのは「嫌いでもうまくやらねば」という思い込み(スキーマ)があるからです。苦手な人に対しては事前に「やること・やらないこと」を決めておくのが有効。挨拶や報連絡は守りつつ、お世辞や過剰な踏み込みは手放す――そんな自分専用のルールが、心の防護柵になります。
*1: 婦人公論.jp|愚痴や悪口はガマンしないほうがいい?それには医学的な根拠が…医師直伝<人間関係を傷つけることのない感情デトックス法>
*2: note|経営判断を狂わせる「ハロー効果(halo effect)」とは?経営者が陥る心理と効果的な対処法
*3: PHP研究所|職場の人間関係をラクにする技術 臨床心理士が教える「苦手な人」への接し方
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。