なぜ会話のズレが起きるのか。コミュニケーションの質を左右する「体内思考時間」という視点

コミュニケーションにおけるズレは、「伝え方」や「話し方」の問題として語られがちです。しかし、その裏で見落とされがちな視点があります。それが、「理解に至るまでの時間は人によって異なる」という事実です。すぐに納得できる人もいれば、いったん持ち帰って考えなければ腑に落ちない人もいます。『むしろ、じっくり話していい』(すばる舎)の著者である経営コンサルタントの江田健二さんは、この「体内思考時間」の違いを前提にしない限り、対話はズレていくと指摘します。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人

【プロフィール】
江田健二(えだ・けんじ)
1977年1月5日生まれ、富山県出身。慶應義塾大学経済学部卒業、東京大学 Executive Management Program(EMP)修了。大学卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。エネルギー/化学業界を担当し、電力会社・大手化学メーカーなどのプロジェクトに参画する。入社後、想像を超える業務を抱え、年上のクライアントとの緊張感あふれる打ち合わせをこなす日々を送る。刺激的である一方、どんな場面でもすばやく、論理的に結論を導く卓越したコミュニケーション力を持つ同期や先輩たちと比べて、自分はその場ですぐに「意見をいえない」「考えがまとまらない」「スピードで太刀打ちできない」ことを実感し、自信を失う。仕事におけるコミュニケーションの質を見直す過程で、幸いにもクライアントの言葉がヒントになり、「じっくり考え、話す」というスタンスが、「自分の強みを活かすこと」につながると気づく。28歳で会社を設立し、ここでも「じっくり話す」というスタンスでクライアントの話を丁寧に聞き、問題を解決していく長期的なパートナーとしてコンサルティング活動を行う。再生可能エネルギーを中心としたエネルギー・環境分野に特化したコンサルティングや人材支援を行いながら、約10社の経営・運営に携わっている。『蓄電所ビジネス』(電気書院)、『EVとバッテリービジネスのすべて』(プロトリオス)、『電気・ガス業界のしくみとビジネスがこれ1冊でしっかりわかる教科書』(技術評論社)など著書多数。

理解に至るまでの時間は人により異なる

同じ説明を受けているにもかかわらず、「すぐに理解できる人」と「時間をかけないと納得できない人」がいます。この違いは、単なる頭の回転の速さによるものではないというのが私の考えです。情報を受け取ってから自分のなかで整理し、腑に落ちるまでのプロセスにかかる時間が人によって異なるのです。

この「理解に至るまでの時間」を、私は「体内思考時間」と呼んでいます。相手の話を聞いたとき、それをそのまま受け取るのではなく、自分の経験や知識と照らし合わせながら、「これはどういうことか」「自分にとってどういう意味を持つのか」といった問いを経て理解に至る、その一連のプロセスにかかる時間のことです。

そして、この体内思考時間は人によって大きく異なります。話を聞いた瞬間に要点を掴める人もいれば、いったん持ち帰って考えたり、時間をかけて咀嚼したりしないと納得できない人もいます。

私自身は、後者、つまり体内思考時間が長いタイプです。みなさんのなかにも、たとえば上司からいきなり「例の会議資料の準備、どうなってる?」「この提案書、どう改善すればいいかな?」などと問われたとき、答えに窮してしまった経験がある人はいませんか?そのような人は、もしかしたら私と同じタイプかもしれません。

ここで重要なのは、この違いが能力の優劣ではないということです。単に思考のプロセスやスタイルが異なるだけであり、どちらが優れているというものではありません。しかし、現実のビジネスシーンでは、この違いが十分に理解されていないのが実情です。

そのため、体内思考時間が長い人は「反応が遅い」「理解が遅い」と見なされてしまいがちです。本来は丁寧に慎重に理解しようとしているだけなのに、それが弱みとして評価されてしまう。この認識のズレこそが、コミュニケーションの齟齬を生んでいるのではないでしょうか。

理解をするまでのプロセスイメージ

腑に落ちないままだと、コミュニケーションは必ずズレる

体内思考時間を無視したまま会話を進めてしまうと、必ずどこかでズレが生じます。特に問題になるのは、「理解したつもり」の状態で話が進んでしまうケースです。わかりやすい例を挙げるなら、相手の話を十分に咀嚼できていないにもかかわらず、その場の流れに合わせて「わかりました」と応じてしまうようなことです。これは一見スムーズなコミュニケーションのように見えて、じつは大きなリスクをはらんでいます。

なぜなら、腑に落ちていない情報は、自分の言葉で説明することができないからです。たとえば、会議の場では理解できたように感じていても、あとから第三者に説明しようとすると言葉に詰まってしまう。あるいは、想定外の質問を受けたときに答えられない。こうした状態は、「理解している」のではなく、「理解した気になっている」だけに過ぎません。

本当に理解できている状態とは、単に内容を覚えていることではなく、それを自分の言葉で再構成できることです。もっといえば、異なる文脈に応用したり、相手の理解度などに合わせて説明の仕方を変えたりできる状態まで到達して初めて、「腑に落ちている」といえます。

このプロセスを経ないままだと、あとから必ず修正が必要になります。なんらかのプロジェクトを進めるというとき、その場では合意したように見えても、実際には認識がそろっていないため、実行段階で齟齬が生じるのです。結果として、やり直しや手戻りが発生し、かえって時間を浪費することになります。

だからこそ、「理解に時間がかかること」を否定するのではなく、むしろ必要なプロセスとして受け入れることが重要です。表面的なスピードを優先するよりも、しっかり腑に落とすことに時間を使う。そのほうが、結果的には成果への近道となるのです。

コミュニケーションエラーのイメージ

じっくり考えるタイプの人が「やめる」べきこと

では、私のように体内思考時間が長い、じっくり考えるタイプの人はどのようなコミュニケーションを心がければいいでしょうか。これまでの経験から、次の5つが重要なポイントだと見ています。

わかったふりをやめる
遠慮し過ぎるのをやめる
相手の早口につられない
相づちの打ち過ぎをやめる
(打ち合わせの)予定をパンパンに詰め込まない

まず大前提として、「①わかったふりをやめる」ことです。理解が追いついていないまま話を進めてしまうと、その場はやり過ごせても、あとで必ずズレが表面化します。自分の理解が曖昧だと感じたときは、その場で立ち止まり、確認する勇気を持つことが大切です。

それに通じることとして、「②遠慮し過ぎるのをやめること」も欠かせません。相手のペースや立場を気にするあまり質問を控えてしまうと、理解が深まらないまま会話が進んでしまいます。「ここが少しわからないのですが」と質問をするだけで、コミュニケーションの質は大きく変わります。

また、特に早口の人に対しては、「③相手の早口につられない」「④相づちの打ち過ぎをやめる」ことも意識してほしいポイントです。早口の人のペースに合わせると自分の思考が追いつかなくなりますし、相づちを打ち過ぎると、相手は「理解されている」と受け取ってさらに話を進めてしまうからです。

そして見落とされがちなのが、最後の「⑤(打ち合わせの)予定をパンパンに詰め込まない」ということです。体内思考時間が長い人にとっては、情報を処理し、腑に落とすまでの時間そのものが重要です。でも、打ち合わせを連続で入れてしまうと、前の内容を消化し切れないまま次に進むことになり、結果として理解の質が下がってしまうのです。

これらに共通しているのは、「自分の思考のペースを守る」ということです。相手に合わせて無理にスピードを上げるのではなく、自分がしっかり理解できる状態をつくる。いわば、相手ではなく自分が主導権を握ることが最大のポイントといえます。

江田氏

江田健二さん ほかのインタビュー記事はこちら】

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。