
「ちゃんと説明したはずなのに、話が噛み合わない」「想定外の受け取り方をされてしまう」
職場でこんな違和感を覚えた経験はないでしょうか。
コミュニケーションの問題というと、「説明が下手だったのかも……」と、スキルの側面だけをみて反省してしまうものです。しかし、実際に起きているズレの多くは、もっと手前にある前提の不一致や、立場・経験の違いから生まれています。
本記事では「伝えたはずなのに、なぜかズレる」原因を解き明かしながら、齟齬を防ぐ方法を紹介します。ポイントは、相手との前提をどう "そろえて、受け取る" か。その視点をもつだけで、コミュニケーションの精度は大きく変わります。
「前提が共有されていない」ことが齟齬を生む
ビジネスシーンで話が噛み合わなかったとき、あとから「えっ……? まさか、そこから知らなかったの?」と驚いた経験はないでしょうか。これは、伝え手と聞き手の認識が同じとは限らないことを示す、典型的な例のひとつです。
前提共有の重要性について、伝える力【話す・書く】研究所所長の山口拓朗氏は次のように話します。
仕事で文章を書くときに前提の認識がズレると、成果達成しにくくなるほか、思わぬミスやトラブルを引き起こしかねません。コミュニケーションにおいて前提の共有は必須なのです。
これは文章作成だけでなく、仕事上の会話においてもそのまま当てはまるはずです。山口氏いわく、前提を共有し損ねてしまう背景には、「そんなこと(前提)、わざわざ言わなくてもわかっているだろう」という思い込みがあるそうです。*1
仕事の背景や目的、ルール、手順、予算、期限——話し手にとっては「知っていて当然」でも、聞き手にとっては初耳というケースは珍しくありません。その結果、聞き手は理解が追いつかない部分を憶測で補完してしまい、意図しない方向へ話が進む・解釈されるという事態が起こってしまいます。
【前提の未共有でズレる具体例】
- 目的を共有しないまま依頼する
「ラフでいいからかたちにしてみて」とお願いしたら、「メモ書き程度のテキスト」が上がってきた。実際には、クライアントに軽く見せられる程度にレイアウトされたものが欲しかった。
- 優先順位を伝えていない
複数タスクを依頼したが、「どれを最優先でやるべきか」が共有されておらず、重要度の低い作業から着手されていた。結果、一番大事な作業に影響が及んでしまった。
- 期限の前提が曖昧
金曜日中にチェック・修正を終わらせるつもりで、「週末までに提出してください。できるだけ早いと助かります」と伝えたら、相手は土曜日の早朝に送信してきた。結果、修正対応が週明けまで持ち越され、スケジュールに遅れが出てしまった。
- 判断基準を伝えていない
「この資料を修正しておくように」と伝えたが、「何をもって "いい" とするのか」が不明確で、手戻りが発生した。
- 足並みを共有していない
「もう関係部署には話が通っている」と思い込んで進めたが、実際には未共有だった。その結果、後工程で差し戻しが発生してしまい、予定通りに完成できなかった。

「立場・経験・専門性の違い」がズレを拡大
視座の違いを考慮せずに伝えることも、認識のズレを拡大させる要因です。
『気づかいの壁』(ダイヤモンド社,2023)の著者で企業研修講師の川原礼子氏は「立ち位置が異なれば、見ている景色も異なります」と述べ、「わかって当然」から「わからなくて当然」への置き換えをすすめています。*2
つまり、「わかって当然なのに、どうして相手は理解できないのだろうか?」という受動的な思考から、「わからなくて当然。では、どう伝えればいいだろうか?」という能動的な思考へのシフトが必要なのです。
【視座の違いでズレが拡大する具体例】
- 上司と部下の立場の違い
上司:「これ、社内の全体会議で使う資料? ずいぶん簡単だな」
部下:「えっ? チームで共有する資料かと思いました」
→上司はプロジェクトの全体を見て指示しているが、部下は自分の担当範囲だけで解釈しているので意図が伝わらない。
- 経験の浅さによる視野の違い
ベテラン:「この数値、別パターンでも検証したよね?」
新人:「前回と同じ条件なので、そのままで大丈夫かと……」
→ベテランには当たり前のリスクや注意点が、経験の浅いメンバーには見えていないため、ミスをしてしまいやすい。
- 専門性によるズレ
専門知識あり:「KPIはCVRベースで見て、CPAも再設計しておいて」
専門知識なし:「……え?」
→業界特有の略語や専門用語を多用した結果、異動してきたばかりの社員の理解が追いつかない。

「伝える側・受け取る側」が意識すべきこと
ここまで挙げたようなズレを防ぐためには、「わかっているだろう」とたかをくくらず、前提を共有することが大切です。また、背景を伝えたり、自分の当たり前を共有したり、誰にでも伝わる言葉に置き換えたりするなど、立場・経験・専門性の違いを考慮することも必要です。
それらをふまえたうえで、「伝える側・受け取る側」が意識すべきことを紹介します。
【伝える側に必要な意識】
相手を尊重しながら、自分が伝えたいことを正確に届けるための工夫が大切です。
- 前提を共有する
例:「この資料は来週の役員会で意思決定に使うので、結論と根拠がひと目でわかるかたちにまとめてください」
→議論のゴール、目的、背景、優先順位、期限、判断基準、関係者の有無など、前提条件を先に示す。
- 言葉を省略しない
例:「A案とB案を比較して、どちらを採用するか判断できるように資料を修正してください」
主語・述語を明確にし、「それ」「あれ」といった指示語を多用しない。*3
- 相手の理解度を確認する
例:「ここまでで不明点はありますか?」「〇〇の詳しい説明は必要ですか?」
→相手が、いまの理解度を言語化できるような質問を投げかけ、認識のズレをその場で修正する。
【受け取る側に必要な意識】
齟齬を防ぐためには、「受け取る側」の共有する姿勢、知ろうとする姿勢も大切です。
- 自分の "前提" を事前にシェアする
「どこまでわかっていて、どこがわからないのか」を言語化し、自分の知識レベルや理解度といった前提を共有しましょう。
例:「この分野は経験が浅いので、〇〇についてはまだ理解できていません。基本的な進め方から確認させていただいてよろしいでしょうか?」
- 質問で "認識" をすり合わせる
自分の解釈を伝えつつ質問を重ね、認識をすり合わせて、自分の理解も調整していきます。
例:「この資料は〇〇用ですか?」「いただいた期限は、チェック完了まで含めた期限でしょうか?」
こうした姿勢は理解を深めるだけでなく、「きちんと考えている」という信頼にもつながります。
質問するときの注意点
ただし、質問の際には注意も必要です。『人を動かす聞く力&質問力』(三笠書房,2017)など、コミュニケーション関連のビジネス著作を数多くもつ松本幸夫氏は、「自分本位の質問には要注意」と話します。*4
自分本位な質問とは、調べればわかるようなことや、自分で考えずに答えを求めるような質問のことです。そのような質問を積み重ねれば、「何も考えていない」「主体性がない」と受けとられ、評価にも影響しかねません。質問するなら、その人に聞かなければわからないことを聞くようにしましょう。
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前提を共有し、相手の立ち位置を想像する——伝え手と聞き手の双方でその意識をもてれば、コミュニケーションのなかで感じる違和感を解消していけるでしょう。
よくある質問(FAQ)
Q仕事で話が噛み合わない原因は何ですか?
A多くの場合、スキル不足ではなく「前提の不一致」が原因です。仕事の背景・目的・期限・判断基準などが共有されていないと、聞き手が憶測で補完してしまい、意図しない方向へ解釈されることがあります。
Q立場や経験の違いがコミュニケーションに影響するのはなぜですか?
A視座が異なれば、見ている景色も異なります。上司と部下、ベテランと新人、専門家と非専門家では注意点やリスクの捉え方が違うため、「わかって当然」と思い込んで伝えるとズレが拡大しやすくなります。
Q伝える側がコミュニケーションのズレを防ぐために意識すべきことは?
A前提を先に共有すること、主語・述語を省略せず明確にすること、そして相手の理解度を確認しながら話を進めることが大切です。「この資料は○○用で、期限は○○です」のように具体的に伝えましょう。
Q受け取る側が齟齬を防ぐためにできることはありますか?
A自分の知識レベルや理解度を事前にシェアすること、そして「この資料は○○用ですか?」のように自分の解釈を質問で擦り合わせることが効果的です。ただし、調べればわかる質問は避け、その人に聞かなければわからないことを質問するようにしましょう。
Q「わかって当然」という思い込みをなくすにはどうしたらいいですか?
A「わかって当然」を「わからなくて当然」に置き換える意識が大切です。相手の立場・経験・専門性を考慮し、背景から丁寧に伝える・誰にでもわかる言葉に置き換えるなど、能動的な姿勢へシフトしましょう。
*1: 日本実業出版社|誤解をまねく文章は「前提の共有」をしていない!
*2: ダイヤモンド・オンライン|自分の話が伝わらないとき、頭の悪い人は「イライラする」だけ。頭のいい人は、どう考える?
*3: グロービス経営大学院 ナノ単科|【2025年最新版】仕事で話が噛み合わない人との対処法
*4: 日本実業出版社|デキる人は自分流の「質問」を磨くこと意識する
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。