知能のピークは、一度じゃない。「次の山」が来る人と来ない人の差

ピークのタイミングが違う複数の「知能の山」を望遠鏡で眺める人

30代はまだまだ若いと思っていても、ふとした瞬間に「昔より覚えが悪くなったかも」と感じることがあります。そんなとき、とても不安になってしまいますよね……。

でも、聞いてください。それは、あなたが感じているほど単純な話ではありません。つまり、自分の知能が下り坂に入ったサインではないのです。

知能はひとつの曲線で衰えていくのではなく、複数の能力がそれぞれ異なるタイミングでピークを迎える “ずれた構造” をもっています(Hartshorne & Germine, 2015)。*1

実際に、「物事の理解度が深い」「意外なアイデアをもってくる」「相手の意図を読む精度がすごい」と評価される大先輩の姿を、目にしている方もいるのではないでしょうか。

そこで、30代のあなたに、いまこそおすすめしたい習慣があります。

この記事では、40代・50代に高まる知能の正体を探りながら、30代のうちにやっておきたい小さな習慣を紹介します。

人間の知能は「ひとつの山」ではない

比較的、若いうちは新しいシステムの操作手順などを、素早く処理・習得することが可能です。また、複数の緊急案件が同時に発生しても、優先順位をサッと整理できるかもしれません。

それが、「以前のようにはできなくなってしまった」と感じると、私たちは、自分の知能全体を疑う傾向があります。

しかし、歳を重ねた人ほど、過去の膨大な事例の引き出しから、確実性の高い打開策を見いだしてはいませんか? もしくは、商談相手のわずかな変化を察知し、絶妙な交渉を行なっているかもしれません。

つまり、人間の知能は「ひとつの山」ではないのです。複数の山が時間差で現れる、マルチピーク構造だと理解する必要があります。

それを裏づける研究では、次のような傾向が示されています(Hartshorne & Germine, 2015)。*1

  1. 処理速度(流動性知能)
    → 10代後半〜20代前半でピーク

  2. 短期記憶・ワーキングメモリ関連能力(流動性知能)
    → 約30歳前後でピーク

  3. 語彙・知識(結晶性知能)
    → 中年期(40〜60代)にピーク、場合によってはそれ以降も

  4. 感情認識(社会的認知)
    → 40〜60代で広く安定(ピークが平たい)

40代、50代のビジネスパーソンは、「若いころと同じやり方が効かない」と落ち込むこともあるでしょう……。それを聞いた20代、30代のビジネスパーソンは、未来を憂うかもしれません。

しかし、私たち人間が歩む「知能の山」はひとつではなく、いくつもの山からなる「連峰」です。ぜひ、人間には「知能の主戦場が移っていく状況がある」と知ってください。

まずは、この意識改革から始めましょう……!

💡 もっと読みたい年齢を重ねると脳の得意分野も変わる。大人脳のトレーニングに「暗算」と「そろばん」がいいワケ。

スピード勝負を卒業した「大人の理解力」

ここでは、大人の脳の変化について理解を深めていきます。

じつは、年齢を重ねた経験豊富な人の「思考の深み」は、脳内に蓄積された膨大な「スキーマ」によるものです。スキーマとは、その人のなかにある知識の整理棚のようなもの。既存の知識体系とも表現されます。

私たちは、出会った情報に関連するスキーマが活性化されることで、物事をスムーズに理解・予測できるのです。新しい情報を理解できるかどうかは、脳内に「関連する事前知識」があるかどうかに直結するといいます。事前知識が不足していると、情報の受け皿がないため理解が困難になってしまいます。*2

たとえば経験豊富なライターなら、初めてのテーマでも「この話は後半に置こう」と瞬時に判断できます。脳内に「記事構成の整理棚(スキーマ)」があるからです。

あるいは、まったく別業界の話を聞いて「それは〇〇と同じ構造ですね」と、瞬時に見抜ける人も同じ。

スキーマが拡張されるほど、新しい情報は「未知のかたまり」ではなく、「既知との組み合わせ」として見えてきます。

だとすれば、私たちは単に知識の量を追うのではなく、手持ちの整理棚をどう磨き、どうやって「いつでも引き出せる状態」にするか――に注力すべきです。

これからの知能の勝負所は、どれだけ「使える整理棚(スキーマ)」を脳内に構築できるかにかかっているのです。

頭のなかに、たくさんの整理棚をもつ人

30代のうちに経験を「意味のある言葉」に

では、どうしたらいいのでしょうか?

ここでおすすめしたいのが、「経験を言語化する習慣」です。なぜなら、言語化することによって初めて、その経験が「どこで、どう使えるのか」という汎用的な価値が定義されるからです。

アメリカの教育学者、デービッド・コルブ氏の「経験学習理論」によれば、経験を次の行動に活かすためには、振り返りを通じて「教訓(概念化)」を導き出すプロセスが不可欠です。*3

言葉にされない経験は、脳内を漂う「未整理のデータ」となり、必要なときにスキーマを検索する効率を低下させてしまうかもしれません。

次に示す具体的なアプローチで、日々の経験を言語化してみましょう。

💡 もっと読みたい一流はこうやって賢く「言語化」している! “言いたいことがわからない” ときにすべき3つのプロセス

日々の経験を言語化するためのアプローチ

忙しい会議、失敗した提案、うまくいったひとこと、「おっ!?」と思ったアイデア、モヤッとした違和感。なんでも結構です。経験を「使える整理棚」に変えるため、以下を実践してみてください。

🔵「なぜ?」を言語化してタグ付け

成功や失敗の要因を振り返り、どんな場面でも応用できるかたち(ルールや原則)に変換。
例)
「プレゼンで熱意が伝わらなかった。なぜだろう?」⇒「数字ばかり並べてしまったせい?」⇒「人は論理ではなく感情で動く」

🟢 事実を情報として分類・配置する

日常で得た知識を「どこで使えるか?」という視点で整理。
例)
「あるサービスを使ったら△△という不満が生じた」⇒「自社の新規プロジェクトの顧客体験を改善するときに使えるかもしれない」

🟡 引き出しのアクセスを高速化する

定期的に整理棚(スキーマ)を見直し、似たような概念や新しい知識を関連づけることで、思考のネットワークを強化。
例)
「先日、会議の場を円滑にした『一度受け止めてから拡げる』という話し方」⇒「以前学んだ『心理的安全性』の知識と紐づけて、いつでも使える武器にする」

どんな年齢であっても、重ねてきた経験は多くの知識をもたらしてくれます。

でも、そこからもう一歩――。その知識を「どう使いこなすか」を意識することで、あなたのこれからの「知能」は、さらに力強く磨かれていくでしょう。

💡 もっと読みたい気づきを言語化「リフレクションノート」がすごい。学びが大きく加速する!

***
いま自分が歩いている知能の道は、決して「下り坂」ではありません。それは、次の頂へと向かう「新たな登り坂」です。日々の経験を少しだけ「意味のある言葉」に変えることで、あなたの知識の整理棚(スキーマ)は確実にアップデートされ、新たな知能の武器へと変わっていくはずです。

よくある質問(FAQ)

Q. 30代で「昔より覚えが悪くなった」と感じるのは、知能が衰えたサインですか?
A. いいえ、必ずしもそうではありません。人間の知能は「ひとつの山」ではなく、能力ごとにピークの時期が異なる “マルチピーク構造” をもっています。処理速度やワーキングメモリは若いうちにピークを迎えますが、語彙や知識といった「結晶性知能」は中年期(40〜60代)にピークを迎えるとされています。覚えにくさを感じても、それは知能全体の衰えではなく、知能の「主戦場」が移りつつあるサインと考えられます。
Q. 記事に出てくる「スキーマ」とは何ですか?
A. スキーマとは、脳内にある「知識の整理棚」のようなもので、既存の知識体系とも表現されます。新しい情報に関連するスキーマが活性化することで、私たちは物事をスムーズに理解・予測できます。逆に関連する事前知識が不足していると、情報の受け皿がないため理解が難しくなります。経験を重ねた人の「思考の深み」は、この膨大なスキーマの蓄積によるものです。
Q. 30代のうちにやっておきたい習慣は何ですか?
A. 「経験を言語化する習慣」がおすすめです。デービッド・コルブの「経験学習理論」によれば、経験を次の行動に活かすには、振り返りを通じて「教訓(概念化)」を導き出すプロセスが欠かせません。言葉にされない経験は「未整理のデータ」として漂い、必要なときにスキーマを検索する効率を下げてしまう可能性があります。経験を意味のある言葉に変えることで、知識の整理棚が確実にアップデートされていきます。
Q. 経験を言語化するには、具体的にどうすればいいですか?
A. 記事では3つのアプローチを紹介しています。①「なぜ?」を言語化してタグ付けし、成功・失敗の要因を応用可能なルールや原則に変換する。②得た事実を「どこで使えるか?」という視点で分類・配置する。③定期的に整理棚(スキーマ)を見直し、似た概念や新しい知識を関連づけて思考のネットワークを強化する。重ねた経験を「どう使いこなすか」を意識することで、知能はさらに磨かれていきます。
【ライタープロフィール】
橋本麻理香

大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。