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マガジン一覧

森晶麿幻想マガジン

君のげげげげげげげげげげげげんそうから僕は

掌編「影のない街と影屋の憂鬱」

「一カ月くらいでいいの、私の影になって」 こちらは影屋なので、もちろんそう言われて断る謂れはない。 「一日一万五千円なんですが、大丈夫ですか?」 「けっこうするのね」 「まあ、一日中張り付くわけですから」 「でも影でしょ? 探偵じゃないし何かしてくれるわけじゃない」 「そうですね、影ですから。あと食事代は別途かかります」 「影のくせに食事をとるの?」 「影と言っても一応人間ですから」 この国では、いつからかこれ以上生きていたくないと言う人間が、人間をやめて〈影屋〉を開く免許を

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掌篇「青い女」

弟が「恋人ができたんだ」と一人の女性を連れてきたのは、2年前だった。 彼女は痩せこけていて、小枝のような脚と腕が黒のワンピースから伸びていて、握手をするときはじかに骨の感触が伝わったものだった。

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¥300

愛しの密室ガール

「私の中に一体の死体がある、というと、人はいかにも奇異なことを言っているように思うかもしれないわね。でも事実よ。私の中には一体の死体がある」

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¥300

怪奇倒叙掌説「まがとり」

 柳原正一はごく普通のどこにでもいる心優しい高校教師だった。生徒からの人気も高く、保護者からもよく相談をされ、校長や教頭、学年主任、同僚からの信頼も厚かった。  三年前に同僚の美奈代と結婚し、子どもも生まれた。元気な男の子だ。柳原はこの家族のためにこれからは生きていくのだ、と思った。  柳原はその年、二年三組の担任をすることになった。とてもまとまりのあるいいクラスだった。だからだろうか、九月に入ってすぐ、校長から転校生をこのクラスに入れたい、と相談された。名前は石笛君江。

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掌編「影のない街と影屋の憂鬱」

「一カ月くらいでいいの、私の影になって」 こちらは影屋なので、もちろんそう言われて断る謂れはない。 「一日一万五千円なんですが、大丈夫ですか?」 「けっこうするのね」 「まあ、一日中張り付くわけですから」 「でも影でしょ? 探偵じゃないし何かしてくれるわけじゃない」 「そうですね、影ですから。あと食事代は別途かかります」 「影のくせに食事をとるの?」 「影と言っても一応人間ですから」 この国では、いつからかこれ以上生きていたくないと言う人間が、人間をやめて〈影屋〉を開く免許を

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掌篇「チョコットバレンタイン」

その朝、久恵は冷蔵庫を開けた。毎年必ず、2月14日のために、自分でチョコレートを作っている。Meijiの板チョコを溶かして混ぜて、形を変えて、また冷やす。それだけの作業を「自作」といえるのなら、たしかにそのチョコレートは自作のものだった。ハート形に整えたそれを、プレゼント用の箱に詰め、家を出る。 24年間、毎年この日はそうしている。けれど、一度も誰かにチョコレートを渡せたことはない。「友チョコ」の概念が一般化している現代にあって、久恵は友人同士ですらチョコの交換をしたことが

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掌篇「青い女」

弟が「恋人ができたんだ」と一人の女性を連れてきたのは、2年前だった。 彼女は痩せこけていて、小枝のような脚と腕が黒のワンピースから伸びていて、握手をするときはじかに骨の感触が伝わったものだった。

8
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青春掌篇「永い蜜」

ある秋の、月の明るい晩に、僕と結衣はR村で2ダースほどの殺戮をおこなった。避けられないことで、しかしもう二度と思い出したくもないことでもあった。 村人の顔は八割以上は覚えていない。だいたい、殺される直前の表情というのはみんな似通っているし、それに僕らにとってはちょっとした薪をくべるような作業にすぎなかったのだから。 2ダース分の殺戮を終えたあと、結衣は僕にこう言った。 「私たちは罪深い。でも、逆さ吊りにしてるわけだし、罪も蜜よね」 そのとおり、僕らは24人分の死体を逆さ吊

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森晶麿ホラーマガジン

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

ホラー掌篇「となりの家の子」

 出勤前の朝のゴミ出しは憂鬱な仕事の一つだが、今日はそうでもなかった。なにしろ、連れがいる。昨日入学式を終えて、晴れて小学一年生となった娘のハナだ。  まだ大きすぎるのではと心配になるランドセルを背負い、よろよろと歩いている。その小さな手を握りながら、そうかこの子が学校に通うのか、なんてことを、今さらのように感慨深く思っていると、いつもは嫌で仕方ない生ゴミの、鼻が歪みそうな匂いも耐えられる気がする。  背後から、二つの足音がしたのは、そんなタイミングだった。一つはよく知っ

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怪奇倒叙掌説「まがとり」

 柳原正一はごく普通のどこにでもいる心優しい高校教師だった。生徒からの人気も高く、保護者からもよく相談をされ、校長や教頭、学年主任、同僚からの信頼も厚かった。  三年前に同僚の美奈代と結婚し、子どもも生まれた。元気な男の子だ。柳原はこの家族のためにこれからは生きていくのだ、と思った。  柳原はその年、二年三組の担任をすることになった。とてもまとまりのあるいいクラスだった。だからだろうか、九月に入ってすぐ、校長から転校生をこのクラスに入れたい、と相談された。名前は石笛君江。

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怪談「すくらっぷ」

20代の終わりの頃の話だ。 中高の同級生の杉本怜太(仮名)と2年ほどの間に5回くらい酒を飲み交わすことになった。最初に連絡してきたのは、杉本だった。mixiで俺のアカウントを発見したとかで、東京にいる仲間は少ないから今度飲まないか、と誘われたのだった。 その当時勤めていた会社が杉本のアパートに近かったというのが、それほど気乗りのしない誘いを受ける消極的な理由となった。 と言っても、会っても明るい気分になる奴ではないので、あくまで一時間程度、「あいつは今何してる」「A子は最近

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ホラー掌編「アカギ先生からの宿題」

 七月十三日。宮脇小学校四年二組にて、週明けの宿題提出の際に、クラスのほぼ全員が担任の出したおぼえのない宿題を提出する事案が発生した。内容は、〈したたる血をすする〉という表現を使った作文。  生徒たちはその宿題を前の週の、担任のいない昼休みに〈アカギ先生〉から出されたという。そのような教師は、宮脇小学校にいなかったにも拘らず、生徒たちは誰一人その存在を不思議に思わなかった。〈アカギ先生〉はしぜんな様子で教室に現れ、何食わぬ顔で宿題を出して去っていったという。  恐らく誰か

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僕はあの日友人に「スガシカオは明後日のさだまさし」と言った──新譜『Acoustic Soul 2014-2024』を聴きながら思ったこと。

前世紀の話である。大学でふと思い立って文芸誌を立ち上げた。 だが、実際に集まったのは書きたい人間ばかりで、雑誌作りに興味がある者はほぼ漫画家志望のB君ひとりだった。 自分は幹事長という立場上、B君の雑誌作りの情熱に付き合わされることになり、小説を書きたいだけだったのになぁ、などと思いながら、B君の風呂なしトイレ共同アパートにお邪魔して雑誌の構成などをあれこれ考えた。 B君はかなりの音楽マニアで、狭い部屋のなかでがんがんにMJQやらマーヴィン・ゲイやらトム・ウェイツのレコー

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第二十四回 音楽は去勢されたのか

2011年以降の音楽シーンについて、その世界にいるわけでもない物書きがモノ申すのはミュージシャンや音楽好事家からすればシャラクサイといったところかもしれないが、それが物書きという生き物なのでご容赦願いたい。

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¥100

スガシカオ『イノセント』がとてもイノセントでよかったという話

スガシカオ『イノセント』についてどう語るのがいいのだろう、と考えるうちにいつの間にか三月になってしまった。最近は、体験を即日言葉にするような文化が「ふつう」になっている。創作者側としては嬉しい。光栄だし、販促的にも助かる。 でも、一度の体験で得られる感動や興奮「にしか」本物がないわけでもない。最初の興奮は、香水でいえばトップノート。芸術体験にはミドルノートも、ラストノートもある。長い目でみて、体験直後の感想と全然ちがう気持ちを持つことも、ないわけではないのだ。 そんなこと

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スガシカオ『Sugarless Ⅲ』に横たわるむき出しのエグさについて

一体何事か、というタイトルでお届けする今夜の記事。 そのタイトルどおりスガシカオ(以下敬称略)のニューアルバム『Sugarless Ⅲ』について書いていこうと思う。 前作アルバムについての記事が前編後編に分けた長いものだった反省を踏まえて今回はコンパクトにまとめてみたい。 楽曲、テイクへのこだわりといった部分はレコード誌や音楽批評家に任せ、私は私なりの『Sugarless』シリーズの着目点に言及していく。 デビュー当初、スガシカオのアルバムで求めていたのは、私の場合、フ

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森晶麿エッセイマガジン『多事創論』

たたたたたじたたたたたたたたたたたじたたたたたたたたたたじ

エッセイ「笑いと暴力」

いつぐらいからだろうか。とにかくここ数カ月、「笑いと暴力」について考えていた。どこからが笑いで、どこからが暴力か。 最初にこの手の問題を意識的に持ち込んだのはビートたけしだったのではないか。それまでの、政治家のような圧倒的強者(どうせ敵いっこない相手)を叩いて笑いを起こす、といったものから、ビートたけしはそのへんの小市民さえも罵倒の対象となることを示した。「じじい」も「ねえちゃん」も、ぜんぶ「バカヤロウ」とぶった切られるモチーフになった。 これによって、それまでフィクショ

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ソコデコソダテ 第3回「我輩は世界をゲームするのである」

ちょっと前まで末の息子(6歳)はスマホにどっぷり浸かってしまって、半ば中毒のような感じであった。 これには理由があって、制限を設けたりなんだりすると、結局あとあとまでそれが欲求の芽として残るらしい、というのを上の子らを育てた経験で学んでいたので、ならば何も制限しなければどうなるのか、というのを見てみたかったのだ。 すると、これが本当に際限なく動画を見続けるようになってしまった。いやはや今のソシャゲーや動画というのは、人を夢中にする工夫が随所にあって、とてもではないが、幼児

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ソコデコソダテ 第3回「我輩は友達が少ない」

末の息子にかぎらないのだが、歴代我が家の子は幼少期の友だちが極端に少ない。せいぜい1人、ないし2人。それも先生が「2こ1になって」といえば確実にあぶれてしまう。 なぜこうなってしまうかといえば、まあ簡単にいえば変わり者ばかりなのだ。遊び方もそうならそもそもの関心事も大きくかけ離れている。そこに加えておそらく日頃同年代の子と遊ばないせいか感情の伝え方がかなりロングセンテンスになっている。 これは歴代そうだった。というか自分もそうなら家の人もそういう子だったようで、だからしょ

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ソコデコソダテ 第2回「我輩は動画が超好きなわけじゃない」

かれこれ20年ほど育児をしていると、どうしても子どもの相手をしてばかりもいられないほど忙しい時期というのが、父母ともにある。それは昔のような日本家庭でないかぎり仕方のないところがある。 しかし運のいいことに、私は13年くらいまえから自宅を作業場とするようになったので、家にいるといえばいる。なので、原稿の締め切り前でも、子どもが私の背中をよじ登っているなんてことはよくある。それでも、どうしてもここだけは集中させてくれ、という場面がある。そういうときはテレビに頼る。あるいはスマ

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ソコデコソダテ 第1回「我輩はオムツがラクなのである」

かれこれ20年近く子育てをしてきた。子どもが5歳くらいずつ年齢が離れているせいで、ひとりが育つとまた次に小さいのが現れる、という感じで、現在も4歳児がいる。 4人の子はそれぞれオムツのとれる時期はぜんぜん違った。上の子(長女)がいちばん早くて、次が長男、その次が次女、で、末っ子はというと、4歳の現在もトイレに行ったり行かなかったりだ。 上の子のときにオムツがとれるのが早かった理由はわかっている。父親も母親もまだ学生だったし時間も有り余っていた。とにかく世話を焼いたのだ。ト

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三単現のエス──または彼を炎上から救うたった一つの方法

 00.When I wake up , I always ……  目覚めの瞬間は、生まれてこの方何万、何億と経験している。だが、目覚めてすぐ死をあれほど間近に感じたのは、たぶんあれが最初で最後だ。  高校の頃、母の付き添いでキャンプに行った。母は家で私塾を開いていて、そこの生徒や保護者たちとキャンプ合宿に向かったのだが、夜更けにテントの中が蒸し暑すぎて外に出て芝に置かれたキャンプ用の折り畳みチェアに腰かけてまどろんでいた時に、それは起こった。  頬にひんやりとした硬質な

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人工失楽園BARからこんばんは。

人工楽園が失われた2020年の日本にオープンした思考酩酊空間。

かじった桃を渡したら──コーネリアス問題を振り返る夜──

先週あたりがピークだったコーネリアスこと小山田圭吾の過去記事におけるいじめ自慢問題について、今さら少しばかり書いてみようと思う。人の憎悪も7.5時間というから、たぶんもう極度に憎悪を持っていた人たちはニワトリ並みの高速さでこの話題自体を忘れてしまっていることだろうし、私としては私の読者に理解してもらえればいい程度の意味合いで書いておくことにする。 この問題については、珍しくネットをみるかぎり9割くらいの人が断罪に動いていたように思う。理由はいろいろだ。冷静な意見としては「単

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猫を撫でる、その他の浮遊思考

いま家の外では簡易の小屋の中で猫が寝ている。一週間とか、いやもう少し前からかな、家のまわりをずっと首輪をつけた猫がみょおみょお鳴きながら徘徊していた。 何だろうな、とは思っていたが、気にしないようにしていた。だが、日を追うごとに相手は距離を縮めてくる。うちはまた、子どもの出入りが多い。そうすると、庭先で子どもが優しくしたりするせいもあるのだろう、あるいは、よその庭より雑草が伸びているから、餌になる虫や蜥蜴が多いかもしれない。様々な理由から、この猫はうちの庭にとどまる腹づもり

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犬に種類があるように

子供の頃、「流れ星銀」という漫画があった。 犬が熊を倒すために集まる話だ。 その影響で、ポインターとかセントバーナード とかグレートデンとか、とにかく犬の図鑑をみては いろんな犬の種類をかたっぱしから覚えたものだった。 不思議なもので、 我々は「犬」というカテゴリを知っているから ドーベルマンとチワワを同じ「犬」と認識できるが、 そうでなければ、とてもそれらをひとまとめには 見られるはずがないのではないか、と思う。 ある国では「狸」も「犬」に含めるという。 そこでは「ドーベル

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クリスマス小説「チック、チック、チック」

探偵ブルーブラックは影に似ている。どこにでも現れるが、誰もブルーブラックに気づかない。それは彼の類まれな才能というわけでもない。彼はただ生来そういう男であり、その結果として探偵という職業に流れ着いた。

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黒猫による断篇小説

『黒猫の遊歩あるいは美学講義』にはじまる黒猫シリーズの主人公・若き美学教授の黒猫が小説を書き始めたようです。ぜひチェックしてみてください。

黒猫による初断篇「みにくい夫人」

 みにくいと呼ばれる夫人がいる。形容詞が個体の名詞として定着するまでには、長い物語があるが、まずはじめに言っておくべきことは、みにくい夫人には、みにくくない時間があったということだ。あるいは、みにくくない時間こそが、彼女の渾名を定着せしめてしまったのかも知れなかった。  ニーチェは〈醜〉を衰えゆくことの顕れと捉えていた。従って、社会のあらゆる競争における敗北によって己を摩耗させ、枯渇させたあらゆる退化現象こそが〈醜〉であると、ニーチェはそう考えていたようだ。  しかし、このよ

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其ノ弐 橋の上の人喰い鬼

其ノ弐 橋の上の人喰い鬼 「賭けるのかよ?」  けしかけられて、正嗣は引き下がるわけにはいかなかった。 「こ……この館でいちばんの駿馬を用意してくださるなら、やってもいいですよ」  生唾をゴクリと飲む。その音が、館の一室に響いた。宴の席はいよいよ酒臭く、そこかしこで威勢のいい罵詈雑言が飛び交っている。  正嗣も、ほかの男たちも一様に酔っていた。  館の主である検非違使の大尉・坂上が、上座からその様子を眺めている視線を感じる。爪の手入れをしているが、部下の動向も同時に気にかけ

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¥100

其ノ壱 袴垂、羅城門にて鬼に逢いしこと

《本編をはじめる前に作者から一言》  デビューより前の10年とか11年くらい前の話だ。とある出版社で『今昔物語』を漫画に、という企画が上がった。たまたまその社に営業に来ていた私に編集氏はこの企画を任せてくれ、脚本完成後に漫画家に渡すまではいったのだが、そこから遅々としてプロジェクトが進まなくなった。  そのうち半分小説+半分絵にしようかなんて話も出て、ならば、といち早く全部小説にしたものの、その後、私はクリスティー賞を受賞したり、編集氏も異動があったりといろいろあり、結局この

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