「終わり」を決めるだけで翌朝も勝手に体が動く。習慣化の新常識「タスク・ブラケティング」入門

習慣化したいタスクに取り組むビジネスパーソン

「勉強やスキルトレーニングを続けたいのに習慣化できない」は多くのビジネスパーソンにとっての共通の悩みでしょう。

STUDY HACKERでも「If-thenプランニング」や「ベビーステップ」、「タイニーハビット」などの習慣化メソッドを繰り返し紹介してきました。すでに実践している方も多いでしょう。

しかし、これらは「行動をスタートさせる工夫」でした。では、「行動を終わらせる」部分についてはどうでしょうか。

じつは、習慣化を成功させるには「行動の始まり」だけでなく「終わり」を設計することも重要であることがわかってきました。これを「タスク・ブラケティング」と呼びます。

本記事では、「タスク・ブラケティング」について解説し、さらに習慣化に活用するための具体例を紹介します。

なぜ「終わり」を決めると習慣化するのか? ――脳にマーカーを打つ「タスク・ブラケティング」の仕組み

タスク・ブラケティングで大脳基底核に習慣のマーカーを刻むイメージ

「タスク・ブラケティング(Task-bracketing)」とは、習慣行動の開始直前と完了直後のプロセスを「ブラケット(枠、かっこ)」で囲い、脳に一つのユニットとして認識させる神経プロセスのことです。*1

スタンフォード大学医学部准教授(神経生物学・眼科)のアンドリュー・ヒューバーマンが、自身のポッドキャスト『Huberman Lab』で既存の神経科学研究を紹介し、広く知られるようになりました。

ヒューバーマンによると、行動の「開始」と「終了」の瞬間、人間の大脳基底核にある「背外側線条体(DLS)」という部位が激しく活動します。これが「習慣の始まりと終わり」を指定するマーカーとして作用するのです。

大脳基底核は、自転車を漕ぐ動作のような「手続き記憶」や長期記憶に深く関与する部位であり、習慣化とは前頭前野で行っている意思決定を、大脳基底核へ移植することであるとも言えます。

つまり、開始-終了という「かっこ」で動作を括る(囲う)ことで大脳基底核を刺激し、習慣化を容易にするというメソッドです。

タスク・ブラケティング=行為をかっこで括る=脳にマーカーが入る=習慣化

わかりやすい例として、小説家・村上春樹氏の習慣を見てみましょう。

村上氏は、長編小説を執筆している期間は、毎朝4時から原稿用紙10枚程度書くというルーティンをもっていることで知られています。*2

「タスク・ブラケティング」に照らして見てみると、「朝4時になったら原稿を書く」というのが「始まり」の合図で、「原稿用紙10枚程度書き切る」というのが「終わり」の合図。

このふたつがセットになり、「長編小説を書くこと」=「朝4時から原稿を10枚書くこと」という明確な枠組みができあがっています。

実践方法:「終わり」を決め、感情もイメージする

タスクの終わりを明確にして達成感を得るビジネスパーソン

タスク・ブラケティングには、「朝実践する」「報酬を決める」「事前にシミュレーションする」などの細かな実践方法がありますが、簡単なのはシンプルに「終わった状態をイメージする」ことです。

ヒューバーマンは、タスクを終えたときの「達成感」や「爽快感」などの感情もあらかじめイメージしておくとよいと述べています。

  1. 始まりを決める
  2. 習慣化するタスクを決める
  3. 終わりを決める
  4. 終わったとき、どんな状態かを決め、イメージする

習慣化の内容 フェーズ 具体的なアクション
資格勉強 ● 始まり テキストを開く
  行為 3ページ問題を解く
● 終わり テキストを棚に戻す
  状況・感情 「やった」という軽い達成感があり、デスクが片付いている。
運動 ● 始まり マットを敷く
  行為 筋トレ3セットを行う
● 終わり プロテインのシェイカーを洗う
  状況・感情 心地よい軽い疲労感があり、体がすっきりしている。

重要なのは、きちんと「終わり」を実践することです。なんなら「終わった!」と声に出すだけでもよいかもしれません。

「始まり」の部分で、If-thenプランニングや、ベビーステップを利用するのもよいでしょう。

ツァイガルニク効果と矛盾する?

「タスクを完了させるのはツァイガルニク効果と矛盾するんじゃないか」という疑問を持たれる方もいるかもしれません。

ツァイガルニク効果とは、「未完了のタスクのほうが完了したタスクよりも記憶に残りやすい」という認知現象です。この性質を利用し、あえてタスクを中断することで次回の着手意欲を高めるテクニックとして知られています。

しかし、タスク・ブラケティングとは刺激する脳の部位が異なります。ツァイガルニク効果は前頭前野の「気になる」を利用するのに対し、タスク・ブラケティングは大脳基底核に「一連のユニット」を移植し、無意識の継続を目指すものです。

また、タスク・ブラケティングは始まりと終わりを定義するもので、かならずしもタスクの完了(たとえば原稿を書ききる、企画書を仕上げる)を意味するものではありません。村上春樹の例で言えば、小説を書ききることと、原稿用紙を10枚書くことは別だということです。

ツァイガルニク効果も、If-thenプランニングのようにきっかけづくりとして、タスク・ブラケティングと併用することも可能でしょう。

【検証】デスクワークより効果絶大? 筆者が「身体動作」をブラケットに取り入れて分かったこと

ブラケットに身体動作を取り入れて運動習慣を定着させた筆者

タスク・ブラケティングを知った筆者も、数日間実践してみました。率直に言うとうまく習慣化できたものもあり、うまくできなかったものもありました。

対象タスク ブラケティングの詳細 判定 筆者の気づき・考察
筋力トレーニング
[始] 布団を畳みマットを敷く
[動] 筋トレ3セット
[終] マットを片付ける
状況:
血液が回り、体が温まってすっきりしている。

習慣化成功
身体動作がカギ
「片付ける」という大きな動作と「温まった」という身体感覚がセットになり、脳への強力なサインになった。
※2か月経った現在も継続中
朝の日記・
ブレインダンプ
[始] PCを立ち上げる
[動] 日記・タスク書き出し
[終] 日記帳を畳む
状況:
やるべきことが分かっている。

停滞中
完了イメージの欠如
「状況」の定義が曖昧だった。もっと具体的な「万全の体制で仕事を始める自分」をイメージすべきだった。
※断続的な継続に留まる

ほかにも、筆者が取り組んでいる他の仕事の作業も習慣化を試みたところ、そちらも肉体労働のためか、すんなり習慣化できました。

個人的な感想にはなりますが、ブラケットは取り掛かりやすく、イメージしやすい「身体感覚がはっきりしているもの」がよさそうです。また、デスクワーク系はブラケットが曖昧になりがちかもしれません。一度決めてこれでいい、と思いこまずに、1週間後、2週間後に見直すと精度が上がると感じました。

難しい資格の勉強など心理的ハードルの高い内容を習慣化する前に、自分に合ったブラケットを探すために、比較的容易な内容で習慣化のトライアルをしてみるのがおすすめです。

***

行動のきっかけを決めることは習慣化に有効ですが、それだけでは不十分。

「どこまでやれば終わりか」を明確にすることで、行動が具体的なまとまりとして脳に保存され、習慣化を後押しします。

習慣化したいことがあるなら、ぜひ「終わり」についても設定してみてください。

よくある質問(FAQ)

Q.タスク・ブラケティングとはどのような意味ですか?

タスク・ブラケティングとは、行動の開始と終了をセットで「枠(ブラケット)」として定義し、脳の大脳基底核にある背外側線条体を刺激して一連の動作を習慣として定着させる神経プロセスです。スタンフォード大学のアンドリュー・ヒューバーマンが既存の神経科学研究を紹介し、広く知られるようになりました。

Q.習慣化を成功させるために「終わり」を決めるメリットは何ですか?

「どこまでやれば終了か」が明確になることで、脳に行動の完了マーカーが刻まれます。これにより、意志力(ウィル・パワー)に頼らずとも行動が自動化されやすくなり、次回の着手もスムーズになります。

Q.タスク・ブラケティングはツァイガルニク効果と矛盾しませんか?

矛盾しません。ツァイガルニク効果は「未完了のタスクのほうが記憶に残りやすい」という認知現象で、前頭前野が関与します。一方、タスク・ブラケティングは大脳基底核に「一連のユニット」を刻み、無意識の継続を目指すものです。刺激する脳の部位が異なるため、併用も可能です。

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

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