
「今日もまた残業か……」と、終わりの見えないタスクにため息をつく夜。働き方を変えたいけれど、周囲の状況を考えると自分の力ではどうにもならないと感じてしまいますよね。
けれど、同じように忙しくしていても、ふしぎと疲れを見せず元気に働いている人がいます。その違いはどこにあるのでしょうか。
それは「自己コントロール感」の有無にあります。
残業を「させられている」のではなく「自分でコントロールしている」という感覚こそが、ストレスを劇的に変える鍵なのです。
なぜ「自分で決める」とストレスが減るのか
心理学において、自分自身や周囲の状況をコントロールできているという感覚(自己コントロール感)は、ストレス耐性を高める重要な要素とされています。
臨床心理士の米澤里奈氏は、次のように述べています。
「自己コントロール感」とは、自分自身や周囲をコントロールできている感じ、を指します。大事なのは実際にコントロールしているか、よりも本人がそう感じているかです。この自己コントロール感が高い人ほどストレス耐性が強く、不慮の事態にも柔軟に対応できる。*1
つまり、「トラブル対応で残業するけれど、明日は必ず定時に上がろう」と自分で主導権を握って判断するだけで、脳が感じる負担は軽くなるのです。
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残業の主導権を取り戻す3つの具体策

周囲の影響をゼロにするのは難しくても、工夫次第で「自分で決めている」領域を広げることは可能です。今日から取り入れられる3つのアイデアをご紹介します。
1. 「絶対に残業しない日」を死守する
週に1日だけでかまいません。「この日は何があっても定時で帰る」と決め、それをやり遂げてください。いわば自分だけの「ノー残業デー」です。
習慣化コンサルタントの古川武士氏は、帰る時間を死守することを推奨しています。時間を制限することで、脳の集中力と生産性が極限まで高まるからです。*2
ノー残業デーはその応用です。「曜日を固定」して習慣化するのがベストでしょう。
もし突発的な仕事が入ったら、他の日に振り替えて調整します。「流されて残業する」のではなく、「スケジュールを再構築する」。この主体的な姿勢が、自己コントロール感を養います。
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2. 仕事の波を把握し、先に「休み」を予約する
月単位や四半期単位で仕事の波を予測し、先手を打って調整するのも有効な戦略です。
精神科医の西多昌規氏は、しっかり休むためには、有給休暇などで公式な「区切り」をプランニングすることが重要だと語っています。*3
「来月は繁忙期だから、今のうちに有給を取ってリフレッシュしておこう」
「あと1週間で落ち着くから、金曜の夜は贅沢なディナーを予約しよう」
このように、忙しさの先を見通して自分の時間を予約することで、「振り回されている」感覚を「計画通りに動いている」感覚へと上書きできます。

3.「小さな選択」の積み重ねで、脳の主導権を取り戻す
残業が避けられない状況でも、脳を「被害者モード」から「主体モード」へ切り替える方法があります。それが、あえて意識的に「小さな選択」を繰り返すことです。
脳科学者のウォルフラム・シュルツらの研究によれば、人が「報酬を得られる」と予測した段階でドーパミン神経は活性化し始めることがわかっています。*4
この知見は「自分で選ぶ」行為にも応用できます。どんなに些細なことでも「自分で選んだ」と認識した瞬間に、脳の報酬系が刺激されるのです。この小さな成功体験の積み重ねが、「自分は状況をコントロールできている」という回路を強化してくれます。
残業中、もし「振り回されている」と感じたら、あえて次のような極小の選択を自分に課してみてください。
「この資料、図解から先に手をつけるか、文章から始めるか?」
「次の休憩では、コーヒーを飲むか、ハーブティーにするか?」
「BGMは、集中できるクラシックにするか、お気に入りのポップスにするか?」
「何でもいい」と流されるのではなく、「私はこれを選んだ」という感覚を脳に刻むのがポイントです。
たとえ業務内容そのものは選べなくても、そのプロセスや環境を自分で決めることで、脳内の「自己コントロール感」は確実に高まります。この小さな主導権の積み重ねが、やがて「残業に振り回されない自分」という強い軸を作ってくれるはずです。
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残業そのものをゼロにするのは難しくても、「働き方の主導権」はあなたの手の中にあります。
「今日はここまでにする」「明日は早く帰る」といった小さな決断を積み重ねてみてください。その「自分で選んでいる」という確信が、あなたをストレスから守り、健やかな毎日を作っていくはずです。
よくある質問(FAQ)
Q1. 自己コントロール感とは何ですか?
自己コントロール感とは、自分自身や周囲の状況を自分でコントロールできているという感覚のことです。実際にコントロールしているかどうかよりも、本人がそう「感じている」かが重要です。この感覚が高い人ほどストレス耐性が強く、不測の事態にも柔軟に対応できるとされています。
Q2. 残業が多くてもストレスを減らす方法はありますか?
はい、あります。ポイントは「自分で決めている」という感覚を持つことです。具体的には、週に1日「絶対に残業しない日」を設ける、繁忙期の前後に有給や楽しみを予約する、残業中にも作業の進め方やBGMなど「小さな選択」を意識的に行うといった方法が効果的です。
Q3. ノー残業デーを設けても、急な仕事が入ったらどうすればいいですか?
突発的な仕事が入った場合は、ノー残業デーを別の日に振り替えて調整しましょう。大切なのは「流されて残業する」のではなく、自分でスケジュールを再構築するという主体的な姿勢です。この姿勢そのものが自己コントロール感を養い、ストレスの軽減につながります。
*1 御池メンタルサポートセンター|ストレスとの付き合い方 「自己コントロール感」
*2 プレジデントオンライン|退社時間を死守すれば、脳が冴えるよみがえる
*3 東洋経済オンライン|「休んでもやることがない」人が実は抱える問題
*4 Schultz, W., Dayan, P., & Montague, P.R. (1997). A neural substrate of prediction and reward. Science, 275(5306), 1593-1599.
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。