
ちゃんと休んだはずなのに、月曜日になっても頭が重い。資料の文字を目で追っているのに、内容が全然入ってこない。ネガティブなことばかりが頭のなかをグルグルして、集中できない――。
こうした「休んでも疲れが取れない感覚」、心当たりはありませんか?
とくに異動や転職など、環境が変わった時期にはこの傾向が強く出やすいもの。しかし、新生活と関係なく、慢性的に同じ状態に陥っている人も少なくないはずです。
じつはそれ、単なる仕事疲れではなく、脳の「DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)」が暴走しているサインかもしれません。
たとえるなら、スマホのアプリを裏で大量に開きっぱなしにしている状態。画面では何もしていないのに、バックグラウンドでアプリが走り続け、バッテリーが減り、本体が熱くなる――。同じことが、あなたの脳でも起きている可能性があります。
本記事では、DMNが暴走しているかを判別するためのサインと、その回復方法をご紹介します。
あなたの脳は大丈夫? 暴走の「3つのサイン」
休んでも疲れが取れないとき、そのエネルギーが脳のどこで無駄遣いされているかは、自分ではなかなか気づけません。まずは以下の状態が続いていないか、チェックしてみてください。
1. 意味の空滑り現象
資料を読んだり、人の話を聞いたりしているのに、中身がうまく入ってこない状態です。
文字を目で追っているのに内容が頭に残らない、会議中に話を聞いていたはずなのに何も覚えていない――。これは、脳の処理リソースが雑念に奪われている可能性があります。
2. 無意識の引き戻し
気がつくと、反芻思考に引き戻されている状態です。
たとえば「上司にああ言われたのは嫌われているからかも」「この先うまくやっていけるだろうか」など、同じ不安を何度も繰り返し考えてしまうケース。ネガティブなことに一点集中してしまい、調べる・相談するなどの対処法も思いつかなくなるのが特徴です。
3. 無意識の身体的緊張
気づくと奥歯を強く噛みしめている。呼吸が浅くなっている。肩や首にずっと力が入っている――。そんな “無意識の緊張状態” も、脳が暴走しているサインかもしれません。
反芻思考が続くと、脳は常に「警戒モード」に入りやすくなります。その結果、身体まで緊張状態が続き、自律神経がうまく休まらなくなるのです。「ずっと気を張っている感じがする」「ちゃんと休んだはずなのに疲れが抜けない」という場合は、脳の疲労が身体にまで影響している可能性があります。
さらに、暴走の度合いを見極められる「10秒の呼吸テスト」をご紹介しましょう。
10秒の呼吸テスト
自分の呼吸に10秒だけ意識を向けてみてください。
「3秒吸って、4秒止めて、3秒吐く」を1セットとして、呼吸だけに集中します。
その途中で、仕事や不安、人間関係のことなど別の思考に引き戻されるなら、脳が過活動になっているサインかもしれません。
これらに当てはまる場合、ただ「ボーッと休む」「普通のストレッチをする」だけでは、暴走は止まりにくい可能性があります。必要なのは、「今ここ」に意識を戻すアプローチです。

意識を「今、ここにある物理的な感覚」へ
こうした脳疲労に特化したリセット方法として注目されているのが、マインドフルネスです。「マインドフルネスってスピリチュアルな印象でよくわからない」という人もいるかもしれませんが、科学的にも研究が進んでいる、脳の暴走を落ち着かせる方法です。
『1分間どこでもマインドフルネス』の著者で産業医の奥田弘美氏は、マインドフルネスについて「過去の嫌な出来事や将来の不安にとらわれている自分に気づき、『今ここ』に心を戻すコントロール力をアップする」ものだと説明しています。*1
ここで重要なのは、「今ここ」を “頭で理解する” のではなく、“身体感覚として捉える” ことです。呼吸の感覚、肩が回る感覚、足裏が床につく感覚など、「いま身体で起きていること」に意識を向けると、脳は過去や未来への反芻から離れやすくなります。
とはいえ、いきなり座禅のような瞑想をするのはハードルが高いもの。「頭を空っぽにしよう」と頑張るほど、かえって雑念が増える人も少なくありません。
そこで奥田氏がすすめているのが、「マインドフルネス・ストレッチ」です。名前のとおり、ストレッチとマインドフルネスを組み合わせた方法で、初心者でも取り組みやすいのが特徴。*1
やり方は以下のとおりです。
マインドフルネス・ストレッチのやり方
背筋を伸ばして椅子に座り、ヘソの両側に手を置いて2〜3回腹式呼吸をする
右手で右肩の先端、左手で左肩の先端を持つ
心のなかで「右肩を回します」と言ってから、ひじで大きな円を描くようにゆっくり肩を回す
5〜10回ほど回したら、「止めます」と心のなかで言ってから動きを止める
左側も同様に行ない、「終わります」と心のなかで言って終了
ポイントは、自分の行動を心のなかで実況しながら、身体感覚に意識を向けること。
「右肩を回します」と言葉にすると、自然と肩の感覚に注意が向きます。すると、脳の処理対象が「不安」から「身体感覚」へ切り替わり、暴走が落ち着きやすくなるのです。
100%雑念を消そうとこだわる必要はありません。マインドフルネス・ストレッチで「今ここ」に何度でも意識を戻すこと自体が、脳疲労に効きます。椅子に座ったままでできるため、職場でも自宅でも実践しやすいでしょう。

なぜ普通の休息では効かないのか――「DMN」という脳のアイドリング
そもそも、ただ休むだけでは疲れが取れないのはなぜでしょうか。冒頭で触れた「裏で開きっぱなしのスマホアプリ」のたとえを、もう少し詳しく見てみましょう。
スマホには、ユーザーが操作していないあいだも裏側で動き続けるアプリがあります。位置情報の取得、メール受信のチェック、通知の待ち受け――。一見何もしていないように見えても、CPUは動き続け、バッテリーは確実に減っていきます。
脳にも、これとよく似た仕組みがあります。それが「DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)」。脳神経科学者の毛内拡氏のたとえによれば、DMNは「脳のアイドリング機能のようなもの」です。*2
休日にぼんやりしているとき、「夕食はどうしようかな」「明日から仕事イヤだなあ」など、とりとめもない考えが浮かんでは消える。あの状態がDMNの典型例です。意識して動かしているわけではないのに、勝手にエネルギーを使っている――まさに、バックグラウンドアプリそのものなのです。
DMN自体は悪いものではありません。しかし、仕事のストレスが続いているときや新しい環境に慣れようと頑張っているときは、DMNが「失敗したらどうしよう」「ちゃんとやれているだろうか」と不安を反芻し続けてしまう。これが「マインドワンダリング(心のさまよい)」と呼ばれる状態で、放置すると脳疲労を招きます。
スマホでいうなら、悪意のあるアプリが裏でCPUをフル稼働させ続け、本体が熱を持ち、バッテリーが急速に減っているような状態。身体は休んでいるのに、脳だけが過剰に働き続けてしまうのです。これが、DMN暴走による脳疲労の正体。
そして厄介なのは、DMNがぼんやりしている時間にこそ働くこと。ふつうの休息ではこの暴走は止まりません。スマホでも、画面をオフにしただけではバックグラウンドアプリは止まらないのと同じです。だからこそ、身体感覚で「今ここ」に意識を引き戻すマインドフルネス・ストレッチが効くのです。

脳の主導権を取り戻す
頭がパンクしそうなとき、「もっと頑張らなきゃ」「考えないようにしよう」と無理をしてしまう人は少なくありません。しかし、DMNが暴走して脳のリソースを無駄遣いしている状態では、気合いだけで乗り切ろうとしても逆効果になることがあります。
そんなときは、まず身体感覚をフル稼働させ、脳のさまよいを最速で止めること。こうして脳の主導権を自分に取り戻すことが大切です。
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資料の内容が入ってこない、思考がループする、不安ばかり考えてしまう――そんなサインがあるなら、マインドフルネス・ストレッチを試してみてください。暴走していた頭のなかが少し静かになり、脳の疲れもリセットしやすくなるはずです。
よくある質問(FAQ)
Q. 休んでも疲れが取れないのはなぜですか?
脳には「DMN(デフォルト・モード・ネットワーク)」というアイドリング機能があり、ぼんやりしているときも勝手に働き続けます。仕事のストレスや環境変化があると、不安や反芻思考をシミュレーションし続けるため、身体は休んでも脳が休まらないのです。
Q. ふつうの休息やストレッチでは効かないのですか?
ただボーッと休むだけでは、DMNは止まらず働き続けてしまいます。DMNを落ち着かせるには、呼吸や身体感覚に意識を向け「今ここ」に注意を引き戻すアプローチが必要です。
Q. マインドフルネス・ストレッチはどこで実践できますか?
椅子に座ったままできるので、職場でも自宅でも実践可能です。「右肩を回します」と心のなかで実況しながら肩を回すだけ。1日数分でも、続けることで脳の注意を「今ここ」に戻す習慣がつきます。
*1: 日経リスキリング|職場で「瞑想ストレッチ」 集中力を高めるワザ
*2: プレジデント・オンライン|ウォーキングよりも音楽よりも効果的…「6分でストレスを最大68%軽減する」ゴロゴロしながらできること
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。