【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第38話・爆発の原因」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第38話・爆発の原因」by RAPT×TOPAZ

深夜一時、プレトとルリスは部屋を抜け出した。これから、爆発事故を起こしたボイド船とパラライトアルミニウムを見に行くのだ。本当は明るい時間帯に行動したいが、死にかけても誰も助けてくれなかったのを思い出し、メルト機構のことを信用できなくなったから、干渉されないで済みそうなこの時間を選んだ。
……誰も助けてくれなかったというのは言い過ぎか。あの事務員だけは気にかけてくれていた。足音を立てないように廊下を進んで行く。だが、コソコソしているわけではない。どうせ防犯カメラには映っているのだ。
「バレたらヤバいかな」
ルリスが耳打ちしてきた。
「ヤバくはないよ。格納庫は立ち入り禁止じゃないし、消灯後に部屋を出るのも許されているからね。悪いことはしていないから大丈夫だよ」
外に出て格納庫まで移動した。この中に、昼間爆発したボイド船が置かれているのだ。格納庫の窓から明かりが漏れている。消し忘れかと思ったが、人の気配がする。誰かが作業しているのか? プレトは意を決して少しだけ扉を開けた。中にいたのは、あの事務員だった。一部が黒くなったボイド船を観察しているように見える。二人そろって中に入ると、事務員は目を丸くした。
「うわ、びっくりした。こんな時間にどうしたんすか」
「ちょっと知りたいことがあって……あなたは何してるんですか」
「俺も知りたいことがあって、さっき来たんです。なんか眠れないし、爆発の原因をちゃんと確認しようと思ったけど、俺が見ても全然分かんないですね」
ウソをついているようには見えない。この人も事故の原因が気になるようだ。
「何が原因で爆発したと思いますか? こちらは一応、パラライトアルミニウムかもしれないっていう説明を受けたんですけど」
プレトは質問した。
「俺もそう聞きました。やっぱりパラライトアルミニウムに引火しちゃったのが原因なのかなあ。でもそんな事故、聞いたことないけどなあ。レグルスだって爆発しないし」
「ですよね。パラライトアルミニウムは普通、あんな爆発起こさないですから」
「そうなんですか?」
「全く引火しないわけじゃないけど、火はつきにくいし、ついたとしても一気に燃え上がるなんてことないです」
「へえ、詳しいんですね」
「もともと、パラライトアルミニウムの研究チームに所属していたので」
聞き役になっていたルリスが口を開いた。
「そういえばそうだったね」
そのまま事務員に尋ねた。
「ボイド船に使うパラライトアルミニウムはどこに保管されているか分かりますか?」
「えーっと、確かあっちです。入社した時に一通り案内されたんですよ。ついてきてください」
事務員は立ち上がり、格納庫内を区切っている仕切りに近づいた。仕切りを動かして隣のスペースに入っていく。プレトとルリスもそれに倣った。そこには大きなタンクがいくつか置かれていた。それぞれに番号が振ってある。
「タンクにチューブが付いてるでしょ? あれで直接、ボイド船にパラライトアルミニウムを注入するらしいです」
「なるほど……ボイド船にはどのタンクから入れたか分かりますか」
事務員は一番奥にあるタンクを指した。
「きっとあれです。事務所の資料にタンクの番号が記載されてました」
プレトはそのタンクに近付き、パラライトアルミニウムを地面に少し出してみた。
「何か分かる?」
ルリスが肩越しに覗き込んできた。
「うーん、濁っている気がする。けど、目視だけだとなんとも言えないな」
「念のためにライターを持ってきてたよね。それで火をつけてみたらどうかな」
プレトは振り返ってルリスを見た。
「火って、このタンクに?」
「違うよ! そんなことしたら大変なことになるよ! 例えばだけど、ハンカチにパラライトアルミニウムを染み込ませて、そこに火をつけるの。燃えるのはハンカチだけだから大爆発にはならないよね」
「それ、めちゃいいアイディア。やってみよう」
事務員が割り込んできた。
「ちょっと待って、ハンカチはもったいないって。ここにはボロ雑巾がいくらでもあるから、それを使いましょう」
「いいんですか? あなたが……今さらだけど何て呼んだらいいですか?」
「何でもいいですけど、名前はロレンツォです」
「じゃあロレくんで。これを私たちに渡して、ロレくんが怒られたりしませんか」
「初対面に近いのに、あだ名つけるんですね。まあいいですけど。雑巾は消耗品なので捨てても怪しまれないですよ」
ロレくんから雑巾を受け取り、プレトは例のタンクのパラライトアルミニウムを染み込ませた。ルリスとロレくんはそれぞれ別のタンクのパラライトアルミニウムを雑巾に含ませている。燃え方を比較するためだ。
「あっちの砂地に移動しましょう。外から目立たないし、爆発しても燃え広がったりしないですから」
ロレくんの案内で砂地に移り、ライターで火をつけていった。まずはロレくんから。火はなかなかつかず、やっとついたと思っても燻るだけで、雑巾全体を燃やすことはなかった。ルリスの場合も同じだった。
「全然燃えないね」とルリス。
「これが正常だよ。パラライトアルミニウムはこんな風に、なかなか燃え上がらないんだ」
プレトは説明しながら、自分で用意した雑巾に火をつけた。
すると、雑巾はあっという間に炎に包まれた。バチバチと音を立てながら激しく燃え、雑巾は真っ黒になってしまった。他とは明らかに違う反応だ。
「やっぱり、あのタンクのパラライトアルミニウムはなんか違うんだ。可燃性の何かが混ぜ込まれてる可能性が高い」
「マジかよ……それってメルト機構で調べられるもんなんすか」
ロレくんは顔をしかめた。
「できるだろうけど、設備を使わせてもらえるか分からないな。家に帰れば少しは調べられるんですけどね」
「休暇申請して持ち帰って調べてみるのはどう?」
ルリスが閃いたように話し始めた。
「申請、通るかな?」
「爆発したばっかりなんだから、即日出発とはいかないだろうし、一日くらいなら家に帰してくれるんじゃない?」
「確かにそうだね。じゃあ、何か空いてる容器があればそれに……」
プレトは、その辺に積まれていた空の容器を一つ手に取った。小ぶりなガラス製で、廃棄品に見える。これを拝借してしまおう。ガラスの容器に、例のタンクのパラライトアルミニウムを入れた。背後からロレくんの声が飛んでくる。
「役立つ情報かは分かんないけど、ボイド船はまだ使えますよ。上司が事務所で話してるのを聞きました」
「あんな爆発をしたのに?」
ルリスが驚いたように声を上げた。
「そう思いますよね。でも船体には大きな破損はなくて、煤で汚れてるだけっていう感じらしいんです。機能もほとんど無事なんで、船内の焼けた部分を直して、全体的に点検したらまた使えるはずです」
「機能は壊れていなかったんですか? 消火装置は作動しなかったけど……」
「え、うそ、問題ないって言ってたのに……直前の点検資料も見たんですけど、全項目で異常なしでした」
ロレくんはそこまで言うと黙り込み、考え事を始めたようだった。やがてボソボソと話しはじめた。
「船体が頑丈な割に、船内は普通に燃えるのもなんか変だよな……消火装置が作動しないのもありえねえし……こんな事故って普通起こるのかな」
プレトはパラライトアルミニウムを移し終えると、考えついたことを話しはじめた。話しながら変な汗が止まらなかった。
「あの大きな爆発は、事故じゃなく、船内に火をつける目的があったのかもね」
ルリスとロレくんがこちらを見た。プレトは続ける。
「消火装置が作動しないようにした上で、船内が燃えるように仕組んでいたのかも。誰かが意図的に」
「なんだよそれ、そんなわけない……」
ロレくんの声をルリスが遮った。
「実は、わたしもそう思ったの。理由はまだちょっと分からないけれど、一回目のリハーサルでも本番でも、事故の後に助けてくれたのはロレくんだけだったもんね。他の人は、その……わたし達が助かって残念だったのかもしれない。管制も全くと言っていいほど指示をくれなかったし」
「はあ? 何だよそれ。二人は誰かに命を狙われてるってこと?」
「そうなるね」プレトは答えた。
「え、随分とあっさりしてるじゃん」
「私たち、殺されそうになるの初めてじゃないんだ。今回こうなった原因はまだ不明だけど、そのうち分かるかもしれない」
ロレくんは口を開けたまま突っ立っていた。困っていて、怯えていて、それでも真実を知りたそうな顔だった。


翌日、休暇の申請を出してみると、あっさりと許可が降りた。明日は自宅兼研究所に戻り、パラライトアルミニウムの調査をする。必ず爆発の原因を突き止めて、メルト機構を問い詰めてやるのだ。

(第39話につづく)

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