【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第23話・宇宙飛行士を目指す」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第23話・宇宙飛行士を目指す」by RAPT×TOPAZ

今日は休みだが、話しの流れでチユリさんが泊まりに来ることになった。時々こうして女子会をしているのだ。コギト人に窓ガラスを割られたときのことを、ルリスが誇張して話している。
「プレトがコギト人の胸ぐらを掴んで揺さぶったんですよ。『手加減してやってるのが分からないのか害虫が!』って叫びながら」
「まさかプレトさんが!」チユリさんが驚いている。
「そんなことしてませんよ。ルリス、盛りすぎだよ。そろそろ寝ましょうか」
三人とも布団に潜り込み、電気を消すと、カーテンの隙間に月明かりが滲んだ。
⋯⋯寒い。トイレ行きたい。プレトは瞼を持ち上げた。枕の下に右手を差し込み、携帯電話を取り出すと、夜中の2時だった。普段、トイレに起きることは滅多にないが、目覚めてしまったから仕方ない。行っておくか。
ムクリと起き上がると、ルリスの寝顔が見えた。が、その奥にいるはずのチユリさんが見当たらない。チユリさんもトイレかなと思いつつ、ルリスを跨いで移動したが、そこにもいなかった。コンビニにでも行ったのだろうか。ふと気になって玄関の扉を開けると、外玄関の段差にチユリさんが腰掛けていた。
「わっ」プレトは小さく驚いた。「チユリさん、ここにいたんですね」
「なんだか眠れなくて。今夜は雲がないから星がよく見えるのよ」
チユリさんはパジャマの上にコートを羽織っている。どのくらいこうしていたんだろう。プレトは空を見上げた。
「ほんとだ、きれいですね」
真円に近い月が、天頂からやや傾いた位置に貼り付いている。瞬く星たちを従えているようにも見えた。
「この空のどこかにアオネがいるんじゃないかと思って、つい見てしまうわ」
思わずチユリさんを見た。斜め上からでは彼女の表情は分からない。声からも感情を読み取れなかった。チユリさんは続けた。
「死んだ人間が星になるとは思っていないわよ。でも、今頃どうしてるのかなって⋯⋯夢の中で会いに来てくれないかしらっていつも思っているんだけど、まだ会えてないの。もしかしたら、私が夢の内容を忘れちゃっただけかもしれないけどね」
少し考えてから、プレトは口を開いた。夜の冷たい空気が肺に流れこむ。
「アオネちゃんが夢に出てきたなら忘れないと思いますよ。きっと、アオネちゃんはチユリさんに会ってなんて言おうか熟考してるんですよ。今も、チユリさんが風邪を引かないかハラハラしながら見てるかもしれませんよ」
「ふふふ、あの子ならあり得るわね。どれだけ悲しくっても、星はきれいだし、太陽は昇るのよね。本当に不思議だわ」
「星は、チユリさんみたいに一人で泣いてる人を慰めたくて光っているのかもしれませんよ」
視界の隅で何かが動いた。流れ星が、大きな弧を描きながら何処かへ消えていったのだ。月が涙を流したのかと思った。プレトは身体を震わせた。冬の夜風がパジャマの裾を揺らしている。
「寒いから中に戻った方がいいわよ。私はもう少しこうしているわ」
プレトは中に入り、寝室へ戻ろうとしたが、思い直してキッチンへ移動した。ココアを一人分作って、外にいるチユリさんに渡した。
「あら、ありがとう。プレトさんのこういう優しいところ好きよ」
「もっと褒めてください」
「あらあら調子に乗っちゃって」
チユリさんが肩を揺らして笑うと、ココアの湯気も一緒に揺れた。彼女の心の傷がわずかに溶けたように思えた。プレトは今度こそ寝室へ戻り、ルリスと共に書いたノートを開いた。今朝、二人並んで書いたものだ。
右のページに、
『アオネちゃんの無念を晴らす』
『フラウド星に腹が立つから無力化したい』
『みんなと自分の身を守る』
自分の字でそう書かれている。
左のページにもルリスの字で似たようなことが書かれていて、それにプラス、『宇宙船を操縦したい』と大きく記入してあった。


翌朝、早く起きたルリスに夜中のチユリさんのことを話した。ルリスは唇を引き結んだのちに、一言「行かなきゃね」と言った。宇宙へという意味だ。プレトも全く同じ心持ちだった。もう誰にもあんな顔してほしくない。殺されてほしくない。私たちがサクッと行ってサクッと解決してしまえばいいのだ。チユリさんと、出勤してきたビケさんに、宇宙飛行士試験のことを伝えた。
「結構前向きに検討してるんですけど、どう思いますか? お二人の意見も聞きたいなと思って」
プレトが質問すると、ビケさんが元気に答えた。
「すごいじゃないですか! 科学者として、宇宙を目指すというのはとてもいい経験だと思いますよ。このタイミングで募集がかかったのもいい機会だと思います! プレパラート研究所から宇宙飛行士が二人も出たら超かっこいいですね! 四人中二人とか、メルト機構よりも宇宙飛行士の比率が高いんじゃないですか?」
「確かにそうかも。でも、受かるか分かんないですよ? 試験は厳しいだろうし」
「受からなくても、受けること自体がいい経験になると思いますよ。そうだ、宇宙に行けたらダークマターを取ってきてもらえませんか」
「興味あるなら、一緒に宇宙飛行士、目指します?」
「暗いからヤダ」
「即答かよ。チユリさんはどう思いますか?」
チユリさんは目線を下げがちに話した。
「反対するつもりはないわよ。新しいことに挑戦するのはいいことだと思うし、宇宙飛行士試験って受ける機会もそうそうないから。けど⋯⋯」
チユリさんは一度言葉を切り、再び話しはじめた。
「アオネを失って、プレトさんとルリスさんにも何かあったらと思うと⋯⋯心配になってしまって⋯⋯まだ受けてすらいないのに、こんな話してごめんなさいね」
チユリさんは逡巡しているようだったが、最終的には背中を押してくれた。
「心配もあるけど、活躍を応援したい気持ちのほうが強いから、二人がやりたいと思うなら上手くいくように祈るわ。試験とか宇宙にいる間のことは私とビケさんに任せてちょうだいね。プレパラート研究所はしっかり守るわよ」
チユリさんとビケさんから了承を貰い、早速応募することにした。
「ところで、応募ってどうやるんだろう」とルリス。
「まだ情報出てないよね。メルト機構に直接訊いてみようかな。昨日の人に電話してみる」
プレトが電話をかけると、職員はすぐに出た。宇宙飛行士試験を受けてみたいと伝えると、驚いたような声が返ってきた。
「本当ですか! 実は、こちらからお声がけしようと思っていたんです。プレトさんたちが封星膜のアイディアを出してくださったので、もし良ければ宇宙飛行士試験を受けていただいたらどうかなと」
「そうだったんですか。挑戦してみてもいいですか。友人と一緒に」
「もちろんです。まず、プロフィールを送っていただきたいので、ホームページ上にある定型に必要事項を入力して、オンラインで送信していただけますか。返信する形で試験の詳細をお伝えしますね」
職員の指示通り、プロフィールを二人分送信した。あれよあれよと言う間に、幻の少女が言った通り、宇宙飛行士を目指すことになった。生きていると不思議なことばかり起こる。プレトはルリスに向かって切り出した。
「ちょっと心配があるんだけどさ」
「なんでしょう」
「宇宙飛行士試験って、きっと体力テスト的なものもあるよね? 全く自信がない」
ルリスは目を見開いた。
「そうだった。プレト、水泳以外のスポーツは苦手だったよね。え、いきなりピンチ? てか、わたしも自信があるかと言われると⋯⋯」
「さっき思いついたんだけど、アリーチェってスポーツクラブに所属してるじゃん。体力作りのコツを訊いてみようかなって」
「いい考えだと思う」
「それとさ、アリーチェにもフラウド粒子のこととか伝えようと思う。あの子のお姉さんもフラウド粒子で狂った人に殺されたのかもしれないし、宇宙を目指すにあたって、私たちに何かあったときに、情報を引き継いでくれる人が少しでも多くいたらいいかなと」
「⋯⋯うん、それもいい考えだと思う。電話してみて!」
ルリスに急かされ、プレトはアリーチェに電話をかけた。スピーカーモードにしている。
「どしたのー? ちょうど暇だったから電話くれて嬉しい」
「突然なんだけど、体力作りのメニューとかあったら教えてほしいんだ⋯⋯」
宇宙飛行士試験を受けることになったとアリーチェに伝えた。
「えー! 急にどうしたの! あ、プレパラート研究所として宇宙進出を目指してる的なやつ? アクティブでいいね、協力するよ。クラブで使ってる初心者メニューがあるから、それを送るね。ケガしない範囲で試してみて」
「すごく助かる。ルリスと一緒に頑張るね。それと、大事なことがある。タイミング逃してたから、まだ言えてなかったんだけど⋯⋯」
プレトは口の中で言葉を転がすように、考えながら説明した。フラウド星、フラウド粒子、プロジェクト・フラウドのこと。何度フラウドと口にしたか分からない。電話の向こうから息を呑む気配が伝わってきた。やや間が合って、アリーチェの声が聞こえた。
「重要な情報提供ありがとう。そっか、そのプロジェクト・フラウドの人員がいないから、自分らが立候補しようってことか。なるほど⋯⋯」
何やらモゴモゴと口の中で喋っているようだったが、「姉ちゃんも星のせいで⋯⋯」と聞こえた。ひどくか細い声だった。

(第24話につづく)

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