なぜ「好き・得意・高収入」で仕事を選ぶと後悔するのか。科学が暴いた3つの罠

鈴木祐さん

「好きなことを仕事にする」「給料の高い仕事を選ぶ」「得意なことで仕事を選ぶ」。これらの考えは、仕事選びにおける基準としてどれも正しく、合理的と思えるでしょう。しかし、「この基準に従って仕事を選んだ結果、後悔する人も多い」と語るのは、『4021の研究データが導き出す 科学的な適職』(クロスメディア・パブリッシング)の著者でサイエンスライターの鈴木祐さん。仕事選びを誤らせる思考の罠を、科学的な視点からひも解きます。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

【プロフィール】
鈴木祐(すずき・ゆう)
1976年生まれ。サイエンスライター。慶應義塾大学SFC卒業後、出版社勤務を経て独立。10万本の科学論文の読破と600人を超える海外の学者や専門医へのインタビューを重ねながら、ヘルスケアや生産性向上をテーマとした書籍や雑誌の執筆を手がける。近年では、自身のブログ「パレオな男」で心理、健康、科学に関する最新の知見を紹介し続け、3年で月間100万PVを達成。また、ヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見わけ方などを伝える講演も行っている。累計部数20万部超のベストセラー『最高の体調』(クロスメディア・パブリッシング)の他、『社会は、静かにあなたを「呪う」』(小学館)、『最強のコミュ力のつくりかた』(扶桑社)、『天才性が見つかる 才能の地図』(きずな出版)、『運の方程式』(アスコム)、『YOUR TIME』(河出書房新社)など著書多数。

人間の脳は職業選択に向いていない

なぜ私たちは仕事選びに悩み、迷い、そしてときに後悔してしまうのでしょうか。これはあくまでも個人的な仮説ですが、「そもそも人間の脳は職業選択に向いていない」というのが、私なりのひとつの答えです。

人類は、その歴史の99%以上にあたる数百万年にわたって狩猟採集生活を続けました。その世界には現代のような多様な職業は存在せず、ただ生き延びるための役割をこなすだけです。未来について考えるとしても、せいぜい数日から数週間先のことだったのではないでしょうか。なによりも、「今日生き残れるかどうか」が最重要だったからです。

人間が年単位で計画を立てるようになったのは、農耕がはじまって以降のことです。それでも、数年後の自分の姿を想定し、数え切れないほどの選択肢から合理的に職業を選ぶという状況は、進化の歴史のなかでほとんど経験していません。自由に職業を選べるようになったのは、長い人類の歴史のなかでいえば「つい最近」のことです。

つまり、職業選択において迷いやすいのは、個人の能力や経験の問題などではなく、脳の設計上、あるいは進化上の問題だと考えられます。本能や直感に任せれば、その場の感情に流されやすくなり、結果として選択を誤ってしまうことも多いのは自然なことです。つまり、そもそも脳が職業選択に向いていないのですから、よりよい選択をするための方法を知ることが重要なのです。

たくさんある架空のドアを選んでいる男性

情報過多社会における「真面目な人」は要注意

なかでも、「真面目な人」はとくに注意が必要です。真面目な人は、その真面目さゆえに、「後悔したくない」「できるだけ正しい選択をしたい」と考え、多くの情報を集め、比較し、分析を続けます。

しかし、その姿勢が、心理学や行動経済学において「分析麻痺」と呼ばれる状態を招いてしまうこともあるのです。分析麻痺とは、「意思決定の際にデータ分析や計画立案に時間をかけ過ぎ、完璧を求めるあまりに行動できなくなる状態」を指します。

人間が短期的に処理できる情報量には限界があり、近年の研究では、同時に扱える要素は多くても3つ程度だとされています。それ以上の選択肢や判断軸を並べると、大脳皮質の働きが低下し、論理的な判断が難しくなるのです。その結果、直感的で衝動的な選択をしやすくなるというわけです。情報過多社会ともいわれる現代では、これまで以上に注意しなければなりません。

また、真面目かどうかを問わず、職業選択において多くの人がおちいりがちな「罠」とも言えるものも存在します。

【おちいりがちな職業選択の「罠」】

① 好きなことを仕事にする

② 給料の高い仕事を選ぶ

③ 得意なことで仕事を選ぶ

どれも多くの人が考えがちで、しかもどちらかというと「いい選択基準」だと思うものではありませんか? だからこそ、「罠」なのです。

日本人の女性が相談しながら仕事をしている

「好きなこと」だからこそ、失望も大きくなる

順に解説しましょう。まずは「①好きなことを仕事にする」という罠です。好きなことは、子どもの頃や学生時代からの憧れ、表から見える華やかな側面によって形成されがちです。しかし、そういった職業であっても、実際の仕事内容の大半は地味で単調な作業の積み重ねということがほとんどでしょう。期待が大きいだけに、「こんなはずじゃなかった」と現実とのギャップに失望し、早期離職につながるケースも少なくないのです。

次の罠は、「②給料の高い仕事を選ぶ」というものです。たしかにお金はいくらあっても困るものではありませんし、収入と幸福度は一定レベルまでは比例します。ところが、ある研究によれば、年収500万円を超えると幸福度の伸びは急激に鈍化し、年収1000万円以降はほとんど頭打ちの状態となります。

それ以上の収入を得ようと思えば、たとえば「高収入だけど激務」といわれるような会社に入り、強いストレスや競争を受け入れる必要がある場合が多く、幸福度の「コストパフォーマンス」はどんどん悪化します。

一万円札

最後は、「③得意なことで仕事を選ぶ」という罠です。強みは絶対的なものではなく、どの環境に身を置くかで簡単に変わります。「英語が得意」だといっても、「全員がネイティブスピーカー」という会社のなかでは、それは強みとはいえません。

逆に、「多少英語ができる」程度であっても、英語が苦手な同僚ばかりで、かつその職場で英語が求められているということならば、しっかりと活躍することができるでしょう。つまり、自分の強みだけでなく、環境についても認識しておく必要があるのです。

もちろん、この3つがすべての人にとって罠になるわけではありません。好きなことや得意なことを仕事にしてしっかり成果につなげている人もいるはずです。しかし、多くの人が後悔することになる職業選択の基準であることも確かです。問題なのは、これらが「正しそうに見える」点にあります。好きなこと、給料の高さ、得意なこと――いずれも一見すると合理的で、周囲からも否定されにくい基準です。

だからこそ、自分が「思考の罠」におちいっていることに気づきにくくなります。職業選択において重要なのは、直感や感情に流されていないか、自分がどの前提に立って判断しているのかを一度立ち止まって見直すことです。脳が職業選択に向いていない以上、無意識に任せるのではなく、意識的に選び方を設計する必要があるのです。

鈴木祐さん

【鈴木祐さん ほかのインタビュー記事はこちら】
「なんとなく苦しい仕事」を続けてしまう理由。科学が示す幸福度の高い職場の条件(※近日公開)
【科学的な適職】「選んではいけない仕事」3つの特徴(※近日公開)

新版 科学的な適職

新版 科学的な適職

  • 作者:鈴木祐
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
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【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。