【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第37話・ボイド零号、出動」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第37話・ボイド零号、出動」by RAPT×TOPAZ

暴発事故から数日後、ボイド船の点検が終わり、新しい封星膜の装填も完了し、再びリハーサルが行われた。盛大に警戒していたが、何のトラブルもなくあっさりと終わった。ボイド船である程度の上空まで昇り、再び地面に降り立つと、二日後に本番を行うと告げられた。
「フラウド星が地球に近付いているうちに完了させたいので、よろしくお願いします」
スタッフはそう言うと、必要事項の確認を行い、どこかへ行ってしまった。滞在している部屋に戻り、ルリスと膝を突き合わせた。
「なんかさ、あっさりしすぎてない?」
プレトの問いかけにルリスは頷いた。
「一大プロジェクトなんだし、大々的に公表されていないとはいえ、もうちょっと労いみたいな言葉があってもいいんじゃないのかなとは思った。成功したら人類を救うことになるわけだもんね」
「ねー。ちょっと素っ気ないよね」
その分、チユリさんとビケさん、アリーチェに連絡し、励ましてもらうことにした。皆んな口を揃えて頑張れと言ってくれた。


プロジェクト・フラウドの本番当日。リハーサルと同様の手順を踏み、プレトとルリスはボイド船に乗り込んだ。何もかも完璧だ。これから宇宙に向かうなんて、緊張とワクワクが混ざった不思議な気持ちだ。さっさとフラウド星を鎮め、人類に平穏をもたらしたい。プレトは両手を膝の上で握りしめ、管制とルリスのやり取りを聞いていた。天気も風向きも音声も体調も全てが良好である。
「単相式封星膜展開船ボイド零号、出動します」
パイロットであるルリスが管制からの指示に従い、ボイド船を発射させた。いよいよだ。
すると、窓の外の景色が膨張して見えた。随分と明るい。プレトが目を細めると、地面がひっくり返り、視界が倒れた。卵型のボイド船が転がったらしい。こんなのリハーサルでやってないよね? 理解が追いつかない頭で白く裂けた視界に目を凝らしていると、再び衝撃があり、ボイド船の体勢がもとに戻った。もしかして、何かが爆発してるの? 宇宙船ってこんなに転がるものだっけ? 管制からの指示は……何も聞こえない。聞こえるのは、船外からの炸裂音だけだ。鼓膜を叩く激しい音に目を瞑ると、瞼越しでも分かるほどに閃光が走った。いま目を開けたら失明する、直感でそう思うほどの光だ。
プレトの右手をルリスの左手が掴んだ。見てはいないが感触で分かる。揺れる船内、激しい光、大きな音、それらに耐えていると、やがて収まった。恐る恐る目を開けてルリスを見ると、宇宙服のヘルメット越しに、明るい茶色の瞳と目が合った。その口元が動く。
「プレト大丈夫? ケガは?」
「なんともないよ」
そう答えると、ルリスは一瞬ニコッとし、すぐに真顔に戻った。
「発射事故……だよね、管制に訊いてみるね」
ルリスはすぐに管制に連絡を入れた。すぐに返答があると思ったが、イヤホンからは何も聞こえなかった。
「おかしいね、二人のイヤホンが同時に壊れることあるかな……いや、わたしたちがイヤホンで会話できてるんだから壊れてないよね。それじゃあ、管制が応答してくれてないってこと?」
「応答してくれないなら管制の意味ないね。なんで……うわ、見てあれまずい!」
プレトは思わず叫んだ。狭い船内の端っこが燃えているのだ。本来なら、船員が気付く前に自動の消火装置が働いて消し止められる仕組みになっている。天井や壁から霧が出てくるはずなのに、どうやらそれが作動していないようだ。プレトは慌ててシートベルトを外し、火を消し止めようとしたが、燃える範囲はジリジリと広がっていく。
「外に出よう」
ルリスがシートベルトを外してドアの前に立った。ドアは外に向かって開く作りだから、ロックを外して押しさえすればいい。まだ地上にいるわけだし、開けたからといって宇宙空間に放り出される心配はない。二人でドアを押した。だが、なかなか開かない。訓練の時はきちんと開いたのに。もしかすると、爆発の衝撃で船体が歪んでしまったのかもしれない。ぐっと足を踏ん張り、手のひらの感覚が無くなるほど押した。ある程度の隙間はできたが、思うように開かない。
「プレトなら出れるかも。 出てよ! 逃げて!」
「ムリだよ、頭が通らない。それに、ルリスが一緒じゃないと」
さらに力を込めたが、ドアはギリギリと耳障りに鳴くだけだった。しかも、火の勢いが強まってきた。中途半端にドアが開き、酸素が増えたからかもしれない。このままでは二人とも丸こげだ。宇宙服が暑くてたまらない。汗がこめかみを伝い、顎先に垂れた。
助けて助けて。無意識に口が動き、イヤホンに拾われないほどの声量で助けを求めた。管制は何をしているんだ、どうして助けが来ないの。絶望を感じ、両目をギュッと瞑ると、両肩を後ろから押される感覚があった。ルリスは隣にいるんだから、ルリスではないことは確かだ。気のせいかと思ったが、確かに、誰かの手のひらがプレトの両肩に添えられている。
もしかして、マキアか? そう思うと、身体に力が漲り、ますます強く押すことができた。マキアの力がプレトの腕を伝ってドアに届く。悪魔の歯ぎしりのような音を立てながら、ドアは少し開いた。相変わらず狭いが、これなら通り抜けることができる。プレトが先に外に出て、ルリスを引っ張り出した。
船外も燃えていたが、宇宙服にはある程度の防火機能が付いている。火が弱いところを選んで素早く進み、熱風も煙も届かないところまで来て、二人ともヘルメットだけ外した。すると一人、こちらに駆け寄ってきた人がいた。リハーサルが失敗した時、救護室へ連れて行ってくれた事務員だ。焦った様子で声をかけてくる。
「ちょ、二人とも大丈夫なんすか!」
「ええ、まあ、なんとか」
息切れしながら答えると、事務員はオロオロし始めた。心配してくれているのだろう。
「ケガはないの? 二人とも本当に? ……そっか、それは良かったです。えっと、こういう時はどうしたらいいのかな。とりあえず、宇宙服脱いじゃいますか。動きづらいし暑いですよね」
事務員はそこまで言うと、一度後ろに向き直り、離れところにいるスタッフに向けて叫んだ。
「ちょっとー! 宇宙服脱ぐから手伝ってくださいよー!」
その声を聞いたであろう数人が互いに目をあわせ、こちらに向かってきた。だが、カメのように遅い。
「え、なんなのあの人ら、おっそ。ごめんだけど、俺が手伝いますね、仕組み分かんないので教えてください」
「それじゃあ、そこのマジックテープを剥がして、ファスナーを開けて……」
この宇宙服は着るより脱ぐ方が大変だ。プレトは事務員に手伝ってもらいながら脱ぎ終えると、ルリスを手伝った。ルリスも脱ぎ終えると、事務員は二着の宇宙船をまとめ、その辺に放り投げた。今度は怒っているようだ。
「最初のリハーサルもだったけど、なんで誰も助けに来ないんですかね。おかしくないですか」
「爆発が怖いのかも。ボイド船、燃えてるし」
プレトが言いながら振り返ると、すでに消火活動が始まっていた。つまり、プレトとルリスの安全確保よりも、消火活動が優先されたことになる。ボイド船の周りには大勢いるが、こちらには事務員一人しかいない。
「……」
「……」
プレトとルリスは思わず閉口した。無事だったとはいえ、ここまで気にかけてもらえないことがあるのだろうか。管制すら相変わらず沈黙を貫いている。こっちのことは、どうでもいいってことかな?
「また、救護室行きますか?」
事務員は心配そうに尋ねてきた。
「……いえ、自分たちの部屋に戻ります。ね?」
「うん」
ルリスは疲れた様子で頷いた。
「そうですか。送った方がいいですか?」
プレトが首を振ると、事務員は頷いた。
「なんて言ったらいいのか分かんないけど……お疲れ様でした」
事務員に背を向け、プレトとルリスは部屋に戻った。お互いに無言だったし、誰かに話しかけられることもなかった。部屋に戻ってしばらくすると、スタッフが説明に来た。事故の調査は途中だが、パラライトアルミニウムの爆発が原因である可能性が高いらしい。淡々と告げると、すぐに部屋を出て行ってしまった。プレトは呟いた。
「おかしい」
「おかしいよね! こんなにトラブル続きなの、さすがに変だと思う! あのメカニックの人以外、誰も助けに来てくれないし、わたしたちが死んじゃってもいいってこと?」
「そうだけど、そうじゃなくて」
「へ?」
「パラライトアルミニウムは普通、こんな爆発を起こしたりしない」
興奮してイスから立ち上がっていたルリスが、再び腰を下ろした。
「そうなの? なんか、漏れ出て引火したとかじゃないの? パラライトアルミニウムのタンクにヒビが入ってたとか……」
「油とは違うから、引火して急激に燃えるってことはないよ。安全で燃料効率がいいから、パラライトアルミニウムがメインエネルギーとして普及したわけだし」
「え、それじゃあ、どういうことなの? 何が起こってるの?」
「正確なことはまだ分からないけれど……パラライトアルミニウムに混ぜ物されてるかも」
ルリスの目が大きく見開かれた。やがて、絞り出すように話した。
「誰かが、やった、ってこと?」
「そういうこと。この問題を放っておくのはさすがにヤバいからさ、調べてみようと思う」
「どうやって?」
「パラライトアルミニウムは格納庫に貯蔵されてるらしいから、それを見に行く。消灯後にこっそりね」
プレトの決意表明に、ルリスが生唾を飲み込んだのが分かった。

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