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マガジン一覧

日本近代の思想・文化小ネタ集

日本近代史の授業などで話す小ネタです(タイトル画像はNDLイメージバンクの井上安治の東京名所絵より)

昭和13(1938)年の大学生が尊敬する人物

これも別件の調査で目に留まった史料だが、備忘のため。 文部省教学局が作成した『学生生徒生活調査』昭和13年11月調査の下巻に 「尊敬私淑する人物」のアンケート結果が載っている。 上巻は専門学校生を対象にしたもので、同じような項目がある。 調査結果は、帝大、官公立大、私立大…と分けて記載されているが 帝国大学生は、上から と来る。西郷隆盛はどの区分でもだいたい圧倒的に人気のようである。 さらに と続く。 時代を感じるが、調査のあった昭和13年には、ヒトラーユーゲントが来

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松崎天民が観察した大正の女学生

ゆえあって松崎天民の『社会観察 万年筆』という本を調べていた。 松崎天民 著『万年筆 : 社会観察』,磯部甲陽堂,大正3. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/952079 (参照 2026-02-14) 天民の略歴は以下のとおり。 人物像については坪内祐三氏による『探訪記者松崎天民』などの本もある。 自分の関心が狭いせいで、今まで気づかなかったものが、学生の卒論を読んだ後になって突如視界に飛び込んでくることが往々にし

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「時代閉塞の現状」と学生の就活

大学生と就職に関する複数の話題がタイムラインを駆け巡っていくたびに思い出してしまう、石川啄木「時代閉塞の現状」(1910年)の一節がある。 「我々青年を囲繞する空気は、今やもうすこしも流動しなくなった」というあの有名な一節に続いていくその少し前の段落が、青年の就職の話だったことは、ちょっと色々考えさせられる。 学生が在学中から奉職口の心配をしなくてよかった時代というのは要は明治中期の大学の話で、成績順に教授が適当な役所や学校の空きを探して紹介してくれたということだと思うの

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明治14年に流行った世界滅亡の噂

2025年7月5日に何かが起きるという流言がネットで飛び交っていたらしい――というのを、迂闊にも事が終わってから知った。なんだか1999年7月のノストラダムスの大予言みたいだなとそれを見ながら考えていた。明治末期のハレー彗星騒動は、子供の頃ドラえもんで見て知った(そして関川夏央、谷口ジロー『坊っちゃんの時代』でもネタにされていることに大学4年生のときに気が付いた)が、こういうことは繰り返し世の中に出てくるものなのかもしれない。 今年から、学部の演習の授業で石井研堂『明治事物

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アカデミック・スキルズ小ネタ集

調べ方、読み方、書き方、プレゼンなどのアカデミックスキルズに関すること、卒論・レポート指導の授業で使えそうなネタを集めています。

くずし字の学びかた

ヘッダ画像はNDLイメージバンクより「大久保利通の書」 https://dl.ndl.go.jp/pid/11445671/1/3 くずし字の学習法を学生に教える教え方を考えながら思いついたこと、生成AIに質問したことなどをまとめました(*ノイズ多めですみません)。 くずし字を教えるときの難しさ/レファレンスで/江戸時代のテキストは結構ある/近代以降はどうやったら読めるようになるのか/パスファインダはある/リサナビに聴いてみた/調べ方案内「くずし字を調べる」を読む/くずし

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生成AIと歴史の研究

AIが発展していくなかで歴史研究はどういう風に付き合って行ったらよいのか、しばらく考えたことを話しています(例によってあまりまとまっていません)。 ある図書館員研修での話/レファレンスの在り方も変わる/「明確で悪意ある嘘ではないがかなり誤解を招く微妙な説明」とどう向き合うか/レポートの採点/非実在文献の登場/相談相手/使う人が減ることはない/モノクロ写真への着色/関東大震災とAI/特攻隊とAI/歴史研究と歴史教育の間/記憶の継承、記録の継承

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NDLに行こう

学生と一緒にNDLに行った話です。卒論で活用して欲しい機能も 50回御礼/学生と図書館見学/国立国会図書館(NDL)に行く/納本制度/利用者登録/資料請求、受取、複写まで/一生に一度はマイクロリーダを使って欲しい/鞄を持って入れない/あらかじめ検索した資料をカートに入れて出かける/いかに時短するか/展示スペース/デジタルコレクションの威力/知り合いに会う/遠隔複写を頼む/レファレンスルーム/今の場所との共通点/大学生は図書館資料をどう使うか

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ノートを取る話

もっとノートを取ってもらおう/アクセス可能な情報が増えている/読書ノートの記事/読書記録は大事/researchmapに載せていた資料がたくさんダウンロードされている/大学の板書/復習して考える材料を書き溜める/20年前のノートから授業内容を復元する/昔の学生のノート/脱線や板書しなかったことから内容を思い出す/『アカデミック・スキルズ 大学生のための知的技法入門』における授業ノート「傾向と対策」/友人に回覧されていた/アナログへの回帰 小島よしおが「本」をたくさん読む理由

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みちくさのしおり

いただいた本や、仕事のために読んだ本、学生に勧めたい本を備忘のためにまとめています。

テッサ・モーリス・スズキ『日本を再発明する』

2025年度秋に読んだ演習テキストであった。 紹介文に とあり、日本研究コースの演習のテキストとしてよいのでは?と考え、取り上げることにした。 著者はイギリス生まれ。ブリストル大学でロシア史を専攻した後、バース大学で日本経済史の研究により博士号取得した人物。1981年からオーストラリアに移住しオーストラリア国立大学名誉教授。専門としては 経済史から政治、文化史へと関心の領域を広げ、歴史紛争と和解、移民、マイノリティへの着目から日本近現代のナショナリズムを批判する論客の一人

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小貫信昭『Mr.Children 道標の歌』

中学生の頃から40代になった今までMr.Childrenが好きで、以前はライブにも足を運んだりしていたのだが、ミスチルに長く取材を重ねてきた音楽ライターの小貫さんの本(2020年刊)のなかにたまたま心に残るものがあって、その後も折に触れて思い出している。 桜井さんたちメンバーの言葉ではないのかもしれないけれど、CROSS ROADでブレイクした後、「何をしていくにもこのバンドが忘れてはならない三つのことがより明確になった」(p.41)というのだ。その3つが 時代をみつめて

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『ゲーテはすべてを言った』

鈴木結生『ゲーテはすべてを言った』(‎2025、朝日新聞出版)を読みました。 帰省先で買った本/登場人物のいかつい名前/芸亭?/作中のwebサイトが本当に作ってある/小林秀雄の全集読みのすすめ/「ゲーテはすべてを言った」とは/言葉探しは学者の本分です、でもね…/大学教員の解像度/これは図書館のレファレンスである!/「天に星、地に花、人に愛」の出典/樗牛はすべてを言った?(笑)/東京ゲーテ記念館のサイト/統一は名言サイトに辿り着く/剽窃と引用/人文学において引用とは何であるの

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原田宗典『おきざりにした悲しみは』

原田宗典『おきざりにした悲しみは』(2024、岩波書店)を読みました。 6年ぶりの新作長編小説/小平市の65歳男性と同じアパートに住む姉弟の物語/モデル問題/「長坂誠の朝は早い」/物語を彩る音楽/昭和の心を忘れちゃいけないよね/天才になり損ねた男/奇跡のような展開が心地よい/父親の喪失/令和版「男はつらいよ」?/それでも時間は流れてゆく 作品特設サイト おたよりフォーム

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書いたことと話したこと

これまでの長尾の研究成果をまとめております

三康図書館にみる専門知とその活用

https://www.fujisan.co.jp/product/1281695255/new/ LRG(ライブラリー・リソース・ガイド)にインタビューが掲載/三康図書館のこと/高山樗牛と帝国図書館と博文館/歴史研究者は図書館をどう使うか/博文館の資料/編集者から見た雑誌の歴史/女性雑誌の研究/地方雑誌の研究/専門図書館知られてない?/NDLから漏れていくような資料/専門知とはなにか/専門性を身に着けるということ/自分で勉強する時間/苦しくてしんどい時間/専門図書館を知る

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戦時下の帝国図書館

『図書館雑誌』2025年8月号に短い文章を書きました。

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『読書装置と知のメディア史』

新藤雄介『読書装置と知のメディア史』の書評を書きました。 どんな本か/明治の書籍館、大正時代の文庫、昭和の読書会まで/本書の狙っていること/「読書装置」という概念/権力への抵抗/新聞とオーラル/学校からの政治の排除/学術研究と運動の矛盾/小学校の校舎の図書室/これまでの歴史から零れ落ちるもの/研究の難しさ/書物以外のメディアとの関係/石川県の読書会史料

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出版史から見た坪谷善四郎

日本出版学会の『出版研究』55号(2024年度)に長尾宗典「出版史から見た坪谷善四郎」という論文を発表しました。 坪谷善四郎の史料/坪谷の経歴/論文の課題/史料がどう伝わったか/名家の書簡/貴重な日記/絵葉書の情報/セルフアーカイブに熱心だった坪谷/三康図書館蔵書との関係/出版史の理解を深める/出版史における編集者の役割/編集の歴史と史料

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樗牛研究余録

筆者の高山樗牛研究のなかで出会った、論文にはしていないけれど気になる挿話などをご紹介します。

「己れの立てる処を深く掘れ…」の話

高山樗牛の名言の一つとされている「己れの立てるところを深く掘れよ、其処には必ず泉あらむ」のこと 私も好きな言葉だが、これ、そもそもで言うと樗牛の言葉ではない。 出典の『太陽』8巻7号の「己れの立てるところ」にはこうある。 「哲人教へて曰く」とあるように、実はニーチェが踏まえられている。 『悦ばしき知識』のなかにある「汝の立つ処を深く掘れ、そこに必ず泉あり」が元ネタなのであろう。 講談社学術文庫の新訳だと となっていた。なんだかちょっと中島みゆきさんの「宙船」みたいで

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樗牛と徂徠

高山樗牛の郷里・荘内鶴岡は、江戸時代藩学として徂徠学を奨励したことで有名で、藩校の致道館を訪ねても、そのことの感化の大きさが知られるのである(なお、2024年から、旧制荘内中学の系譜を継ぐ名門鶴岡南高校は、北高と統合して致道館中・高等学校になったそうである)。 そこで、高山樗牛と徂徠学との関係、という興味がある主題があるのだが、この点について、私が徂徠学にそこまで詳しくないのと、直接、高山樗牛が荻生徂徠について語ったものがないことから手を出しかねていた。未だに出しかねている

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「高山樗牛と近代日本」講演会@龍華寺

2024年12月21日。高山樗牛の墓所のある静岡県静岡市清水区龍華寺にて、第33回仏教と近代研究会が催され、「高山樗牛と近代日本」というテーマのもと、私も講演をしてまいりました。 打ち合わせの段階からご一緒したのは、碧海寿広、大澤絢子、平山昇、ブレニナ・ユリア、小二田誠二、木村悠之助の各氏。私は樗牛の話をひたすらするだけでしたが、近代仏教研究の中堅・若手のトップランナーの方々が集まって色んな角度からお話しする機会を得たのは、大変な幸運でした。 あらためて、企画いただいた関

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『メディア史研究』第54号(メディア史研究会編集、ゆまに書房発行)

自分が書いたものではないのですが、編集の委員をしているのでご紹介します。 2023年9月、『メディア史研究』54号が発行されました。 特集は「宗教とメディア」で、5本の特集論文(救世軍、日蓮主義、聖地ツーリズム、文化放送、イスラームとメディア)のほか3本の論文と1本の研究ノート、2本の書評が載っています。 なお個人的に、ブレニナ・ユリアさんの「明治後期における青年たちの日蓮鑽仰と活字メディアー日蓮遺文・高山樗牛・雑誌に着目してー」は、日蓮遺文の「インフルエンサー」として高

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訪問先の記録

歴史と文化にまつわる、ここ行ってきたよ。という場所を、過去の訪問も含めてまとめています。

2025年、夏、広島

2泊3日、大学の実習の引率で広島に行ってきました。 おたよりをいただきました/実習で広島訪問/卒業生との再会/初日・宮島へ/厳島神社に圧倒される/大聖院の遍照窟/2日目、自由行動/旧日本銀行広島支店の市民絵画展/「写真を撮る人はいても、手を合わせる人は…」/海外に渡る移民が多かった広島/宇品から江田島へ/旧海軍兵学校、海上自衛隊教育参考館/江田島から呉へ/日本近代と軍港・軍都/3日目、平和記念公園へ/戦後80年、広島で 訪問先リンク 海上自衛隊呉史料館 | 愛称:てつ

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大江義塾跡(徳富記念園)

先日熊本を訪れた際にたずねた場所。熊本駅から市電に乗って九品寺交差点でおり10分ほど歩いた場所にある。 稀代のジャーナリスト・徳富蘇峰が同志社を退学して郷里熊本の大江村に帰った際、1882年3月に自宅に創設した塾が大江義塾である。現在は徳富記念園として整備され、敷地内にある徳富記念館では、蘇峰や蘆花の兄弟に関わる資料が展示・公開されている。 敷地内には、新島襄がアメリカから持ち帰ったというカタルパの木が植えられている。現在あるのは、何世代かあとのものだという説明を受けた。

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熊本県菊陽町図書館・少女雑誌コレクション

JR熊本駅から豊肥本線に揺られて三里木駅まで。菊陽町図書館を訪れて少女雑誌コレクションを拝見する機会を得た。 同館は全国でも有数の少女雑誌コレクションを所蔵していることで有名。図書館に勤務していたころから一度訪れて見たかった場所だが、今回、初めて訪問することができた。 菊陽町図書館の少女雑誌コレクション概要についてはこちらも 同コレクションは村崎修三氏の収集にかかるもので、2003年に菊陽町図書館に寄贈されたもの。個人でこれだけのものを集め、さらに図書館に寄贈されて後世に

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川内まごころ文学館

鹿児島県薩摩川内市にある、郷土出身の文学者関係の資料を保存、展示する文学館。 ずっと行きたかった場所の一つである。なかでもどうしても見たかったのが、山本実彦の関係資料の展示。改造社と雑誌『改造』といえば、大正後期を代表する雑誌だが、ここでは山本が創業した改造社に集められた直筆原稿が保存されている(既に研究成果が刊行されているだけでなく、これらの原稿は撮影されてデータベース化され、DVDでも提供されている)。 1階の展示室の入口には雑誌『改造』の表紙が並べられていて、時代ご

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近代文語文読解練習

明治大正昭和初期の文章読解法解説の練習メモです。授業教材にすべく、ちょっとずつ進めていきます。

近代文語文読解練習 高山樗牛「美的生活を論ず」3

2の続き 道徳とは何かという話から始まって、道徳には意識と行為と両方が必要だみたいなことを話していた。その続き。 逢着は「でくわす」で、そのあとは二重否定。本当によく出て来る。「このように検討してきたら、私はここで一つの疑惑にでくわさざるを得ないのである」ということだが、要するに大きな疑問にぶつかるということ。 今度の「乎」は疑問で良いと思う。主君や国の為に命を落とした者、あるいは父母によく仕える子供、夫への貞節を守る妻たちは、国のために殉じ、親や夫のために尽くすという

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近代文語文読解練習 高山樗牛「美的生活を論ず」2

1の続き テキスト:高山樗牛「美的生活を論ず」(1901年) 「二 道徳的判斷の價値」より。「斷」は「断」。「價」は「価」。道徳的判断の価値について。 この「夫れ(それ)」は品詞でいうと接続詞になる。itの意味ではない。『日本国語大辞典』では「文の初めに用いて、事柄を説き起こすことを示す。そもそも。いったい」と説明される。出てきたら「そもそも」と思っていればだいたい間違いないだろう。そもそもで説き起こす場合「抑々」って使う場合もある。 この段は、漢字が多いが、理屈っぽ

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近代文語文読解練習 高山樗牛「美的生活を論ず」1

青空文庫に入っているテキストなどを題材に近代文語文の読み方の解説を試みたい。 以下、高山樗牛「美的生活を論ず」(1901年)を取り上げる。底本は「日本現代文學全集8 齋藤緑雨・石橋忍月・高山樗牛・内田魯庵集」講談社とある。初出誌と比べた際に文字の異動がある場合があるが、練習用なので青空文庫版を用いる。 高山樗牛については以下を参照のこと この論文は全部で七章からなるが、まず「一 序言」から。 一つ一つ見ていこう。 「曰」は、漢文だと「いわく」と読まれるのがほとんどだ

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近代文語文読解練習のはじめに

難しい字をしって解読しがたい古文を読むというのは福沢諭吉的には「学問」ではないのだが、一方で「人間普通日用に近き実学」に「万国古今の有様を詮索する書物」としての歴史はあるのである。 「平家物語」があれほどのアニメに、鎌倉殿の13人があれだけのドラマになったのは、たぶん「平家物語」や『吾妻鏡』がちゃんと現代語訳されてきたからだろう、という話を先日友人とした。 明治の文章というのは、現代語訳がちゃんとされていないものがほとんどであり、あるいは現代語訳があったとしても、明治時代

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