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小貫信昭『Mr.Children 道標の歌』

中学生の頃から40代になった今までMr.Childrenが好きで、以前はライブにも足を運んだりしていたのだが、ミスチルに長く取材を重ねてきた音楽ライターの小貫さんの本(2020年刊)のなかにたまたま心に残るものがあって、その後も折に触れて思い出している。

桜井さんたちメンバーの言葉ではないのかもしれないけれど、CROSS ROADでブレイクした後、「何をしていくにもこのバンドが忘れてはならない三つのことがより明確になった」(p.41)というのだ。その3つが

  • 時代をみつめていくこと

  • アーティスティックであること

  • ポピュラリティを得ることを諦めないこと

アーティスティックとポピュラリティは矛盾するが、小貫さんによると「これこそが、このあとのMr.Childrenの振り幅を生み、前へ進むためのエネルギーとなる」(p.42)のだという。

バンドと歴史研究者は全く同じではないが、「アーティスティック」を「アカデミック」とか「専門性」に置き換えたら、割とこれはどのような分野でも通用する仕事論のではないかとも思える(ちなみに、学術雑誌への投稿論文をシングルといい、既発表論文を集めた論文集をアルバムといい、最初の単著のことをファーストアルバムと比喩的に言うことがあり、バンドと歴史研究者は同じではないとやっぱり思うのだが、一方でどこか通じるような気もする)

コロナ禍で激変する大学という環境のなかで研究と教育に関わるようになった私は、今、おかしな話のようだけれど、本当に頻繁にこの3つの言葉に照らして自分の仕事を振り返ることがある。そのくらい、妙な力がある。

時代の変化に対応できているか。興味を惹き付けたいがためにいい加減なことを言って自分の専門性を損なっていないか。あるいは逆に、学生に対して「これは話しても難しいから」といって開き直って教えることを放棄していないか。

3番目が「ポピュラリティを得ること」じゃなくて「…を諦めないこと」なのが、また、いい。手を尽くしたって相手に受け入れられるかは別の問題なのだ。でも、それを諦めない。

その過程で、基本に徹底して立ち返ることというのも必要なのかもしれない。最初に知ったのはこの本だったか、あるいはテレビのインタビューだったか、何だったか忘れたのだが、桜井さんがボイストレーナーの指導を受けて「innocent world」の練習をしている話が出て来る(p.267)。コロナ禍で外出が間々ならないので、リモートで。普通にびっくりした。そこで桜井さんが朗らかに語っている言葉は、本書をお読みいただくのがよいと思うけれど、「こ、これがプロ意識…」と思わずにはいられなかった。

歴史の論文書きも完成から発表に至る前に地味なことがたくさんあるが、史料を読んでカードやメモを取ったり、引用部分をパソコンに打ち込んだり、年表を整理したり、表を作ったり、とくに単純な作業のときに思い出すととても効いてくる挿話である。


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