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経営に迷った時に、いつも立ち返る言葉

「起業家になる前に、知っておくべきことは何ですか?」

もし、これから起業しようとしている若い人にそう聞かれたら、僕はなんと答えるだろう。

実は、僕自身が、講談社を辞めて、会社をつくろうと考え始めた頃。まったく同じ問いを、ある先輩経営者にぶつけたことがある。

その相手は、アスクルを創業した岩田彰一郎さんだ。

岩田さんは、僕の母の従兄弟にあたる。ありがたいことに、僕の家は親戚同士のつながりが強い。母方には「岩田会」という集まりがあり、岩田さんはその中心的な存在だった。そこで何度か会っていたこともあり、起業を考えたとき、真っ先に相談しようと思い浮かんだのが岩田さんだった。

当時の僕は、起業する心づもりは固めたものの、不安な気持ちがどこか拭えなかった。編集者としての経験はある。でも、経営者としての実績はゼロ。だから僕は、単刀直入に聞いた。

「こういうビジネスを考えているのですが、やっていけると思いますか。事業として成立するでしょうか」

今振り返ると、ずいぶん直球な質問だと思う。その問いに対して、岩田さんは即答した。

「そんなことは、考えなくていい。社会の役に立つことをやっていれば、人は集まってくる。助けてもらえる。結果として、お金になる。だから『儲かるかどうか』なんて問いは、最初から持つ必要がない」

「儲かるか?」ではなく、「社会にとって意味があるか?」

その瞬間、僕の中で明確にすべき軸が、はっきりした。自分はなぜ会社をつくりたいのか。クリエイターや編集者が、もっと活躍できる環境をつくりたい。その思いこそが出発点だったはずだ。だったら、そこを徹底的に突き詰めればいい。利益は、その結果としてついてくるものだ。

とはいえ、会社を経営していると、迷いは何度も生まれる。

もっと稼ぐ力を高めなければならないのではないか。もっと速いスピードで事業を成長させ、大きな数字をつくっていかなければ、世の中にインパクトを与えられないのではないか。そんな焦りに似た気持ちが、頭をもたげることもある。

でも、そこで「稼ぐこと」や「規模を大きくすること」が第一になってしまったら、本末転倒だ。

何のために、この会社をやっているのか。
誰のために、この仕事をしているのか。

その問いに立ち返るたびに、あの時の岩田さんの言葉を思い出す。

この姿勢は、編集の現場での僕のスタンスとも、どこかで重なっている。

マンガ家や作家との打ち合わせで、「このテーマでヒットしますか?」と聞かれることは多い。でも、僕が返すのは、だいたいこういう問いだ。

「この作品を書くことで、あなたの人生は何か変わるか?」
「書く前と書いた後で、魂が少しでも救われるような感覚はあるか?」
「お金がもらえなくても、打ち切りになっても、それでも書き続けたいと思えるか?」

ヒットするかどうかではない。
まず、その作品を描くことに、意味があるかどうか。

岩田さんが僕に問い続けたことと、根っこの部分では同じだと思っている。

そんな岩田さんが、自らの経営哲学と、アスクル創業後に直面した困難をどう乗り越えたのかを書いた本を出版した。

この本でも一貫しているのは、「社会のためになるかどうか」という問いだ。同時に、その問いをもちながら、会社として成立させるためのお金の回し方にも、正面から向き合っている。

この本を読んでいると、先週のコラムで紹介した『漫画 論語と算盤』を思い出す。社会の利益を追いながら、事業としても、どう継続していくか。ある種、渋沢栄一と同じ問いに向き合っている本だと感じた。この本は、言わば、岩田さん流の「論語と算盤」だ。

コルクを創業して10年以上が経った。

もし本当に社会にとって必要なことができているなら、コルクはもっと大きくなっているはずだ。社会に与えている影響が、まだまだ限定的だと感じるのは、何かが足りていないからだろう。

何が足りないのか。
社会にとって、本当に必要なことは何なのか。

その問いを、もう一度、自分に突きつけられた気がした。

起業を考えている人にも、仕事の意味を問い直したい人にも、この本を薦めたい。「儲かるかどうか」よりも先に、問うべきことがある。そして、その問いは、起業する人だけでなく、仕事をする全ての人に向けられているように感じる。


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『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』などのマンガ・小説の編集者でありながら、ベンチャー起業の経営者でもあり、3人の息子の父親でもあるコルク代表・佐渡…

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