私自身、よくこんな経験をします。
出張時の朝、準備に追われて朝食を食べ損ねてしまったとき。仕事が立て込んでミーティングが続き、どうしても昼ごはんを食べる時間が取れないとき。
そんなとき、私は決まって駅の売店やコンビニに駆け込み、「inゼリー」を手に取ります。
おそらく似たような行動をとるビジネスパーソンは多いはずです。なぜ私たちは、数ある商品のなかから無意識にそれを選んでしまうのでしょうか?
そこには、単なる商品開発を超えた、強力な「カテゴリー戦略」が隠されています。
どんなに良い商品をつくっても、思い出されなければ選ばれません。逆にいうと、頭に浮かべば、モノは売れる。
そして、その選ばれるブランドは、お客さんが心のどこかで「仕方ない」と諦めていた悩みから出発しています。
その成功例が、森永製菓の「inゼリー」です。
今回は、「inゼリー」をテーマにカテゴリー戦略の鍵を握る4つのポイントについて説明していきたいと思います。
【プロフィール】
田岡凌(たおか・りょう)
ネスレにて新卒初の事業本部(マーケティング)アサイン。WeWorkのブランドマーケティング責任者。Sales Marker 社の外部顧問としてグロース支援。京都大学卒業後、ネスレにてネスカフェ、ミロのブランド担当。外資系企業のブランドマーケティング責任者、マーケティングスタートアップ CMOを歴任。現在、suswork株式会社にて、スタートアップから大企業まで数十社のマーケティング戦略支援を行う。株式会社Sales Marker外部顧問。カテゴリー戦略の専門家。ギャラップ社認定クリフトンストレングスコーチ。PIVOT、NewsPicks、Markezine、ITメディアなどで多数出演。著書「急成長企業だけが実践するカテゴリー戦略 頭に浮かべば、モノは売れる」
- 1. Customer Problem(潜在課題)|お客様が「諦めている不便」は何か?
- 2. Category Value(独自価値)|お客様にとって何が良いか? 何が新しいか?
- 3. Category Keyword(キーワード)|お客様にとってこれは何か? (ひと言で)
- 4. Category Perception(イメージ)|お客様にとってどんなイメージが頭に浮かぶか?
- カテゴリー戦略とは、単なるネーミングやキャッチコピーの話ではありません
- あなたのお客様が抱える「諦めている不便」は?
1. Customer Problem(潜在課題)|お客様が「諦めている不便」は何か?
新しいカテゴリーをつくる出発点は、表面的なニーズではなく、お客様のなかに眠る「諦め」を見つけることです。
お客様は、自分の深い悩みや不満を言葉にできていないことがほとんどです。当たり前だからと諦めていることは自分自身でも言語化できません。
inゼリーは、「忙しい朝に朝食を取れないのは仕方ない」といった、日常のなかで当たり前になってしまった我慢や諦めを解決しました。
いまある商品、パンやおにぎりでは解決しきれない、隠れた「不」を見つけること。それが、新しい市場を切り拓く第一歩となったのです。

2. Category Value(独自価値)|お客様にとって何が良いか? 何が新しいか?
諦めていた悩みを見つけたら、次に考えるのは「Category Value(カテゴリー独自の価値)」です。
ここで重要なのは、ライバル商品より「もっと美味しい、もっと安い」といった比較ではなく、お客様にとっての独自の価値を決めることです。
ゼリー飲料の場合、その価値は「味」ではありません。「調理がいらない」「お皿がいらない」「移動しながら飲める」という、食事の手間そのものをなくした点にあります。
「これは自分たちの生活をこう変えてくれるものだ」とひと目でわかる、徹底的に顧客視点で新しくわかりやすい価値を設計する必要があります。
3. Category Keyword(キーワード)|お客様にとってこれは何か? (ひと言で)
3つ目のステップは、その価値を一言で表す「キーワード」をつけることです。
人間の脳は、情報を整理するために名前(タグ)を必要とします。正体不明のものは記憶に残りません。
「inゼリー」が登場した際、それを「柔らかいおやつ」ではなく「ゼリー飲料」というキーワードは大きな役割を果たしました。「ゼリーなのに飲み物」「食事代わりになる飲み物」という新しい価値が「ゼリー飲料」というキーワードで広がったことで、誰もが価値を瞬間的に認識できるようになりました。
カテゴリーキーワードで特に重要なのは3つのポイントです。それは、新しい・価値がわかる・シンプルであるということ。
「新しいことが直感できるか?」「どんな価値がありそうかわかるか?」「日常的に使えるほどシンプルであるか?」
企業側の小難しい説明ではなく、お客さんが日常的に語っていく、次の当たり前の言葉をどう作っていくか、という視点が大切です。

4. Category Perception(イメージ)|お客様にとってどんなイメージが頭に浮かぶか?
最後に「Category Perception(カテゴリーに対するイメージ)」をつくることです。
これは、その商品の価値が頭に浮かぶイメージを、お客さんの頭のなかに瞬間的につくるプロセスです。
機能がいかに優れていても、人はそれだけでは動きません。「いつ、どこで、誰が、どのように使い、何がよいのか」という状況がわかって初めて、価値が認識できます。
inゼリーにおける「スーツ姿で走りながら片手で飲む」というイメージは、まさにこの典型例です。私自身も朝inゼリーを買った後、なぜかオフィスで歩きながら片手で飲んでしまいます。
「忙しい朝=ゼリー飲料」の価値を具体的なシーンと結びつけることで、価値を頭に思い浮かべやすくなります。
カテゴリー戦略とは、単なるネーミングやキャッチコピーの話ではありません
- Customer Problem:お客さんの「諦め」を発見し、
- Category Value:独自の解決策を示し、
- Category Keyword:一言で伝わる言葉をつけながら、
- Category Perception:価値がわかりやすいイメージで定着させる。
この一連の流れがつながったとき、商品は単なるモノから、お客さんの生活に欠かせない「習慣」へと変わります。
私が忙しい朝に迷わずinゼリーを手に取るのは、この戦略によって「時間がないときの正解はこれだ」と、私の頭に強くインプットされているからだと考えます。
あなたのお客様が抱える「諦めている不便」は?
多くの企業は、競合に勝とうとして「機能」や「価格」の競争をしてしまいます。
しかし、本当に探すべきなのは、お客様が日常のなかで諦めてきた潜在課題です。お客様自身が諦めている課題、言語化できていない、気づいていない課題にこそ、ビジネスのチャンスがあります。
「この業界ではこれが当たり前だから」「この価値は実現できないから」
そう思い込んでいる常識を疑ってみてください。
その先にこそ、あなたの商品やサービスが、お客さまの頭に浮かび、長く愛され続けるための「勝ち筋」が見つかるはずです。

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