NEXT TO ME


NEXT TO ME

 

 

 

「もういい、帰るっ」

 

興奮すると甲高くなるあいつの声が壁にぶつかって、跳ねた。

見ればほっぺは真っ赤。

Puppy-eyedは潤んで今にも大粒の涙をこぼしそうだ。

その顔は反則ってもんだろ。

大きくため息をついて、

「まあ、少し落ち着いたらどうだ、Paddy-bear」

「またそのあだ名。言っときますけど、僕はそんなに気に入ってないからね!」

「あー、はいはい。だったらそんなにほっぺを赤くするんじゃないよ」

指摘してやると、えっ、という顔で頬に手をあてる。

「赤くないよっ」

「赤いさ。熟れすぎのトマトみたいだ」

そこで初めてジャレッドはため息をつく。

「それってクールじゃないじゃん。かっこ悪い」

驚いたな。

君は今まで自分のことをクールだと?。

生暖かな笑みを浮かべながら、

「そう思うんなら、ほら、少しクールダウンして、座れよ」

俺の指摘に僅かに嫌そうな顔をしてみせたものの、結局は素直に隣に腰を下ろした。

大きな背中を丸めて、どうやったら出来るのか俺には理解出来ない芸当ながら、つぶらな瞳で下からそっと見上げてくる。

「怒ってる?」

「そりゃ君のほうだろ?」

苦笑してみせると、微妙な顔つきになった。

「そだね・・」と呟いてから急にまた怒りがぶり返したらしく、

「だって酷いんだもん、ジェン!」

目をキラッキラさせて俺を糾弾するが、生憎ちっとも怖くはない。

目の前に突き出された指をひょいとかわし、

「人様を指差ししちゃいけないって、君のあの素敵なママンは教えてくれなかったか?」

一瞬考え込もうとしてすぐにジャレッドは首を振る。

「ごめん」

指を引っ込めて項垂れた。

「いいさ。それより、どうしてそこまで怒るのか教えて貰えると助かるな」

すると通りすがりに突然尻を蹴られた犬みたいに目を真ん丸くして、

「えっ、それ何。判んないってこと?!」

「正解」

ジャレッドは俺の顔を見つめたまんま酸欠の金魚みたいに口をぱくぱくやっていたが、

やがてむくれてぶぅっと盛大に頬を膨らました。

フリーズした様子なので、笑いをかみ殺しながら、

「ジャレッド?Honey?・・I'm so sorry」

あちこち好きな方向に跳ねた髪をそっと撫でてやる。

細い髪の先っぽにkissを落とすと、大きな体が小さく震える。

キュートな反応に気を良くしてそのままカウチに押し倒そうとすると、はっとしたように

抵抗された。

「待って、待って、ジェン!!」

昼間からは嫌なのかと思って顔を覗き込むと小さな唇を尖らせて、

「物には順序ってもんがあるんだよっ。日本のことわざに"Shogunはfoodが少ししかなくても

Go fight!"っていうのがあってね、」

一瞬、眩暈に襲われたが歯を食いしばって、

「それを言うなら"武士は食わねど高楊枝"だ」

「Shogunじゃないの?!」

「・・少し違うな」

するとへらっと笑って、

「流石、ジェンセン ! Japanのことならお任せだねっ」

「そういう訳でもない」

「えーと、とにかく、お昼をちゃんと食べてから、それから、ねっ」

んっ?その諺は正反対だと思うのだが。・・ま、それはいい。

小首を傾げて可愛くお願いされた事、そうだ、それこそが問題だったのだ。

「・・君の言うランチというのは、あの大量の炭水化物のことかな?」

「僕の愛情をたっぷり込めたブルーベリーパンケーキと、ほっくほくのポテトパイ ! 」

・・叫ばなくていい。

俺はげんなりしながら、いっそ吐き気に襲われればいいと、自分の胃の辺りを殴ってみたい衝動に

駆られた。

それから何とかして自分の記憶からほんの三時間前に食べたばかりの大量のパンケーキ( ! )と

牧場の牛もかくやといわんばかりの大量のサラダの朝食を消してしまえればいいのに、と真剣に

願った。

そうなのだ。元々朝には弱く、食欲なんて逆さにしても沸かない体質なのにあの輝くばかりの

笑顔にほだされて死ぬ気で大量の食料を平らげた(僅か三時間前だ ! )のに、今度は昼飯を

食えと言われたから断ったのだ。

多分、それで気を悪くしたのだということにも同時に思い当たり、俺は本格的に窮地に陥った。

・・せめてメニューを変えてくれ。

じゃなければ、先に運動させてくれ。

「・・君は俺の肝臓でも取る気なのか?」

「は?」

「いや、何でもない。ジャレッド・・」

「食べたくないの?ジェン。僕がジェンの為に一生懸命作ったのに、」

忽ちジャレッドの瞳に涙が盛り上がる。

うっ。それは卑怯だろ。

「いや、そういう訳じゃなくてな、」

「もう冷めちゃってるよ?」

「いや、あのな、」

「ひどいや、ジェン・・ブルーベリーは目にいいんだよ?」

「えっ、それは関係な・・」

「朝作ったパンケーキが不味かったの?そうならそうと言ってくれればいいじゃん」

「いや、違・・」

「もう僕のこと嫌いなんだね、ジェンは。パンケーキも食べたくないくらいに」

はあぁぁぁっ?!。

パンケーキと俺の愛情には何の関係もない ! 。

「頼むから俺の話を聞け、ジャレディナ、Baby-Boy」

二の腕をぎゅっと掴んで引き寄せると、ジャレッドははっと息を呑んでそれから赤くなった。

「・・・かっこいい」

「Umm?」

「ジェンの真剣な顔ってすごくかっこいい・・」

「あ、ああ・・それは・・Thanks」

「どう致しまして」

「・・えー、それで・・よく聞いてくれ、honey、sweety、」

「year?」

「君が俺の為に作ってくれたあの素敵な食事だが、生憎まだ腹が減ってない。だから、俺

としては、その前に、」

唇をぐっとジャレの耳元に近づけて、思い切り低音で囁いてやる。

「君のGorgeous bodyを思い切り味わってからがいいな」

ジャレッドが体を震わせた。

そーっと伺うように視線を走らせてくるその顔は、茹で上げたように赤い。

「・・そのほうが嬉しい?」

「勿論」

即答すると照れくさいような嬉しいような複雑な笑みがその顔に昇った。

「ジェンにそんな風に思われるなんて、すごく嬉しいや」

「そうか ! 俺も嬉しいぞ ! 」

すぐに押し倒そうとする俺に、ジャレッドは困ったように眉を下げてみせた。

「でもね、」

「ん?」

「僕は空腹で倒れそう・・・・」

か細い声が恥ずかしげにそう言った。

 

GOD!!!!。

 

 

無理だ。これ以上は、食えない。

何人たりとも俺の胃への侵入は許さないぞ。

いや、物理的に無理だ。

数十分後。俺は軽い錯乱状態に陥っていた。

一人でエッチは出来ないので致し方なく、嬉しそうなジャレッドに付き合って死ぬ気で

食卓についた俺は本当に死に掛けていた。

誰だ、パンケーキなんて代物を発明したやつは。

俺は金輪際、食わないぞ。禁パンケーキを生涯貫くことを誓う。

「ジェンて小食だね?ほら、あんまり食べないから顔色悪いよ?貧血になるよ?」

冗談だろ?Jay。

俺の顔が真っ青なのは、喉のすぐ下までパンケーキと芋が詰まってるからだ。

腹の中に石を詰め込まれた赤頭巾の狼はさぞ辛かったろう・・。

脂汗を流している俺を尻目に、優雅に食後のコーヒーまで平らげて(しかもたっぷりミルクと

シュガーは三杯入れて)、ジャレッドはにっこり笑ってナプキンで口を拭いた。

「あー、少し物足りないけど、美味しかった!」

Are you kidding?!。

お前の食欲はクレイジーだ。きっとそのマッスルな腹の中には空腹なおっさんが住んでい

に違いない ! 。

牛一頭くらいなら平気で食べれるんだ、そいつはきっと!!。

それは兎も角。

運動しないと死んでしまう。

「さ、ジャレ。コーヒーも済んだし、寝室に行こう」

冷や汗を流しながらにっこり微笑むと、ジャレッドは少し恥ずかしそうに頷いた。

よしっ!!。

俺は反撃開始とばかりに密かに拳を握ると、ジャレッドのでかい背中を押して階上の寝室

向かった。・・気持ち背中が反り気味になる。

はーはー言いながらキングサイズのベッドに導くと、ジャレッドは照れながらもそこに横たわって、

両手を大きく広げてみせた。

いつもだったらすぐに飛び掛るところだが、俺は首を振って、

「Jare-Beer、お前が俺の上に載ってくれ」

何故なら下を向いたら吐いてしまうからだ。

すると途端にジャレッドの目がキラッと輝いた。

う。危険な気がする。

慌てて、

「いや、別にいいんだ、君が嫌なら・・」

「嫌なわけないじゃん ! まだ試してない体位っていっぱいあるからね ! 」

えっ?。

嬉しそうに飛び起きたジャレッドが早く早く、と俺の体をベッドに押し倒そうとする。

「Oh ! こら、積極的なのは嬉しいが、」

腹に触るな。

「はい、そこに寝て。この間Book-Storeに寄ったらさ、何かゲイの為の雑誌とかあってね、

すっごい恥ずかしかったんだけど買ってみたんだ。そしたら凄いの ! 僕の知らなかったことが

いっぱい !! 僕とジェンがいつもしてる方法とは違うやり方がいっぱいあったんだよっ ! 」

・・・俺は知らないままでいて欲しかったな。

綺麗なエメラルドグリーンの瞳をキラキラさせて楽しそうなジャレッドが、鼻歌でも歌いそうな

表情で俺の上に載って来た。

・・・・・ヤバい。

この体勢は腹を圧迫される。

「W,Wait! Wait a minutes!」

「大丈夫、僕に任せて」

違うんだ、俺が大丈夫じゃないんだー !! 。

 

「えーと、確か、本だと、ジェンの足が・・こうで、あ、その前に服脱がなくちゃ!」

 

 

 

 

OMG!!!!!。

神に見捨てられた気分だった。

 

いや、気持ちは良かったが・・・。

 

 

 

 

                                               Fin