【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第47話・守秘義務違反」by RAPT×TOPAZ

【連載小説】プレトとルリスの冒険《Season2》 – 「第47話・守秘義務違反」by RAPT×TOPAZ

〈コスモマン〉は動画投稿サイトでも活動しているようだ。ちょうどクライノートから動画へ飛べるようになっているから、試しにクリックしてみた。映像が再生され、若い男性が元気よく話し始めた。

『皆さんおはようございます! 今回は人間の頭では処理できないようなスケールの話をしていきますよ! 動画を見終わる頃にはモチベが上がってるかもしれません。我々が暮らしているこの地球、知ったつもりになってても知らないことって沢山あるんですよ。半分以上が未開の地と言われていますし、海の底なんて全然見えないですよね。真っ暗だし息できないもん。で、真っ暗で息ができないところといえば……そう、宇宙ですね。地球は宇宙に浮かんでいる星のうちの一つです。さて、宇宙ってどのくらいのスケールなんでしょう。これは銀河系のイメージ映像です。どこに地球があるか分かりますか?』

画面上に銀河系の映像が映し出され、やがて黄色の矢印が右側の一点を指した。

『ここ! ここ! ここなんですよ地球は! こんな点の上で人類の営みは続いているんですよ。可愛いらしいですね。この銀河系は局部銀河群っていう銀河の集まりに所属していて、この外にはさらに、おとめ座超銀河団っていうのがあります。この時点でバカでかすぎて訳わかんないですけど、数年前の調査によって、おとめ座超銀河団の外にもっと大きな構造があることが分かったんです。ラニアケア超銀河団っていうんです! 聞いたことありますかね! どうでしょうか! このラニアケア超銀河団、どのくらいの大きさだと思います? ……はい残念! 直径約5億2000万光年らしいですよー』

〈コスモマン〉は、その後もつらつらと宇宙の知識を喋りまくり、最後の締めくくりに突入した。

『広大な宇宙の中で、我々の暮らしている地球はただのシミでしかないのかもしれない。ですがその小さなシミは、間違いなく我々の故郷ですし、唯一無二のものです。世界情勢や政治が不安定な中、生きづらさを感じている人もいるかもしれませんね。情報収集に励んでいる人もいるかもしれません。目の前に流れてきた情報を真実だと思いたいという思考回路が頭を硬くし、ウソをウソと見抜けなくなることも十分にありえます。けれど、本物の真実は、どんなに詳しい追及にも耐えるものです。広大な宇宙に生きる一つの種族として、地球の繁栄を心から願います』

ここで動画は終了した。プレトは口を開いた。
「何のことを言ってるのか分からないところも多かったけど、編集は凝ってたね」
「本物の真実は、どんなに詳しい追及にも耐えるものです、っていう言葉は良かったと思う」
「そうだね。私たちはいつもアンチからの追及に耐えてるもんね……それで、この人が急に話題になったのは、私たちの投稿に注目が集まらないようにしているからってことだよね」
「ほぼ確実にそうだろうね。わたしたちの敵は、人気がない活動者を買収して引き込んで、いいように利用しているのかな。〈コスモマン〉、ちょっと気の毒かも」
ルリスの声色は少し寂しげだ。
「同情している暇はないよ。こっちはこっちで、ウソを垂れ流している奴らに対抗しなくちゃ」
プレトは張り切って、クライノートに文字を打ち込んだ。

『宇宙ステーションから撮影されたというオーロラ、とてもきれいですね。不思議なことに宇宙ゴミが一つも写っていなくて、オーロラがよく見えますね』

「どう? ちょっと嫌味っぽいかな?」
ルリスに画面を見せた。
「このくらい大丈夫でしょ。投稿しちゃえ!」
ルリスが送信ボタンを押し、世間に発信された。そのまま二人は日課のトレーニングに向かい、午前中のタスクをこなした。
昼休憩のタイミングでクライノートをチェックすると、コメントが寄せられていた。

『宇宙ゴミが映ってないから捏造って言いたいの? 宇宙ゴミって、地球の周りを高速で飛んでる数cm〜mmの破片だよ。カメラの前をゆっくり漂うわけじゃないから、映らないのが普通だよ』

『まさか、宇宙ゴミのことをふわふわ浮いてるゴミ袋か何かだと思ってる?』

『弾丸みたいに飛んでるものが映るわけないんだよなあ』

『宇宙ゴミが写真に映らないからって「映像はニセモノ」って言うのはちょっと飛躍しすぎかも。見えないだけで、ちゃんとそこにあるんですよ』

プレトは画面から視線を逸らした。
「……宇宙ゴミが写ってないからオーロラがよく見えるって投稿しただけなのに……捏造だなんてまだ言ってないのに……ふふっ」
話しながら吹き出してしまった。ルリスも肩を震わせている。
「指摘される前に否定するの、逆効果だよね」
「ウソつきって言われる前に、ウソついてないって主張する的な?」
「そうそれ!」
ルリスは手を叩いて笑いはじめた。敵はどうやら、あまり頭が回っていないとみえる。こちらの投稿を批判するのでいっぱいいっぱいなのかも。
メルト機構にいると娯楽が少ないから、おかしなコメントが来るだけでも吹き出してしまうようになった。訓練に明け暮れすぎるのも、精神衛生上あまりよくないのかもしれない。頭の隅でそんなことを考えつつ、笑いが止まらないルリスを見て、プレトもさらに笑った。


翌日、午前中のうちにメールで呼び出された。メールの差出人は上司で、会議室まで来るようにとのことだった。なんの用なのだろう。とにかく、ルリスと共に会議室へ向かった。ノックしてドアを開けると、空気がビリビリしていた。ピリピリではなくビリビリだ。上司の隣に、彼の直属の部下がいる。彼らは並んで座り、目の前のパソコンに時々視線を落としている。上司とはいえ、この二人とは普段あまり会わないから何を訊かれるのか想像がつかない。いや、楽しい話題ではないことは想像できる。
会議室にはイスがたくさんあるが、どうぞとも、座ってとも、かけてくださいとも言われないから、ルリスと並んで立っていた。ちょうど彼らと対面になる位置だ。彼らはしばらくパソコンとこちらを見比べて何やらボソボソと話し合っていた。ギリギリ聞き取れない声量だから気になって仕方がない。やがて上司がうっそりとした視線をこちらに投げた。
「クライノートの〈プレパラート〉というアカウントは……お二人のうちどちらのものですか」
そう言いながら、パソコンの画面をこちらに向けた。液晶には〈プレパラート〉の投稿がデカデカと表示されている。同じ名前のユーザーではなく、間違いなくプレトたちのアカウントだ。プレトは正直に答えることにした。隠す必要はないし、隠したところですぐに特定できるはずだからだ。
「私たち二人で共有しているアカウントです。二人のものです」
「そうですか……〈プレパラート〉の投稿……宇宙ステーションの映像はメルト機構内で撮影された、そう主張していますね。どういうことでしょうか」
「そのままの意味です。いまメルト機構内の一部が、トニトリウムの影響で立ち入り禁止になっていますよね。実は私たち……」
一度言葉を切って、ルリスの方を向いた。ルリスはわずかに頷いて、明るい茶色の瞳を細めた。それをゴーサインと受け止め、プレトは続きを話し出した。
「私たち、立ち入り禁止エリアの中に入ったんです」
トニトリウムのリスクが低いと知り、確認しながら立ち入り禁止エリアに入ったこと。実際にトニトリウムは検知されなかったこと。撮影スタジオで撮影中だったこと。そのときに撮っていたものが宇宙ステーションの映像として公開されているから、みんなが騙されないように注意喚起したこと。これらをかいつまんで話した。
「……なるほど」
上司はそう呟くと、長い沈黙に身を沈めた。本当に長くてプレトとルリスが所在なくなってきたとき、上司は眠りから目を覚ましたように話しはじめた。
「言いたいことは沢山ありますが……まず、お二人に契約書を渡したとき、守秘義務についても説明があったと思いますが、覚えていますか」
「はい」
「この投稿は守秘義務違反だと思いませんか」
「契約の内容によると思います。投稿の前に契約書を確認したのですが、私たちが口外してはいけないのは、プロジェクト・フラウドに関することだけでした。撮影スタジオのことも宇宙ステーションのこともプロジェクト・フラウドには関係がないので、該当しないと思って投稿しました」
上司は不意打ちを喰らったような顔になり、素早くキーボードを叩きはじめた。データで保存している契約書を確認しているのだろう。
少し経つと、パソコン越しに上司の視線が飛んできた。まるで獲物を狙う猛禽類の目だ。射すくめられたかのように、プレトの心臓が冷たくなった。上司は明らかに怒っている。もはや殺気立っている。プレトとルリスが揚げ足を取る様な形で行動したのがよほど気に食わなかったのかもしれない。でも、契約書にそう書いてあるのだから……契約違反ではないから……プレトは自分自身にそう言い聞かせたが、増し加わっていく空気の痺れに萎縮するしかなかった。
安全装置の外れた電気風呂に落とされ、頭を押さえつけられている気分だ。溺れるのが早いか、感電するのが早いか……ぎゅっと目を瞑った。

(第48話につづく)

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