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マガジン一覧

岸田奈美のキナリ★マガジン

岸田奈美の生命線で最前線。新作エッセイや小説を月4本+過去作200本以上が、読み放題です。

¥1,000 / 月

野生!おんどれパンチくん

義母に電話したら 「ちょっと手が離せないん」 ありゃ、天ぷらでもやってんのかしら? 「アライグマが天井から落ちてきたんよ」 耳を疑った。 義理の実家はお寺だ。古い木造建築だと、そういうこともあるのか。マンション育ちには想像もできない世界だ。えらいとこへ嫁いでしもうた。 ……アライグマかあ。 ち〜ちゃいお手てで、なんでも洗いまくるから、アライグマ。真っ先に思い出すのは、子どもの頃に使っていた歯磨き粉のチューブだ。自然派スーパーがブームだった母が買ってきた。特筆すべ

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のびしろしかない30歳に抜かされるんだが

読者さんから、道ばたで声をかけられた。その人は息子がダウン症だから、わたしの書く弟にあるあるを感じてくれていたらしい。 「ダウン症の子は、16歳から成長が止まるって聞いて……」 そうなん!? あごの外れたセイウチの顔をするわたしに、その人は戸惑った。 わたしの弟は、もう30歳だ。成長が止まるどころか、この5年ぐらいの伸びが、笑っちまうぐらい著しい。 「ちがうんですか?」 わ、わからん。 少なくとも、うちの弟に限っては、ぜんぜんちがう。 短い怪文書をLINEで送って

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天性の怒られ代理人

ある男とデートの約束をする。 待ち合わせ場所へ行ってみる。 すると、アラびっくり! 男がブチギレられている場面に遭遇する! 一度や二度どころではない。何度もだ。 男は何も悪いことはしていない。表情はやわらかく、半開きの口からはお茶目な八重歯がのぞき、いつでも上機嫌で、なんてったって職業も僧侶だというのに。 男の母親すら、 「息子は、なんの役にも立ちませんが、無害ですから……」 と紹介するほどの優男だというのに。 ——にも関わらず、彼はいつも、すれちがう人、喫茶店

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文系が何も考えずにシリコンバレーを観光するとこうなる

移動も食事もらくちんだったサンフランシスコ出張で、地味に困ったのは買い物だった。 特におみやげ。 おみやげは大切である。 我こそは、わたす相手も思いつかぬまま買いまくり、なし崩しに自分用としてガメる、お土産キャッツアイなので! しかし、円安がえぐい。 日本でも買えそうを通り越して、日本で買ったほうがむしろ良さそうなものを、わざわざアメリカで買うのはアホらしい。 有名な『ピア39』という観光地に行ったら、ちょっと疲れてヤケを起こした神戸ハーバーランド(アシカ添え)でし

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岸田奈美の短編小説

岸田奈美の書いた短編小説のまとめ。基本的には全文無料で読めるものばかりです。

【小説】未開封の夢(全文無料)

「祖父は最期の一年で……片づけることが愛だと、教えてくれました」 おれが言うと、ビジネス誌の記者は手を止めた。 息を吐き、うるんだ目で、深くうなずいている。 「立つ鳥跡を濁さず、ですね」 「まさに。おれを育ててくれた祖父は、そういう人でしたね」 祖父の勝彦――カッちゃんは、病気を告知されたあと、身の回りのものを一気に片づけた。 将棋盤も、釣り竿も、ジャズのレコードも。趣味が人生のような人だったのに、迷いはなかった。 金になるものは売っぱらい、残ったものはきれいさ

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【小説】どんヤナギの回復速度

ベルが鳴ったら、反射的に駆け出してしまった。 引きずってきたキャリーケースを、蹴り飛ばすように昇降口のステップへ乗せたら、列車の扉が閉まった。 セーフ! 軽い達成感をひとり噛みめた後、後悔がせり上がってきた。 本当は、もう一本あとの列車に乗る予定だったのに。東京のオフィスへ戻る新幹線にも、それで間に合う。 誰からも急かされてないのに、わたしはいつも走ってしまうのだ。 一両だけのディーゼル列車はがらがらだった。乗客はわたしを含めて、三人だけ。くすんだ窓ガラスの向こう

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【小説】かなたの肩書き

『これまでの人生で一生懸命に取り組んだことは?』 空白の記入欄で、カーソルは点滅し続けていた。 大学の図書館。向かい合う長机には等間隔にパソコンが並び、学生たちで埋まっていた。手を止めている間も、両隣からはカチャカチャとタイピングの音が響き続ける。それが授業のレポートなのか、おれと同じく就活のエントリーシートなのかはわからないが、焦る。 「んんん……?」 考え込むふりをしながら、そっと画面を切り替える。応募先の企業『株式会社ネップウホールディングス』の採用ページを検索

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【小説】声

これが最後の仕事になる。 できることなら、最後になんてしたくない。でもだめだ。日を追うごとに、働き続ける自信が腐り落ちていく。 総合病院の受付の裏側、患者からは見えない事務室がわたしの仕事場だ。デスクの上に積み重なっている手紙を、一枚、そっと手に取る。 ひどい字だ。 差出人の名前もない。 『待合室の金魚の目つきが悪い!通院のたびに動悸がする!』 知らんがな! そう言いたい。もう捨てたい。ああ泣きたい。それでもわたしは、この紙の折り目をていねいに伸ばして、ペンを取ら

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対談シリーズ

思わず誰かに読んでほしくなるぐらい楽しかった会話の記録。公開対談イベント「岸田奈美のえんがわ」もあります。

こんな時代だから、会いたい人になろう(イ・スラ×岸田奈美)8/8

誰からも依頼されずに文章を書く、韓国人の作家、イ・スラ。 借金を返し、家族を養うため、インターネットで文章を売る彼女。並々ならぬ親しみを抱いた岸田奈美が、どうしても友だちになりたくて、韓国まで行きました。書くことで生きるふたり、打ち明け話の最終回です。 ▼会いに行くまでの話 ▼第1回 岸田 スラさんと話したら、あなたはもっともっと、 世界から注目されて、称賛されるべき人だなって、 ますます思いました。 スラ うれしいなあ。 ありがとうございます。 岸田 で、そんな

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大きな木になる作家です(イ・スラ×岸田奈美)7/8

誰からも依頼されずに文章を書く、韓国人の作家、イ・スラ。 借金を返し、家族を養うため、インターネットで文章を売る彼女。並々ならぬ親しみを抱いた岸田奈美が、どうしても友だちになりたくて、韓国まで行きました。書くことで生きるふたりの、打ち明け話がはじまります。 ▼会いに行くまでの話 ▼第1回 スラ お金をもらいながら、 インターネットで文章を 書き続けることは大変ですか? 岸田 書くこと自体はあんまりがんばってなくて。 わたしはnoteのマガジンで 読者さんからお金をも

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小さな文章しか書けないから(イ・スラ×岸田奈美)6/8

誰からも依頼されずに文章を書く、韓国人の作家、イ・スラ。 借金を返し、家族を養うため、インターネットで文章を売る彼女。並々ならぬ親しみを抱いた岸田奈美が、どうしても友だちになりたくて、韓国まで行きました。書くことで生きるふたりの、打ち明け話がはじまります。 ▼会いに行くまでの話 ▼第1回 岸田 味方をつくるために、 文章の書き方や明るさを 変えるってこと、ないですか? スラ あります。 そこは奈美さんと似ていると思います。 誰もが喜んでくれるようなお話を書く一方で、

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エッセイストは、よく訓練された嘘つき(イ・スラ×岸田奈美)4/8

誰からも依頼されずに文章を書く、韓国人の作家、イ・スラ。 借金を返し、家族を養うため、インターネットで文章を売る彼女。並々ならぬ親しみを抱いた岸田奈美が、どうしても友だちになりたくて、韓国まで行きました。書くことで生きるふたりの、打ち明け話がはじまります。 ▼会いに行くまでの話 ▼第1回 4.エッセイストは、よく訓練された嘘つき スラ 「どうやったら、そんなふうにありのままを 正直に書けるの?」って聞かれると、 ……困っちゃうんですよ。 岸田 はい、はい。 スラ

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【全文無料】岸田奈美といえばこのエッセイ

比較的多くの方の目に触れてしまったnoteを集めました。

弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった

高校から帰ったら、母が大騒ぎしていた。 なんだなんだ、一体どうした。 「良太が万引きしたかも」 良太とは、私の3歳下の弟だ。 生まれつき、ダウン症という病気で、知的障害がある。 大人になった今も、良太の知能レベルは2歳児と同じだ。 ヒトの細胞の染色体が一本多いと、ダウン症になるらしい。 一本得してるはずなのに、不思議ね。 「良太が万引き?あるわけないやろ」 ヒヤリハットを、そういう帽子だと思っていた母のことなので。 「ちゃうねん!あるんやて!」 ニコラスケイジ

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一時間かけてブラジャーを試着したら、黄泉の国から戦士たちが戻ってきた

※下着のお話なので、苦手な方はご注意ください。 わりと、こだわりの強いタイプです。 でも、これだけは決めているんです。 「モテている女」のアドバイスにだけは、一切のプライドをかなぐり捨て、従うことを。 東にパーソナルトレーニングジムがあると聞けば、私財を投じて馳せ参じ。 西に3kg痩せ見えパンツがあると聞けば、半月間もやしをすすることになろうと手に入れる。 情報に振り回されすぎて、5日間絶食ダイエットをした直後、コラーゲン鍋をかっ込んで東梅田の真ん中で吐いた時は、どう

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車いすの母とミャンマーに行ったら、異国の王様だと思われた

2016年11月。 土埃と魚醤の匂いがするミャンマーの市場で。 私は立ち尽くしていた。 車いすに乗る母の背後には、何人ものちびっ子托鉢僧たちが、連なっていた。 逃げようとすれば、ついてきて。 そしていつの間にか、増えていて。 君たちは、あれか。ピクミンか。 母・ひろ実は困り果てた顔で「どうしよう」と、私に助けを求めた。 私は、見て見ぬフリをした。 私という人間は、理解できない状況に遭遇したら、たとえ実の親であろうとも迷いなく他人のフリができるんだなあ、としみじみ思った

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櫻井翔さんと密室で30分間、対面したら2kg太った

2016年、3月。 私は密室で、櫻井翔さんと対面していました。 30分間も。無言で。 いや、本当だから。こじらせてないから。現実だったから。 ……たぶん。 説明いたしますと。 我が社が総力を上げて取り組んでいる「ユニバーサルマナー検定」をね。 受講しにきてくださったんです。 嵐の櫻井翔さんが。 NEWS ZEROの担当者さんから 「櫻井翔さんが、ユニバーサルマナー検定の取材をしたいそうです」 とお電話いただいた時。 「なんで?」 っていうタメ口が飛び出た。心からのタ

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漏水ビチョビチョ日記〜天井から汚水が止まらない人間の記録〜

年末のある日とつぜん、部屋の天井が落ちて、上階の汚水が流れこんできたときの限界記録。

汚水を得た魚のように(漏水ビチョビチョ日記|完結)

年末の深夜に天井が落っこちて、汚水がなだれこんできた人間の記録、これでおしまい! 果たして補償は、いかほどか……? 漏水から、1ヶ月が経った。 住居も変わり、年も変わり。まだ怒涛に揉まれる昼下がり。 『保険会社です。損害金の査定が終わりましたので、ご報告します』 きた、きた、きたー! ビッチャビチャの部屋で、瞬く間にお亡くなりになってしまった家具たちのことを思い出す。総額で100万円は超えていた。 『鑑定人が調査させてもらいました結果……』 ごくり……。 『

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よおく考えるまでもなくお金は大事だよお(漏水ビチョビチョ日記)

住む家が決まったら、息つく間もなく、引っ越しだ! 果たして、新年が明けるまでに越せるのか!? 12月29日 11:30- 待ちに待った引っ越し引越会社で眠っていた段ボールの群れたちと、感動の再会。 マインクラフトのCGみてえだ。 汚水に追われて、とにかく詰めまくったので、中身はわけわからん。写真の三倍ぐらいあるし。 引っ越し屋のタイ人のお兄さんがやってくれたであろう、 クシの箱。 開けたら、ギッチギチの靴(クツ)だった。 弟が荷ほどきを手伝いにきてくれることに

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お導きマンション(漏水ビチョビチョ日記)

西宮は、住んでみたい町だった。 わたしの父は西宮の甲子園球場のすぐそばで生まれ育ち、神戸の山の裏にできたニュータウンに家族の住まいを構えても、西宮を忘れられなかったみたいで、そこへ仕事場も構えていた。 ざっくりいうと住宅の仕事だったが、町おこしにも奮闘していたらしい。父は亡くなったあとも、父の仕事仲間は西宮にいる。 西宮という町がなぜ、父を引き止めたのかはわからない。 知りたいとは思っていた。西宮の大学に通ったのも、甲子園球場でバイトしてみたのも、まあ、そういう理由も

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生活する人、仕事する人(漏水ビチョビチョ日記)

汚水がふりそそぐ部屋から、あわてて引き上げた家財たちは、まだ引っ越し屋の倉庫で眠ってる。 トラックごと眠ってる。 そんなんじゃ生活も仕事もままならんでしょうと、思うなかれ。 積んでっから。 全部、積んでっから。 パソコンも、服と靴も、すぐ読まなくちゃいかん本も。 ベッドも。 ギッチギチに。 すごくない? あまりにも積めすぎている。 車一台あればそのへんの野ッ原で暮らせてしまう。 ドラマの撮影で使われたボルちゃん、引き取らせてもらうって決めた時はバクバクしたけ

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もうあかんわ日記〜2ヶ月間の限界家族〜

母が心内膜炎で入院、祖母は認知症が悪化、犬は大暴れで……岸田家の危機に、祖父の葬儀、鳩の襲来などが続々と!「もうあかんわ」と嘆きながら毎日更新した2ヶ月の記録。ライツ社から発刊した同名の書籍に収録していないエピソードも。(イラスト:水縞アヤさん)

命を守ろうとしたあとの、折り合いって(母の入院)

熱が出てる母、回復しつつあるってこの前は書いたんだけど、ふりだしに戻って、というか戻るどころか悪い方にいっちゃって、おとといから入院してる。 まだ病名すらわかってないし、ぜんぜん落ちついてないので、こんなもん書かんと寝ろよって感じなんだけど、なんか寝れないんですよ。 わたしの頭はピンチのときに急速回転して、自己修復して整理するようにできてるので、回転しっぱなしで言葉と景色ばかり、ポンポン生み出されて、頭でかかえきれん。 ヤマザキパンの工場のベルトコンベアから無限に薄皮ク

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みんな、会えなかったひとがいる(母の入院)

2月6日(土)の夕方に、母は大学病院に緊急入院した。 そこから9日(火)の夜まで、病院には五回足を運んだけど、一度も母の顔は見ていない。見れない。 コロナ対策で、患者さんとの面会は一律、禁止だから。 つまり最後に見た母は、グッタリして「ほな、さいなら」とつぶやく、とてもシュールな光景だった。新喜劇の幕引きとちゃうねんぞ。 入院した母は、まず病名を特定させなければということで、いろんな抗生剤を入れたり、あちらこちらを検査したりすることになった。 「食道カメラが、想像の

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十二年ぶり、二度目の生還 (母の入院)

photo by 幡野広志 14日間の原因不明の発熱のあと、重度の感染性心内膜炎という診断を受けた母が、11時間もの心臓手術を終えて、集中治療室に入りました。 いまは安定していて、合併症や後遺症などもありませんが、これから起こることもあるので、2ヶ月程度は経過観察で入院です。 でもひとまず、命が助かった。ほんとうによかった。 手術は、とても厳しい状況だったようです。 感染症心内膜炎は、歯や傷口から入ったばい菌が、血液で運ばれて、心臓に巣をつくります。 12年前に母

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喪に服したいけど、喪服がないっ! 〜祖父の大往生2021〜

祖父が亡くなった。 「いつ呼吸が止まってもおかしくない」と叔母から電話があり、三日前にお見舞いへ行ったばかりだった。 お見舞いといっても、祖父は外せない酸素マスクの下でモニャモニャと口走り、ごろごろと寝返るだけで。二重に鍵のかかった病室、ミトンをはめられた手、マスクで擦れて赤くなった鼻の下を見ていたわたしは、ああ、ついにこの日がきて、きっとよかったねと思った。 祖父は岸田家のなかでも、いちばんしんどい人生を終えたと思う。 島根で五人兄弟の長男として生まれた祖父は、曽祖

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家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった

NHK BSプレミアムドラマ「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」の原作エッセイ・撮影現場レポートのまとめ。ドラマは“岸本七実”が主人公のトゥル〜アナザ〜スト〜リ〜なので、読んでから観ても楽しめること大請け合い!

絶対に、だいじょうぶの巻(ドラマ見学最終日)

「だいじょうぶ」って言葉は、不思議だ。 大好物のウインナーが品切れだったときに弟がボソッとこぼす「だいじょうぶ、だいじょうぶ」は、「しゃあない」っていう意味で。 三者面談でさんざんな通知表を見せながら先生が放った「だいじょうぶでしょう」は、「どこでもええから進路をはよ書け」っていう意味で。 この世に生まれるありとあらゆる「だいじょうぶ」は、言った人にしか、言われた人にしか、訳せない。 そして言った人も、言われた人も、それぞれ違うふうに訳してる。 あの日もらった「だい

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君こそスターだ!の巻(ドラマ見学7日目)

「今週末、沖縄でロケがあるんですよ」 プロデューサーから聞かされたとき、わたしは小学館の会議室で取材を受けているところだった。 「へえー、沖縄で!」 「みんなのスケジュールがさすがに合わないかと思ってたんですが、やっぱり行こうということに」 「それはそれは」 カメラのレンズ交換を、待っている間。 スッ。 スマホを取り出した。 「行きたかったなあ」 ちょうど新刊の告知で、一日に取材を5件もお受けすることはめずらしくなく、むちゃくちゃ忙しかったのだ。 諦めなが

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耕助パパと愛しのボルちゃんの巻(ドラマ見学6日目)

とても、かなり、すごく、忘れっぽい。 わたしというやつは。 小学生のときは、忘れ物をしない日のほうがめずらしかったのではないか。絵筆やトイレットペーパーの芯やらをボンボン忘れ、図工の怖くて嫌味なオバチャン先生にいつも怒られ、泣いていた。 「絵筆持ってへんような子は、なにしに学校来たんかしらね。あー、なるほど、先生がバカやから見えへんだけやね。バカには見えへん筆ってね。ほな、続けましょ」 こっわ! 父が亡くなったときだけは、忘れるという才能が、身を守ってくれたように思う

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大いなる愉快な第一歩の巻(ドラマ見学5日目)

ダウン症の役者さんの撮影がはじまるとき、プロデューサーが「ライブ感のある現場ですよ」と、意味深なことを言っていた。 その深い深い意味が、やっとわかった。 岸本家が車で出かけるシーンの撮影前。 ここはミニ草太を演じる小倉匡くんの見せ場だ。 あまりの愛くるしさに、心臓をワシッと掴まれていたら、 「……あれっ?」 ピタッと凍りつく、匡くん。 靴を履き替えなければいけないのだが、足があがらない。やむを得ず、カメラが止まった。 匡くんのお母さんが、一喜一憂しながら見守っ

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飽きっぽいから、愛っぽい〜記憶と場所を巡る連載〜

講談社『小説現代』で連載していたエッセイがnoteでも全文読めます。地元の神戸市北区、修行の北海道小樽、一人暮らしの東京……記憶と場所を紐づけてなにかを取り戻していきたい。(イラストは中村隆さん)

飽きっぽいから、愛っぽい|筆を伸ばす、私を思う @西宮浜

講談社「小説現代」2020年9月号(8月21日発売)から、新連載を始めさせてもらうことになりました。 もともと、生い立ちに関する連載をしていたのですが、わたしが講談社の徳を積みまくる系敏腕編集・山下さんに甘えまくって、好き勝手に書きすぎたところ、当初の連載予定よりも早く現実に時間軸が追いついてしまうという、爆裂的な計画性のなさをふんだんに露呈する事態となってしまい。 「過去」と「場所」にまつわる連載「飽きっぽいから、愛っぽい」を、新しく書いていきます。 キナリ☆マガジン

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飽きっぽいから、愛っぽい|空白の記憶に、視点を願う@鈴蘭台

「小説現代1月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。 表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。 人生は間違いなくひとつだけど、紙の年表みたいに平面的ではなく、彫刻みたいに立体的だ。 眺める角度や高さによって、見えてくるものがぜんぜん違う。ひとつの人生を、たくさんの視点を行き来しながら、わたしは味わっている。 美術館で、絵画を楽しむようだ。 ハッとする。 ちょっとちょっと、わたしったらいま、ちょっと頭のよさそうなこと考えてたんじゃないの。急いで

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母と50万円払って、神の奇跡を手に入れようとした話

講談社「小説現代 3月号」に連載しているエッセイ「飽きっぽいから、愛っぽい」をnote向けに一部抜粋と編集をして、キナリ★マガジン読者限定で公開しています。イラストは中村隆さんの描き下ろしです。 いまから、十年以上も前のことだ。 「どんな人でも歩けるようにしてくれる、神様のような先生が北の国にいるらしい」 大動脈解離の後遺症で、下半身麻痺となった母のもとに、とんでもねえ話を手土産にしてきた男がいた。 母は当時、これまでの人生でまぎれもなくドン底にいた。昨日まで歩けてい

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飽きっぽいから、愛っぽい|無力なパンダは不幸にならない@神戸ハーバーランド

キナリ☆マガジン購読者限定で、「小説現代4月号」に掲載している連載エッセイ全文をnoteでも公開します。 「今回の表紙は、岸田さんも喜びますよォ」と編集部の人からもったいぶって伝えられてたんですが、地球が生んだ奇跡こと櫻井翔さんでした。喜びますっていうか恥ずかしい記憶が先に浮かび上がってくるので、直視できませんね。 表紙イラストは中村隆さんの書き下ろしです。 スーパー銭湯の休憩所で、わたしはパンダになっていた。 平日の昼すぎで、客はまばらだ。後ろのカップルはスマートフ

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姉のはなむけ日記〜ダウン症の弟のグループホーム入居騒動〜

ダウン症の弟が自立のため、グループホームへ入居することになっただけのはずが、別府まで車を買いに行ったり、看板をあわてて立てたり、家族で泣いたりした日々のこと。

人生は山あり谷ありクロード・チアリ(姉のはなむけ日記/第1話)

人生には山もあれば、谷もあり。 坂もあれば、クロード・チアリ。 ヒガシマルのちょっとどんぶり。(※注) うちの実家の目の前にも、坂がある。心臓破りとまではいかないが、心臓ヤバみくらいの傾斜の。 ニュータウンに突如として出現した、大型マンション密集地の中にあり、坂道を降りるとすぐ私有地の道路で、その先は野っ原がむき出しの斜面になっている。 子どもの頃、夏休みになると「よっしゃ〜〜!宿題終わった〜〜!遊ぶんじゃ〜〜〜〜!」とチャリでこの坂道を一気にくだり、勢い余って野っ

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蜃気楼に浮かびし10畳の楽園(姉のはなむけ日記/第2話)

ダウン症の弟が入居できるグループホームの空きが、やっと一箇所出たかと思えば、塩対応というか山椒対応というか小粒でもピリリと辛いどころか「収入が減るから土日の外出は許さねえ!」的なギッチギチの世知辛さをお見舞いされたのだった! 母のヤケクソ焼きは牛肉ヒレ、豚肉ロース、安納芋と三日も続き、レパートリーを着々と増やしていた。気持ちはわかる。 ふたたび一年、いや、三年。 空きが奇跡的に出るのを待つ日々に戻るのだ。

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ただここで暮らしたいだけなのに(姉のはなむけ日記/第3話)

ようやくたどりついた、良さそうな気配のするグループホーム。弟もノリノリだったが、思わぬ落とし穴にドボンするのであった。

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姉弟関係はいつもギリギリで森田一義アワー(姉のはなむけ日記/第4話)

その晩、実家から弟がわたしに電話をかけてきた。

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