GovTech東京で感じた、行政がアジャイル開発を取り入れる可能性
GovTech東京は、東京都庁と都内62区市町村のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するために「デジタルの力で、住民一人ひとりの生活を豊かに、そして幸せに」をミッションに、「情報技術で行政の今を変える、首都から未来を変える」をビジョンに掲げ2023年に設立されました。
東京都は行政サービスの質を高め、住民の暮らしの質を向上することを目指しており都政のクオリティ向上を目標に、都庁各局をはじめ都と連携する政策連携団体への技術支援を行っているのが都政DXグループです。
都政DXグループでは、東京都で実施している企画などの上流工程の支援や要件定義、プロジェクトの進捗管理を通じて、事業の成功に向けて強力にサポートをしています。日々の業務の中から見えてきた行政サービスの品質向上につながるノウハウやアイディアをnoteにて、連載形式でご紹介しています!連載した各記事は、本記事の最後に掲載しています。
連載13本目は、「アジャイル開発」をテーマに展開していきます。
自己紹介
はじめまして。GovTech東京 DX協働本部 都政DXグループの池田と申します。GovTech東京では都内区市町村の職員を研修という形で受け入れており、私は2024年4月より、東大和市からの派遣でGovTech東京へ参加しています。
1年間の活動の中で、様々なバックグラウンドを持つ職員がいる中で、日々刺激を受けながら充実した派遣期間を過ごしました。
派遣前は、課税課で固定資産の賦課業務(3年)、土木課で現場作業や図面作成(3年)など、 住民との距離が近く、システムやデジタルとは関係の薄い業務経験のなかで、GovTech東京へ派遣になりました。
突然ですが、みなさんは以下のような経験はありませんか?
部署間の調整に時間がかかり、事業の進行が遅延する
さまざまな関係者からの意見により、事業の方向性が当初の想定からずれてしまう
私の派遣元でもこのような問題が発生することがあり、漠然とした問題意識を感じていました。そうした中で、都庁各局の技術支援を通じてアジャイル開発のプロジェクト進行を経験したことにより、派遣元にもアジャイルの考え方を取り入れることができれば、部署間の協力体制を強化し、より柔軟な対応が可能になるのではないかと考えるようになりました。
ということで本記事では、アジャイル開発のプロジェクトで経験したことをベースに、アジャイル開発のポイントを紹介したいと思います。
私はアジャイル開発に詳しいわけではありませんが、アジャイル開発のポイントについて、実例を踏まえて理解いただけるかと思います。
より詳しい内容については、東京都のアジャイル型開発プレイブックをご覧ください。
「アジャイル型開発プレイブック」を公開しました – シン・トセイ
そもそもアジャイル開発とは?
アジャイル開発とは、「早く・柔軟に」システムやサービスを開発する手法です。 従来のウォーターフォール型(要件定義→設計→開発→テスト→納品という流れで進める開発手法)と異なり、スプリント(短期間の開発サイクル)を繰り返し、継続的に改善を重ねていくのが特徴です。
要するに、「小さく作って、すぐにふりかえり、改善しながら進める」というサイクルを繰り返す手法です。
他部署や住民の意見、社会情勢、法改正などに迅速に対応しながらプロジェクトを進められることがアジャイル開発のメリットです。 行政では、年度の途中で発生する追加要件の予算確保が困難な場合が多いため、プロジェクトの途中で追加要件が生じやすいアジャイル開発はあまり採用されなかった手法ですが、比較的小規模なプロジェクトにはピッタリだと感じました。

結局どんなことをやるの?
では実際にアジャイル開発の各イベントにおいて、どんなことをやっていたのか、派遣者の私がどんなことを感じたのかを紹介したいと思います。
~スプリントプランニング~
【概要】
スプリントプランニングとは、スプリントと呼ばれる周期(都事業では1週間)の最初に行われるプロジェクトチーム全員参加のイベントで、実際に開発するプロダクトをスプリントの中で、どのように・どんなものを開発していくかを決めていくイベントのことです。このイベントのポイントとしては「スプリントが終わったときに、どんな成果が出ていれば成功か?」を明確にすることです。
【感じたこと】
PO(プロダクトオーナー)からヒアリングを行いプランニングを進めていくのですが、初期のスプリントでは実現したいこと・何ができるのかが曖昧な場合が多く、「こんな曖昧な状態で進めて大丈夫なの?」「まずは全体の要件を固めるべきでは?」などと不安を感じましたが、短期間で見直す・まずはやってみる!というアジャイル的発想が新鮮で「完璧な計画は不要、まずは動き出すことが大切」という気づきを得ました。
~バックログリファインメント~
【概要】
バックログリファインメントとは、POが次のスプリントでバックログ(やりたいこと)を追加、削除、変更などを行い、優先順位をつけリスト化する取り組みになります。
リスト化したものを開発チームと相談しながら、このスプリントでどこまでできるのかを決めていきます。
この取り組みのポイントは「議論や作業の前提としてプロダクトゴールに着目する」ことです。
【感じたこと】
スプリントが進むにつれ、当初決めたこととズレることが多くあり、最初はこんな感想を抱きました。
・「最初に決めた計画が変わるのはアリなのか?」
・「決めたことをまた話し合うの?決定事項を変えるのは大変だな」
・「行政では一度決めたら変更が難しい場合が多いが、こんなに柔軟に変えていいの?」
しかし、プロジェクトを進めていくうちに新しい課題が見つかることも多くあり、状況に応じて計画を変える柔軟性が重要であり、細かく見直せば、大きな失敗を防げるという学びに繋がりました。
~スプリントレビュー~
【概要】
スプリントレビューとは、開発チームとステークホルダー(プロジェクトの関係者)が参加するイベントで、スプリントの成果を確認しフィードバックを共有したうえで、次のスプリントの方向性を確認します。
具体的には、スプリントで開発したものを実際に動かしてデモンストレーションを実施し、参加者から率直な意見を貰った上で、次のスプリントで何を優先するのかを話し合います。
完璧ではなくてもいいので、 動くものをどんどん見せることが大切です。
【感じたこと】
スプリントレビューを住民向けサービスの場合で考えると、住民や関係者に喜んでもらえるサービスを作るには、早めの意見収集が重要だと感じました。
~レトロスペクティブ~
【概要】
レトロスペクティブは、スプリント内の開発のふりかえりを行う場になります。具体的には、スプリントが終わった後に、開発チームが集まり「何がうまくいったか?」「何を改善すべきか?」をふりかえるミーティングのことです。
スプリントレビューと似ていますが、スプリントレビューは「ステークホルダーに成果を見せてフィードバックをもらう場」なのに対し、レトロスペクティブは「開発チーム内でプロセスをふりかえり、改善点を話し合う場」というような違いがあります。
ふりかえりの場でありがちですが、「ダメな点を責める」ではなく、「より良くする方法」を考える場にすることが大切です。
おわりに
アジャイル開発は、「限られた予算・リソースを有効活用したい」「開発途中で与件が変化することが予想される」というプロジェクトにはピッタリです。
ですが実際に行政でアジャイル開発を導入しようと思った際には、仕様書が確定してから契約する調達のプロセスとなることや、そもそもアジャイル開発を理解しているIT人材が不足しているなどの障壁が予想できます。まずは小規模なプロジェクトでの試験導入から始めてみるのが良いかもしれません。
反対に、財務会計システムや住民基本台帳システムのような大規模インフラ系システムを導入する際には、厳格な要件定義が求められるため、従来のウォーターフォールの方が適していることもあることには注意が必要です。
最初は戸惑いますが、「柔軟に改善しながら進める」という考え方が身につけば、行政の業務改善にも活かせると思います!
都政DXグループでは、仕様書・事業者要件の作成支援やPMO支援なども行っています。「結局どのように進めたらいいか分からない!」という方は、是非他の連載記事もご覧ください!
これからも私たち都政DXグループは、各現場の職員の皆様に寄り添いながら、都の事業の成功と都政のQOS (Quality of Service)・都民のQOL (Quality of Life)向上に努めてまいります!
私たちと一緒に、東京都の事業に貢献したいと思っていただいた方は、是非、以下の採用リンクをご覧ください。
連載記事一覧
都政DXグループの役割や目指す姿などについて
【第1回】行政関係者必見!デジタルサービスを設計するうえで大事な「仕様書」作成のポイント
【第2回】デジタルサービスの品質を高めるためのユーザーリサーチの重要性
【第3回】東京都のデジタルサービス品質向上を目指し「事業運用の型化」を推進する理由
【第4回】利用者と提供者の視点から考える、都政DXに求められる"サービスデザイン"とは
【第5回】業務プロセス全体を根本から見直し、ゼロベースで再構築する「BPR」を成功させるためには?
【第6回】データの見える化で事業改善!PDCAサイクルを回すために
【第7回】開発前にビジュアルで議論をする大切さ(モックアップ、プロトタイプ)
【第8回】失敗しない!すぐに使える事業者選定ノウハウ ~事業推進のための健全なパートナー選び~
【第9回】プロジェクトを円滑に進めるために必要なこと
【第10回】ユーザーの声をサービスに取り入れる(リリース前のユーザビリティテスト)
【第11回】区市町村派遣者がGovTech東京で得たもの・成長したこと
【第12回】GovTech東京で得られた知見~データの活用による業務改善~
