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『名を待つ影の村』|マガジンリンク

サクサク読めて、脳と心が静かに休まる系ファンタジー。🌙 ※ただいま、これまでのお話をたどりやすい形に整えています🍃 『名を待つ影の村』は、 静かでやさしく、 少しずつ話が進んでいく物語として書いています🌿 寝る前のひととき、 駅のホーム、 休憩の合間にもどうぞ☕️ 章ごとのマガジンパックにしました。 まとまりごとにご活用くださいませ📚 第一章|風とぬくもりの村 草原で目覚めた少年が、村の門をくぐる。 →読む🎯 第二章|影が芽吹くころ 名前の気配と、足もとに寄

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連載小説|第一章 第一話「心地よい風とぬくもり」|記憶は気配にほどけて|

🌿 第一章 第一話 「心地よい風とぬくもり 第一章 第一話 「心地よい風とぬくもり」 草の匂いがした。 やわらかな風が頬をなでていく。 風のざわめきの中に、花の甘さがまじっていた。 頬にかすかな重さが触れ、花びらが地へころんだ。 土の感触が、背中からじんわり伝わってくる。 「あれ……」 息が、静かに戻ってくる。 目をゆっくり開けると、空が広がっていた。 どこまでも青く、どこか懐かしい空。 視界の端に、灰色がじわりと立ち上がった。 顔を向けると、一匹の猫

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連載小説|第一章 第二話「耳の奥の記憶」|ぬくもりと猫、ひと息で|

 第一章 第二話 「耳の奥の記憶」草の感触が、まだ指先に残っている。 陽ざしのぬくもりが、心臓の奥にじんわりと染み込んでいた。 その余熱が、まだ体の中でゆっくり混ざっているようだった。 その灰色の猫は、まだ動かず、こちらを見ている。 まるで、目を合わせたまま何かを待っているみたいに。 その視線に、ただの動物とは思えない何かがあった。 「……ここは……?」 声に出してみると、自分の声が少しだけ幼く響く。 耳の奥で、その高さだけが妙にくっきりと残った。 どこか、

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連載小説|第一章 第三話「村の門とひみつ」|場所は静まり、大人はやすむ|

第一章 第三話 「村の門とひみつ」門をくぐった瞬間、空気がすこしあたたかくなった。 草とパンの匂いに、焼いた木のにおいがまじる。 小さな家々の窓からやわらかな光がこぼれ、ここがだれかの暮らす場所だと分かった。 「だれ……?」 木の剣を握った子どもが、目をまんまるにしてぼくと足もとの猫を見た。 その後ろで、大人たちは猫にだけ目をとめて息をのんだ。 そして、すぐに視線をそらす。 猫のことは、だれも口にしない。 この村では、それが静かな決まりごとのようだった。 猫は

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『名を待つ影の村』第五章|名のつぼみがひらくころ

『名を待つ影の村』の第五章パックです。 第一話から第十四話まで、ユウが家のぬくもりの中で影との距離を少しずつ確かめ、灰色の猫や森の気配に導かれながら、境の場で「名」と向き合っていく流れをひとまとまりで読めるようにまとめました。 笑いのある日常から、森の奥の静かな問い、そして影と共に歩き出すところまでがつながっていく、無料の第五章パックです。

連載小説|第五章 第一話「甘さと笑い」|真夏のお菓子は、風にとけて|

第五章 第一話 「甘さと笑い」滝へ向かった日から、数日がすぎた午後だった。 ユウは、ミーヤと暮らす家の居間で、いつもの椅子に座っていた。   窓からやわらかい風が入り、台所からは甘い匂いを含んだあたたかい空気が流れていた。 「お待たせー」 ミーヤの声とともに、木の盆がテーブルの上に置かれた。   ハマクルの暗い赤いソースをかけた焼き菓子と、湯気の立つ草のお茶が並んでいた。 「わぁ、ハマクルのにおいだ!」 いちばん先に声を上げたのはアイリだった。   身を乗り出

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連載小説|第五章 第二話「かいわのしおり」|数あての呼び、するっとはずれる|

第五章 第二話 「かいわのしおり」甘い匂いが薄れはじめ、テーブルには食べかけの焼き菓子とカップだけが残っていた。   ミーヤは台所で片づけをしながら、ときどきこちらを振り返る。 モモカがフォークの先で皿のふちを、とん、とつついた。 「影の名前って、どうやって決めたらいいんだろうね」 アイリはお茶をひと口飲んで、カップをテーブルに戻した。 「またその話?」 「うん、どうしても気になって」 「名前がね、ぜんぜん決まらないの。なんとなく“サ行”な気はするんだけど」

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連載小説|第五章 第三話「影のひとりごと」|影にささやき、こころはやすむ|

第五章 第三話 影のひとりごと畑の帰り道。村の外れ、誰もいない小道をひとり歩いていたユウは、気づけば言葉をやめていた。 日ざしは少し汗ばむのに、通り抜けていく空気だけはすこし冷たくて、夏の匂いがした。 草をなでる音、木の枝がこすれる乾いた囁き。その気配に身をゆだねながら、彼の足は自然と裏庭の小さな丘へ向かっていた。 背後には、気配のような影がついてくる。猫のような、でも完全には見えない輪郭。 最近は、畑の帰りにこうしてついてくるのが、当たり前みたいになっていた。 と

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連載小説|第五章 第四話「アイリの予感」|灰色の猫の気配、ウサギはふっと|

第五章 第四話 アイリの予感   夏の午後、明るい石畳の道を、四人とその影が歩いていた。市場の帰り道だ。 前をモモカとソウタが歩き、うしろをユウとアイリが並ぶ。ユウの足もとには影のこねこが寄りそっていた。 アイリはふと足もとを見る。 小さなウサギみたいな影が、ぴょこんと耳をゆらした。 「ねえ」 アイリがぽつりと言う。 「うちのお父さんね、影って、その人とか、その家の人に、すこし似てくるんだって」 そう言って、影のウサギの耳に、そっと指をふれた。 「だから、わた

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『名を待つ影の村』創作ノートと設計ライン|物語のまわり他

『名を待つ影の村』の創作ノートと設計ラインをまとめたマガジンです。 本編の背景にある感覚、章ごとのふり返り、登場人物や夢や名前や気配についてのメモ、そして「サクサク読める」ための工夫や、静かに休まる物語としての設計意図を、ひとまとまりで読めるようにまとめました。 物語の外側にある気配と、そのつくり方の両方にふれられる無料マガジンです。

創作ノート |登場キャラクター紹介 1|(第四章第六話まで) |よびかけの記憶|

創作ノート   登場キャラクター紹介 1第四章・6話までの時点で“見えている範囲だけ”を並べています。 ※ 灰色の猫とトモエ・キホウのキャラクター紹介は別記事にまとめています。下にリンクあります。  ユウ (名の手前で、耳をすます)【立ち位置】   夢の底の記憶をたぐって自分で名乗った少年。記憶はあいまいなまま、あの夜の言葉を胸に歩いている。   【影の気配】   子猫のような気配が寄り添っている。名はまだ呼ばない。音だけが口の奥にやわらかく残っている。   【い

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この物語について、すこしだけ

この物語について、すこしだけ にぎやかな物語も好きだけれど、 自分が書くときは、どうしても「静かでやさしいほう」に手が伸びてしまいます。 この連載でも、 大きな事件や派手な出来事より、 その日その瞬間の空気や、誰かの手のぬくもり、 どこかで見たような景色のやわらかさを、 そっとすくい上げるような気持ちで書いています。 一話一話は、あまり長くありません。 電車を待っている数分とか、 眠る前のふとした時間とか、 日常のすき間に、さっと読めるくらいの分量を意識しています。 読

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第二章 一〜六話のまとめと、登場人物たちのこと

第二章 一〜六話のまとめと、登場人物たちのこと第二章の前半では、 ユウが石垣の家で「名前」と「家のぬくもり」を受け取って、 ここにいてもいいのかもしれない、という感覚を少しずつ育てていきます。 後半では、その居場所が家の外にもひろがって、 畑や広場で過ごすあいだに、 同い年の子たちとの出会いや、 ことばにならない「影」の気配にふれていく時間が描かれています。 ここまでに登場した主な人たち ユウ 記憶の一部があいまいなまま、村にたどり着いた少年。 名前と居場

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第二章1〜10話の、小さなふり返り

第二章1〜10話の、小さなふり返り 第二章では、まずミーヤの家での暮らしが少しずつ形になっていきました。 名前を「ユウ」と名のる場面や、朝の食卓、猫と視線を交わす時間の中で、 「ここにいてもいいのかもしれない」という感覚が、静かに根を張っていきます。 そこから、家の外へも世界が広がります。 畑を任されて土にふれること。広場で同い年の子たちと遊ぶこと。 足もとの「影のこねこ」や、ミーヤのそばにいるミヌラビの気配に気づくことで、 目に見えないやさしさが、日常のなかに少

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『名を待つ影の村』第四章|名の手前で息をそろえる

『名を待つ影の村』の第四章パックです。 第一話から第十五話まで、ユウが夢の中の響きや足もとの影の気配を受け取りながら、友だちとの日常、森の入口、トモエとの出会い、そして滝のそばの静かな場へと歩みを進めていく流れをひとまとまりで読めるようにまとめました。 名を呼ぶ手前の揺れ、影が育っていく感覚、そして呼吸をそろえる時間が少しずつ深まっていく、無料の第四章パックです。

第四章 第一話 「夢の形見」

第四章 第一話 (プロローグ) 「夢の形見」風もなく、水もなく、ただ響きだけがあった。 ユウはそこに立っていた。けれど、それが立つという感覚かどうかも定かではなかった。足も、影も、形も曖昧で、ただ音の中にいる――そんな夢の中だった。 《……ユウ……》 遠くで声がした。けれど、誰の声かはわからない。それは誰か一人の声ではなく、獣のうなりと、母のささやきと、自分の胸の鼓動とが混ざったような、柔らかくて、深い音だった。 足元に、影がいる。四つ脚で、まだ輪郭の定かでない影。

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第四章 第二話 「名が呼ぶ方へ」

第四章 第二話 「名が呼ぶ方へ」 風が変わった。 そう思ったのは、朝の市の通りで風にひるがえる布を見たときだった。 季節が移ろい、村の空気も少しずつやわらぎを帯びている。乾いた冷気の中に、土の匂いや、新芽の気配がまじっていた。 あれから数ヶ月。村長の家を訪ねた夜のことは、ユウの中で何度も思い返された。あのとき交わされた言葉も、火の揺らぎも、名もなき気配の視線も、すべてが消えずに残っている。 「名をつけなさい。名は影を育てるよ」 それは命令ではなかった。だが、心に深く

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連載小説|第四章  第三話 「影の歩幅」 |足元の気配と心がやすむ刻

第四章 第三話 「影の歩幅」村の空気が少し乾いてきたのを、ユウは朝の風で感じていた。 季節はまた、音を立てずに移ろいながら、影の輪郭にもゆっくりと色を重ねていた。 いつからか、自分のすぐ背後を風が通り過ぎる感覚に、ユウは驚かなくなっていた。 その風は、ただの風ではない。柔らかく、けれど鋭く、低くうなるような気配をたたえている。 足元の草がわずかに折れるとき、それは風のせいではないのだと、今ではもう分かっていた。 「……そこにいるんだろ?」 ユウは、背後の気配に語り

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連載小説|第四章 第四話「土と影の間で」|影の交差、心ゆるむ|

第四章 第四話 「土と影のあいだで」畑の土はすっかり乾いて、春のぬかるみの気配はもうなかった。 ユウが久しぶりに踏みしめたその土の感触は、やわらかく、すこし熱をもっていた。手入れされた畝の間には、芽を越えて育った葉が力強く茂り、季節の流れがこの地にも確かに息づいていることを知らせていた。 「あ、ユウだ」 最初に気づいたのはアイリだった。 鍬を手にしていた彼女のそばには、地面すれすれに白くふわりと揺れる影。丸くて、耳の長い、それはウサギのかたちをしていた。けれど輪郭はま

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『名を待つ影の村』第三章|塔の灯りと問い

『名を待つ影の村』の第三章パックです。 第一話から第十五話まで、ユウが友だちと影を試しながら村での感覚を深め、夢や森や市場での出来事を通して、村長のもとへ向かっていく流れをひとまとまりで読めるようにまとめました。 影の輪郭、記憶の森、羽音の気配、そして「名」へ向かう問いが少しずつ形になっていく、無料の第三章パックです。

第三章 第一話 「風のなかの影たち」

第三章  第一話  「風のなかの影たち」 あれから、ひと月ほどが過ぎた。 ユウの暮らしは、少しずつ村に馴染んでいた。 朝の光が差し込む縁側でミーヤといっしょにお茶をすすり、遠くで子どもたちの笑い声が聞こえてくる。 前はぼんやりとした「気配」としてしか分からなかった村の空気の濃淡や、足もとに寄り添う影の揺れが、いまでは肌でそっと感じ取れるようになってきていた。 「ユウ、おーい!」 風に乗って届いたのは、ソウタの声だった。 その後ろには、モモカとアイリの姿もある。三人

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第三章 第二話 「夢の底、光のまえ」

第三章  第二話  「夢の底、光のまえ」 夜。 ユウは、久しぶりに深く眠っていた。 まどろみの中、意識がゆっくりと沈んでいく。 やがて、言葉のない時間が訪れた。 ──空が広い。 ──風があたたかい。 ──地面がやわらかい。 そして──音がする。 「……ぴい……」 小さな鳴き声。 草むらの奥に、小さな生き物が倒れていた。 白く、ほのかに震えている。 ひとりの少年が、そっと近づき、手を差し出した。 ぴょこん、とその小さな生き物が顔をあげる。 それは、一

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第三章 第三話 「記憶の森にて」

第三章  第三話  「記憶の森にて」 ──夢の続き。 ユウは、森の中にいた。 けれどそれは、今の「北の森」ではなかった。 もっと広くて、もっとやわらかく、 すべてが息をしているような森だった。 白ウサギが、ユウの足元をぴょんぴょんと跳ねている。 ときどき振り返っては、ユウがついてきているかを確かめる。 「こっちだって、言ってるの?」 思わず問いかけると、ウサギは一度立ち止まり、 ふんわりとお尻を振ってみせた。 そのまま、光の差す小道へ──。 やがて、たど

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第三章  第四話  「縁の種子(たね)」

第三章  第四話  「縁の種子(たね)」 ──夢はさらに深く、やわらかい光の中へ。 ユウは、静かな空間にいた。 そこは森でも山でもなく、すべてが白く透けている場所だった。 まるで、思い出そのものの中に立っているようだった。 ふいに、目の前に三つの光が現れた。 白く、やわらかく、あたたかい。 それぞれが小さく脈を打ち、ユウに近づいてくる。 ウサギの光。リスの光。タカの光。 それはもう、動物のかたちではなかった。 けれど、あの目の奥にあった深いもの── 言葉

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『名を待つ影の村』第二章|影が芽吹くころ

『名を待つ影の村』の第二章パックです。 第一話から第十話まで、ユウがミーヤの家で居場所を得て、自分の名前を受け取り、畑や広場での暮らしの中で少しずつ世界を広げていく流れをひとまとまりで読めるようにまとめました。 家のぬくもり、友だちとの出会い、足もとに寄り添う影の気配、そして森の入口の空気までが静かにつながっていく、無料の第二章パックです。

連載小説|第二章 第一話「やさしさの置き場所」|置物と布団、薄明|

第二章 第一話 「やさしさの置き場所」小さな村の片隅、石垣に囲まれた静かな家。その門の前で、少年は立ち尽くしていた。 「……きみだね。今日から、ここに来る子ってのは」 そう言ったのは、やわらかな落ち着きをまとった、まだ若さがのこる女性だった。 黒髪を後ろでゆるく結い、エプロン姿のままこちらを見下ろしている。 目元はやさしく、働き慣れた手つきに、暮らしのあたたかさがにじんでいた。 「名前は……まだ決めてないんだね。うん、それもいい。まずは体を洗って、ゆっくり休みなさい」

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連載小説|第二章 第二話「ゆめにささやく」|名前と少年、ひと息で|

第二章 第二話 「ゆめにささやく」 月の光が、薄く、静かに差し込んでいた。 古びた木の天井と、あたたかな布団。 微かに草の香りが混ざった夜気が、そっと頬をなでた。 少年は、浅く眠っていた。 ――ユウ。 その声は、夢の中に滲むようにして届いた。 誰かの、優しい声。 言葉というより、心のひだに触れる音のようだった。 ――ユウ、こっちだよ。 ざわりと草が揺れる音。 遠くで猫のしっぽが空を撫でる。 振り返ると、夜の野原にぽつんと立つ猫の背。 少年はゆっくりとそ

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連載小説|第二章 第三話「耳にこぼれた名前」|毛並みは不思議にほどけ、心はやすむ|

第二章 第三話 「耳にこぼれた名前」 朝の光が、藁ぶき屋根のわずかな隙間から斜めに差し込んでいた。 ユウは、まだその光をまぶたの裏に感じながら、布団の中でぬくもりを味わっていた。 体を起こすと、囲炉裏の近くからパンの香ばしい匂いが届く。 「あ、起きたね」 ミーヤの声がした。ふっくらとしたその背中が、鍋の湯気の中でゆらいでいる。 「よく眠れた?」 「……うん、たぶん。あんまり夢は覚えてないけど……」 口に出してから、ユウはふと不思議な気配を思い出す。 夢の中に、

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連載小説|第二章 第四話「風の縁、芽吹く土」|芽吹きの土に、動物が集う|

第二章 第四話 「風の縁、芽吹く土」ミーヤの家で迎えた二日目の朝。 ユウは、わずかに残る夢の余韻を引きずりながら、木の香りのする天井をぼんやりと見上げていた。 扉の外からは、風に乗って鳥の声が運ばれてくる。 ぴい、と小さな鳴き声。次に、にゃあ。 ユウはふと微笑んで、静かに身体を起こした。 小さな窓から差し込む光の中に、ミーヤが顔をのぞかせた。 「おはよう。今日は少し歩こうか、ユウ」 ユウはこくんと頷いた。まだこの世界に馴染んだわけではないけれど、ミーヤの言葉には

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『名を待つ影の村』第一章|風とぬくもりの村

『名を待つ影の村』の第一章パックです。 第一話から第三話まで、ユウが村のぬくもりに触れ、耳の奥に残る記憶や、村の門の向こうにある小さなひみつと出会っていく流れをひとまとまりで読めるようにまとめました。 この世界のやさしさと不思議の入口が少しずつ見えてくる、無料の第一章パックです。

連載小説|第一章 第一話「心地よい風とぬくもり」|記憶は気配にほどけて|

🌿 第一章 第一話 「心地よい風とぬくもり 第一章 第一話 「心地よい風とぬくもり」 草の匂いがした。 やわらかな風が頬をなでていく。 風のざわめきの中に、花の甘さがまじっていた。 頬にかすかな重さが触れ、花びらが地へころんだ。 土の感触が、背中からじんわり伝わってくる。 「あれ……」 息が、静かに戻ってくる。 目をゆっくり開けると、空が広がっていた。 どこまでも青く、どこか懐かしい空。 視界の端に、灰色がじわりと立ち上がった。 顔を向けると、一匹の猫

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連載小説|第一章 第二話「耳の奥の記憶」|ぬくもりと猫、ひと息で|

 第一章 第二話 「耳の奥の記憶」草の感触が、まだ指先に残っている。 陽ざしのぬくもりが、心臓の奥にじんわりと染み込んでいた。 その余熱が、まだ体の中でゆっくり混ざっているようだった。 その灰色の猫は、まだ動かず、こちらを見ている。 まるで、目を合わせたまま何かを待っているみたいに。 その視線に、ただの動物とは思えない何かがあった。 「……ここは……?」 声に出してみると、自分の声が少しだけ幼く響く。 耳の奥で、その高さだけが妙にくっきりと残った。 どこか、

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連載小説|第一章 第三話「村の門とひみつ」|場所は静まり、大人はやすむ|

第一章 第三話 「村の門とひみつ」門をくぐった瞬間、空気がすこしあたたかくなった。 草とパンの匂いに、焼いた木のにおいがまじる。 小さな家々の窓からやわらかな光がこぼれ、ここがだれかの暮らす場所だと分かった。 「だれ……?」 木の剣を握った子どもが、目をまんまるにしてぼくと足もとの猫を見た。 その後ろで、大人たちは猫にだけ目をとめて息をのんだ。 そして、すぐに視線をそらす。 猫のことは、だれも口にしない。 この村では、それが静かな決まりごとのようだった。 猫は

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門番レイン 第5パック|揃う旋律と土鍋の夜

門番レインの第5パックです。 第十六話から第十八話まで、揃ってしまう旋律をめぐる小さな異変と、その着地までをひとまとまりで読めるようにまとめました。 巡回の鼻歌から夜の土鍋セッションへつながっていく、無料の第5パックです。

第十六話 「巡回ハミング」

第十六話 「巡回ハミング」村長無視の出来事が、きれいに解消した――ある日。 レインは朝から巡回している。 今日は畑コースを進んでいた。 畑にいた村人たちが、ぽつり、ぽつりと声をかけてくる。 「おはようございます、門番さん!」 「おはようございます、いつも早いですね。」 レインは丁寧に返していた。 その瞬間、脳裏に村長の後日談がうかぶ。 「おはようございます、プレイン」 「レインです」 (なにかを感じる。……この流れ、少しだけ危ない。) 「レイン、今日も元

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第十七話 「旋律と同期」

第十七話 「旋律と同期」「口ずさんだな」 背中から、鍵束の音。じゃらじゃら。 午前担当、元・盗賊。 目が細くて、真顔で言う。 「……口ずさんでません。ハミングです」 「口ずさんでもいた」 「……まじってた、かもしれません」 盗賊はレインの喉元を見た。 「喉が軽いときほど、情報が漏れる」 「喉から情報って漏れますか?」 「漏れる。音は足跡より正直だ」 盗賊は耳を澄ませる仕草をした。 そのまま腕を組む。 「で、その旋律。途中から同じになるな?」 レインは

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第十八話 「土鍋セッション」

第十八話 「土鍋セッション」夜。 なんとか亭は、いつもより賑わっていた。 レインはもう店について、料理を待っていた。 端の席。背中が壁につく場所。 客が多い。 盗賊の言葉を、思い出す。 (……客が増えてる。ほんとに。) 亭主のおばさんが、小さな土鍋を置いた。 下には、小さな火――いずれ消える火。青く揺れている。 「今日は土鍋の炊き込み。」 「火はいじらない。ふたも開けない」 「火が消えたら蒸らし。合図まで待って」 土鍋は火にかかっている。 ふたの縁か

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企画

いろいろな企画 ごった煮です。

【企画】レイン、ミニVnoterになる🌈

おはようございます😊 ちょっとしたコメディ企画として、「レイン三行日記」を始めます。 これは、物語の中にいる門番レインが、三行くらいの短い日記やひとことを書き、そこに読者のみなさんがコメントできる形の企画です。 ただし、ふつうの感想欄とは少し違います。 このコメント欄では、作品の外から感想を書くというより、 物語の中の【レイン】 に話しかける形での参加をお願いします。 たとえば、村に立ち寄った人、門の前を通る人、少し顔なじみの人、くらいの気持ちで大丈夫です。

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【企画参加】第1回 宇宙珍獣🦄🌬️ユル勇者あかね祭り🌸

この記事を読んで、共創社会に向けて少し意欲がわきました。 物語風でも書いてみたいなと思います。 素敵なきっかけをありがとうございます。 「ありがとうございましたー!」 あかねは美容院の扉に「closed」の札をかけた。 しんとした店の奥で、勇者の証――聖挟みを引き抜く。 冒険の始まりだ! 広い草原。 ユル勇者あかねは、魔方陣の真ん中に、聖挟みを刺した。 光がひらく。 二匹の朋(とも)が現れる。 「パーティー結成だ!」 「ワン!」「ワン!」 夕暮れの魔王城。

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門番レイン 挿話パック|村長と挨拶の渦

門番レインの挿話パックです。 Side Story 01から03まで、村長の朝から広がっていく、少し不思議な挨拶の渦をまとめました。 本編の流れをやわらかくつなぐ、無料の挿話パックです。

門番レイン Side Story 01:村長「噴水前ボルテックス」

※レインが就任する前の話です。 ※「挨拶の文字」だけでクライマックス相当の分量になったので、今回は少し長めです。ご了承ください。 試し読みの方の合流ポイントです。→🌀第十三話「村長は、無視した」 門番レイン Side Story 01:村長「噴水前ボルテックス」 「おはようございます」 「おはようございます、村長」 その日、村では挨拶が不自然なほどの確率で重なった。 ―― ねば、ねば。 納豆をかき混ぜる音が、居間の静けさをほどく。 村長は低い卓の上で箸の先を見つ

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門番レイン Side Story 02:村長「おはようの果て」

※「挨拶の文字」だけでクライマックス相当の分量になったので、今回は少し長めです。ご了承ください。 ※試し読み(合流ポイント)はこちら →🌀第十三話「村長は、無視した」 ※前話がまだの方はこちら →🌀 01「噴水前ボルテックス」(📗読むと理解が進みます) 門番レイン Side Story 02:村長「おはようの果て」噴水前。 村長は、まだ役場に着いていない。 列はもう巻いている。渦のように……。 付き人は半歩うしろで帳面を抱えた。 噴水の水音の上で、挨拶が輪になって戻

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門番レイン Side Story 03:村長「筆談とタマゴサンド」

※サイドストーリー村長、最終話です。 レイン、おまけあり🌱。 ※試し読み(合流ポイント)はこちら →🌀第十三話「村長は、無視した」 ※前話、前々話、がまだの方はこちら →🌀 01「噴水前ボルテックス」(📗読むと理解が進みます) 門番レイン Side Story 03:村長「筆談とタマゴサンド」夕暮れに、紺が混ざるころ。 役場の外は、人の気配が潮のようにひいている。 噴水の水音が、遠くでしゃあしゃあと鳴っている。 その上を、夜の風が一枚、薄くかぶせた。 役場の中の人

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