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マガジン一覧

世界で一番綺麗なあなたへ

わたしが書く小説「世界で一番綺麗なあなたへ」のマガジンです。

【連載小説】世界で一番綺麗なあなたへ(第八話:出たものと出なかったもの)

第八話:出たものと出なかったもの 女性トイレは、フロアの奥にあった。 平日の昼間、人は少なかった。 個室が三つ。洗面台が二つ。 雅は静かに、洗面台の前に立った。 蛇口を捻って、水を出す。 冷たい水で手を洗った。 何度も、何度も。 ふと手を止めて顔を上げる。 見るつもりはなかった。 でも目の前にあった鏡を見る。 黒のコート。真珠のない耳。 そして、何度も見た顔。 白色灯の下で、頬の影が深い。 目の下にある、うっすらとしたくま。 十日間、よく眠れなかったせいでいつもよりも

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【連載小説】世界で一番綺麗なあなたへ(第七話:過去の栄光が崩れる日)

第七話:過去の栄光が崩れる日 翌朝、雅はいつも通り六時に目が覚めた。 窓を開けて、カーテンを引く。空は曇りだった。 洗面所で洗顔した後、化粧台の鏡の前に座ってスキンケアをする。 化粧水。美容液。乳液。クリーム。 指の腹で丁寧に押し込む。 いつも通りだった。 クローゼットを開けて、白いジャケットを手に取り、戻す。 ベージュを手に取り、戻す。 そして、クローゼットを閉める。 もう一度、化粧台の鏡の前に座って下地を塗る。 コンシーラー。ハイライト。ファンデーション。チーク。ア

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【連載小説】世界で一番美しいあなたへ(第六話:赤を脱いだ夜)

第六話:赤を脱いだ夜 次の来店は、三日後だった。 雅はいつものようにまっすぐカウンターへ来て、カウンターの前に立った。何も言わなかった。あかりも何も言わなかった。 しばらくして、雅が言った。 「例のもの、見せなさい」 「かしこまりました」 あかりは104番を取り出した。 ローズがかった赤。 主張しすぎない、寄り添う赤。 雅がそれを手に取った。 キャップを外して、眺めた。 「…地味ね」 「そうかもしれません」 「これのどこがいいの?」 「一度、ぜひ試してみてくだ

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【連載小説】世界で一番美しいあなたへ(第五話:強い赤と弱い赤)

第五話:強い赤と弱い赤 十一月に入って、雅の来店頻度が上がった。 週に一度だったのが、週に二度になった。 新作がない日も来る。 何かを買う日もあるが、見るだけで帰る日が増えた。 あかりはそれを、特に何も言わずに受け入れた。 来たら接客する。帰ったら見送る。 それだけだ。 少しずつ会話が長くなっていた。 その日、雅は新しいアイシャドウパレットを手に取っていた。 秋冬の限定色。 テラコッタとゴールドと深いボルドーが入ったパレット。 「今季らしい色ね」 「仰る通りでご

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愛しておくれ

私が書く小説「愛しておくれ」のマガジンです。

愛しておくれ(最終話:脱皮のあと)

最終話:脱皮のあと 二週間後の平日、お昼前。 「佐藤さん、お電話です」 事務員の声に、受話器を取る。 「お電話代わりました。訪問看護ステーションモンステラの佐藤です」 「…もしもし」 その一拍の間だけで誰かわかった。 「蒼佑ですけど」 「お世話になっております。この度は、ご愁傷様でございました」 「もんのすっごい他人行儀」 「勤務中ですので」 「そっか。相変わらずちゃんとしてるなあ、佳代チャンは」 その呼び方に、胸の奥の古い部屋が小さく開く。 「ご用件は

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愛しておくれ(第十四話:最期に見えるもの)

第十四話:最期に見えるもの 蒼佑くんのお父さんである真司さんは日を追う毎に、衰えていった。その時が、刻々と迫っているような気がした。痴呆は相変わらず、まだらだった。しっかりと私のことを「看護師さん」と認識することもあれば「紗江」と呼ぶこともあったし、時々「映子」と勘違いすることもあった。 時々出てくる、奥さんの名前。そしてそういう時は大抵「映子、ごめん…ごめん…」とひたすら謝ることが多くて、一番返答に困った。 今日は、紗江さんの日だった。 「紗江」 「二人で行った金沢旅行

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愛しておくれ(第十三話:綺麗じゃない終わり)

第十三話:綺麗じゃない終わり 少しの間、沈黙が落ちる。 遠くで電車の音がした。 「俺が結婚したのは、三十の時で。相手は一つ下で、保育士やってた子。友達の紹介で出会ってね。しっかりした子でさ。俺みたいないい加減な奴を一生懸命フォローしようとしてくれて」 「…うん」 「息子が生まれて。しばらくは普通に幸せだったんだよね。東京の狭いマンションで。寝不足だったし、金もそんなになかったけど、毎日笑いながら晩飯食ってた」 そう言いながら缶コーヒーを傾けて、中身のなくなった音だけが鳴

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愛しておくれ(第十二話:二匹目の蛇)

第十二話:二匹目の蛇 「佳代チャン、結婚とかしなかったの?」 車を真司さんの家に停めたまま、蒼佑くんと私は近くの河川敷に少しだけ寄り道していた。春の夜風が、昼間の熱を少しずつさらっていく。堤防沿いの桜は葉桜になりかけていて、街灯の下に花びらがまだ少し残っていた。蒼佑くんは缶コーヒーを片手に、川の暗がりを見ながらその言葉を発した。 「してたよ。ちょっとだけ」 「そっか。俺と一緒だ」 「…相手。どんな人だった?」 「うーん。…どんな人って言ったらいいかな」 別れた後。元

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スコールは三度降る

私が書く小説「スコールは三度降る」のマガジンです。

【連載小説】スコールは三度降る(最終話:ラストスコール)

最終話 ラストスコール 目の前の男の顔を、まっすぐに見る。この顔だ、と思った。鏡を見るときにたまに感じるあの違和感に近い。 でも、ただそれだけだった。 「本日は、アメデ島までご案内いたします。 皆様の旅が良い旅になりますよう」 男は淡々と続ける。 同じ内容を、フランス語で、次に日本語で。 それ以上は、何も言わなかった。こちらを見ているようで、見ていない。気づいているのか気づいていないのかも、わからない。サングラスと帽子で目元が隠れているからわからないだろうか。 ツアーが

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【連載小説】スコールは三度降る(第十九話:あれから二十年)

第十九話 あれから二十年 東京の朝は忙しない。まだじめっとした暑さが肌に纏わりつく。いつもより早い時間に家を出る。 まだ寝ていると思ったのに、母さんは起き出して パジャマ姿のまま、「行ってらっしゃい」と見送ってくれた。 マウンテンバイクをシャーっと走らせて、いつもの駐輪場に停める。急いで新高円寺駅のホームに向かう階段を駆け下りる。まだ六時半にもなっていないのに、座席はほぼ埋まっている。目を閉じている人か、スマホを見ている人ばかり。 ――みんな、ちゃんと帰る場所がある顔をし

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【連載小説】スコールは三度降る(第十八話:帰れない)

第十八話 帰れない その後、私たちは透明な海で、思う存分シュノーケリングをする。足がつく浅瀬で、息子は顔だけつけて色とりどりの魚が泳ぐ様子を食い入るように見ている。ふと魚を見ながら呟く。 「ねぇ。ここに僕のあの弱った金魚、連れてきてあげたらよかったよね」 「金魚?でもね。金魚は淡水魚だからね。海では生きられないよ」 「入れてみなきゃわかんないじゃん?あー、やっぱり連れてきてあげたらよかった」 そんな話をしていると、現地の若者が息子のそばにアオウミガメを連れてきてくれた

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【連載小説】スコールは三度降る(第十七話:アメデ灯台)

第十七話 アメデ灯台 「今日は、アメデ灯台に行こうか。三人で」 夫が、息子に向かって言う。三人で、という言葉を聞いて、耳がピクリと反応する。 昨日のあの大嵐のことを覚えていないのだろうか。 いや、あれだけ酷い言葉を投げつけたのだ。忘れてなどいないだろう。どんな顔をして話せばいいかわからない。気まずさで、鼓動が早まる。 「雨で灯台?雨降ってるの?」 「アメデ、っていう島にある灯台だよ。ここから三十分ぐらい船に乗っていったら着く、誰もいない島なんだよ。もしかしたらウミガメ

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こびと百貨店

私が書いている小説「こびと百貨店」シリーズのマガジンです。

【連載小説】嘘を愛する人(4/4)こびと百貨店

第4章 本物となる再会 余村さんは、翌日に事務所にやって来た。 カラン、と音が鳴る。 「どうも」 彼はいつもの恰好で、ソファのいつもの位置に座る。 さっちゃんが彼の向かいに座る。 「どうですか?何か進捗はありましたか?」 少しだけ、間が空く。 「はい。少し」 「ほぅ。どんなことが?」 「彼女は、実在していらっしゃいます」 彼の動きが。表情が。止まる。 「…そう…、でしたか」 「あの、ポスターの女性が」 「そうです」 男性はふと、自分の手元に目を配る。 じっと見ている。

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【連載小説】嘘を愛する人(3/4)こびと百貨店

3章 嘘を愛す仕事 目白の老人ホームは、閑静な住宅街にあった。 白い建物。手入れされた庭。 ルリが受付で遠縁の人として振る舞う。すんなり通してくれる。 エレベーターで二階に上がる。 廊下中に広がる、病棟に似た匂い。 遠くでテレビの音が聞こえる。 女性の部屋の前。 名札を確認し、ルリがノックする。 「…どうぞ?」 ドアを開ける。小さな部屋。 「どちら様かしら?」 メガネをかけて、二人の顔を交互に見る。 「少しだけ…いいですか」 さっちゃんが彼女に向かって問いかける。

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【連載小説】嘘を愛する人(2/4)こびと百貨店

2章 嘘の実体 「…嘘をついたら、それが本当になるんですよね…?」 男性はこくりと頷く。 ルリは続ける。 「ということは、その女性のことを「愛してる」と言ったんですか…?」 はは、と男性は笑う。 「そうなんです」 少しだけの、間。 「電話をしていたんです。妹と」 「心配性でね。よく島根に来ないか、と誘ってくるんです」 「断っているんですか?」 「ええ」 窓の外を見ながら男は言う。 「私はここが好きなんです。でも、妹に無駄な気を遣わせたくもない」 「だから、言いま

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【連載小説】嘘を愛する人(1/4)こびと百貨店

1章 嘘が真を生む カラン、と音が鳴った。 ひょっこり顔を覗かせて入ってきたのは、初老の男性だった。 六十、いや七十近いかもしれない。 白髪交じりの髪。薄いグレーのジャケット。杖を突いている。 事務所にいたキイチが話しかける。 「いらっしゃいませ」 男性はゆっくりと、事務所の中を見渡す。 品定めをするでもなく、懐かしむわけでもない。 ただただ、確認しているようだった。 「ここですか?」 「はい」 キイチがニッコリ笑う。 「そうですか」 男性はふむふむ、とソファに

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珠玉の推し記事たち

とにかく私が愛してやまない、私の推し記事です。

夢が覚めた話。

小さな頃、医師になるのが夢だった。 父が医師だったからというのもあるが、父からも母からも直接医師になれと言われたことはない。 だが、幼い頃から家にはブラックジャックが全巻あったし、父の仕事場でいつも勉強していた私は否が応でもそれを意識せずにはいられなかった。 兄は医師にならなかった。姉は医師になったが嫁いでいった。この病院をどうするか、幼いなりに真剣に考えた。 とはいえ自分のなかで明確な目的意識があったわけではない。ぶっちゃけ試験に受かれば医師になれるのだから、私にでき

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救世主代理 ジャンヌ・だる子(完)

最終章 かるい 死にたくない。 でも、どうしても死ぬしかないなら、 せめて、ましな死に方をしたい。 火刑て。 「ないわー」 だる子が呟いたとき、鉄格子の影の端が、歪んだ。 月明かりが、ほんの少しだけ濁る。 誰かが立っている。 立っている、というか―― 光が、濃い影を落としている。 その縁が、撓む。 笑ったみたいに。 だる子はため息をついた。 「……遅くない?」   『ごぶさた』 光が、ログインボーナスみたいに、破顔した。 「じゃねえわ。……説明

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救世主代理 ジャンヌ・だる子(6)

6章 代用品の自問 天井近くの明かり取り窓に、鉄格子。 そこから落ちる月明かりだけが、床を四角く切り取っている。 虫が、遠くで鳴いている。 壁に背を預ける。 石はひんやりと硬い。 冷たさが、じわじわと背中に移る。 足元には浅い木皿と木の匙。 粥が、わずかに残っている。 こういう境遇の転生令嬢もいたな、とだる子は思う。 婚約破棄されて、幽閉されて、毒を盛られて―― どうせ、最後は逆転したんだろう。 というか、そういえば、転生ヒロインに身体を奪われた本体たちは、 皆ど

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救世主代理 ジャンヌ・だる子(5)

5章 逆走 だる子は、電子書籍と紙の本を使い分けている。 一過性の快楽を求めるときは、電子。 何度も読み返したい名作は、紙。 もっとも、だる子は名作にさほど関心がないし、 同じ物語を繰り返し読むような性格でもない。 だからここ数年、読むのは電子マンガだけだ。 それも、電子マンガ界隈で飽和状態と言われる、 異世界転生悪役令嬢もの限定。 物語を完結まで追ったことはない。 無料区間以降をポイントでせこせこ読んでいたせいもあるが、 たいていは途中で興味が薄れるからだ。

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花束ほどのありがとうを

辛くて仕方なかった時に助けてくれた人や、感動したこと、心から感謝したことを書き綴っていきます。

長男のために泣いてくれた看護師さんが遺してくれたもの

長男が生後1ヶ月で死にかけたことがある。 今でもありありと思い出せる、 私史上、最大級の出来事。 その日は祝日だった。 夕方、 「なんだか顔色が悪いな」 「ミルクを飲まなくなったな」 「そういえば、うんちが出ていないな」 と思っていたら、 「あれ?息が荒くなった?」 「顔色が赤黒い…」 となり、♯8000に相談。 「すぐに病院に行ってください」 と電話口で言われ、 急いで病院に向かう。 もう、8時半を過ぎていたと思う。 救急で入ったけれど、 待合室は人でごった返してい

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あぁ、僕転校してきてよかったなぁ。

今朝は生憎の雨。 本来ならば、8時から練習だが、お休み。 「ちぇー。サッカー練習お休みかぁ。 仕方ないなぁ。今日は鬼滅観ながら リフティング練習でもするかぁ〜」 と長男くん。 「ねぇ、ママ。 昨日の僕のプレイ、どうでした?」 とフィードバックを求めてくる。 基本、私は自分からは 「ああした方がよかった、こうしたら良い」 とは言わないようにしている。 そこはもうコーチの指導に全面的にお任せ。 求められた時だけ、 率直に、客観的にフィードバックをする。 「ボール運びはだ

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彼が生きたくてたまらなかった今日を、私たちは生きる

「あなたが生きる今日は、 誰かが生きたかった明日」 この言葉は、割とよく聞く言葉だと思う。 烈火の如く そう願った「誰か」を 私は知っている。 「命」について考える時、 私はいつも彼のことを考える。 ずっと書きたかったけれど、 私なんかが書いて良いのかわからなくて、 書いたらなんだか軽薄な文章に なってしまうのが怖くて ずっと書けなかった。 でも、 いろんな方のnoteを読ませていただく中で、 読んでいるだけで心が苦しくなるぐらいに 「死」を考えて生きている人もいた

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noterの方々との関わりはまるで、水平線みたいだ。

普段J-POPをあまり聞かない私。 子どもたちがSpotifyでよく曲を流しているのだが、流れてきた曲を聴き流しながら、 ハッとした。 思わず歌詞を表示させて最初から確認する。 この曲の歌詞、私がこの2ヶ月、 noteを書きながらずっと思ってきたことだ、 と思った。 「どこ」と言われると、全部で、 全部引用してしまった。 noteを始めて、今日でちょうど2ヶ月。 毎日一記事、無心に書いてきて、 もっとサラッと書きたいのに、 思いをぶつけるように書きなぐっていたら 毎度

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