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【後編】輝くおはぎ星 ~家族のぬくもりに包まれて~

これは、私たち家族が迎えた保護犬「おはぎ」の物語です。

長く険しい旅路を経て、家族と心を通わせるまでの「おはぎ星」のきらめきを、物語として綴りました。

note創作大賞2025に応募するため、いつもの投稿よりも少し長いお話になっていますが、おはぎが生きた証を、よろしければ最後までお付き合いください。
前編はこちらからどうぞ。


第5章 連れ回される日々

一時的な保護施設

信じられないほど広い場所に連れてこられた。

足を踏み入れると、むき出しの冷たいコンクリートの床が広がり、ひんやりとした空気が肌を刺す。

遠くからは、多くの犬たちのけたたましい吠え声と、楽しそうなじゃれ合う声が聞こえてくる。

でも、僕がいる一角は、ひっそりと静まり返っていた。

孤独が、重たくのしかかってくる。

鼻をつく消毒液の匂い。

ここが“一時的な保護施設”だと知った。

賑やかな犬舎で、いろんな犬たちがそれぞれの時間を過ごしているのに、僕はただ一人。

冷たいケージの隅っこで、小さくなって静かにしていた。

足元に敷かれた毛布が一枚。

誰も近づいてこない。

他の犬たちの賑わいは、まるで別の世界みたいだった。

このケージは、僕と温かい世界を隔てる壁。

夜になると、遠くから聞こえてくる寂しげな遠吠えが、心の奥まで突き刺さる。

まるで冷たい水が、じわじわと心に染みこんでくるみたいだ。

時折、どこかのケージを叩く音が響いて、そのたびに僕の体はびくっと跳ね上がる。

変わらない毎日に、ただただ打ちひしがれていた。

でも、3日目の朝。

遠くから聞こえる犬たちの声が、ほんの少しだけ、温かく感じられた。

そしてまた、息苦しい狭い箱の中へ――。

暗闇の移動

(ああ、またこの箱か…。)

今度の箱の中は、光が一切差し込まない、完全な暗闇だった。

いつの間に、僕はこの暗闇に慣れてしまったんだろう。

外からは「ゴーッ」という、耳をつんざくような大きな音。

振動が全身に伝わってくる。

どうやら、またどこか遠くへ運ばれているらしい。

不安と、また見知らぬ場所に連れていかれる諦めが、心の中で渦を巻く。

箱から出されたとき、眩しい光が目に飛び込んできた。

(…どこに来たんだろう?)

(もしかしたら、本当に……誰かが迎えに来てくれたのかな…)

見知らぬ人々

「大きいなぁ」

見知らぬ人間たちが、僕の体をジロジロと見ている。

まるで値札でも見るような目つきで、品定めをしていた。

以前なら、怖くて震えていたかもしれない。

でも、今の僕は違う。

しっかりと、その人たちの目を見返してやった。

「このケージ、車に入るかなぁ」

彼らにとって、僕は“ただの荷物”なんだろう。

飛行機から降ろされたその場所は、知らない景色ばかり。

僕の周りには、さらに多くの知らない人たちが集まり、何かを話していた。

その視線が、チクチクと肌を刺す。

(僕はボスだ。)

(こいつら、いったい何者なんだ?また僕を、傷つけたり裏切ったりする人間たちなのか?)

全身の毛が逆立ちそうになる。

喉の奥から唸り声が出そうになるのを、必死にこらえた。

果てしない移動

「かわいいね」

(僕はもう2才だよ。子ども扱いしないでほしい)

「大きいね」

(それがどうしたっていうの?)

「もう少しだからね」

(また、どこかに連れていかれるのか…。一体、僕はどれだけ連れ回されるんだろう)

どこへ行ったって、結局同じ。

僕はボスだ。

強くならなきゃ、生きていけない。

自分のことは、自分で守るしかない。

誰も守ってなんかくれないから。

第6章 戸惑いとぬくもり

また「新しいおうち」

「新しいおうちだよ。」

もう何度聞いたかわからない、その言葉。

(どうせ、またすぐに連れて行かれるんだろう)

期待なんてしない。

でも、玄関のドアが開いた瞬間――
目に飛び込んできたのは、明るいリビングと、2階へ続く階段。

白い壁、ベージュのラグ、窓から差し込むやさしい光。

階段の上には、小さな犬がいた。

白と黒のまだら模様の毛並み、ピンと立った耳、そして、キラキラした瞳。

(また、ケンカになるのかな)

前の家の“あいつ”の顔が浮かぶ。

心臓が、ドクドクとうるさく鳴り始めた。

縄張りの主張と誤解

玄関には、犬のにおいと、人の生活のにおいが混ざっている。

(まずは、僕がここにいるって伝えなきゃ)

そう思った僕は、ソファの脚や柱に、自分のにおいをつけていく。

そのたびに、お母さんの声が響いた。

「おしっこしちゃったよ!」

(やっぱり、ここは僕の場所になるんだ。誰にも邪魔させない)

でも、お母さんは慌てて僕のにおいを拭き取っていく。

まるで、僕の存在ごと消してしまうみたいに。

(やめてよ……僕は、ここにいるんだ!)

小さく唸り声が漏れた。

おもちゃとラミ

お母さんが差し出したカラフルなおもちゃ。

音はするけど、匂いも味もしない。

(こんなもの、いらないよ)

ポトンと床に落とす。

そのとき、ぴょこぴょこと寄ってきたのが、さっきの小さな犬のラミ。

クリクリの瞳で、僕をじっと見つめる。

お尻をぶつけて、遊びに誘ってきた。

(ラミって、ちょっとしつこいな…)

前の家で、嫌な思いをしたばかり。

今は誰にも近づきたくない。

僕は、部屋の隅のクッションに丸くなった。

近づくぬくもり

「かわいいね」「おりこうさんだね」

人間の手が、そっと伸びてくる。

(触らないで。まだ信じてないんだから…)

体がピクリとこわばる。

でも、その手は叩かない。

怒鳴り声も聞こえない。

ラミも、ただ遊びに誘ってくるだけ。

(ここは、もしかしたら……ちょっと違うかも)

ほんの少しだけ、心が揺れた。

僕は、そっとラミを追いかけてみた。

赤いおもちゃが、ピューンと飛んでいく。

ラミが拾ってきてくれた。

(……かわいいやつだな)

お母さんの手も、気づけば撫でられてもいいかな、と思えるようになっていた。

新しい名前

僕は「おはぎ」と呼ばれるようになった。

甘くて、やさしい響きの名前。

「おはぎ、上手だね」

そう言われると、少しうれしい。

トイレシートでの練習も、がんばって続けている。

ラミも、僕を警戒しなくなってきた。

いまでは、いつもそばにいる。

寝るときも寄り添ってくれる。

(なんだか、守ってあげたいな……)

人間の手も、撫でられると、ちょっとだけ気持ちいい。

(この家は、悪くないかも)

ほんの少しずつ、そんな気持ちが芽生えていった。


第7章 家族のぬくもり

初めての散歩

最初のうちは、狭い場所に閉じ込められていたせいで、外に出てもすぐに息が上がった。

けれど、少しずつ体力が戻り、散歩は楽しいものへと変わっていった。

頬を撫でる風、草や土、花の匂い。
アスファルトの照り返し、木漏れ日、鳥のさえずり。
全部が、新しくて、心地よかった。

(こんなに広い世界を、自分の足で歩くのは初めてだ)

その隣では、ラミが小さな体で、不安そうにしていた。

物音にビクッとし、僕の後ろに隠れようとする。

僕は、ラミの不安を感じながら、ゆっくり歩いた。

「ラミ、大丈夫。僕の匂いをたどっておいで」
「道の端っこなら安心だよ。一緒に歩こう」

ラミが、自分の足で一歩を踏み出すたびに、僕は心の中で誓った。

――これからは、ラミのペースで一緒に歩いていこう。

深まる絆

散歩の帰り道、お父さんが僕の頭を撫でた。

「おはぎ、ありがとう。ラミが歩けるようになったのは、おはぎのおかげだよ」

その言葉が、胸の奥にじんわり染みた。

リビングでも、家族が笑顔で僕を見つめている。

「おはぎがいてくれて、本当に良かったね」

(僕が、役に立てたんだ)

胸の中が、ポカポカと温かくなった。

風の匂い、季節の移ろい。
散歩は、僕にとって大切な時間になっていった。

ラミを守りたい

テーブルの上のパンに鼻を伸ばすラミを見て、僕はそっと声をかけた。

「ラミ、それはダメだよ。怒られちゃうから」

ソファの下で退屈そうにしているラミにも、「追いかけっこしよう!」と誘ってみる。

昼下がりの光の中、ラミが僕の足元でウトウトし始める。

「ラミ、眠いの?僕の隣なら安心できるよ」

気づけば、ラミはいつも僕のそばにいるようになっていた。

僕が動けば、後を追い。
眠るときは、ぴったり体を寄せてくる。

その姿が愛おしくて、僕は決めた。

――ラミの“守り神”になろう。

人の手のぬくもり

ラミはいい。でも、人間は……ちょっとめんどくさい。

次々と撫でてくるし、子どもみたいに話しかけてくる。

嫌じゃない。でも、どう接していいかわからない。

だから、まだ少し距離を置いて寝ることにした。

油断はできない。でも、悪くない。

お母さんの手は、あたたかくて。
お父さんの声も、優しくて。

(今までと、ちょっと違うかも)

それでも、寝ているときに急に触られると、体がビクッと跳ねてしまう。

「お願いだから、驚かせないでね」

初めての誕生日

「お誕生日おめでとう、おはぎ!」

明るい声が響くリビング。

目の前には、手作りのヨーグルトケーキ。

真ん中には『2』の形をしたリンゴ。
ラミのケーキには、小さな星型のリンゴがのっている。

(これ、僕の誕生日…?)

胸の奥に、あたたかいものがじわりと広がった。

「おめでとう」

その一言が、僕のすべてを包み込む。

(この家に来て、本当によかった)

『僕は今日、2歳になったんだ!』

嬉しくて、尻尾が止まらなかった。

みんなの顔をペロペロ舐めて、感謝を伝えた。

ラミが叱られそうなときは、お父さんに「ペロペロ攻撃」で助け船。

「ラミが悪いことをしたら、僕が教えるから」

それでお父さんが笑ってくれるのが、僕はすごく嬉しかった。

僕だけの宝物

お父さんの膝が好き。
お母さんの笑顔が好き。
お兄ちゃんの無邪気さが好き。
お姉ちゃんの優しさが大好き。

そして、いつも寄り添ってくれるラミ。

みんな、僕の大切な宝物。

最近は、家族の膝に乗って抱っこされるのがマイブーム。

「おはぎ、重いよ〜」

そう言いながら、みんなが笑ってくれる。

そのたびに、心がぽかぽかする。

――僕の愛情、ちゃんと伝わってるかな?

この家で、家族に囲まれて、僕はやっと“愛されている”と感じられるようになった。


第8章 心の扉を開いて

過去との決別

この家に来て、しばらく経った頃。

僕は本気で、お父さんに戦いを挑んだ。

牙を剥き、全身の力を込めて唸り声をあげる。

(僕が一番だと、ここで証明しなきゃ……!)

でも、お父さんの腕は、びくともしなかった。

首輪を掴むその手は、まるで岩のように強かった。

何度も何度も挑んだけれど、僕はお父さんに勝てなかった。

お父さんは静かに言った。

「もう無理だから諦めろ。
ここでは誰も、おはぎを傷つけない。大丈夫だよ。」

そして、力を緩めた手で、僕の体を優しく撫でてくれた。

殴られると思っていた。

けれど、その手は、あたたかかった。

(どうして……?)

牙を剥いていた僕に、あたたかい手。
戸惑いの中で、心がふわりと揺れた。

優しさが溶かす壁

お母さんにも、僕は牙を向けた。

でも、お母さんも、しっかり首輪を握りしめ、動かなかった。

僕が必死に唸るのを受け止めながら、優しい声でこう言った。

「おはぎ、どうしてそんなに悲しい顔をしてるの?」

「おはぎは、本当はとっても優しい子だって、お母さんは知ってるよ。」

その瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれた。

そして、僕の体を、そっと抱きしめた。

温かい涙が、僕の背中に落ちる。

その瞬間、僕の中で何かが、すっと溶けた。

(今までの家では、牙を剥けば殴られた)

(だけど、この人たちは……違う)

優しく、語りかけてくれる。
叱るのではなく、包み込むように。

初めて知った“優しさ”が、
分厚く閉ざしていた心の扉を、静かに開いていった。

ラミのまなざし

ふと視線を向けると、ラミがじっと僕を見ていた。

怯えるわけでも、近づくわけでもなく、ただ、静かに、僕を見ていた。

そのまなざしが、胸の奥をチクリと刺した。

(僕は、もう戦わなくていいのかもしれない)

(この家では、信じてもいいのかもしれない)

そんな想いが、少しずつ、心に広がっていった。

新しい名前と決意

そして、僕は決めた。

『僕は、この家のおはぎになる。』

過去に縛られた古い名前は、もういらない。

この優しい家族と、ラミと一緒に生きていく。

『僕は、今日から“おはぎ”。』

この名前とともに、僕は生まれ変わる。

家族の一員として、
ここで、もう一度、人生をやり直す。

愛情に満ちた毎日

それからの毎日は、夢みたいだった。

朝から晩まで名前を呼ばれ、撫でられ、抱きしめられる。

おもちゃで遊び、散歩に行き、ご飯を食べて、みんなと過ごす。

家族が笑うたびに、僕の心はあたたかく満たされていった。

(僕は、ここで生きている。愛されている)

そう感じられる日々が、確かに、ここにあった。

僕の“クーン”が響くとき

ある日、何気なく漏れた小さな声。

『クーン。』

家族が驚いた顔で振り向き、次の瞬間、パッと笑顔が咲いた。

「おはぎが“クーン”って鳴いた!初めてだ!」

「もう、うちの子になったんだなぁ。」

その反応が嬉しくて、僕はもう一度、小さく鳴いてみた。

『クーン。』

また、家族が笑った。

たくさんの手が、優しく僕を撫でてくれる。

その温かさに包まれて、僕の心はしあわせで、しあわせで全身が震えた。

ラミの瞳が教えてくれたこと

視線を感じて振り返ると、少し離れた場所に、ラミがいた。

尻尾を小さく振りながら、穏やかな光を宿した瞳で、僕を見ていた。

(ラミ、ありがとう)

(僕はもう、大丈夫だよ)

そう、心の中でつぶやいた。

おはぎとして生きる、この幸せをかみしめながら。
 

第9章 おはぎ星の輝き

突然の異変

ある朝、いつものように体を起こそうとしたその時だった。

お腹の奥に、重たい痛みが響く。

(ん……?)

急いでトイレに駆け込むと、水のような下痢が止まらなかった。

全身が鉛のように重く、立ち上がることさえ苦しい。

ソファまで戻るのが、やっとだった。

お母さんが、心配そうに僕の体を抱きしめてくれる。

お姉ちゃんは、優しくタオルで僕を拭いてくれる。

そんな家族の優しさに包まれながらも、僕の体は、どんどん言うことを聞かなくなっていった。

息を吸うたびに、胸がギュッと締めつけられる。

「おはぎ、どうしたの!?」

お母さんの声が、悲鳴のように響く。

息が吸えない。苦しい。
でも、不思議と怖くはなかった。

(大丈夫だよ。みんながそばにいてくれるから)

最期の想い

ぼやけた視界に、お父さんの顔が見えた。

いつもの優しい顔が、歪んでいる。

涙が溢れ、眉間に深いしわが刻まれていた。

(お父さん、泣かないで)

お母さんの手も、震えていた。

お兄ちゃんも、お姉ちゃんも、泣いていた。

ラミは、僕の隣で小さく震えていた。

(みんな、本当にありがとう)

この家族に出会えて、よかった。

一緒に笑って、一緒に過ごして、僕は、とっても幸せだった。

大好きなみんなの顔を、最後にもう一度、ちゃんと、胸に焼き付けた。

(僕はもう、大丈夫だから)

光の中へ

痛みも、苦しみも、不安も、すべてが少しずつ遠ざかっていく。

気づけば、体がふわりと軽くなり、まるで綿毛のように宙に浮かんでいた。

(ああ……)

見上げた空は、どこまでも青く澄んでいた。

風がやさしく頬を撫で、太陽が背中をあたためる。

(これが、おはぎ星なのかな)

その時だった。

『おはぎ、よく頑張ったね』

懐かしくて、あたたかい声が聞こえた。

振り向くと、そこにはボウちゃんがいた。

リビングの写真と同じ笑顔で、しっぽをフリフリさせて、僕を迎えてくれる。

『おはぎ、本当にお疲れさま。もう、ゆっくりおやすみ』

その言葉に、心がふわっと軽くなった。

見守る想い

二人で並んで、静かに地上を見下ろす。

リビングでは、家族みんなが僕の名前を呼んでいた。

涙を流しながら、僕のことを想ってくれている。

(大丈夫。僕は、いつもそばにいるよ)

ラミの小さな体が震えていた。

(ラミ、もう心配しないで。ちゃんと、見守ってるから)

夜空に瞬く星のひとつに、僕はそっと想いを託した。

おはぎ星の輝き - ずっと、そばにいるよ

ボウちゃんの隣に並んで、僕は“おはぎ星”として輝いていく。

お父さん。お母さん。お兄ちゃん。お姉ちゃん。そして、ラミ。

みんなの笑顔が、僕の一番の宝物。

夜空を見上げた時、きっと僕の光が、優しく瞬いている。

(これからも、ずっと見守っているよ)

おはぎ星は、いつまでも、ずっと、家族のそばで輝き続ける。


おはぎから みんなへ──10のお願い 

最後まで読んでくれて、本当にありがとう。
ぼく、おはぎから、
心からのお願いがあるんだ。
ぼくが、短い生涯で学んだ大切なこと。
どうか、そっと心にとどめてほしい。

①最期のときも、ずっとそばにいてほしい

隅っこで震えているかもしれません。
なかなか心を開けないかもしれません。
でも、あきらめないで。
寄り添ってくれるその時間が、ぼくらにとっては命より大切なんです。
一度心を開いたら、ぼくらは命をかけて、あなたを信じます。

②ゆっくり、心を通わせてください

悲しい別れや、つらい過去のせいで、人間を信じるのが怖いこともあります。
しっぽを振れなかったり、甘えられなかったりするのは、ただ少しだけ、時間が必要なだけ。
ぼくらのペースで、ゆっくり仲良くなっていってほしいです。

③やさしい声で、教えてください

ぼくらは、あなたの言葉も、気配も、ちゃんと感じています。
大きな声や手は、怖い記憶を思い出してしまいます。
どうか、ゆっくりと、やさしく教えてください。
「わかったよ」って、伝えたいから。

④もう、怖い思いはしたくないんです

寒くて暗い場所。空っぽのお腹。ひとりぼっちの夜。
そんな思いは、もうしたくありません。
あたたかいお布団、おいしいごはん、安心して眠れるその時間こそが、ぼくらの願いです。

⑤“家族”として、名前を呼んでください

元気な子も、臆病な子も、みんながかけがえのない存在です。
「うちの子だよ」と、名前を呼んでくれるだけで、ぼくらの世界はあたたかく満たされます。

⑥たくさん愛して、たくさん笑って

過去に傷ついた分だけ、ぼくらは愛を渇望しています。
でも、もらった愛情の何倍もの笑顔と忠誠心で、あなたに返します。
あなたの笑顔が、ぼくらの元気の源なんです。

⑦そっと、そっと、見守ってください

新しい環境は、すべてがドキドキの連続です。
無理に触らず、抱っこせず、ただそばで“だいじょうぶだよ”と見守ってくれるだけでいいんです。
少しずつ、ぼくたちの方から近づいていくからね。

⑧先住犬とも、ゆっくり仲良くなりたい

いきなり近づくと、びっくりしちゃうこともあります。
まずはお互いににおいを嗅いで、距離を測って、少しずつ心を開いていきたいです。
仲良しになれたら、それは最高にうれしいことなんだ!

⑨あなたの笑顔が、ぼくのしあわせ

ボールを追いかけるときも、散歩に行くときも、撫でられるときも、あなたが笑うと、ぼくらはそれだけでしっぽが止まらなくなります。
たくさん笑ってください。
その笑顔が、ぼくらのいちばんのごほうびです。

⑩ぼくらのことを、忘れないで

ぼくのように、新しい家族を待っている仲間がたくさんいます。
ペットショップに行く前に、保護犬のことを思い出してほしい。
そのたった一度の選択が、救われる命に繋がります。
どうか、お願いです。ぼくらのことを、心の片隅に。


あとがき

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

この物語の主人公は、一匹の黒いボーダーコリー「おはぎ」です。
顔にはほとんど白い部分がなく、ころんとした姿は、本物のおはぎそっくり。
だからこそ、「たくさん甘やかし、たくさん甘えてほしい」そんな願いを込めて、この名前をつけました。

けれど、おはぎの過去は決して穏やかなものではありませんでした。
最初の家では虐待を受け、次の家では先住犬とうまくいかず、居場所を失ってしまっていたのです。

そんなおはぎを、山口県の保護団体「ちびたまのしっぽ愛護会」さんから迎えました。
過酷な環境にいたおはぎは、時間と愛情を重ねることで、少しずつ心を開いてくれました。

おはぎとの出会いは、私たち家族にとって、命を救うこと以上の意味を持っていました。
彼を迎えたことで、私たち自身もまた、心を豊かにしてもらったのです。

この物語を通して、伝えたかったことがあります。
「虐待が犬にどれほど深い傷を残すのか」
「どんな過去があっても、愛情を注げば“家族”になれるということ」
それを、たったひとつの命の物語として届けたいと思いました。

「噛みつくから」
「虐待されていたから」
「先住犬とうまくいかないから」
そんな理由で、保護犬を迎えることを諦めないでほしい。
もちろん、保護犬との暮らしは簡単ではありません。
でも、向き合い、寄り添い続けることで得られる“絆”は、かけがえのない宝物です。

もし、ほんの少しでも「保護犬ってどんな子なんだろう」と思ってくださったなら、ぜひ保護団体のホームページやSNSをのぞいてみてください。
そして、可能であれば、一度、施設にも足を運んでみませんか。
そこには、新しい家族との出会いを待っている命が、たくさんいます。

おはぎは、3歳という若さで急逝しました。

「もし我が家に来なければ、もっと長生きできたのではないか」
そう思い、後悔に押しつぶされそうになった時期もありました。

そんな時、保護団体「ちびたまのしっぽ愛護会」代表・山下さんが、こう言ってくださいました。

「亡くなったことを悲しんで泣いてくれる家族がいて、思い出してもらえるおはぎは、本当に幸せな子です。」

その言葉に、救われました。

おはぎは、たった3年という短い生涯でしたが、その中でたくさんの愛と笑顔を、私たちに残してくれました。

思い出すたびに、今でも涙がこぼれます。
でも、最期の瞬間まで家族に見守られ、愛されたおはぎは、きっと幸せだった。
そう、心から信じています。

どうか、あなたの心にも、小さな“おはぎ星”が灯りますように。


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