これはXスペースで話した内容をベースに、ブログ記事化したものです。動画生成AIをめぐる米中の動きを見ながら、日本のクリエイターはどう戦うべきか、自分なりに考えていることを話しました。
TL;DR
米中はAIを「生産性のレバレッジ」として使い、短期間で質量ともに高いコンテンツを大量生産する方向に走っている。NetflixのAIアニメスタジオや中国の大量生成コンテンツがその例。
ただ、日本のクリエイターが同じ戦い方をするのが正解かは疑問。日本が国際的に強いIPは、短期集中ではなく「長く続けることで時間軸を横に伸ばす」漫画的な持続モデルで育ってきた。
AIの価値は「品質の上限を上げる」だけではなく、**「品質のボトムラインを上げて、少人数でもゼロイチを達成できるようにする」**点にもある。専門外の穴をAIで埋めれば、ソロでも作品として成立する。
ゲーム業界を見ても、AAAとソロインディが強く、中規模スタジオが一番苦しい。映像業界も同じ構造になる可能性が高い。
IPは「待つ時間」によって期待が育つもの。ストリーミングの一気見モデルが強いIPを生み出せていないのは、習慣に根付く時間が作れないから。
結論:焦ってチーム化・スケールアップせず、AIをフル活用して低コストで生き残り、IPを長く育てるという戦い方が、日本のクリエイターには合っているのでは。
米中はAIで「短期に質量を出す」戦い方をしている
最近、動画生成AIまわりで、アメリカや中国がスタジオを作ったり、ものすごい量のコンテンツをAIで生産している、という話が流れてきていますよね。
例えば米国だと、NetflixがAIアニメーションのスタジオを作るというニュースが出ていました。中国も、生成AIを活用してたくさんのコンテンツを出している、という報道がありました。
彼らのやり方は、まさにAIを「生産性のレバレッジ」として使っていて、つまりトップを取りに行くという印象を受けています。品質面でもハリウッドに近づけ、量も出す。質と量の両方を、AIを使ってとにかくレバレッジをかけて出している印象です。
短い時間のスパンで、より質のいいものを、より多く出す。これはハリウッドが今までやってきたことの延長線上にあるし、大きい映画産業を抱える国では実際に機能していたやり方なんだろうと思います。
おそらく日本でも、ある程度はこれが機能するんだろうと思うんですが——もっと別の生き方があるんじゃないかなと思っているんですよ。
日本が得意なのは「持続性のあるIP」の方では
ここで思いつくのが、日本の漫画の産業です。シリーズとして長く続けていく、という形ですね。
何が言いたいかというと、短期間で質の良いものを大量に出してその瞬間を取るという方法ではなくて、長く続けることによって時間軸を横に伸ばす。その代わりコストを下げる。それによってIPとして機能させる、という方向です。
日本が得意なのって、むしろ後者なんじゃないかと思っているんですね。
最近、日本のIPが国際的に勢いがあるのって、この持続性をちゃんと考慮していたからではないかと思っています。経営効率とかで短期集中、「コンテンツも出します質も上げて一気に刈り取るぞ」みたいなことをやっていたのが、むしろディズニーとかアメリカっぽいなとも思っていて。
一気に取らなくてもいい。でも今年も来年も続きますよ、というものの方が、IPとしては強いように思えるんですよ。
チーム制作は必要か?——AIが切り開いたもう一つの方向
ここで「チームの重要性」みたいな話とどう向き合うか、という論点が出てきます。
もちろん、チーム制作そのものに自分は好意的というか、必要だなと思っています。専門性が違うからですよね。自分は映像が作れても音は作れなかったりするし、映画になれば配給はどうするんだとか、キャラクターグッズに展開するなら版権の問題とか、専門外の領域が非常に多いです。チームを組むこと自体は大事だろうと思います。
ただ、短期で制作を完了させるため、質を上げるために本当にチームを組むべきかと言われると、ちょっとわからないんですよ。
矛盾しているように聞こえるかもしれません。専門外は雇わざるを得ない、外からリソースを確保せざるを得ない。でも、スケールアップするため、映像の質を上げるためにチームを構築する——これって結局、受託しているだけになっていないか?と思うんですよね。制作を請け負っている状態。
もちろん「それがスタジオの機能だ」と言われそうなんですけど、AIによって現れたのは制作能力のレバレッジが効くということなので、本来は独立したIPを作れるはずなんです。そこがAIのいい点だと思っているんですよ。
だから、コストをかけるポイントが別のところにあるんじゃないかな、と。
人を集めて、束ねて、スタジオ化して、より大きい案件を受ける。確かにそれは機能するし成立する。VFXとかも、今までに比べたらAIによってより安く早く出来上がる可能性がある。
ただ、AIが切り開いたのは品質の上限だけではなくて、品質のボトムラインを上げることでもあるんです。少人数で持続性のあるコンテンツIPを育成することもできるよね、という方向がある。日本はむしろこっちの方が得意なんじゃないか、というのが自分の考えです。
整理するとこんな感じです:
米中型:短い時間軸で精度の高いものを出す。チーム構築で単価を上げて戦う。
日本型(提案):少人数のまま、AIをフル活用してIPが生き残るように細々と持続的にやる。
この「細々と」もちゃんと軌道に乗れば収益が発生してくるので、その規模に見合った人材を獲得していけばいい。焦ってスケールアップさせないということが重要なんじゃないかなと思っています。
インディーゲーム業界からの類推
なんとなくのメタファーですが、自分はインディーゲームが好きでずっと業界の動向を見ているんですね。そもそもゲームを作ろうと思ってAIを始めたような人間なので。
ゲーム業界も今、AAAタイトルでトップを取っているところか、もしくは本当に超小規模——ソロで開発しているインディが強い時代なんですよ。中間の中途半端な規模が苦しい。精度を上げて作っても、売れる本数が読めない。売れても結局、雇っている人間のコストが重くて、そこそこ売れたのに潰れてしまうケースがある。
ゲームデベロッパー系のフィードをずっと読んでいるんですが、中規模以上のスタジオのレイオフはここ数年本当に激しくて、収益性が悪いと地獄みたいな時代になっている感じも受けます。
その一方で、Steamの超小規模のインディーゲームはむしろ盛り上がっていて、Steam自体の成長も止まっていない。
これを受けたときに、「チーム化することを何でもかんでも是とすべきか」というのは、まず一個考えるべき問いだと思うんです。
AIで「穴を埋める」という発想
AIってそもそも、一人の人間がマルチな専門性を持てるようにしてくれる。だからゼロイチを達成しやすくしている道具だと思うんですよ。
今まで音楽なんて作れなかった人でも、Sunoみたいなツールで作れる。その品質は正直よくわからないけど、許せるレベルでしょっていうものが作れたら、その穴を埋められるわけじゃないですか。音楽の要素のないところを音楽生成AIで埋められる。
そうやって、自分の専門外の穴を全部AIで埋めていけば、一旦は作品になる。そして、自分の専門領域——例えば「映像の見せ方が得意」だったらそこで基本勝負して、品質の低いところは目立たないように設計を工夫する。こういうことができるのがAIのいいところだなと思っています。
確かに、他の人のために動画を作る「制作受託」をやるなら、単価は下がっていくと思うんですよ。「他の人でもやろうと思えばできますよね」になってくるから。
だけど、自分のIP、自分の作品で勝負する、なんだったらマネタイズまで持っていく、ということを考えた場合、逆にチームを組むとチームのコストが邪魔になると思うんですよね。
IPは「待つ時間」によって強くなる
さらに、IPって短期で成長させればいいのか?と考えると、そんなわけはなくて。短期で盛り上がっても、短すぎると習慣に根付かないので、普通に忘却されるんですよ。これはどんだけいい作品でもそうだと思っています。
今日、Netflixの——いやソニーピクチャーズの人かな——インタビュー記事があったと思うんですけど、「配信・ストリーミング由来で強いIPができたことってまだないよ」と言っている人がいて、それはちょっとわかるなと思ったんですよね。一気に見られちゃうから習慣にならない。根付かない。
でも例えば『進撃の巨人』とか、漫画もアニメもそうですけど、週刊で一話ずつ公開されて、なんだったらシーズンを跨いで待たなきゃいけない。そうなると、視聴者はそのIPのことを考える時間ができる。待つことによって必然的に期待が高まっていく。結果的にIPの力が強くなっていくんじゃないかなと思っているんです。
まとめ:生き方は別々にある
オリジナル作品の持続性で考えた場合、AIを活用して低コストでもいいから生き残ることができる。そうなったときに、インディーゲームのソロデブみたいな感じで、映像関係も同じようなふうにして、最小コストでとりあえず生き残って作品を出し続ける。軌道に乗るタイミングで調達するなりして、スタジオ化してもいいし、しなくてもいいかもしれない。
生き方が別々にあるんじゃないか、というのが自分が思っていることで、米中の「短期で一気に作って、一気にアテンションを獲得する」みたいなことが、必ずしも自分たちにとっての正解じゃないんじゃないかな、と思っている次第です。
この記事は、Xスペースで話した内容を元にブログ用に整えたものです。





