「恋愛の好きってよく分からないんよね」
叶ノ瀬(かのせ)の職場に近いアパートで僕たちはルームシェアをしている。防音室があるのでベッドを二つ置くスペースはない。だから僕たちは同じベッドで寝る。
叶ノ瀬の方に恋愛感情はない。でも僕の方にはある。
僕を抱き枕代わりに抱きしめる叶ノ瀬の感触と匂いに毎晩悶々としている。
叶ノ瀬はVTuberをしている。企業所属ではない。個人事業主として、バーチャルなアバターを身にまとって配信をしている。ただし配信だけでは食べていけないので、医療事務の仕事と兼業している。
もちろん、叶ノ瀬というのはVTuberの芸名であって、本名ではない。本名だけでなく、顔を出したこともない。主な配信内容は、歌とゲームと雑談。
叶ノ瀬と僕は、最初は配信のコメントと配信者という関係でしかなかったが、今はリアルな肉体が同じ部屋で寝泊まりをしている。もちろん他の視聴者にはこのことは内緒だ。
僕は叶ノ瀬の「ガチ恋」として他の視聴者の間でも有名だったし、今もそのキャラクターは続けている。と言っても、そのほとんどは本心をそのまま書いている。なぜなら僕の恋は未だに実っていないし、叶ノ瀬は未だに僕の恋愛感情を放置しているからだ。
なぜ叶ノ瀬が僕とのルームシェアを許したのか……僕にそれなりの好意を持ってくれているのか、あるいは僕のことなど取るに足らない存在と思っているからなのか、それは分からない。僕は在宅勤務なので、必然的に家事のほとんどを僕が片付けることになっているのも関係しているかもしれない。
僕と叶ノ瀬の生活は、いつまで経っても曖昧で、煮え切らなくて、抽象的で、宙ぶらりんで、微妙なままだ。
それでもよければ、聞いてほしい。