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ウエンツ瑛士『英語を学んだことで日本語の良さに気付いた』

ECCの講師が英語に縁の深い著名人にインタビューするこのコーナー。今回は、2018 年に突如、芸能活動を休止してロンドンへの留学を決行したタレントのウエンツ瑛士さんに、当時の想いなどを伺いました。
※本インタビューはECC外語学院にて配布しているフリーマガジン『MeLeDi』vol.20(2025年3月発行)に掲載しています。
『MeLeDi』とは、言葉がもたらす出会い、学び、発見、そして未来を応援するマガジンです。
英語を学んだことで 日本語の良さに気付いた
次のステージに進むため自分の価値を高めたかった

──お母さんが日本人、お父さんがアメリカ人という環境でしたが、家庭内の言葉は日本語だったそうですね。
日本で暮らしているし、日本の学校に行くから、親としてはどっちつかずの言葉にしたくなかったみたいです。海外まで父方の家族に会いに行くこともないし、僕自身も英語や海外に対して特別な興味を持っていませんでした。4歳の頃から芸能の仕事をしていて、日常でも仕事でも英語が必要ないことは明白だったし、それよりも、仕事で生き残るために必要なコミュニケーション能力をつけるとか、そちらのほうに必死でした。
──2018年に演劇の勉強のためにロンドンに留学されていますが、どんなきっかけがあったのでしょうか?
WaTを解散して、次のステージに進むために自分の価値を高めたいと感じているタイミングでした。年齢も大きかったですね。いろいろ学ぶとしても早いほうがいいので、本当は30代になったらすぐに行くつもりだったんですよ。それが、ちょっとずつ延びてしまって。
──留学先で英語を学びたいという気持ちはあったんですか?
ありましたけど、一番の目的はお芝居を習ったり、いろんな人に出会っていろんな考え方に触れたりすることだったので、どちらかというと、英語はそれに付随するものでした。一番厳しい語学学校を選んだのは、志を高く持つ人と出会いたかったからです。
芸能界に戻れないという覚悟は持っていた
──30年近く積み上げてきたキャリアを一旦手放すことに戸惑いはありましたか?
一旦離れたとしても、人との繋がりや、仕事を通じて教えてもらったことは財産となって自分の中に残り続けるので、あまりなかったですね。当時出演していた番組も100人や200人のスタッフを抱えていただろうに、それを振り切って行くんだから、もう芸能界に戻れないかもしれないっていう覚悟はあったし、自分勝手と言われてもしょうがないとは思っていました。
──語学学校は本当に厳しくて、朝8時から夕方6時まで授業があったそうですね。
長いんですよ。学校で勉強して、終わってからボイトレやミュージカルの鑑賞に行って。宿題も多かったです。でも、語学学校に通うのは前半の8ヶ月か9ヶ月くらいまでと決めていたし、その後は芝居の勉強とか観光とか、いろいろとやりたいことがあったので、自分を追い込みました。毎日学校と宿泊先の往復で、母が遊びに来てくれた時も、観光ガイドブックを持っている母のほうがイギリスに詳しかったです(笑)。
─―猛勉強されたんですね。
入学の時に面接みたいなものを受けて、最初は一番下のクラスだったので、駐在員の家族の方が多かったりして、ほのぼのとした雰囲気だったんです。でも、同じクラスに入ったトルコ人の女の子と「ここにいたらうまくならないだろう」という思いを共有して、週一回の小テスト、1~2ヶ月に一回のテストでいい結果を出して、2人で上のクラスに上がりました。ちなみにその子とは、入学時に間違えて同じ系列の学校に行っちゃった時に偶然出会い、そこからタクシーで会場に向かって面接を受けて、最終的には2人とも同じクラスだった、という不思議な縁があって。そこからは勢いがつきました。
──上のクラスはやっぱり違いましたか?
もう、地獄でしたね(笑)。ロンドンまで大学受験をしに来ているような子もいて、内容もすごく難しかったので、ずいぶん揉まれました。全部英語で、わからなくても説明はないし、辞書で調べるのも禁止。ついていくのに必死だったけど、脳みそを英語にどっぷり漬け込んだら知らないうちに英語を理解できる脳ができあがるんだろう、という感覚だけで勉強しました。あと、ランチの時間にはなるべく上のクラスの人たちと一緒に過ごすようにしていました。周りは迷惑だったと思いますよ、会話できないやつが急に会話に入ってくるんだから(笑)。
──積極的ですね(笑)。クラスにはどんな人がいましたか?
アジア圏の人もヨーロッパ圏の人もいました。話していて思ったのは、お互いの国について話す時に、英語だと公平に話せるということでした。たとえば、国際問題について話す時も、母国語だとお互いに感情的になってバーっと一方的に話しちゃうけど、英語だと言葉を考えながら話すから、怒ったりすることもなく、感情を抑えられるというか。
──そういう仲間たちとの交流は英会話の学びに役立ちましたか?
すごく役に立ったと思います。歴史や政治の話をする時ってそれ相応の言葉を選ばないといけないので、それまで僕が親しんできた日常で使う言葉とはまったく違うんですよ。朝、BBCを見ている時に出てくるような言葉を使って会話を交わすこともあって、刺激的でしたね。
──学校の宿題はどんなものが出ましたか?
授業の予習などです。圧倒的に多かったのは書いて覚えることで、これが本当に大変でしたね…。大人になってから書くことなんてほとんどなかったので。でも、面倒だからこそ身につくんでしょうね。書くことで、ページごとに頭にインプットしていくイメージ。その内容を思い出す時は、自分が書いたノートのページをめくるような感じというか。
頭の中で考えるより先に口から言葉がでてくる

──英語で喋っている夢を見てから突然英語を理解できるようになったそうですね。
通い始めてから3~4ヶ月経った頃ですね。こう言おうかなとか、これは過去形だなって言葉を整理する前に、言いたいことがそのまま口から出てくるような感覚がありました。会話もスムーズになって、相手の表情が変わっていくのを見ながら話すのがすごく楽しくなりました。
──留学先で日常的に英語に触れていたことで何か感じたことはありますか?
わからないんです。でも、留学中に一切日本語に触れなかったのは大きかったと思います。2018年10月から留学したのですが、留学中は日本の友達に連絡を取らなかったし、日本のWebサイトも見ない。クリスマスに「メリークリスマス」って親と友達にメールを返したのが、ロンドンに行ってから初めて使った日本語。そういう環境が英語の学びを加速してくれたと思います。
──留学をして良かったという思いはありますか?
僕は一番手っ取り早く英語を習得する方法だと思って選択しました。でも、今は留学しなくても、英会話学校に行けば素敵な先生に会えるだろうし、アプリやネットを通じて海外の人と交流する機会もありますよね。いずれにしても語学を学ぶなら、その国の文化に触れるのが一番早いと思います。言葉と文化は密接に結びついているので。
──ウエンツさんの場合は、それがロンドンだったんですね。
ミュージカルやお芝居が好きだったから。ロンドンでも観劇した後に台本を買って、読んでみると「あれは皮肉だったんだ」とわかったりして。僕の場合は、そういう感情と結びついている言葉のほうが覚えやすかったですね。海が好きな人だったらグアムとかでもいいと思うし、好きなものと密接してるほうが楽しく学べるんじゃないかと思います。
──イギリスで好きなことをしようという気持ちも、日々のモチベーションに繋がっていたのでは?
そうですね。英語を理解できるようになってから初めて、イギリスの文化にアプローチできたというか。でも、留学生の喋りに耳が慣れただけなので、ネイティブなイギリス人と喋る時にもう一回壁にぶち当たるのかもしれません。
いつでも準備はできている その状況だけでも満足
──留学したことが、今の日常や仕事に生かされていると感じることはありますか?
今はまだあまりないですけど、いつ求められてもいいように準備はできているので、そういう状況に満足しています。エンターテインメントとして場を盛り上げることが僕は好きだから、テレビで求められたら喋れるのに喋れないフリをすることもありますね(笑)。今日の仕事でも「英語を喋れない」とアピールしてきましたけど、「本当は喋れるんだけどね」と心の中で思えるくらい心に余裕ができました。
──生活の中で感じたことはありますか?
家族について考えるきっかけにもなりました。アメリカ人の父親は、50年近く前に日本に来て母親と恋に落ちて結婚したんですけど、母方の祖父母は自分の娘が外国人と結婚することを認めたということを考えると、その決断がどれだけの冒険だったのかと思います。海外で暮らした経験によって、両親や祖父母の偉大さに気付かされました。だから、留学に限らず、他国の言葉や文化を知ることで、その人にしかわからないような価値のあることを何か一つ見つけられるんじゃないかと思います。僕の場合は、それが家族をより一層尊敬する気持ちでした。
──お仕事でこれからやってみたい夢や目標はありますか?
英語を使うという意味では、イギリスで英語を使った舞台に立ってみたいですね。でも、それだけではなくそもそも英語を喋れるとコミュニケーションが広がるんですよ。ロンドンの語学学校で一緒に切磋琢磨していた人たちの中には、いろんな才能を持っている人たちがいて、そのうちの1人が今度、仕事で日本に来るんですよ。その人に渋谷を案内するのが、今の大きな目標です。その時は帽子もメガネもすべて取って、渋谷を練り歩き、周囲の人に気付かれる瞬間をその人に見せるっていう…。やっと、彼らが僕をリスペクトしてくれる瞬間がやってきそうです(笑)。
















