書籍要約『養生訓:日本の健康の秘訣』貝原益軒

伝統医療・民間療法

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『Yōjōkun: Japanese Secret of Good Health』Ekiken Kaibara 1974

https://archive.org/details/yojokunjapaneses0000kaib

目次

  • 第1章 養生とは何か / What Is the Health Preservation
  • 第2章 健康をいかに維持するか / How to Keep Health
  • 第3章 飲食:何をどのように摂るか / Food and Drink: What and How
  • 第4章 性欲を抑える / Repressing Sexual Desire
  • 第5章 五感 / The Five Sensory Organs
  • 第6章 排泄と入浴 / Easing Nature and Bathing
  • 第7章 病気への用心 / Prudently Guarding against Illness
  • 第8章 医者の選び方 / Selection of a Doctor

本書の概要

短い解説:

本書は、江戸時代初期の儒学者・貝原益軒が、日常的な食生活や性欲、睡眠、運動などの実践的指針を通じて、だれでも実践できる養生法を説いた書である。読者対象は一般庶民から武士まで幅広く、現代の心身医学や環境衛生の視点にも通じる内容を持つ。

著者について:

貝原益軒(1630-1714)は、福岡藩に仕えた儒学者であり、医学・本草学・地理学・教育学など広範な分野で業績を残した。若年期の病弱な体験から養生法に関心を持ち、古典から当代の医学書まで幅広く読破して自らの医学観を構築した。ドイツの医師シーボルトからは「日本のアリストテレス」と称された。

テーマ解説:

養生の本質は「内なる欲求を抑制し、外なる邪気を防ぐ」ことにあり、それによって天命の全うと長寿が可能となる。

キーワード解説:

  • 内なる欲求:飲食、性欲、睡眠、多弁、七情(喜怒憂思悲恐驚)など身体内部から生じる害となるもの。
  • 外なる邪気:風・寒・熱・湿という四つの気候要素が身体に与える害。
  • 胃気:生命活動の基盤となる気のことで、これがある限り病気に耐えうる。
  • 忍耐と畏れ:内なる欲求には「忍耐」で対抗し、外なる邪気には「畏れ」で対処する二つの心得。
  • 丹田:臍下三分の位置にある気の集中点。ここに気を集めることで vitality が高まる。

3分要約

本書『養生訓』は、儒学者貝原益軒が自身の病弱体験と膨大な読書に基づいて著した、日常生活における健康長寿の実践書である。著者の核心的主張は、寿命は生まれつき決まっているのではなく、養生法の実践いかんで大きく変わるという点にある。身体は天地と父母から預かった大切なものであり、自分のものではないという認識が養生の第一歩である。

養生において最も基本的なことは「内なる欲求」を抑え、「外なる邪気」を防ぐことである。内なる欲求とは飲食欲、性欲、睡眠欲、多弁、そして喜怒憂思悲恐驚の七情を指す。外なる邪気とは風・寒・熱・湿の四つの気候要素である。これらの害を退けることによって、身体のバイタリティを高め、病気を防ぐことができる。特に重要なのは、食事は腹八分に留め、性欲は節制し、睡眠は必要最小限にすることである。

飲食については、米を基本とし、肉や魚などの副菜は控えめにすべきだと説く。胃腸を傷める冷たいものや生もの、硬いものを避け、温かく柔らかいものを食べる。酒は微睡む程度までとし、過飲は百害あって一利なしとする。また、食べ過ぎた場合は次の食事を抜くか半減させるのが最善の対処法である。

性欲については特に若い時期の節制を強調する。二十歳では四日に一度、三十歳では八日に一度、四十歳では十六日に一度、五十歳では二十日に一度の放精が限度であり、六十歳以降はなるべく性交そのものを避けるべきだと説く。四十歳以降は放精を伴わない性交によって気の巡りを良くする方法も紹介されている。

日常生活では、食後の散歩や適度な運動を欠かさず、長時間同じ姿勢で座っていることを避ける。また、毎朝の歯磨きや目洗い、頭皮のマッサージなどの具体的な健康法も詳細に記されている。特に著者は八十歳を超えても歯を一本も失わず、細かい文字が読めたと自ら実践例を挙げている。

治療については、薬や鍼灸は最後の手段とし、まずは養生に徹することを推奨する。病気になってから治療するよりも、病気にならないように予防することが賢明であり、これは「上医治未病」という中国の思想に通じる。さらに、医者の選び方にも一章を割き、学識のない藪医者を見分ける方法を説いている。医者は儒学の素養を持ち、人道主義に基づいて治療にあたるべきであり、名声や金銭を目的とする者は信頼できない。

各章の要約

第1章 養生とは何か

身体は天地と父母からの借り物であり、自分の思い通りにしていいものではない。養生の基本は「内なる欲求(飲食・性欲・睡眠・七情)」を抑制し、「外なる邪気(風・寒・熱・湿)」を防ぐことにある。寿命は生まれつき決まっているのではなく、養生の実践次第で延ばすことができる。老子の言う「生命は天にあるのではなく自分自身の手にある」という言葉がその証左である。養生には「忍耐」と「畏れ」の二字が肝要であり、忍耐で欲求に打ち勝ち、畏れで外邪を防ぐ。

第2章 健康をいかに維持するか

食後には必ず数百歩の散歩をし、長時間同じ姿勢で座らないことが重要である。食事は腹八分に留め、睡眠は必要最小限にとどめる。過信は禁物であり、若さや体力を過信して放縦に生きれば、かえって寿命を縮める。華佗の言葉「流水は腐らず、戸枢は螻せず」の通り、身体は動かすことで vitality が巡る。また、忍耐という一言が身体の宝であり、毎日の克己心が長寿をもたらすと説く。山間部の住民が長寿なのは、気が漏れずに体内に保たれるからである。

第3章 飲食:何をどのように摂るか

飲食の目的は飢えと渇きを癒すことであり、それを超えた過食は百害あって一利なしである。米は十分に炊き、柔らかく温かい状態で食べる。味付けは薄味が良く、肉や魚などの副菜は控えめに、汁物は一品で十分である。酒は微睡む程度までとし、冷酒は胃腸を傷める。食べ過ぎた場合は、次の食事を抜くか半減させるのが最善の対処法である。また、食事の際には「五つの思い」を巡らせることで、感謝の念と節制の心を持続できる。胃腸の弱い高齢者は特に夜食を避け、消化の良いものを少量だけ食べるべきである。

第4章 性欲を抑える

腎臓は五臓の基礎であり、健康維持には腎の vitality を守ることが欠かせない。若い時の性欲の過度な発散は、下半身の気を弱め、寿命を縮める原因となる。『千金方』に示された頻度の目安は、二十歳で四日に一度、三十歳で八日に一度、四十歳で十六日に一度、五十歳で二十日に一度、六十歳以降は極力控えることである。四十歳以降は放精を伴わない性交も一つの方法であり、これによって気を消耗せずに血行を良くすることができる。日食・月食・雷雨・地震などの異常気象時や、病気中・極度の疲労時・感情の高ぶり時には性交を避けるべきである。

第5章 五感

心は身体の主であり、五官(耳・目・口・鼻・体)はその僕である。心が平静であれば五官も正しく機能する。住居は南向きで明るすぎず暗すぎず、簡素で清潔な環境が良い。睡眠時は横向き(獅子臥)が良く、仰向けは気が詰まって悪夢を見る原因となる。毎朝の歯磨きと目洗いは、益軒自身が八十三歳まで歯を一本も失わず、細かい文字が読めた実践法として詳述されている。毎日全身の按摩(導引)を行うことで血行が良くなり、病気を予防できる。また、四十一歳を過ぎたら目の疲れを取るために常に目を閉じる習慣が推奨される。

第6章 排泄と入浴

大小便は我慢せず、しかし無理に力を入れない。便秘には胡麻や杏仁が効果的で、餅や柿は避けるべきである。入浴は十日に一度程度が適切で、長湯は気を消耗させるため禁物である。湯は深い桶に少量のぬるま湯を入れ、背中に掛け湯をする程度に留める。空腹時の入浴も避けるべきである。温泉治療は外傷や皮膚病には効果的だが、内臓疾患や発熱を伴う病気にはかえって有害な場合がある。温泉療養中は飲酒・過食・性交を控え、療養後も十日間は禁欲を続けるべきである。

第7章 病気への用心

病気にならないための予防こそ最善の治療であり、「上医治未病」の精神が重要である。少し良くなったからといって気を緩めると再発しやすい。病気の際には焦らず、規則正しい養生を守ることが肝要である。住居は風・寒・熱・湿を防ぎ、特に湿気は長期にわたって害を及ぼすので注意が必要である。季節ごとの養生法として、春は陽気の発生に合わせて風邪を防ぎ、夏は冷たいものの摂り過ぎで下痢をしないように注意し、秋は肌の開きに注意して風を避け、冬は陽気を漏らさないように過ごすべきである。

第8章 医者の選び方

良医を選ぶ能力も養生の一部である。親や子の命を藪医者に預けることは不孝にも等しい。医者は儒学の素養を持ち、人道精神に基づいて治療にあたるべきで、名声や金銭を目的とする者は信用できない。良医は学識があり、多くの症例を経験し、症状を見極める能力を持つ。一方、人気だけで診察する「時の医者」は往々にして藪医者である。医者の家系でも才能がなければ別の職業を選ぶべきであり、三代続く医術は稀である。病人は軽い病気であれば市販薬で対処しても構わないが、重篤な病気や診断の難しい病気の場合は、良医の処方する薬だけを服用すべきである。


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