パレスチナとは何か
自らの政治的流氓体験を踏まえ,パレスチナの内側を徹底的に凝視することでパレスチナ問題の根源を問う.
■内容紹介
二年前に逝去したエドワード・W・サイードについては,『オリエンタリズム』を初めとして,日本でもあまりにも著名ですが,本書はサイード自身を理解する上でもきわめて重要な意味を持っています.なぜなら,パレスチナ人とは何であるかという主題について,自らのアメリカへの亡命にも言及しつつ,記憶と思索をたどりながら,徹底的に肉薄した数少ない著作であるからです.本書では,パレスチナ人の生活と労働,彼らのアイデンティティーとは何であるかを凝視し,パレスチナ問題の根源とは何かを写真とエッセーとの協奏を通じて読者に問い直しています.原著刊行から19年,単行本刊行から10年が経過した現在でも決して古びた印象はなく,問題の根源に迫る力が漲っています.
10年前の訳者あとがきで,島弘之氏は「パレスチナ人すなわち「テロリスト」といった類いの「初歩的」な偏見を「外」に向けて是正しようとする一方で,サイードは,伝統的にパレスチナ人口の大半を占めてきた農業従事者たちの生活の実態やパレスチナ人女性の「地位」の低さといった「内」の問題については自省も迫られる.要するに「西洋人」によって恣意的に構築・捏造されてきた〈オリエンタリズム〉の弊害を告発するという安定した立場からサイード自身が脱皮を試みているわけであり,まさにそれこそが本書の白眉だと言えよう.」と指摘しています.このことも本書の魅力の一端を物語っていると思われます.
原著刊行以来,パレスチナ情勢はあまりにも大きく変動しました.最近では昨年にはアラファトが逝去し,イスラエルが,西側の暫定自治区を「分離壁」で囲い込む作業を続けてきたことも記憶に新しいところです.しかし,日常的にパレスチナに存在しているむき出しの支配と暴力,変動する状況の根底に何が存在しているかについては,どれほど日本の広範な市民が意識しているでしょうか.
本書は,ニュース解説的な叙述をしているわけではありません.サイードの肉声が語られつつ,パレスチナ問題の本質は何なのかという深い問いが発せられていますが,それだけに行間から発せられる問いが読者を揺さぶります.約三五年間撮り続けてきたジャン・モアの精彩に富んだ写真も多数収録しています.またこの二十年間の状況の変化を受けて訳注も大々的に補正していますので,いま本書をひもとく方にとって手応えのある一冊になっています.
折しも,この八月からイスラエルのガザ撤退が開始される中で,パレスチナ情勢が世界の注目を集めることでしょう.その時にこそ,深部から問題を射抜いた本書の価値を受けとめていただけるのではないかと信じるものです.
1 現状
2 内側の諸相
3 創発
4 過去と未来
後記 ベイルート陥落






















