DXの本質とAI活用のこれから ~ 二極化する時代に向けた経営戦略
第1回 DXの現状とデータ活用の本質


八子 知礼
永松 正大
株式会社INDUSTRIAL-X 代表取締役CEO
アクティベーションストラテジー株式会社 顧問
2019年4月に株式会社INDUSTRIAL-Xを起業して代表取締役に就任、現在に至る。
通信/メディア/ハイテク業界中心のビジネスコンサルタントとして新規事業戦略立案、バリューチェーン再編等を多数経験。
MCPC、ITスキル研究フォーラム、新世代M2Mコンソーシアムでの委員、理事などを歴任、現在は広島県産業振興アドバイザー、複数企業のアドバイザーを務める。
2020年10月より広島大学AI・データイノベーション教育研究センター客員教授に就任。
■経営者の危機感が分ける、DXの「二極化」
永松:
『2025年の崖』はレガシー刷新の象徴として語られてきましたが、実際には“何が本質的な課題だったのか”を見極めることが重要だと感じています。2025年を迎えた今、当時懸念されていた影響は実際どうだったのでしょうか。
八子:
『2025年の崖』はやや誇張された表現であり、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進まない原因としてレガシーシステムばかりが強調され過ぎていたように思います。実際には、DXの本質は「X(変革)」にあり、重要なのはデータ活用です。その基盤として基幹システムの古さが問題視されていますが、最近ではフロントシステムと切り離された疎結合のアーキテクチャが主流となり、生成AIなどの登場により、必ずしも基幹システムの刷新が不可欠とは言えなくなってきています。
永松:
現時点では当時懸念されていた影響は無いとお考えですか。
八子:
そうですね、2025年になり、古くなった基幹システムの入替えの必要性を感じつつも、経営に支障をきたすような影響が出ていない企業は半分以上に上るともいわれています。
永松:
想像よりも多い気がします。確かに、DXという言葉が広がる一方で、企業の取組状況には明確な差が出ている印象があります。その“二極化”は、どこで生まれているのでしょうか。
八子:
企業規模で差が起きると思われがちですが、実は、経営者のスピード感と危機感の有無が大きく影響しています。DXの取組みが進んでいる企業は、経営者の「X(変革)」に対するアジリティがあったり、「D(デジタル化)」を徹底的に取り組むことで、企業風土を変え、「X(変革)」に辿り着いています。
永松:
なるほど。
八子:
一方、DXの取組みが遅れている企業は、コロナや世界経済の変化など自社を取り巻く環境が大きく変わっているにも関わらず、その変化に対応できていないことに危機感を持っていませんし、「X(変革)」だけでなく「D(デジタル化)」の必要性も認識していません。この温度差により乖離は大きくなっていると感じます。
永松:
営業や生産部門等の競争領域であれば、DXの必要性は理解されやすいと思うのですが、バックオフィスのような非競争領域の場合、従来通りの効率化で終わってしまう企業も多いのかもしれません。
■DX成功の3パターンと、投資を回収に変えるステップ
永松:
DXの取組みが進んでいる企業では、どのような取組みをしているのでしょうか。
八子:
大きく3つの取組みパターンがあります。
・データを使って新しいビジネスをしている
・これまでとは違う領域に進出している
・自社で構築したデジタル化の環境を外販し新規ビジネスに参入している
この3つです。
永松:
DXが出始めたころに言われていた「コスト削減」、「生産性の向上」、「効率化」という発想ではないのですね。
八子:
既に投資から回収フェーズへと移行しています。これは先進的にDXを取り組み、データが十分に蓄積されているためで新しいドメインに進出し、投資したデジタルアセットがあるからこそ新しい領域に出ることが可能になっているのであって、どこまで徹底して投資したか、徹底して取り組んだかという結果が出始めています。
永松:
先日、将来のDX取組みに向けてあらゆる顧客情報を集め、そのデータをもとに何ができるのかを検討したものの、そこから先にはなかなか進まなかったという企業の話を聞きました。そうした事例のように、多くの企業が「データを集めたが、活用に至らない」という壁に直面しています。DXを軌道に乗せる上で、経営として何を軸に据えるべきだとお考えでしょうか。
八子:
『仮説力』と『データ蓄積の有無』だと思います。2018年までは「とにかくデータを集めること」が主流でしたが、大量データの保存はコスト増に繋がることから、「仮説に基づいて必要なデータを取る」流れに変化しました。しかし、近年の生成AIやAIエージェントの進展により、再び「何でもデータ化」への動きが強まっています。
永松:
データ蓄積においても、時代によって捉え方が違うのですね。
八子:
この変化の中でも、ブレずに仮説力をもって先行的にデータを蓄積・活用してきた企業は新規事業やAI移行で優位に立っています。逆にデータの蓄積・活用を怠っていた企業は今になってゼロからデータ収集を始めることになり、最大で10年もの遅れが生じているとも言われています。この遅れはAI活用の競争において致命的であり、先行企業との差は簡単には埋められないと思います。
永松:
データ蓄積と活用が企業の競争力を大きく左右し始めています。その中で、先行企業はどのように優位性を築いているのでしょうか。
八子:
例えば、タクシー業界では一年分のデータが蓄積されると、分析によって顧客の乗車傾向や最適なルートが把握でき、需要予測や配車最適化が可能になります。実際に首都圏ではDocomoのモバイル空間統計を活用し、タクシーの行き先誘導が実現しています。地方都市でも、こういったデータの蓄積と分析が行われると、最適化や収益向上予測ができるようになると思います。
永松:
データ蓄積も難しいですが、集めたデータをどのように活用していくのかも課題と言えそうですね。
八子:
タクシー業界の場合、以前は高度な分析スキルが求められた運行データ分析、経路別の単価比較や降車地点の傾向分析等も、現在では生成AIの進化により、自然言語での指示だけで簡単に実施できるようになりました。ただし、それらを実現するには、車両の位置情報や運転手の稼働データ、乗車・降車地点といった十分なデータが整っていることが前提条件です。
■XからAIへ ~ 移行する顧客の関心と「変革」への回帰
永松:
AIの使い方も当初の描いていたことと、変わってきていますね。
八子:
そうですね。2025年の春から秋までに生成AIの精度が上がり、ほとんどが検索エンジンの代替として使うというレベルではあるものの、日本の大手企業の約60%が生成AIを活用するようになりました。AIは益々高度化しますので、活用の仕方も劇的に変化しています。
永松:
進化のスピードが速いですよね。
八子:
AIの進化は驚くほど速く、一般の方々への浸透も広がっています。これまで、私たちは『DXビジョンで「X(変革)」は何を目指すべきか』というキーワードでお話をしてきていますが、昨年の秋頃からお客様への響き方が変わり始めたことを実感しています。
永松:
お客様の興味の先が変わったのでしょうか。
八子:
お客様の興味がDXからAIに移行していると感じています。AIが一般にも認知されはじめ、生産性が上がるとか提案書や会議議事録などもAIで作ることができるという話も増え、会社全体での利用を検討されています。更に、2025年秋以降AIエージェントも多く出現してきており、できることが多い一方でまだまだ捉え方としては抽象度が高く、先進的なユーザーはVibe Coding(口述による自然言語でのプログラミング)等を活用して多様な自動化環境を作りあげていますが、一方で一般的なユーザーとしてはまだどんなことができるか理解・整理が進まず混乱している状況です。
永松:
生成AIの急速な普及によって、経営者の関心軸も変わってきています。DXとAIの関係性を踏まえ、企業はこれからどの方向性を意識すべきでしょうか。
八子:
今はAIエージェントへの期待値が非常に高いわけですが、データが揃っていないと、一足飛びにAIの活用は難しいことを理解している経営者は増えているので、来年ぐらいに、やはり「X(変革)」を定めることが重要だということに戻ってくるのではないかと睨んでいます。
永松:
DXやAIを意識し始めたことにより、これまでの情報システム部に丸投げ状態から経営者が自分事として捉え始めていくのですね。
八子:
そうですね。後押しするかのように、この1年の間に劇的なところまでAIが進化していて、これまでは3%ぐらいだったハルシネーション(*)が、この1年で0.7%(※2025年9月時点)というほとんどエラーが出てないところまで改善されていますので、AIの取組み環境はだいぶ整ってきていると言えるでしょう。
*八子注:言語ボリュームでいうと3%というのは、結構な頻度でエラーが出る状況
聞き手:アクティベーションストラテジー㈱
代表取締役社長CEO 永松 正大
【次回以降連載予定】
第1回 DXの現状とデータ活用の本質
第2回 業界の常識を覆すDXとAIの活用事例
第3回 AIエージェントの進化とIT人材不足の解消
第4回 ESG経営とデジタルネイティブ世代への対応

