反原発メディアとの向き合い方―対立より面白い情報を

日本原子力学会の機関誌「アトミカ」2021年秋号に、私は以下の趣旨の記事を寄稿した。メディアとの向き合い方についてだ。著作権があるため、実際に掲載された原稿はこれより短い。原子力関係者に、「その通り」と多くの共感をいただいた。
原子力をめぐる世論は落ち着いている。原子力関係者と政府は、騒ぐ人たち全員を説得するのではなく、以下のような態度で向き合ってはどうだろうか。イランと米国の武力紛争とホルムズ海峡の封鎖で、2026年4月の今、エネルギーシステムの原油依存の問題が再び注目されている。また気候変動への対応も必要だ。原子力発電は今こそ、大きな役割を果たすべきと、私は考えている。しかし日本政府と原子力関係者の動きは鈍い。
目次
なぜ原子力への批判が続くのか
「なぜメディアは原子力を嫌うのか」。筆者はフリーランス(組織に属さない)の記者で原子力の発展を応援している。メディア界で原子力の味方は珍しい。そのためだろうか。原子力関係者から、東京電力の福島第 1 原発事故以来、メディアへの戸惑いと、このような部外者にいうと批判をされそうな質問を頻繁にされる。
「メディア」という言葉は多義的だが、ここでは「情報を提供する企業形態の媒体」と定義しよう。私はこの質問には、適切に答えられない。日本新聞協会(新聞(一般紙と専門紙)・通信・放送局が加盟)には、129 社の加盟社があり、社員記者数は約 1 万 7000 人(2020 年 4 月)もいる。それぞれの記者の原子力への向き合い方は多様だし、おかしな報道は多いが、正しい情報を伝えるものもある。
この答えの出ない質問から、原子力関係者はメディアの実態をよく知らないことがうかがえる。それは当然だ。普通の社会人は自分の働く場以外の、他業界のことを知る機会は少ない。メディアの記者たちが、原子力をよく知らないのと同じだ。
そうであるからこそ、筆者がこの稿で記者の立場から原子力関係者が留意すべきメディアの特徴を説明すること、そしてメディアとの付き合い方を提案することに、意味があるだろう。
第一の特徴「メディアは刺激を求める」
「犬が人を噛んでもニュースにならないが、人が犬を噛んだらニュースになる」。これはメディア業界にある格言で、筆者は新米のころ先輩からネタ探しの秘訣として冗談混じりで教わった。「刺激的なことを伝えるのが記者活動である」という意味だ。これは原子力関係者が、念頭に置かねばならないメディアの第一の特徴だ。
こうした発想を、一般社会の人、そして原子力関係者やエネルギービジネスを行う人は異様に思うだろう。研究活動でも、ビジネスでも、働く人は現実と向き合い、それを正確に分析し、対応する。ところが、メディアは事実と向き合う際に、その「面白さ」や「刺激」によって、重要度を決める。
この特徴ゆえに、東電の原発事故は、メディアにとって、ネタとして飛びつきやすいものだった。「国家権力と原子力ムラが作った原発が事故を起こし、か弱い一般国民に害を与えた」という物語が作られ、「日本が原子力によって滅びる」という刺激が加わった。報道が原子力に、過剰に批判的になることは必然だった。
第二の特徴「当事者でないから無責任」
「メディアは間違いを流し無責任だ」と批判される。そのような面は確かにあるが、報道する側から見ると少し違和感を感じる。報道する側は、事実そのものに関与する当事者ではない。人々の脳裏に情報でイメージを作る、いわば「触媒」の役割にすぎない。
もちろんまともな記者やメディアは事実を正確に描写しようとするが、刺激的なことを伝えるという特徴につられて間違いを報道し、希薄な当事者意識のために無責任な結果を産んでしまうことがある。メディアは傍観者である。これは部外者が留意しなければならないメディアの第二の特徴だ。
当事者意識の希薄さゆえに、メディアは、それを利用しようとする人たちのプロパガンダに、頻繁に利用される。原子力を攻撃することで利益を得る人たちがいる。反原発を掲げその運動を自らの力にしようとする政党や政治団体だ。職業的な政治的活動家は、広報活動に慣れている。
また経済的利益を得る人たちがいる。原子力の代替策と自称し再エネを拡大しようとする国内のエネルギー事業者や日本の原子力産業を貶めて売り込みを行う海外の原子力メーカーだ。新しいメディアも情報の流通に影響を与えている。2010 年ごろから個人発信のメディアであるSNSサービスが登場し、今では日常に定着した。インフルエンサーと呼ばれるメディア並の発信力を持つ個人も出ており、ネットだけに配信するメディアも登場した。こういう勢力は情報で「目立つ」ことを考えがちで、無責任な態度を示しがちだ。「バズる」(ネットで騒ぎになるという意味)ことには注目される快感があるし、閲覧数(ビュー)が増えると連動したネット広告の閲覧も増え、金をより儲けられる仕組みも整備されている。
原子力は、刺激を求める無責任なメディアの格好のネタになり、批判に参加するさまざまな人々の動きと重なって、イメージが壊れてしまった。反原発で騒いだ人たちのSNSを見ると、今は原子力に飽き、別の政治テーマに飛びついて騒いでいる。虚しさを感じてしまう。
第三の特徴「貧すれば鈍する」
そして第三の注目すべき動きとして、メディアの衰退がある。日本新聞協会によると、新聞は2000年には約5300万部発行されていたが2020年には約3500万部に減少。電通によれば20年の広告費は、インターネットで2兆2990 億円(他媒体との連動を含む)と増加する一方で、テレビ広告は1兆6559億円、新聞3688億円、雑誌1223 億円、ラジ1066 億円と減少傾向が続く。
ネットの隆盛と活字離れで、どのメディア企業も経営が苦しい。「貧すれば鈍する」で、収入の減少は、報道の質の低下をもたらしている。経費をかけられず、現場に人を割けない。メディアは記事をネットに公開するようになったが、閲覧してもらうために言葉が過激に、そして記事が短くなっている。
放射能について過激な言説を出し続けた、ある反原発を掲げる環境経済雑誌の経営者と、2012 年に話したことがある。「過激な報道は雑誌の信用を落とす」と忠告すると、「可能性があるなら危険性を報じるべきだ」と自説を繰り返し、「原発推進派か」と叱られた。さらに反原発を掲げる環境系企業の「広告を取りやすい」と本音ももらした。彼にとって反原発の主張は過激であっても、正義感を満たし、利益も得られる。それが反原発の言論活動を、内容がおかしくても持続させている。ただし風聞では、同社の経営は現在うまくいってないようだ。
メディアを理解し、前向きの情報発信を
メディアの現状で注目すべき 3 つの特徴を抽出した。それらは当面変わらないだろう。そうならば、状況を活用しながら原子力とメディアの関係を考え、構築するべきであると思う。
メディアが面白いこと、センセーショナルなことに飛びつくならば、原子力をめぐる面白く、刺激的な情報を発信すればよい。ちょうど今、原子力に新しいイノベーションが起こりつつある。気候変動問題への関心が集まる中で、原子力は温室効果ガスを排出しないエネルギー源として世界各国で注目を集めている。米国を中心に新型原子炉の開発が進む。メディアの批判という後ろ向きの取り組みではなく、前向きな話を形にし、それを社会に発信すれば、原子力をめぐる印象は変わるはずだ。
メディアは原子力でリアルに物事を動かす当事者ではない。彼らの影響は世論に影響を与える以外は限定的だ。原子力関係者はメディアの報道を気にせず、自分の手がける目の前の仕事の成果をあげることを考えればよい。
そして今は誰でもメディアの時代だ。既存オールドメディアの存在感は低下し、それを通さないで、個人や企業が情報を発信できる時代になった。そして誤った報道には、ネット世論を味方にしながら正しい情報を示し、訂正を求めることができる。
日本では、原子爆弾が 1945 年に日本で使用された悲しい記憶、そして東電の原発事故の記憶が、人々の間に今も残る。こうした負の歴史を忘れてはいけないが、良い情報を拡散することで、社会のイメージも変わっていく。
堀江貴文氏「真面目路線で世の中は変わらない」
最後に、筆者の考えを補強する意見を紹介したい。ライブドアの創業者で、証券取引法違反等で有罪となり服役したホリエモンこと堀江貴文氏と、遺伝子組み替え作物をめぐるシンポジウムで、刑務所から出所後に対話をしたことがある。「科学的に正しい答えが無視され、感情的にこじれて先に進まない問題がある。遺伝子組み換え作物、原子力発電、ワクチン接種等だ。堀江さんなら、状況をどのように変えるか」と、聞いた。筆者の要約と解釈によるが、堀江氏は次の趣旨の回答をした。
「全員の賛成を得るとか、メディアの支援を願うのは、あきらめるべきだ。無理だし時間の無駄。世の中には、理性が通じない話がある」
「過去は変えられないが、かっこいい情報を上書きすることはできる」
「PR で何が刺さる(注目されるという意味)か、分からない。題材はお金と余裕のある限りいろいろ試し、当たったらそれを掘り下げるべき。真面目路線では人の心に響かないし、その結果、世の中は動かない。原子力なら『化石燃料と違い、二酸化炭素を出さない、気候変動問題を解決する夢のエネルギー』『このエネルギーで地球を救え』と、堂々と言えばいい。批判の大半は意味があるものとは思えず、無視して構わないだろう」
考えさせられる意見だった。堀江氏は逮捕、有罪、服役を経験した後で、今は言論活動や事業で復活している。こうした取り組みを重ねたためだろう。その意見は、原子力とメディアのあるべき関係に、ヒントを与える。
原子力関係者の多くは、真面目にメディアを説得し、批判を深刻に受け止め、世論を変えようとこれまで努力をしてきた。そうした行動は、原子力をめぐる世論の変化に効果があったとは思えないし、自らの心の健康にも負担になったであろう。前向きの情報を提供する方が、個人としても楽しいし、原子力の社会的評価に変化をもたらす可能性が高い。
東電の原発事故から 10 年が経過し、原子力について反発が薄らぎ、落ち着いて議論ができる状況になりつつある。原子力は、世界を気候変動の災害を止め、エネルギーの不足を解消する技術だ。堂々と「原子力は世界を救う」と、その意義を世の中に訴えるべき時がきている。
石井孝明
経済記者 with ENERGY、Journal of Protect Japan 運営
ツイッター:@ishiitakaaki
メール:ishii.takaaki1@gmail.com
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