星新一語録その2~星新一生誕100年 『ラジオな日々』から
今年2026年は、星新一生誕100年にあたります(1926~1997)。
というわけで、「星語録」を『ラジオな日々』(藤井青銅著)からご紹介しています。今回はその2回目、後半です。
「どんな作家の本でも、死ねば売れなくなります」
もはや古典ともいえ、教科書にも採用され、古びないことでも有名な星新一作品だ。その星がこんなことを思っていると知って、ちょっと意外な気がした。
けれど、この言葉だけは正しくないかもしれない。星新一作品は、星の没後も書店に並んでいる。
どうも作家や創作に関するものが多いが、実際にはもっと他のいろんなことを語っていたと思う。バカ話もあった。けれど、ぼくの中でこういう言葉が残っているというのは、たぶん、なんとか船出したばかりの自分の仕事に役立てよう、というさもしい気持ちが強かったからだろう。
もう少し、今度はぼくに関する言葉を。
「そういう人は作家になるしかないですナ」
これはコンテスト入選のご褒美に、ヨーロッパ旅行に連れていってもらった時(つまり、ぼくの人生の頂点の時)のことだ。パリのレストランで、ぼくが学生時代ある作家の本が大好きで、「その本に出てくる、気に入った表現をノートに抜き出していました」と話したことへの、返答だ。
たぶん、星はコンテスト入選の若者に、リップサービスでそう言ったにすぎない。ぼくだってそれは薄々感づいていたが、その後あえて星の言葉を丸々信じるように自分を騙し続けた。そして、この言葉を励みに、やがてトラック協会を辞めたのだ。
「藤井さんの作品で一番いいのは、『偏心』です」
これには驚いた。
ぼくはデビュー作以来、笑える小説を意識して書いている。まっとうな作品では、とても他の作家に太刀打ちできないとわかっているからだ。そんな中で「偏心」というのは異色な小説。暗く、心理的で、オチもない。これは、当時あった『奇想天外』というSF誌に書いた。タイトルから推測されるように、発想はカフカのパロディから始まった。当初は「夜のドラマハウス」用に考えていたが、あまりに暗い話なのでドラマ脚本にはしなかった。が、気になるアイデアだったので、小説にしたのだ。
星がこれを覚えていたとは。そして、ぼくの一連の作風を知っていながら、あえてこの作品が一番と言ったことが、意外だった。
「ご存知ないでしょうが、あれは****という作家の作品と同じテーマで……」
とも言った。****の所は、ぼくが聞いたこともない海外の作家名だった。メジャーな作家ではないから、わざわざ「ご存知ないでしょうが」と断ったのだろう。もっとも「ご存知」だったら、ぼくは盗作したことになっていたかもしれないが。
残念ながらその時、「え? なんていう作家ですか?」と訊きそびれてしまった。もはや、取り返しがつかない。
おっと、忘れてた。最後に一つ、いかにも「星語録」というのがあった。
これは例の、ご褒美のヨーロッパ旅行でのこと。オーストリア・ウイーンでの最後の日。これからロンドンに旅立つという時、星新一はボソリと言った。
「とうとう、カンガルーを見ませんでしたナ」
ぼくたちは大爆笑した。
『ラジオな日々』は、レジェンド放送作家である藤井青銅さんが、実体験に基づいて描いた小説です。1980年代のラジオ業界。そして、そこで右往左往する著者。是非ご一読を!
