下着泥棒の腹に突き刺さった「忍び返し」 防犯器具で負傷、「正当防衛」は成立するか

住宅の塀などに設置される忍び返し(ダイヤテック提供)

住宅の塀や雨どいなどに取り付けられている「忍び返し」と呼ばれる防犯器具を知っているだろうか。よく見れば複数の鋭利な金属が上向きに並んで設置されており、侵入を試みようとする不届き者は思わず躊躇(ちゅうちょ)してしまう。ただメーカー側としてはそれでいい。あくまでも狙いは見た目による犯罪抑止にあるからだ。そんな中で昨年、この忍び返しが思わぬ形で存在感を見せつける事案があった。聞くだけでも痛すぎる、不運な下着泥棒の結末は。

もがいた男、通行人の前で崩れ落ち

昨年10月、京都市南区の住宅街で1本の119番があった。「男性が血を流して倒れている」。救急隊員や警察官らが駆けつけると、路上で血まみれの男(58)が倒れていた。周辺にはなぜか女性用下着も散乱。事故か事件か、それとも―。周囲は騒然となったが、事態の全容が明らかになるまでさほど時間はかからなかった。

京都府警南署によると男はその直前、60代の女性が住む一軒家の塀によじ登っていた。塀の向こうに手を伸ばし、庭先に干してあった女性用下着3枚をつかむと、次にショルダーバッグの中に忍ばせた。

住宅の塀などに設置される忍び返し(ダイヤテック提供)

ここまでは計画通りだった。だが次の瞬間、悲劇が男を襲う。バランスを崩した拍子に、塀の上に設置されていた忍び返しが左腕と左脇腹に突き刺さったのだ。しばらくもがいていたという男は、ようやく体から忍び返しが抜けると同時に通行人の眼前で崩れ落ち、冒頭の通報につながった。

病院に搬送された男は緊急手術を受け入院。南署は退院を待ち、窃盗容疑で逮捕した。「よく覚えていませんが、私がしたと思います」と容疑を認めた男。「下着が欲しかった」と供述したというが、その代償はあまりにも大きい。

「体感治安」悪化で存在感

「(同様の例を)いまだかつて耳にしたことはなく、事件を知ったときは驚いた」。そう話すのは、防犯用の忍び返し専門店ダイヤテック(大阪市)の広報担当、大谷浩二郎さん(30)だ。大谷さんによると、忍び返しは、その見た目を生かした犯罪抑止を目的とした器具。メーカー側も実際に侵入者に刺さってけがをさせるような事態は原則想定していないとする。

住宅の塀などに設置される忍び返し(ダイヤテック提供)

同社では忍び返しの売り上げが年々増加している。背景にあると考えられるのは、「闇バイト」の横行などに代表される体感治安の悪化だ。

防犯アドバイザーの京師(きょうし)美佳さん(52)は「(一部で)暴力的で稚拙な手口が増加している」とする。闇バイト関連では、昨年東京で起きた強盗殺人事件なども記憶に新しい。特に指示されるがままに動く素人の場合、加減が分からないまま犯行に手を染める危険性もある。

だからこそ、まずは不審者を家に近づけないことが第一歩だと京師さん。忍び返しなどの防犯効果を「かなりあると思う」と認め、センサーライトなども組み合わせることでさらなる効果が期待できるとした。

設置者の法的責任

住宅の塀などに設置される忍び返し(ダイヤテック提供)

十分な備えを心がけたいところだが、ここで気になるのが、けがをさせた忍び返しの設置者側の責任だ。アトム法律事務所の松井浩一郎弁護士によると原則、責任を問われる心配はない。防犯上の理由で適切に設置されている場合は「正当防衛として認められる」(松井弁護士)。

一方、歩いているだけで当たってしまうような不適切な設置方法だった場合は刑事責任を問われたり、民事上の不法行為として損害賠償を求められたりする可能性があり、注意が必要だ。(荻野好古)

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