名古屋高速 都心アクセス事業インタビュー
制約だらけの都市部で挑む 86mm厚板・片持ち15m・フェールセーフアンカー

名古屋高速道路公社
都心アクセス事業部長
加藤 道哉氏

名古屋高速道路公社
技術部長(取材当時)
現(理事【交通管理・メンテナンス事業】)
森下 宣明氏
名古屋高速道路公社が進めるリニア開業を見据えた都心アクセス事業。既設高速道路の真下、地下埋設物が張り巡らされた都心部という「後付け」の大難工事で、技術の限界に挑む設計と施工が進んでいる。全上部工を鋼桁とし、道路橋示方書の限界に近い板厚86mmのSBHS500を隅角部に採用。地下埋設物との干渉等により片持ち構造が不可避となり、最大15mの張り出しを実現した。独自仕様の「フェールセーフアンカー」、3Dファイバーモデルによる精緻な全体系動的解析、5分の1スケールの耐震実験など、前例のない技術的挑戦の連続だ。鋼橋業界への技術継承、研究分野への貢献も見据える。名古屋高速道路公社 加藤道哉都心アクセス事業部長、森下宣明技術部長に、新洲崎工区を中心とした設計・施工の工夫を聞いた。
リニア時代を見据えた都心アクセス事業
リニア時代を見据えた都心アクセス事業
名古屋駅の「迷わせない」未来へ リニア開業を見据えた交通基盤整備
――都心アクセス事業の概要と必要性について、改めて教えてください
加藤 リニアの開業を見据えて、名古屋市は、平成30年に「名古屋駅周辺交通基盤整備方針」を策定しました。そのなかの一つには高速道路のアクセス性の向上があります。都心環状線から名古屋駅に向かう場合、最も近い錦橋出口は名古屋駅とは反対方向を向いているため、Uターンをしなければなりません。そこで名古屋駅に直接アクセスできるルートとして、名古屋駅東側のアクセス向上を図る新洲崎出入口を新設し、西側のアクセス向上を図る黄金出入口のフルランプ化を整備します。さらに都心部の栄地区にも新たに出入口を設け、丸田町JCTに渡り線を追加して都心環状線と東山線を接続することで、都心環状線の渋滞緩和にも寄与します。また名古屋駅から中部国際空港(セントレア)へ向かうルートの利便性向上も図ります。

名古屋高速道路路線図と施工位置図


各工区の概要図
新洲崎・栄の2地区で進む大規模橋梁プロジェクト
――事業の具体的な概要についてはいかがでしょうか
森下 新洲崎工区は橋梁数が18橋、全体延長は約1,000メートルです。事業は3地区に分かれており、新洲崎工区、黄金工区、栄工区にオンランプとオフランプを新設し、栄工区には渡り線を追加します。


制約だらけの都市部で「鋼桁」を選ぶ理由
軽量化と施工性の追求 全橋梁で鋼製桁を採用した背景
――新洲崎工区及び栄工区における、構造物比率や橋長、基礎工・下部工・上部工形式について教えてください。橋梁形式を見ると、全て鋼桁になっていますが、その理由は何でしょうか。軽量化が目的でしょうか。また、下部工の形式について、名古屋駅の付近は元々海に近い場所で軟弱地盤と聞いていますが、鋼管杭、鋼管ソイルセメント杭、場所打ち杭といった様々な基礎形式を採用している理由もお聞かせください
森下 橋梁形式が全て鋼構造になっているのは、軟弱地盤だからということではありません。N値は2〜3から20に近い値で、Ⅱ種地盤とⅢ種地盤の境界くらいです。Ⅲ種寄りのⅡ種といったところですね。
ではなぜすべて鋼桁にしたか、これは都市部という施工上の制約と、既存の高架橋があるという制約の中で改築事業を進めるに当たり、できるだけ下部工と基礎の規模を小さくしたいという狙いがあります。そのため、鋼桁を採用し上部工重量の軽量化を図っています。

鋼桁を採用し上部工重量の軽量化を図る
下部工については、基礎の制約もありますが、柱を立てられる場所の制約が大きく影響しています。道路の中央分離帯や地下埋設物を考慮すると、限られた空間の中で配置せざるを得ません。RC橋脚も一部ありますが、どうしても鋼製橋脚が多くなる状況です。橋梁を配置する空間が限られており、橋脚の張り出しも大きくせざるを得ないことから、そもそも鋼製でないと成立しないケースが計画時点から非常に多くありました。
基礎の選定は「地盤の軟弱」ではなく「埋設物」が理由
新洲崎・栄は特有な形状を有する鋼製橋脚
――基礎については
森下 軟弱地盤というよりも純粋に地下埋設物との干渉が制約となっています。設計計算の上で箇所ごとに検討した結果、場所打ち杭では対処しきれないところは鋼管杭を、杭方式では成立しないところはケーソンをというように、適材適所で選定しています。
――これは新洲崎工区、栄工区、黄金工区の全ての工区で言えることですか
森下 黄金工区だけ少し状況が異なります。新洲崎工区も栄工区も、基本的には出入口や渡り線を追加する設計なので、元々の線形に後から追加する形となり、構造形式にあまり選択の余地がありませんでした。柱を立てる位置の制約から、新洲崎工区、栄工区では特有の形状を有する鋼製橋脚があります。

新洲崎工区 北行きOFFランプ橋脚断面図 / 東行きON・西行きOFFランプ橋脚断面図 / 西行きOFFランプ橋脚断面図
一方、黄金工区は側道に出入口ランプを追加する形式です。そのため鋼製でなくてもRC橋脚で構成できる、無理のない構造にできます。元々既設橋脚も黄金工区はRC橋脚がほとんどです。現地の条件が全く異なるのです。
都市の制約を技術で克服 限界に挑む設計の工夫
地下埋設物による制約が生んだ「片持ち構造」
--既にある街の中に大規模な橋梁を構築する特殊な現場ですが、地下埋設物や左右の建築物、交差道路、交差高架など、非常に厳しい施工条件の中でどのような工夫をされましたか。鋼製橋脚のアンカーボルト、橋脚基部、隅角部の検討、道路橋示方書の限界に近い板厚86ミリの溶接などについて教えてください
加藤 大前提として、既設の高速道路の都市計画を立てた当時には、今回のリニューアル事業は想定していませんでした。全て後付けの事業です。既に供用している区間では、地下埋設物が高速道路を避けた位置に全て逃げています。そのため新たに柱を立てる位置が制約を受けることになります。
地下埋設物については、まず各管理者と協議して、移設できるかどうか、移設に何年かかるか、どれくらい費用がかかるかを検討します。移設した方が得策なものは移設しますが、重要な幹線などどうしても移設できないものもあります。
例えば、なぜ特有な形状の橋脚になっているかというと、大規模な地下構造物が歩道の下に埋設されており、その上に柱が立てられないのです。歩道側に柱が立てられないとなると、中央分離帯から全て片持ち構造で設計する必要があります。
森下 そうすると鋼製橋脚においては、必然的に隅角部、つまり柱と梁の接合部の板厚が最大86mmとかなりの厚さになりました。厚板になる箇所にはSBHS500を採用し板厚を下げるように配慮していますが、それでも最大86mmです。
私たちは少しでも板厚を薄くすることが施工性の向上、輸送の効率化、そして全体が軽くなることで耐震性の向上にもつながると考え、隅角部の板厚を薄くする取り組みを行っています。
隅角部にSBHS500を採用するにあたっては実験で耐荷性能等を確認した上で設計に反映させました。
厚板溶接については、特に隅角部の溶接品質が非常に重要となります。工場で隅角部の試験体を作り、機械的性能や溶接条件などを確認するための事前試験施工を実施し、品質確保を図っています。
最も厚板となるSBHS材86mmを使って供試体を作り、溶接施工性と性能品質を確認してから実際の製作に取りかかっています。
初めて採用した「フェールセーフアンカー」
--アンカーボルトの工夫について教えてください
森下 今回、「かぎ型」の形状をした鋼製橋脚が何箇所も連続して上部工を支える箇所があり、柱基部のアンカーボルトには常時に引っ張り荷重が作用し、門型と違って片側は常に偏心を受ける特有な形状となっています。
一部の部材の損傷や異常によって,橋全体が不安定になったり連鎖的に損傷範囲が拡大し橋全体が致命的な状態に至ることを回避するための構造設計上の配慮として,「フェールセーフアンカー」を設計しました。
フェールセーフアンカーは4隅に4本設置していますが、常時には引っ張りを受けないよう、あえて隙間を設けています。
他のアンカーボルトは当然設計上必要な本数を配置していますが、そのアンカーボルトに何か不具合があって機能が喪失した場合でも、その後でフェールセーフアンカーが効くような機構としました。効き方を二段階方式にしたのです。

フェールセーフアンカーの概要図
全てのアンカーを同じように定着してしまうと全部一緒に効いてしまいます。そこで、少しボルトが伸びてから効くという隙間を設けました。アンカーフレーム四隅の有効活用として同じように締めるのではなく、もともと四隅がなくても効くのですが、せっかく四隅に打つのであれば、隙間を設けて段階的に機能するような工夫を今回取り入れました。
――隙間というのは、アンカーボルトとアンカーフレームベースプレートの間に隙間を持たせているのですか
森下 そうです。ボルトとナットの間にスペーサーを設けて、隙間を持たせておくボルトを用意しています。
このスペーサーを持った四隅のアンカーは、他のアンカーボルトが伸びてから効くということで、二段階的に機能するように考えました。もともとアンカーフレームの四隅はスペース的に余裕があるので、いかにシンプルにフェールセーフとしての対応ができるかを考えて、今回初めて採用しました。
――こういうのは初めて試みる取組みですね
森下 初めてですね。見たこともないし、過去の参考になる事例もありません。
特に偏心している橋脚については、こういう取り組みを試行的に行いました。常時では応力がかからないけれど何か起きた時に四隅が頑張るという二段階機能を持たせる工夫を取り入れています。
――ということは常時機能するアンカーが機能低下した際に初めて働くようになるのですね
森下 基本的に常時は設計通り機能していれば隙間が塞がることはないのですが、想定できないような不測の事態があっても最後は四隅のボルトが頑張るという状況です。このフェールセーフアンカーボルトの現場施工はこれからです。
――常時偏心荷重を受けているような橋脚なので、地震時はやっぱりどうしても怖いと思いますよね。
森下 想定できないような不測の事態により、万が一フェールセーフアンカーが働いた場合、通常通り設置してあるアンカーボルトの機能が低下した状態になるわけです。
――その時にフェールセーフアンカーが働いていることを分かるセンサーとか、何かはめ込むのですか
森下 そこはいろんな議論があるのですが、思案中です。ただ、これだけの隙間に何らかの力が働くということは、すなわち外観的な変形を伴いますので、橋脚の変位を計測することなどを想定しています.必ずしもセンサーは要らないと考えています。
現場溶接も事前試験で万全を期す
--試験体は工場で作られますが、実際は現場で溶接するわけですよね。現場での溶接については、場所や時期(夏場の暑さや冬場の収縮)による影響も予想されます。足場や風防の工夫も含めて教えてください
加藤 工場溶接のための施工試験とは別に、現場溶接についても同じように現場施工試験を計画しています。できるだけ現地を模擬した形で、最も厳しい条件をピックアップしています。いずれにしても一発勝負というわけではなく、あらかじめ施工試験で溶接条件や施工環境を確認して、品質を確認するという進め方しかないのかなと思います。いかに現地を模擬するかというのがこれからの計画検討の話かなと思います。
――現場における足場内の作業空間というのもきつそうに見えますが、現場溶接はどのように進めていきますか
森下 現場溶接の施工条件は2種類に分けられます。ブロックがトレーラーで運搬できる重量を超える橋脚は、割った形で持ってきますが、それは現場で地組み溶接して架設します。
架設した大ブロック同士の厚板溶接については、工場溶接と同様に、現場においてとりわけ隅角部の施工上の課題とその対策を完全にするため、事前施工試験を行います。大ブロック同士の溶接は空中での溶接になることもあり、十分な安全対策などを実施したうえで当然行います。狭隘など作業環境が厳しい箇所の溶接時の姿勢も模擬した施工試験も行う方針です。
もともと、本現場はECIによる契約方式で受注していただいています。施工者設計ですので、設計段階から「これはちゃんと溶接できるか」を、同じファブリケーターの設計担当、工場担当、現場施工担当がそれぞれでチェックしながら、現地で溶接可能なことを踏まえて設計をしているというのが大前提です。
――ここは施工用の仮設ベントは立てることができるのですか
加藤 立てられます。鋼製橋脚の一部や桁の架設中は道路を規制して、ベントを立てる場合もあります。安全かつ確実に施工するためには必要です。
――溶接については、時期や季節に配慮することは考えておられますか
森下 現在は、橋脚、桁とも図面の計画段階なので、実際の工程の詳細はまだこれからです。施工時の気温に関する配慮もまだこれからです。現場溶接の施工管理については、官学民が一体となったワーキング形式で、どこに課題があるか、多角的に検討する仕組みで進めています。

溶接施工試験写真(SBHS500、t86mm)






