GEPC研究会 低炭素型コンクリート展開のため設立
2025年4月、住友大阪セメントなどが新開発した低炭素型コンクリート「ジオエレメントコンクリート(以下、ジオエレメントと略す)」の普及を目指し、全国のコンクリート製品メーカー、ゼネコン、工事施工業者などを主体とする「GEPC(ジオエレメント・プレキャストコンクリート)研究会 」が設立された。国が進めるコンクリートの脱炭素化や、社会的課題となっているインフラ構造物の劣化問題への対応としても注目されるジオエレメントについて、会の発起人であり、セメント大手・住友大阪セメントのグループ会社で、ヒューム管や推進管をはじめとする下水道用管路製品を幅広く展開するクリコン池ノ内社長にその可能性や普及展開に向けた方針、今後の課題などを聞いた。(取材:井手迫瑞樹)
ジオポリマーをベースに開発した新しいコンクリート
ジオポリマーをベースに開発した新しいコンクリート
住友大阪セメント、大阪産業大学の山田宏准教授、ケミカル工事の3者による特許技術
――まず、「ジオエレメント」の特長と利点について教えてください。
池ノ内発起人 ジオエレメントは、従来のヒューム管等の主要材料であるセメントコンクリートではなく、高炉スラグやフライアッシュなど産業副産物を母材とすることでCO2排出量を大幅に低減できる、いわゆる「ジオポリマー/アルカリ活性材料(本記事では、以降、先の材料を総称して『ジオポリマー』と記載)」をベースに開発した新しいコンクリートです。ただし、セメントコンクリートに比べて7~8割のCO2削減も可能なジオポリマーですが、製造面や適用面に関しては課題も指摘されていました。
その一つはハンドリングの難しさです。従来は材料硬化に必要なアルカリ刺激材として、劇物である苛性ソーダや水ガラスのアルカリ水溶液を使用するのが一般的で、製造時の安全性を確保しながら生産性を高めることは難しかった。ジオエレメントではこうした水溶液アルカリ源を粉体材料に代えることでこの課題をクリアしています。住友大阪セメント、大阪産業大学(ジオエレメント発見者「山田 宏 准教授」)、ケミカル工事の3者による特許技術であり、これにより、ハンドリング面の安全性が向上するだけでなく、製造工程を従来のセメントコンクリートに近づけられるという非常に大きな利点も得られました。例えば遠心成形後に蒸気養生して製造する従来のコンクリートヒューム管の製造設備をそのまま活用し、ほぼ同様の工程でジオエレメントのヒューム管を製造することが可能です。


ジオエレメント(井手迫瑞樹撮影)


ヒューム管の製造設備 / GEPCで造った管の断面
このように、低炭素化にとどまらないジオポリマーのすぐれた材料特性と、多くの実績を有し汎用性にすぐれるセメントコンクリートの設備やノウハウの活用を両立させた、いわば「いいとこどり」の材料がジオエレメントといえます。
従来のセメントコンクリート製に比べて約80%のCO2削減が可能
下水道製品で重要となる耐酸性、凍結融解について非常に良好な結果
――すぐれた材料特性とは、具体的にはとのような点ですか。
池ノ内 やはり材料としての大きな特長は、CO2の排出削減効果です。セメントを一切使用せず、これを高炉スラグやフライアッシュに置き換えることで、例えばヒューム管であれば、従来のセメントコンクリート製に比べて約80%のCO2削減が可能です。

約80%のCO2削減が可能(GEPC研究会提供資料より抜粋、以下注釈なきは同)
脱炭素社会の実現や2050年のカーボンニュートラル達成に向けて、社会のCO2排出量の削減に向けた取り組みは加速しており、プレキャスト製品業界に対しても今後一層の社会的役割の発揮が求められるのは確実です。国土交通省は昨年4月に公開した「土木工事の脱炭素アクションプラン」において、2027年以降の工事では低炭素型コンクリートの採用を原則化する方針を明らかにしており、プレキャスト製品業界の対応は急を要する状況となっています。こうしたなかで、製品メーカーにとって導入のコストやリスクが小さく、CO2削減効果が大きいジオエレメントは、有望な選択肢になると考えられます。
CO2削減効果のほかにも、ジオエレメントは多くのすぐれた材料特性を有しています。とくに下水道製品で重要となる耐酸性については、このほど中研コンサルタントにおいて実施した試験において非常に良好な結果が得られています。『下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル』(発行:下水道事業支援センター)に準拠した促進試験において、5%硫酸水溶液に16週間浸漬させた供試体の質量変化を測定したところ、減少量は1.9%しかありませんでした。同じ試験で比較用に用意したセメントコンクリート製の供試体は、ヒューム管に使用する高強度コンクリートで通常よりも高い耐酸性が期待される供試体だったのですが、それでも同期間で25.3%の質量減少が見られました。この差は歴然です。同試験では質量減少量10%を下回れば高い耐酸性を有すると判定されるのですが、かなりの余裕をもってこれをクリアしています。
2025年1月に発生した埼玉県八潮の大規模道路陥没事故においても、その原因は下水函渠内で発生した硫化水素によるヒューム管の劣化腐食だったと考えられています。昨今、インフラ構造物の健全性確保が重要な社会的課題と認識されるようになっており、日々の生活を支えている下水道施設の耐酸性向上は緊急性を要する課題と言えます。

高い耐酸性
さらに、ジオエレメントが凍結融解に対する高い耐性を有することも確認しています。同じく中研コンサルタントで実施したJIS A 1148「コンクリートの凍結融解試験」に準拠した試験では、規定の300サイクルの凍結融解を経ても相対動弾性係数にはほぼ低下が見られませんでした。比較したセメントコンクリート供試体では、わずか90サイクルで動弾性係数が60%を割り込み試験終了となっているので、ジオエレメントの耐凍害性の高さが際立っていることがわかります。

凍結融解に対する高い耐性を有する
なお、地中に埋設される下水道製品であれば、通常は凍害対策が問題となることはあまりありません。しかし、ジオエレメントについては今後の幅広い展開を視野に入れているので、様々な構造物において重要となる性能確認を一つひとつ進めていくことが重要だと考えています。こうした考えから、長さ変化試験により乾燥収縮抵抗性も確認しており、セメントコンクリートと同等以上という結果を得ました。今後、耐塩害性等についても確認していく予定です。

長さ変化試験により乾燥収縮抵抗性も確認しており、セメントコンクリートと同等以上
従来コンクリートに近い材料性状 幅広い用途展開も視野に
大分県別府市の温泉地区で、ジオエレメントを用いた歩車道境界ブロックの試験施工を実施
――今後の展開について、現時点でどのような想定をお持ちですか。
池ノ内 従来のジオポリマーに比べて材料性状をセメントコンクリートに近づけたことで、ジオエレメントは汎用性が非常に高い材料になりました。主要原材料はセメントコンクリートと同様に粉体と骨材と水および混和剤。ジオポリマーで問題となった練上げ直後からの粘性の高さも軽減しているので、これまで製造者を悩ませてきた鋼製型枠への付着も改善の兆しが見えてきました。こうしたことから、従来のセメントコンクリートの製造に携わってきた施工者や製造メーカー、とくにプレキャストコンクリート製品のメーカーには、比較的容易にジオエレメントに馴染んでいただけるだろうと考えています。
当社としてもコンクリートを通したCO2排出量の削減に寄与する機会となるので、ジオエレメント技術の門戸を閉じず、多くの企業に活用していただくことを希望しています。昨年4月にGEPC研究会(会長・小澤満津雄群馬大学教授)を創設しましたが、その背景にはこうした考えがありました。当初は23社で出発したGEPC研究会も、現在ではすでに参加32社を数えます。プレキャスト製品メーカーが主体ですが、この他にもゼネコンを含む施工者、材料メーカーやスラグメーカーにもご参加いただいています。

ただ、幅広い企業に使っていただくということであれば、やはりヒューム管に限らずL型擁壁や各種ブロック製品、その他の製品に対応した材料であることが強く求められます。また、多種多様なプレキャスト製品に対応するだけでなく、用途面においても、現場打ちや吹付け施工も可能で構造物の補修等にも使用できる材料としていく方針です。将来的には、これまで各社が培ってきたコンクリートに関する独自技術も問題なく生かせる材料としていきたい。例えば住友大阪セメントの建材部門やグループ企業ではドライタイプの吹付け工法や空洞充填用のエアモルタル技術などにも力を入れてきた経緯があり、こうした技術とも併用可能な材料にしていければと思っています。
――具体的な新用途の開拓・展開に関して、現在の感触は。
池ノ内 実は今年2月末から3月初旬にかけて、大分県別府市の温泉地区で、ジオエレメントを用いた歩車道境界ブロックの試験施工が実施されています。温泉地域は高酸性土壌となりやすく、通常のコンクリートにとっては過酷な環境です。現地では10年ほど前から、こうした環境に適したコンクリート材料の研究が進められており、今回、耐酸性にすぐれるジオエレメントに白羽の矢が立ちました。また、これに先立って昨年12月、滋賀県内での某工事においてジオエレメントで製造したブロックが試験製造、今年2月に現地に敷設されました。

大分県別府市 歩車道境界ブロックの損傷状況

取替工事状況

ジオエレメントコンクリート製の歩車道境界ブロック拡大写真
これらの工事ではGEPC研究会の参加企業に製品製造や施工でご協力いただいており、施工にあたって一部は現場打ちを想定したジオエレメントとして、車載ミキサで運搬しフレッシュ性状に問題ないことを確認できているため、今後の補修工事など適用範囲の拡大に道を開く可能性のある重要な事例だと考えています。





