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部門別の損益を念頭に“なんぶ”の活性化にまい進

右から3人目が岩間社長、その左隣が岩間会長

【近田会計事務所 × なんぶ農援】
(「戦略経営者」2024年12月号より)

 青森県南部町の農家を応援したい──。そんな思いを社名に込め、果物の魅力を引き出す独自商品を製造してきた、なんぶ農援。5年前に経営を承継した岩間正雄社長は、月次決算に基づく業績把握を習慣化し、新たな飛躍を遂げようとしている。

 青森県屈指の景勝地として知られる奥入瀬渓流。なんぶ農援の運営する土産物店「渓流の駅おいらせ」には、県内産の果物を加工した商品がならぶ。南部地方特産の妙丹柿を使用したドライフルーツは人気商品のひとつ。やや縦長で、甘みが強いのがこの柿の特徴だ。

 南部町と柿には浅からぬ縁がある。南部藩主が参勤交代時、会津から持ち帰った柿が妙丹柿のルーツという。生産者の高齢化で枝が剪定されずに伸び放題となり、落下するおそれのある老木もあった。

 なんぶ農援は「地元農家を応援する」とのスローガンを掲げ、青森県産の果物を用いたジュースやゼリー、ジャムなどの製造、販売をなりわいとしている。

 「当社では規格外の果物を加工し、新たな価値を加えて販売することで、地元農家の方々の収入アップを目指しています」と岩間正雄社長はミッションを端的に語る。

 ドライフルーツ「南部の柿の物語」は、南部町にある農業高校との連携を通して商品化にいたった。ラインアップはポリフェノールを豊富に含んだ柿酢や、チョコレートをコーティングした「妙丹柿チョコディップ」まで着々と広がりつつある。

■年一から月次決算へ転換
 岩間社長は大学卒業後、東京都内の医薬品卸売会社を経て、2011年になんぶ農援に加わった。

 「郷里を離れて感じたのは、生まれ育った南部町が果物や自然にいかに恵まれているか。地方を大切にしたい思いもあり、地元に戻り父が立ち上げた会社を手伝いはじめました」
 父親の岩間重雄現会長が創業当初手がけていたのは、土産物の卸売り。十和田湖畔の宿泊施設にキーホルダーなどを卸していたが、取扱商品は果物やカット野菜、農家で余ったリンゴを使用したジャムといった食品類に徐々にシフトしていく。

 「取引先さまの要望に応えるうちに、おもに食品加工を手がけるようになりました。その後、渓流の駅おいらせの運営を任され、加工、小売り、飲食という現在の3本柱が完成したわけです」(岩間重雄会長)
 岩間社長が入社したのは、なんぶ農援が法人化した2年目。計数管理において、個人事業者のころの慣習が若干見受けられた。ただ、業績は産直ブームの後押しもあり、堅調に推移していた。そこへ東日本大震災が襲う。企業として永続するにはしっかりした経理体制を築き、災害リスクに備える必要がある──。そう考えた岩間氏は、青森県中小企業家同友会が主催していた勉強会に参加する。

 「経営に関する知識がなかったため、イロハを学ぼうと参加しました。当時、なんぶ農援の業績を把握できたのは12月の決算が確定した後。父が数字面でやや手探りの状態で会社を切り盛りしている様子を見て、一抹の不安があったんです。入社前はもっぱら卸売会社で働いていたので、限界利益率が業態ごとに異なるという点も知りませんでした。勉強会を通して会社の強みと弱みを掘り下げられ、経営者の心構えについて理解が深まりました」

 勉強会で共に学んだのが、八戸市に事務所を構える近田会計事務所の職員だった。近田会計は月次巡回監査の徹底を標榜しており、月次巡回監査率は90%をコンスタントに上回る。同会計事務所所長の山本秀典顧問税理士は「われわれの役割は、月次決算による正確な数字に基づく経営判断をお手伝いすることです。その手段として関与先企業さまに、TKCシステムによる自計化をもれなく提案しています」と話す。

 事務所のそうした方針に共鳴した岩間社長は、近田会計と顧問契約を結び、監査担当者のサポートのもと“年一決算”からの脱却を図る。

■正確な数字を元に会話
 8月下旬のある日。同社の食品加工場「なんぶの台所」に隣接する事務所で、会計事務所、金融機関担当者同席による業績報告会が開かれていた。山本税理士がTKC自計化システム『FX2クラウド』の変動損益計算書画面を指し示しながら、直近の業績を説明する。

 「7月の全社売上高は前年同月比11%増でした。限界利益率は59・2%で前年同月から0・8ポイント上昇しています。要因をどう分析されていますか」
 問いかけを受け、岩間社長はこう回答した。

 「燃料費や包装資材をはじめ原材料費が高騰している現状を鑑み、一部商品で価格の見直しを行いました。あわせて、仕入れた果物の中に腐敗している個体がある場合には、取引先と価格交渉し、仕入れ価格をできるだけ抑えるようにしています。価格転嫁の促進と仕入れ値の抑制、これらの取り組みが功を奏したのだと思います」
 このように最新の業績数値をもとに会話できるのは、『FX2クラウド』の活用によるところが大きい。一般的な限界利益率の目安は、飲食業なら70%、小売業なら20~30%といったように業種ごとに異なる。同社では業績を加工、小売り、飲食の三つに細分化して管理することで、各部門の数字を明確につかめるようになったのである。

 続いて、足元の業況と集客状況の質問に返答したのは、『FX2クラウド』の変動損益計算書で限界利益を確認するのが日課になっていると話す岩間会長だった。

 「加工部門は宿泊施設に卸しているカット野菜の売れ行きが好調です。一方、小売り、飲食部門では、渓流の駅おいらせを訪れるインバウンドの増加が業績の伸びにつながっているとみています」

 岩間社長によると、コロナ禍を脱しつつある今、特に注力しているのは、加工部門であるという。県内各地のレストランおよび宿泊施設に卸しているカット野菜の受注増を受け、従業員を新たに雇用して対応している。経営をかじ取りする会長、社長と山本税理士との間のやり取りに耳を傾けていた、青森銀行南部支店の田中佳紀支店長は「岩間会長、社長ともに損益状況を月次で把握され、的確な打ち手を施されています。なんぶ農援さまは日ごろ『TKCモニタリング情報サービス』(MIS)を活用して、月次試算表を毎月送信いただいているので、業績数値の透明性と信頼性は非常に高いです」と評価する。

■調理代行で飲食店を支援
 19年の代表就任時、人手不足著しい飲食業界の力になりたいと考えていた岩間社長。自社で展開している加工事業を調理代行=セントラルキッチン事業ととらえ、その取り組みを動画で発信している。動画サイトに開設した公式チャンネル名は「なんぶ農援TV」という。岩間氏本人を模したキャラクターが登場し、人工知能(AI)の音声が語りかける一風変わったつくりになっている。

 「動画サイト利用者の目を引くように、AIを使用した動画を制作しました。当社の『なんぶの台所』で手がけている調理代行事業を活用いただくことで、飲食店の人材不足解消のお役に立てればという思いで運営しています」

 南部町に軸足を置きつつ、近田会計事務所のきめ細かいアドバイスのもと、月次決算をベースにした意思決定で成長軌道を描く同社。通販サイトではドライフルーツや、リンゴを使用した飲むゼリーといった多数のオリジナル商品を扱っており、商品開発力に着目した地元農家や宿泊施設からの相談が相次ぐ。受注量の増加を受け、新たな加工工場の建設も視野に入るが、岩間社長はあくまで堅実な姿勢を崩さない。

 「ここ南部町には、全国に知られていない魅力ある果物がまだたくさんあります。果物の新たな価値を引き出す加工商品を開発し、南部町の名前を多くの人に認知してもらうのが目標です。顧客のニーズに一つひとつ応えることで利益を生み、それを従業員に還元して雇用をしっかり支え、地域を活性化していきたいです」

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