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先天性心疾患の子の保育園。3回の手術を経て入園するまでの話

Tくんが先天性心疾患(両大血管右室起始症)だとわかったのは、生後2か月のことでした。

予防接種を受けに行ったかかりつけ医の先生が異常に気づき、紹介された大学病院をそのまま緊急入院。
あの日から、私たちの日常は大きく変わりました。

それまで何となく思い描いていたことがありました。
上の子が通う保育園に、Tくんも自然に入園していく未来。
疑いもしなかったその当たり前が、急に遠いものになった気がしました。

Tくんが保育園に入園できると決まるまでに、3回の手術と、1年以上の時間が必要でした。
申し込んで、悩んで、一度は辞退して。

そのときそのときで最善を選び続けた記録を、同じように迷っている誰かの参考になればと思いながら、ここに残しておきたいと思います。


本当は、1歳より前に入園させるはずだった

Tくんは、生後2か月で最初の手術を受けました。

入院中、「保育園」という言葉は、私の頭の中からすっかり消えていました。目の前のことだけで精一杯で、それどころではなかったからです。

退院して少しずつ日常が戻ってきた頃、上の子が通う園の先生から、0歳から参加できる親子サークルの案内をもらいました。
手術後だから、もちろん参加できない。
その紙を受け取りながら、なんとも言えない気持ちになりました。

育休中のママたちと話す機会もありました。
「いつから入園する?」という話題になると、私はいつも愛想笑いをするだけになっていました。

いきなり病気のことを話せる関係でもなくて、でも正直に答えることもできなくて。
なんとなく、置いていかれたような気持ちになりました。

そもそも、入園を申し込んでいいのかわからない。
体調が安定するかどうかも、わからない。
いつかはわからないけど、まだ手術をする予定がある。

先天性心疾患だとわかる前は、1歳になる前に入園させようと思っていました。上の子も通っているし、自然にそうなると思っていた。

「どうなるんだろう」という気持ちだけが、じわじわと大きくなっていきました。

2回目の手術と、4月入園の申し込み

Tくんが2回目の手術を受けたのは、生後10か月。
退院して少し経った頃、次の4月入園の申し込み時期となりました。

「申し込み、どうしたらよいでしょうか?」と担当の医師に相談すると、「申し込みはしていいですよ」と言ってもらえました。

ただ、半年後のTくんの状態がどうなっているかは、誰にもわからない。
医師からも、「2月にもう一度状態を見て、一緒に判断しましょう」と言われました。

希望はある。でも、確かなことは何もない。
医師が「入園しても良い」と言っても、心内修復を終えてない状況で、1歳児クラスに通わせるのが不安だった。
入園してすぐにまた手術となる可能性も、ゼロではありません。

申し込むべきか、見送るべきか。
正直、正解がわかりませんでした。

さらに、現実的な問題もありました。
私は会社員ではなく、フリーランスです。
仕事を調整することは、可能。
でも、本音を言えば、あまり長く仕事を止めたくはありませんでした。

私たちが暮らしているのは、田舎。
都市部のように、保育園に入園するのが大変という環境ではありません。
とはいえ、1歳児の4月入園を逃すと、タイミング次第では3歳まで入園できないかもしれない。

悩みました。
しかし、何もしないまま時期を逃すのも違う気がして、まずは動いてみることにしました。

園の言葉と、感じた空気

申し込む園は、上の子が通う園ひとつだけにしました。
入園を申し込む前に、Tくんの病気について相談しています。

入園できない可能性があること。
今後、酸素が必要になるかもしれないこと。

その園は、医療的ケア児の受け入れ実績がある園でした。
Tくんの病気について伝えると、こんな言葉が返ってきました。

「うちは、酸素が必要という理由だけで、退園にはなりません。ただ、園でできることとできないことがあります。都度共有しながら、どうやったら通い続けられるか一緒に考えましょう」

その言葉に、少し肩の力が抜けました。

実は、他の園にも電話で問い合わせてみたことがあります。
このときは入園についてではなく、一時保育が利用できないかという相談でした。

Tくんは今後も手術が控えていること、酸素が必要になるかもしれないことを話した途端、雰囲気が変わりました。

「うちに看護師は在籍していますが、お子さんひとりに付きっきりになるわけにもいかないので……」

私は、付きっきりで見てほしいなんて、一言もいっていません。

はっきり断られたわけではない。
でも、「あまり積極的には受け入れたくない」という空気は伝わってきました。

責める気持ちはありません。園にも事情がある。
でも、あの電話のあとは、しばらく気持ちが沈みました。

同じ「保育園」でも、こんなにも違うのかと、痛いほど実感しました。

入園を辞退するという選択

2月。医師と改めて話しました。
「検査入院をしましょう」と言われたとき、胸の奥が少しざわつきました。

近々、検査入院する。検査入院の結果によるけれど、次の手術が近そうだという話を受けました。
医師は「保育園、通ってもいいですよ」と言っていましたが、私たちは悩みました。

入園しても、手術後は1か月の入院。
退院してからも、3か月ほどは登園できない見込みです。

念のため、役所にも確認しました。
「どんな理由であれ、長期欠席は退園になります」
事務的に、淡々と言われました。

入園しても、結局通えなくなる。
そういうことでした。

悩んだ末、入園を辞退することにしました。

辞退の連絡を園にしたとき、先生は「またいつでも相談してください」と言ってくれました。
申し込みの段階から、こちらの事情を理解してくれていた園だったから、その一言がありがたかった。

せっかくのチャンスを手放す感覚は、正直ありました。
しかし、あのとき辞退したことは、間違いではなかったと今は思っています。
Tくんの体を最優先に考えた、最善の選択でした。

心内修復を終えて、迎えた春

3回目の手術は、心内修復術になりました。

手術を終えた医師から「無事終わりました」という言葉をもらったとき、長かった道のりがようやく一区切りついた気がしました。

心内修復したことで、Tくんは他の子と同じように生活できるようになりました。
医師から「園に伝えなければならない特別な配慮は、ありません」と言われています。

4月、Tくんはこども園に入園します。
上の子が通うあの園に。

今回、入園申し込みの前に、看護師と管理職の方とTくんの状況について話す機会を設けてもらえました。
これまでの経過や、今も服薬しており、経過観察中であることなど、情報を共有することができました。

この園は、上の子が申し込んだときの、第2希望の園でした。
たまたま、医療的ケア児の受入実績があり、病気について理解してくれる園だった。
上の子と一緒に通えることが、ありがたいです。

申し込んで、辞退して、また申し込んだ。
そのあいだに、いくつもの「わからない」と向き合いました。

それでも、そのときそのときで、できる限りの選択をしてきました。
辞退したことも、また申し込んだことも、全部ひっくるめて、Tくんとの道のりです。

振り返ると、先天性心疾患のあるTくんの保育園入園は、「申し込めば通える」という単純な話ではありませんでした。
体調、手術の時期、園の受け入れ体制、自治体のルール。
たくさんのことが絡み合っていました。

ひとつ、正直に書いておきたいことがあります。
ここまで読んで感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、私の場合、恵まれていた条件がいくつかあったと思っています。

だから、この記録がそのままあなたの状況に当てはまるわけではないかもしれない。
それでも、同じように「どうしたらいいんだろう」と悩んでいる誰かの、ひとつの参考になればと思って書きました。

この記録が、誰かの「判断材料」の一つになれたら嬉しいです。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

私たちの日常が、同じように先天性心疾患のお子さんを育てている方や、これから向き合っていく方の参考に少しでもなれば嬉しいです。

noteマガジン「私の子どもは、心臓病。」では、これからも私たちの経験や日常を綴っていきます。

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