見出し画像

寅井さんちのツトムくん(14/17)【ゲームノベライズ】

「ち、ちくしょう…こんな…こんなのって……」
どんどん体から力が失われていく……
「なんとか…、なんとか…なんねぇのかよぉ……」
俺の思考は泣き言に染まっていった………が、
(いや……!)
涙の重みに押しつぶされそうになりながらも、アカネを抱きしめる俺の手にはわずかな気力が残っていた。
それは
(何としてでも)
という、俺の本能からくる意志の力なのだろうか
(あきらめる…、なんて!していいわけねぇじゃねぇか!!!)
そう俺の心は叫んでいた。

俺は……俺は、何を弱気になってんだよ
絶対に助けてやる
……絶対に助けてやるからな、アカネ……
……何としてでも……もう一度……

……でも……
どうしたら……一体どうしたら……
こんなとき……こんなとき……あいつがいてくれたら……

(……あ……!?)
脳裏にあいつの声が蘇った。

(はっ!!どーせならてめぇの血でアイツも人間じゃないようにしてやればどうだ?)

……もしかしたら……助かる……?

それしか……ない……………

……でも……アカネは……それを……望んでいるのか?
俺の心は一瞬立ち止まった。
魔物としてでも……生きることを……

一瞬、心に問い、そして一瞬で、迷いを振り払った。

そんなこと、今はいい、後で何と責められてもいい。
どんなに苦しむことになっても、俺が苦しむだけなら少しも構わない。
アカネが苦しむんなら……その苦しみだって全部俺が引受けてやる……どんなことだってしてやる………。
くだらねえこと……ごちゃごちゃ考えて、このままでいるなんて……。
このまま死なせちまうなんて……それでいいわけがねぇ!それが一番いいわけなんてねぇ!!

……全てを……話そう……
それで……たとえ、アカネが俺を否定しても……
俺は今……アカネを助けたい……いや、絶対に助けなきゃいけないんだ!

 俺の血を、慎重にアカネの口内へ注ぐと、しばらくしてアカネの体は生気を取り戻し始めた。

 魔物が備える特性、例えば強い生命力と回復力は、魔物が生み出されてから一族の中で脈々と受け継がれ、その身に宿してきたきた魔力によるものだ。体の全ての部分、中を流れる血にもそれは含まれている。勇者どもが魔物を狩る一つの目的が、魔力の込められた道具や薬の素材集めのだと聞いたときは反吐が出たが、今はそれが役に立つ。

 弱弱しくはあるが、鼓動も感じられる。俺はアカネを抱いたまま立ち上がり、家の中へと連れて行って寝かせた。
 その日、アカネの意識は戻らなかったが、穏やかな表情で眠る顔を見て俺はひとまず安心した。血をぬぐってやれば、昨日と変らぬアカネがそこにいた。その顔を見たとたん、睡魔が襲ってきた。俺の傷は思ったよりも深くなく、あっさりと眠りに落ちることができた。

そして次の日。

「……朝か……」
朝が来ることは当たり前なのだが、そうつぶやかずにいられない俺がいた。
朝が来てしまったこと、目が覚めてしまったことに不思議な重い感慨があった。振り向けば、いつもの場所でいつものように眠っている……、ように見えるアカネがいる。いつもの場所で……寝返りでも打っていてくれたらまた昨日の朝のように笑えたのだが、アカネは昨日の夜、静かに横にさせたときと全く同じ場所にいた。
そのそばへ歩み寄り、膝をついて顔を覗き込んだ。
「俺のしたことは……本当に……正しいことだったのか……」
そう独り言をつぶやいたきり、俺は何もできずに自分の鼓動を持て余していた。
やがて
「うぅ……」
と、苦しそうなうめき声が聞こえた。
空耳でなければ……
そんな声をあげる奴はここに1人しかいない。俺は弾かれるようにそいつの名前を呼んだ。
「アカネっ!?」
「ツ……ツトムさん?」
声を発したものの、驚き、自分の体と俺を交互に見ているアカネ。何が起きているのか、全くわからないで混乱している様子だ。
だが、俺は涙してしまい、アカネの疑問をすぐに受けとめてやることができずにいた。
「よかった……よかった……」
アカネがおそるおそるといった感じで身を起こした。
不安げな面持ちで胸に右手をあて、その上に左手を重ねて結んだり開いたりして自分が生きていることを確かめているようだ。
(生きている……生きてるんだな……)
そのことを俺も確認し、涙がまた流れた。できることなら流れる涙に溺れてアカネを見つめていたかった。
「…私、どうして……」
しかし、不安でいっぱいの世界に目覚めたばかりのアカネを放ったまま泣いているわけにはいかない。
俺は、喜びの首根っこを押さえつけ、言葉を絞り出すように話し始めた。
「………実は……」
「………」
アカネは俺が語る言葉が、この世界の全てというような面持ちで聞いている。
「……俺の血を……飲ませたんだ……」
「……えっ?」
これだけでは理解できないことはわかっている…
「実は俺………」
言わなくてはならない。
「お前に隠してたことが……あるんだ……」
「………………人間じゃないってことですか……?」
俺が必死に喉から口へとその言葉を引き上げるより一瞬早く、アカネが少しうつむいて、小声ながらはっきりとそう言った。
(!!!)
その衝撃に俺は
「……な、何で……?」
と、うろたえるしかなかったが、アカネは口を一文字にしたまま目を開き、
(いくら私だからって…見くびらないでください)
という表情で俺に顔を向け、
「それぐらい……気付きますよ……」
と言った。
「じゃ、じゃあ!……何で……」
アカネの口と目がふっと柔らかく動き、アカネが撃たれる前に見せた笑顔が現れた。
「……そんなこと、関係ないですよ」
「……………!!!」

(……ふっ、そうだよ、その通りだ)
(そんなもの、関係ねぇ)

ベル公の声がまた聞こえ、涙が流れた。
「俺は……なんで……」
(アカネを信じられなかったのか)
自責の念にかられている俺に、アカネは目を閉じて言葉を続ける。
「でも、よかった」
「えっ?」
「……死ぬ前に……ツトムさんの口から聞けて……」
控えめながら満ち足りたという感じの口調でそう言った。俺はその言葉に思わず激怒し、叫んでいた。
「バカ野郎!!死ぬなんて言うな!!」
「………」
アカネは力なく、わずかに瞳を開いた。
「そうだよ、俺の血を飲み続けたら一緒にいられるんだ……」
怒りは、またアカネを失うかもしれないという思いからくる涙へと変っていた。
「………」
アカネは口をつぐんだまま、見えない目を俺に向けている。
「ずっと、ずっと一緒なんだぜ」
「………」
「きっと、毎日が楽しいはずだよな?」
その日々を想像し、俺は心の奥から生まれてくる笑みを涙の中に浮かべていた。
「………」
流れる涙に抵抗するように目をなんとか開き、アカネをまっすぐに見つめ
「………だから、だから!」
(そんな悲しいことを言わないでくれ!!)
と、続けようとしてまた涙にむせんだ俺に、アカネはぽつりと言った。

「……………………………イヤです………」

「ア、アカネ………?」
え………
なぜ………
そんな………
「……そんなの、イヤです……」
「………!!!」
涙が止まり、俺はその重ねられた言葉に下顎をわずかに震わせることしかできないでいた。
「………」
そ……ん……な………
俺の……勝手な……思い込み………だったのか……
指先が何かにすがるように震え始め、それ以上少しも先へと思考が進まない、進むのが怖い。

そんな……
そんな……
俺は…、俺は……どうしたら…………

悲しみをたたえてうつむきながら、次に言葉を発したのはアカネだった。
「………これ以上……これ以上、ツトムさんに迷惑をかけるなんて……イヤです…」
「………!!!」
「だから……もう、いいんです」
「迷惑なんかじゃない……俺が!俺が、そうしたいんだ!!」
俺はようやくアカネの言葉の意味を理解し、必死になって気持ちを叫んだ。
しかし、アカネはまっすぐ強い目で、けれどやさしく俺を見つめ
「……いいんです、……もう」
と言った。
「ちっともよくなんかねぇよ!!バカ野郎!!」
俺はまたそんなことを言い出したアカネへのもどかしさで泣き、叫んでいた。

今度はアカネの両の眼から、涙が流れ出した。堰を切ったようにそれは流れ続けた。
「……もう、終わりなんです……」
次いで、口元がゆがみ、悲しみより悔しさから生まれたような言葉が漏れた。
「……ア、ア……カネ……?」
俺は何故アカネが急に涙を流したのかわからず、さっきまで抱いていた怒りや悲しみが霧散してしまったかのように、ただアカネの変化に呆然としていた。
「何で…そんな……」


寅井さんちのツトムくん13へ   寅井さんちのツトムくん15へ

寅井さんちのツトム君<作品紹介ページ>


いいなと思ったら応援しよう!

ポエマー・グロ チップを送ってもいいなと思っていただけたら光栄です。いただいたチップは心の栄養及び創作の糧として使わせていただきます。