長編小説「舞台裏から愛とかを込めて」 20 旅立ち
<主なCAST>
・どろだんごオールスターズ
そして約二年の月日が流れた。チャーシューとカッパの劇団立ち上げはタロたちの代の卒業の半年前から本格的な準備に入った。予定では一年前に始める予定だったのだが、チャーシューの卒業に必要な単位が足りず、今年の前期卒業となったため、半年遅れとなった。
後輩たちへの有形無形の置き土産をということで、各人の財布からひねり出したなけなしの資金により、バッキーの仲立ちで新品の灯体を格安で1つ購入。もう一つ、大学祭実行委員会との関係改善を試み、サークル協議会からの後押しもあって来年度からのサークルとしての参加禁止解除を果たした。舞台の土台作りのためにビールケースの借用のお伺いを立てる際のドキドキからもこれで解放されることだろう。
最後の晴れ舞台として、この二年の間誰一人欠けることなく残った四年生八人で卒業公演「卒業だよ!全員集合!!」を企画した。タイトルを決めたときには想定していなかったが、少しずつ実績を積んだことにより親に了解を得て一年休学を延長したレッドもスケジュールの都合がつき、一週間限定で劇団に復帰という体で稽古と本番に参加したことにより九人全員そろっての公演と相成った。オムニバスのごちゃまぜな構成で各人の思い入れのある楽曲を使用しまくりの舞台を走り抜いた。サウンドトラックは次のとおり。
No 「タイトル」アーティスト
0. 「トビキリの朝」東京少年
1. 「トランジスタ・ラジオ」RCサクセション
2. 「言えずのI LOVE YOU」KAN
3. 「20Th Century Flight」 Spiral Life
4. 「元祖高木ブー伝説」筋肉少女帯
5. 「あしたのジョー」尾藤イサオ
6. 「Only Time」 Enya
7. 「銀河通信」谷山浩子
8. 「人にやさしく」THE BLUE HEARTS
9. 「ジ・エンド・オブ・エイジア」イエロー・マジック・オーケストラ
10.「What a Wonderful World」 Louis Armstrong
11.「涙2(青春バージョン)」爆風スランプ
12.「五つの橋」ZABADAK
13.「Hey Jude」 The Beatles
14.「悲しみよこんにちは」斉藤由貴
15.「友達でいいから」高橋由美子
16.「幸運(ラッキー)」アンジー
17.「スターゲイザー」スピッツ
18.「たどり着いたらいつも雨降り」モップス
19.「くせのうた」星野源
20.「すばらしい日々」ユニコーン
21.「夕暮れ」THE BLUE HEARTS
就職活動でなまった体に鞭を打ち、叫び、踊り、走り、ラストナンバーが流れる中、千穐楽のカーテンコールで最後のお辞儀をしたとき、タロは「ああ、自分の青春は終わったんだな」という感覚があった。この4年間でざっと数えて延べ二千人ほどのお客さんに「ありがとうございました」と面と向かって伝えてきた。貰った拍手に対し、やかましいほどの声に乗せて心からの感謝で応える関係もひとまず区切りとなる。劇団員や関わってくれた多くの関係者も加えれば、交わした「ありがとう」の数は一万ではきかないだろう。この濃密さが次第に薄まってゆくのだろうかと想像すると、どろだんごの日常への愛おしさがどうしようもないほど募っていたのだと強く感じ、胸の熱さとともに別れの予感に切なくなった。
劇団生活最後となる打ち上げで、皆は自分の進路と夢を語り、エールを贈り合った。その中でマリが風変りな夢を披露した。
「いつか、十分働いたら店を出したい」
「店?何の店よ?」
衣装のままワインをがぶ飲みしていたコロが尋ねる。
「基本は居酒屋みたいな飲み食いするとこだけど、何にでも使えるスペースだ。ちっちゃなステージもあって、二階には酔っぱらっちゃったら泊まれる部屋もある。会員制でどろだんご関係者とその家族だけ相手にするから嫌な客の機嫌をとる必要もない、道楽で客が来たときだけ営業する」
「へー、いいじゃない、だらだら飲むのに最高ね」
ハッシーがその営業方針に賛同する。
「でもマリちゃん料理とかできたっけ?」
退去の準備としてマリのアパートの掃除を手伝い、カビの生えた炊飯器を廃棄したイチがいぶかしむ。
「乾きものと缶詰くらいは用意するけど、食べたい物を持ち込んで客が調理するスタイル、俺はドリンク作るだけ」
「ご飯は寂しそうね、バッキーさん常駐してくれないかしら」
ザワが別の大学の大学院に進学し、この地を離れている名シェフのペペロンチーノを懐かしむように呟く。
「やっぱレッドに歌ってもらいたいなぁ、あ、出演料がいるかな、事務所も通して」
「今ならお安くしとくよ~ポエマーズの朗読もいいんじゃない」
どんのリクエストにレッドが手もみをして応える。
「フリーエチュードやってうけたら一杯おごりとか」
突拍子もない発想でエチュードの女王と言われたドラが経営危機を誘う提案をする。
「昔の公演の映像も流しましょうよ、ビデオテープも全部デジタル化しますから」
「聞き取れないところは字幕を入れてね~」
ノスケが意気込んだところにQが冗談っぽく突っ込む。
「お店のデザインはもちろんイチさんがやってくれますよね」
「いいとも~、あ、店の名前は決まってるの?」
ナギのリクエストをイチが快諾するも肝心なことが曖昧だと気付いたようだ。
「店名は『おいでませ』。みんなそろっておいでませってな」
マリが口にしたのは何故か山口地方の方言だった。
「格言みたいなの入ってる湯呑み作りません?歴代の名セリフ詰め込んで」
ピョン吉の提案に、今回の公演からならどれを入れるかとカメが案を出す。
「打ち上げは合宿所からそっちに変更だな、ウォーターのおやっさんとのバトルも終わりかな」
タロは値下げ交渉を繰り広げた日々を懐かしむ。広さはどれくらい欲しいとか、音響と照明の機材はどうするかなど、妄想を肴にみんなで盛り上がった。
「で、いつぐらいになりそうなの?」
ザワの問いかけにマリが真剣な表情で応える。
「宝くじが当たればすぐだけど、まあ、多分定年後かな」
「遠いな~、じゃあみんな頑張って健康でいないとね」
そう言ってワインの空瓶を寝かせるコロだった。その盛り上がった熱にあてられるようにタロも宣言した。
「いつか、これは、っていう脚本を書き上げて『おいでませ』で上演する!」
「おー!じゃあ、タイトルは『定年だよ!全員集合!!』だな」
「え~、もうちょっとなんとかしましょうよ」
「じっくり四十年かけて練り込んどくよ」
往年のテレビ番組をもじった今回の卒業公演のタイトルを流用するという、そのまますぎるマリのネーミングセンスにQがつっこみ、タロは宿題をもらった。三年前の時点はあいまいだった、卒業後も演劇に関わり続けようという気持ちを口に出したことで、後には引けないという気持ちになった。
後輩たちの寄せ書きであふれた卒業記念品と花束を携えて発したその言葉は、果たして独立宣言だったのか、それとも己を縛る呪いだったのか。
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