見出し画像

街づくりデザインから観光を考える──立教大学ビジネスデザイン研究所 公開講演会


現在、観光産業は日本の地域活性化において非常に重要な役割を果たしており、令和7年度の観光庁の予算項目を見ても、今後の取り組みテーマとして以下の3つが掲げられていることが分かります。

1. 持続可能な観光地域づくり 
2. 地方を中心としたインバウンド誘客
3. 国内交流拡大

このようなテーマに沿って官民一体での推進に力を入れていますが、現状は文化資源や歴史資源に依存する傾向が強く、自然資源やアクティビティ、芸術、スポーツなどの体験型の観光の整備が遅れています。

特定の観光地への訪問客の過度な集中によるオーバーツーリズムも問題となっています。さらに、観光事業者間のネットワークも弱いとされ、情報発信だけに頼るのではなく、消費者の視点に立った観光地域づくりが必要だと言われていますが、観光関連産業を担う観光人材は慢性的な人手不足であり、特に地方では深刻な状況です。

US総研とJTB総合研究所は、こうした様々な課題に対して、それぞれのグループ会社を含めた知見を活かし、魅力的な「観光まちづくり」の推進をめざす「観光まちづくり共創ラボ」の活動を2025年6月より開始しました。

本記事では、「観光まちづくり共創ラボ」始動のプレイベントとして、US総研も参画している立教大学ビジネスデザイン研究所の斎藤明所長のご協力を得て、2025年3月14日に同大学池袋キャンパスで開催された「街づくりデザインから観光を考える」をテーマとした公開講演会の模様をお届けします。


講演1 | 観光が抱える課題と展望/JTB総合研究所 岡田邦喜

岡田邦喜(おかだ・くによし)
株式会社 JTB 総合研究所 客員研究員。総合商社系シンクタンク新事業開発部門にてパブリックビジネス推進室およびICTイノベーション室シニアプロジェクトマネジャーとして従事後、2012年より現職。新事業開発、都市開発、企業不動産、二地域居住などの事業開発、調査研究に携わる。

最初の登壇者は、JTB総合研究所(以下、JTB総研)の岡田邦喜さんです。
JTB総研は、旅行や観光に関する調査研究・コンサルティング・観光教育などを行うJTBグループのシンクタンクで、2012年のJTB創業100周年を契機に発足して以来、旅行・観光の最先端を研究・発信し続けています。

同社のWEBサイト上では独自の研究レポートやデータベースが閲覧できるほか、豊富なコラムやインタビュー記事を掲載。「旅」を入り口に、さまざまな角度から社会の動向を伝えるメディアとしても機能しています。

岡田さんより「観光が抱える課題と展望」と題して、観光の現在地点について話しました。

訪日外国人6人分の旅行中の消費額と、日本人1人分の年間消費額はほぼ同じ。「観光」が地方創生に与えるインパクト


昨今、地域活性化の文脈で観光にスポットライトが当たることが多くなっています。岡田さんは、地域創生において重要な①経済活性化、②雇用創出、③地域資源の再評価、④移住・定住の促進、⑤持続可能な発展などを後押しするカギが観光であるといいます。

「実際、観光にどれくらい経済効果があるのかというと、2019年の旅行消費額は28兆円程度で、コロナ禍で一度落ち込みますが、2023年には同水準まで回復しています。28兆円というのは2023年の日本の名目GDP(約591兆円)の約5%にあたります。かなりインパクトある消費の塊ですね。周辺産業への生産波及効果は約55.8兆円、雇用誘発者数は456万人にのぼっています。

2023年の観光庁のデータによると、訪日外国人6人分の消費額が、日本の定住人口1人あたりの年間消費額(135万円)とほぼ同等なんですね。

UN Tourism(世界観光機関)の2023年のデータによると2023年時点で日本の外国人旅行者受入数は約2500万人で世界ランキング15位。国際観光収入額だけを見れば 386億USドルで世界10位にランクインします。私としては数字的にはもっと伸び代があるんじゃないかと思っています」(岡田邦喜さん、以下:岡田)

左:観光産業の経済的効果(出典:観光庁「旅行・観光消費動向調査」、「訪日外国人消費動向調査」) 右:周辺産業への波及効果(出典:観光庁「統計情報・白書 」

時代の変化への適用に苦戦。観光が抱える課題とこれから


経済効果の観点で、観光は大きな可能性を持ちます。しかし、岡田さんは「市場の多様化」「観光地の格差」「生産性の低さ」「観光人材の不足」など、現状の観光産業には多くの課題があるといいます。

最初に触れた課題は「市場の多様化」です。これまでの周遊型観光から滞在型観光へ、団体旅行から個人旅行へ、日本人から外国人へ……と、トレンドが移る中で、多様化の流れに対応できない観光地が苦戦しているようです。

「国内旅行の話ですが、昨今はいわゆるバスツアーのように、団体でいろいろな観光地を巡る周遊型観光から、個人で一カ所に滞在して周辺を楽しむ滞在型観光へと変わってきています。そのため大浴場や宴会施設など団体旅行向けの施設から、少人数・個人旅行者のニーズに対応した施設・サービスへの転換が宿泊業の経営課題となっています」(岡田)

少人数による多様な目的を持った滞在型観光に対応すべく、各地で体験プログラムの開発が盛んに行われているようです。中でも岡田さんは「地域コミュニティとの交流自体をコンテンツ化する動きに注目している」そうで、「人は観光資源の中でも重要な要素だ」と感じていると語ります。

「海外からの旅行者にも変化が見られます。今までは三大都市を弾丸旅行していくのが主流だったのですが、昨今は地方にじっくり滞在する外国人が増えています。これはリピーターの数も少なからず影響しているのではないかと思いますね。我々日本人が旅行する時も同じですよね。最初は有名どころを観光するけれど、リピーターとして何度か訪れるうちに、実際に住んでいるかのように滞在してみたくなるものです。」(岡田)


続いての課題は「観光地の格差」です。昨今、オーバーツーリズムが話題になっていますが、キャパシティが小さい地方に、訪日外国人を中心にどっと人が押し寄せてしまうと、恩恵もあれば、弊害もあります。

「日常生活者からすれば、オーバーツーリズムは都市機能不全を招いています。かといって、地域活性化には観光産業の成長は不可欠です。オーバーツーリズムに苦しむ自治体がある一方で、多くの自治体は集客に苦しんでいます。結局、交流人口の最適化が重要だと思います。地域にとって適切な交流人口のボリュームを見極め、呼び込む工夫をしていく必要があります」(岡田)

3つ目の課題は「生産性の低さ」です。岡田さんは、観光産業を含むサービス業全体に低収益なビジネスが多いと指摘します。

「低収益であるために再投資が困難になっていまい、借入金依存体質になってしまう。加えて低賃金であるため労働者が不足してしまう。低賃金なだけでなく労働環境も劣悪な現場も多いようです。これが4つ目の課題に直結しています。観光産業では導入が遅れていると言われるデジタル化・DX化によって業務の効率化・生産性の改善を図ることが喫緊の課題です。」(岡田)

最後に4つ目、「観光人材の不足」です。経営人材、オペレーション人材のどちらも不足していると言われています。

「特に足りないのがグローバル人材ですね。訪日インバウンドのお客さんをきちっと接客できる人材が、先ほどの低賃金ということも相まって不足しています。せっかくホテル業界が活況になっているのに、人手不足で稼働率を上げられないホテルも少なくありません」(岡田)

観光と街づくり、ニ社の強みを活かして「観光まちづくり」の推進をめざす


最後に、岡田さんよりJTB総研とUS総研が共同で「観光まちづくり」の研究を行う「観光まちづくり共創ラボ」の活動についてもお話しがありました。実はJTB総研とNTT US総研では、観光まちづくり共創ラボ発足の3年以上前より観光目線での街づくりについて議論を進めてきたそうです。

「このたびスタートさせた観光まちづくり共創ラボでは、地域資源を活用した街づくりに取り組んでいきます。その中で今進めているのが、分散された遊休不動産を活用して観光地としての魅力を上げていこうという取り組みです。これにより、地域における観光経済圏の確立や、地域課題の解決、地域のリブランディングといった地域活性化に貢献できるんじゃないかという想いで共同研究を進めています」(岡田)


講演2 | まち全体がホテル「分散型ホテル」/NTTアーバンソリューションズ総合研究所 坂巻哲

坂巻哲(さかまき・さとし)
株式会社NTT アーバンソリューションズ総合研究所 上席研究員。地域にある自然の脅威と恩恵をテーマに、レジリエントな街づくりを基礎にしながら、かわまちづくり・みなとオアシスなど地域資源を活用した観光まちづくりに関する調査研究に取り組んでいる。

続いての講演はNTT US総研の坂巻さんです。観光まちづくり共創ラボで遊休不動産の活用を考える中で調査を行なった「分散型ホテル」を中心に、観光と街づくり両方の動向について話しました。

観光まちづくりの立役者として期待。分散型ホテルが今、日本で広がっている


分散型ホテルは、地域に散らばっている空き家を活用し、建物単体ではなく地域一帯をホテルとするイタリア発祥の取り組みで、Albergo Diffusoとも呼ばれます(アルベルゴは「宿泊施設」、ディフーゾは「分散」の意)。日本では2018年から徐々に日本各地で広がりを見せています。

地域総合研究室.noteでも2022年に富山県の南砺市の井波(いなみ)で「職人に弟子入りできる宿」をコンセプトとした分散型ホテル「Bed and Craft」を手がける建築家の山川智嗣さんにインタビューを行いました。このホテルの登場を皮切りに、井波では7年間で42件の空き家の再利活用が行われました。こちらの記事もあわせてご覧ください。

「2018年に何があったかというと、旅館業法が改正されたんです。これが日本における分散型ホテル登場の直接的な契機になっています。法改正では客室数や面積、設備などの基準が撤廃または緩和されましたが、特に大きかったのが玄関帳場等の基準の緩和でした。従来は施設ごとに営業許可が必要だったのですが、法改正により域内にフロントが1カ所あれば、客室となる建物が分散していても営業が可能になったんです」(坂巻哲さん、以下:坂巻)

法改正だけではありません。日本で分散型ホテルが実現した背景には、「地域資源の活用」「宿泊ニーズの変化」など社会的課題の解決を目指す民間事業者の提案や協力が大きな役割を果たしたといいます。

日本における分散型ホテルの登場に関連する出来事を「国家政策」「事業者動向」「訪日動向」「社会現象」の4つの軸でプロットした年表(作成:NTTアーバンソリューションズ総合研究所)

「2013年、国家戦略特別区域ワーキンググループの中で、 小規模宿泊施設を群で運営できる「歴史建築宿所」の提案が民間企業の発意で始まりました。その後、2014年には全国の6つの地域が国家戦略特別区域に指定され、この特区制度を活用した歴史的建築物利用宿泊事業により「篠山城下町ホテルNIPPONIA」「NIPPONIA大屋大杉 養蚕集落」のふたつが2015年に開業しています。こうした流れの中、2018年の法改正があり、分散型ホテルが全国に広がるようになりました。観光庁で「歴史資源を活用した観光まちづくり」といったフレーズが言われるようになったのもこの頃です」(坂巻)

自治体も国も後押し。分散型ホテルを起点に行われる街づくり

まち全体に客室を分散させて、まちなかに点在する飲食店や銭湯、ショップやギャラリーなどをアメニティとして捉える「分散型ホテル」の登場に合わせて、自治体も独自の観光戦略を掲げるなど、地域活性化や雇用機会創出に取り組んでいます。

「さまざまな自治体が分散型ホテルの強化を図るために取り組んでいます。例えば2018年にアルベルゴ・ディフーゾ協会からアジア初のアルベルゴ・ディフーゾ正式に認定された「矢掛屋 INN & SUITES」(現:やかげ一譚)がある岡山県矢掛町では、アルベルゴ・ディフーゾ・タウンとしてまちのブランディングを行っているのですが、ナイトタイムエコノミーの活性化が課題になっています。現在、町の観光ビジョンの中に夜間滞在コンテンツの開発を位置付けて注力しているようです」(坂巻)

民間事業者、自治体だけでなく、中央省庁も分散型ホテルの推進を後押ししています。

「内閣府地方創生推進事務局では、「中心市街地活性化促進プログラム」を展開していて、まちなかにぎわい拠点の整備やリノベーション街づくりの支援を行なっています。
国土交通省では分散型ホテル整備の一部支援を行なっていますし、経済産業省中小企業庁では商店街の整備として空き店舗を活用した「ビル泊」を支援しています。そのほか農林水産省では古民家×泊食分離のホテルや農山漁村の活性化を支援するための交付金制度を整備しています」(坂巻)

坂巻さんによると、これまでお話しいただいた内容をまとめると、分散型ホテルを3つのタイプに分けることができるそうです。

分散型ホテルを「歴史的資源活用型」「中心市街地活性化型」「地域創生型」の3タイプに分類し、各タイプの「立地」「特徴」「地域課題の解決」「中央省庁との関連」「事例」についてまとめたチャート(作成:NTTアーバンソリューションズ総合研究所)。
分散型ホテルの各タイプごとの重要なポイントについてまとめた図(作成:NTTアーバンソリューションズ総合研究所)

「それぞれのタイプが街づくりに貢献するには、何がポイントになるかを考えてみました。

歴史的資源活用型では、歴史のある街並みや歴史的建築物といった要素と、地域固有の文化・工芸・食などの体験的要素をより一体的なストーリーとして描いていくことが、まちの価値を高めていくことにつながると考えています。

中心市街地活性化型では、商店街の空き店舗を活用して、長期滞在を促す生活滞在型のコンセプトづくりと回遊性のある動線づくりを行うことがポイントです。

地域創生型では、農山漁村の古民家、自然、農産物、生活文化を活用した郷土愛の醸成につながる滞在価値の創出することで、街づくりに貢献できるだろうと思っています」(坂巻)

分散型ホテルならではの課題も。真に「まち全体がホテル」となるには


最後に、今回の調査で分散型ホテルには大きく「物件の改修(資金調達)」「価値と収益性」「地域との合意形成」の3つ課題があると坂巻さんは指摘します。
「まずは資金調達ですね。いろいろな事例について調べていると、高築年物件で改修を行う際に想定外のコストが発生してしまうのをよく見かけます。基礎工事や耐震補強などですね。加えて、高築年物件は維持管理のコストが高く、恒常的なメンテナンス費用が発生します。

続いて、収益性の課題です。高単価事業モデルで、低めの稼働率の設定が可能な分散型ホテルならではの課題です。高単価事業モデルだからこそ、それに資するサービス・アクティビティ・フードメニューといった価値を提供し続けなくてはなりません。

最後に、地域との合意形成ですね。分散型ホテルの成功にはまちが一丸となる必要があるため、地域関係者との連携が不可欠ですが、理解・協力を得られる関係を構築することが課題になっています。分散型ホテルとして地元の協議会や観光振興団体へ参画し、地元のカウンターパートを見つける必要もあるだろうと思います」(坂巻)


講演3 | 人中心の街づくり-観光への展開-/NTTアーバンソリューションズ総合研究所 林 正樹

林正樹(はやし・まさき) 株式会社NTT アーバンソリューションズ総合研究所 上席研究員 立教大学特任研究員。デベロッパー・設計事務所にてスモールラグジュアリーホテル・オフィスビル・教育施設等の企画・設計業務に従事。現職では、全国の都市圏における街づくりビジョンについての調査研究に携わる。

本講演会最後の登壇者は、NTT US総研の林正樹さんです。「観光」と「街づくり」をつなげて考えるためのヒントとなる<ヒト>について話しました。

変わりゆく観光。地域が持つ本質的な価値をどう来訪者に伝えられるか


観光資源と呼ばれるものには、地形、自然現象、生物などに代表される「自然資源」と、史跡、祭り、温泉などに代表される「人文資源」のふたつがあります。観光地と聞くと、これらに代表される観光地らしい観光地が想起されがちなのですが、では、この価値観はどのように形成されたのでしょうか。

「観光は、高度経済成長期に大衆化したと言われています。その頃は、ハレの日の対象として、まさに観光地らしい観光地に行くこと自体が目的化していました。同じような人が、同じような情報を基に、同じような行動するという行動パターンが主流だったんですね。1972年につくられた日本初の観光資源データベース「観光資源台帳」というのがあるのですが、これは国土の保護・保全・活用の優先順位をつけることを目的としていました。ここで評価基準として用いられたのが、「美しさ」「珍しさ」「大きさ」といった項目です。この時代の観光のあり方を象徴していますよね」(林正樹さん、以下:林)

では当時と今を比べて観光のあり方はどう変化したのでしょうか。2022年に観光庁が公表した「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」を例に見ていきましょう。

そもそも高付加価値旅行者を誘致するためには、高付加価値旅行者のニーズを満 たす滞在価値<ウリ>や、上質かつ地域のストーリーを感じられる宿泊施設<ヤド >が地域に存在するとともに、高付加価値旅行者を地域に送客する人材や地域において質の高いサービスを提供するガイド・ホスピタリティ人材<ヒト>が質的・量 的に確保されることが必要となる。その上で、日本を高付加価値旅行の目的地として認知してもらうための売り込み<コネ>が必要である。

観光庁「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりに向けたアクションプラン」より抜粋

「このアクションプランは、消費額が100万円以上の高付加価値旅行層をどうやったら誘致できるかを目的につくられたわけですが、「滞在価値<ウリ>」「地域のストーリーを感じさせる宿泊施設<ヤド>」「ガイド・ホスピタリティ人材<ヒト>」などのキーワードが出ている点が面白いですよね。
観光の捉え方が、1972年の観光資源台帳で掲げられていた「大きさ」や「珍しさ」から、地域が持つ本質的な価値をどう来訪者に伝えられるか・滞在しながらその土地の文化や価値をどうやったら深く理解してもらえるか、という視点へと変化していることが分かります。
言い換えれば、これまで別々の存在だと捉えられていた観光地と生活地の境界が曖昧になっていると捉えられると思います」(林)

観光と街づくりをつなげる着眼点


「観光と街づくり。両者をつなぐ要素はなんだろうと考えた時に、<ヒト>だと思いました。そこで、<ヒト>に着目していろいろな地域を観察してみたのですが、<ヒト>を深掘りしていくと、<チエン>(地縁)、<ハツイ>(発意)、<レンサ>(連鎖)という3つのキーワードが見えてきたんです。そう確信したのが、2024年に長崎県の東彼杵町を訪れた時のことでした」(林)

東彼杵町は、長崎空港から車で20分ほどの場所に位置します。人口は7300人と、離島を除けば、県内で人口・人口密度ともに最も少ない自治体です。それにもかかわらず、東彼杵町では2015年からの約10年間で66の創業・起業が生まれ、約500人が新たに移住しています。そのきっかけの一端を担ったのが、2015年に米倉庫をリノベーションした交流拠点「Sorrisoriso」をオープンした、一般社団法人東彼杵ひとこともの公社の森一峻さんでした。
森さんは元々東彼杵の出身で、2008年に家業のコンビニエンスストアを継ぐためにUターンされました。ですが、森さんを待ち受けていたのはコンビニですら経営が厳しいという現実でした。エリア全域が活気づかなければ店の継続が難しいことを痛感して、「Sorrisoriso」の立ち上げに至ります。森さんは、移住希望者や新規企業の支援や、くじらの髭というウェブサイトを立ち上げて、地元企業の情報発信なども行っています。こうした取り組みが、移住者500人という結果につながっているのです。

東彼杵町と「Sorrisoriso」については、地域想合研究室.noteのこちらの記事で詳しく取り上げていますので、ぜひご覧ください。

「森さんを中心とした東彼杵でのムーブメントを見ていると、
・<チエン>=地域に縁があり、熱意を持つ人がいること
・<ハツイ>=まちに新たなアイデアを取り込み、行動に移していること

・<レンサ>=新たな才能を持った人がまちに参加しネットワークを形成すること
これらが東彼杵ではうまく循環していることが分かりました。

NTT US総研では「多様性」「回遊性」「唯一性」がまちにバランスよく存在していることが重要だと考えて、街づくりに取り組んでいます。その観点で見ると、東彼杵は三拍子揃っています。地域にさまざまなタレントがいて、訪れるべき場所が多くある。その結果、そのまちならではの豊かな生活体験が可能になっています。

特に移住者としてのポテンシャルがある人びとは、そのまちならではの豊かな生活体験を求めて継続的な地域との関わりを持っていと思うんです。この関わり方って、今の観光で目指されている観光客とまちの関係性にもとても近い。だから東彼杵の「Sorrisoriso」のような取り組みは、観光と街づくりをつなげるヒントになるんじゃないかと思い、本日ご紹介しました」(林)

こう締めくくり、林さんは登壇を終えました。


岡田さん、坂巻さん、林さんの3名の発表の後は、質疑応答の時間が設けられました。限界集落での遊休不動産の活用方法に関する質問や、分散型ホテルの事業計画や採算性に関する質問など、立教大学ビジネスデザイン研究所らしい、具体的かつビジネス目線の質問が飛び交いました。

本講演会で話題にのぼったさまざまな課題もそうですが、JTB総研とNTTアーバンソリューションズ総研が連携する「観光まちづくり共創ラボ」では、地域の課題を「観光まちづくり」によって解決すべく調査・研究を行っています。共創ラボの今後についてもご期待ください。

(2025年3月14日収録)


編集後記

COVID19で大打撃を受けた観光業だが、2年ほど前から国際為替や消費者ニーズの多様化、さらには国際化の更なる進展により、国内観光は新たな段階に入ってきたように感じている。
従来の人気観光地ではオーバーツーリズム問題など新たな課題も出てきた中で、国内の魅力的なまちへの新たな名勝の発掘、体験型などの新たな価値の観光が注目されてきており、多くの地方が、人口減少や地域経済の停滞を背景にした課題の解決において、新たな地域の魅力を活用した交流人口の増加を目標に、観光による地域創生が注目されている。
この流れを、一時のブームで終わらせず、ムーブメントにしていくために、これからの世代の人たちに、これから自分たちが住みたい! 行ってみたい! と思えるようなまちづくりへ、そして、そのまちならではの観光の多様性を組み込む「観光まちづくり」への興味のきっかけの一助になればいいと思い、開催した公開イベントだったが、会場の参加者の顔を見て、その気にさせられるイベントであった。(今中)

この記事は noteマネー にピックアップされました