「コミュニティ」が防災を日常的なものにしてくれる?〜連載企画「コミュニティと防災」イントロダクション〜
2026年度、地域想合研究室.noteでは「コミュニティと防災」についての連載企画をスタートします。
私たちは「防災」が重要だと思っていても、なかなか日常的に知識を取り入れたり実践を行うことができていません。防災は日常的に意識するのが難しいものなのではないかと思います。
そうした状況に対し、防災の専門家であるNTTアーバンソリューションズ総合研究所(以下、NTT US総研)の早川輝さんは下記の仮説の下に「コミュニティ」と「防災」について考える研究を進めています。
仮説
都市中心エリアのレジリエンスを強化するためには、平常時から人びとを集め災害時には避難や情報共有の場として機能する「交流の場」を定期的に創出することが重要である。ハードとソフトの両面から交流の場を設けることで、個人の防災意識の変化や向上(自助)だけでなく、コミュニティの醸成や防災力向上(共助)に繋がる。
連載企画では、既にコミュニティと防災を繋げる実践をしていると考えられる方にインタビューをしていくことで、仮説の検証やコミュニティへの理解を深めていくことを目的にします。
連載の初回となる本記事では、そもそも早川さんがなぜ防災に興味を持ったのか、「コミュニティと防災」という切り口にどのようにたどり着いたのか、具体的に取材したい候補についてお話を伺いました。

早川輝(はやかわ・あきら)
国内外で防災・減災に係る事業に従事してきました。これまでの自然災害からも、高度な予測技術や堅強な構造物のみならず、命はもちろん、各々の財産を守る十分な備えこそが、持続可能な防災・減災の実現に繋がります。人づくりは極めて重要と言えるでしょう。街づくりとは人づくりに始まり人づくりに終わります。街を企てるのも人、街を育むのも人、そして街を衰えさせるのも人です。ゆかりある土地柄を深く理解し、地域の住民や行政と協力しながら、人づくりを通して、未来への街づくりの一翼を担うことができたらと考えています。
NTTファシリティーズからJICAへ。ハードからソフトへ、多面的に防災に関わる
──まずは防災について興味を持った経緯を教えてください。
学生時代は機械系で、数値流体力学(CFD)の研究をしていました。私が学生だった当時は横浜ランドマークタワー(1993年竣工)の建設中でよく目に入っていたので、「超高層建築物であれば自分が専門としている空気の流れが大きく関わる」と思い、風を専門とする研究室に進みました。そこから縁があって、NTTファシリティーズに入社することになりました。
NTTファシリティーズでは、建物や鉄塔の構造設計や診断を手掛けていました。ハード面での様々な防災に関わることで、防災について意識するようになっていきました。
──防災を意識したのは入社してからだったんですね。
その後、NTTファシリティーズを退職して、JICAの防災課で国際協力業務に携わりました。国際協力活動の対象は資金的な制約がある途上国なので、構造対策のようなハード面の活動ではなく、どちらかというとソフト面での活動が中心でした。そして、そこで取り組んでいる活動の大部分がコミュニティを軸にした防災でした。なぜかというと、途上国では、日本の地方と同じような感じで、地域のコミュニティのつながりの強さが残っています。ただ、防災の知識や技術がない。だから、JICAが担うのは、防災の知識の伝達や技術協力をすることだったんです。

──JICAに転職しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
学生の時から「国際協力がしたい」という思いがずっとあったのが大きな要因です。
また、NTTファシリティーズでは研究開発本部という部署に所属していたのですが、私はそもそも研究室に閉じこもって研究することがそんなに好きではなかったんです(笑)。当時は、途上国の方によく旅行に行っていて、どちらかというと現場に赴くのが好きでした。
ある時、グアテマラのとある村に立ち寄った数か月後に、土砂崩れでその村の集落の多くがなくなったということがあったんです。その経験は私の中では衝撃的でした。「自分が持っている専門性で何か役立てることがあるのではないか」と思い始め、転職をすることに決めました。
また、キャリア的にも、自分の残りの人生のキャリアは「防災でやっていこう」と思っていたという時期であったのも関係していたと思います。
──一度NTTファシリティーズを退職されてJICAで働かれたという経歴は興味深いですね。
その後、また色々な事情があり、今度はNTTファシリティーズ総合研究所に所属することになりました。そこで、再びハードの防災に関わりました。具体的には、NTTの建物に通信装置や空調設備を入れる際に、NTTの耐震基準を満足することを確認するための耐震試験などを担当していました。所属当時は、2011年の東日本大震災から2年しか経っていなかったので、原子力発電所の緊急時対策所に収容される装置や設備の耐震試験を担当していて、すごく厳しい基準で耐震試験が多く実施されていました。見たこともないくらい大きな揺れで実験をしたりしていて、実験装置が壊れたり、試験体が吹き飛ぶのではないかと思ったくらいです。そこから、再びNTTファシリティーズを経て、このNTT US総研にやってくることになりました。
なので、NTTファシリティーズやNTTファシリティーズ総合研究所でハード面から、JICAでソフト面から防災に関わったという経緯があります。
「自分の身は自分で守る」の重要性
──「防災」を軸に色々な経験をされる中で、今はハード面ではなくソフト面に注目されているのはなぜでしょうか。
JICAからNTTファシリティーズ総合研究所に移った時も、ハード面の防災に関わる仕事をしつつ、ソフト面の防災についての個人研究をしていて毎年のようにレポートを書いていました。
そこから、NTT US総研に異動して、最初は親会社であるNTTアーバンソリューションズのICTなどデジタルを使った防災の取り組みの支援をしていたのですが、NTT US総研でも防災についてやろうという話が出て、2025年度から明確に防災に関するプロジェクトが立ち上がり、現在に至ります。
私は防災において最も重要なのがソフト面だとは思っていません。やはり基本となるのはハード面だと思っています。地震で言えば、建物の耐震対策。
特にNTTの建物は性質上、十分に耐震性の高い建物を建てています。投資をしてハード面での防災を強固にすることも重要だとは思うのですが、私は防災の本質は、人間の健康みたいに、小さいことを積み重ねていくことも重要なのではないかとずっと思っているんです。
──ハード面はもちろん重要ですが、どれだけ耐震性を高めたりしても100%安全であることはないということですよね。であれば、ソフト面も重要であると。建物の中でも特に耐震性が求められる施設に関わられていた早川さんがおっしゃると切実さがありますね。
やはり、「自分の身は自分で守る」という意識を持つのは重要だと思います。
日本は特に、「防災は行政がやるもんだろう」みたいな意識が大きいのではないかと感じるので。
──その中で、今回はなぜ「コミュニティ」に注目したのでしょうか。
今年度から防災について考えるようになった時に、初めはコミュニティという視点は考えていませんでした。その時やろうとしていたのは、NTTアーバンソリューションズが目指すべき「エリア防災」のスタンダードをつくろうというようなものでした。
今までお話していた防災の考え方は単体の建物を対象にしていて、8割はハード面から、2割は防災訓練や防災教育などのソフト面で、という話でした。それをエリアで見てみると、エリア内には耐震性の高い建物もあれば、耐震性の低い建物もあるわけですよね。そこで地震が起こると、耐震性の低い建物は使用できなくなってしまう。その時に帰宅困難者になってしまった人たちを、耐震性の高い建物が受け入れるような仕組みができれば、エリアとしての防災の価値を高めることができるのではないか、ということを考えていたのです。
ただ、その提案は社内で色々議論した結果進めるのが難しいということになりました。僕としては、もともとの耐震性の高いNTTの建物を活用すれば、ソフトに繋げることでより防災的な価値を高めることができる。大きなことではなく小さいことの積み重ねで防災的な価値を高めることができると思っていたのですが、そもそものハード面での前提の部分で課題があると捉えられてしまい……
──ハード面も絡むとなると、より多くの人やコストが関わることになるわけですし、組織として防災について考えることの難しさが伺えますね。
そこから防災について考え直していく中で、NTT全体で推し進めている「フェーズフリー(身のまわりにあるモノやサービスを非常時にも日常時にも役立つようデザインする考え方)」の考え方に注目することにしました。
もともと考えていたソフト面の取り組みとフェーズフリーを繋げて考えた時に「コミュニティ」というキーワードが出てきました。コミュニティは平常時も非常時も機能するフェーズフリーと言えるのではないかなと思ったのです。そして、日常的な取り組みな訳ですからエリアマネジメントと繋げることもできる。そう考えて、NTTアーバンソリューションズのエリアマネジメント室の人に話を聞きに行くと、彼らもちょうど「カジュアル防災」と言って、キャンプなどのイベントを通して防災に関するコミュニティを醸成したいということを考えていたようで、「これはいけるぞ」と思って提案してみたら、進めていいということになったんです。
──なるほど。
私はもともと防災への意識が強いので、「コミュニティ防災(国などのトップダウンではなく、地域社会などのコミュニティによるボトムアップで災害時の対応力を上げる防災のアプローチ)」を考える時に、どうしても防災を目的にして考えてしまうんです。ただ、それでは防災への意識がそこまでない人には興味を持ってもらえない。それについて、うちの社長と議論していた時に「逆にしないとエリアマネジメント室は興味を示さないよ」と言われて、なるほどと。防災の取り組みを手段にしてコミュニティを醸成していく。それであれば、多くの人が興味を持つのではないかと思うようになったんです。
──防災を楽しく捉えられるような取り組みをしていく中で、自然と防災意識が高まっていくようなコミュニティがつくられるのではないかということですね。
防災意識を持つことの難しさは色々と観点があるのですが、その辺りについての現時点での早川さんのお考えがあれば聞いてみたいです。
防災意識を日常的に持たない方が自然だと思っています。 普通に生活していて、滅多に起きないことに対して、ずっとぶるぶる震えてるわけにもいかないですし。
そういう状況に対して我々がどのように刺激を与えるかが一番重要なことだと思います。 例えば、交流の場をつくったり、コミュニティ活動や情報発信したり、あるいは年に 1、2回大規模なイベントをしたり。
ただ、大きいことをしようとすると、どうしても事業としてはコストに見られてしまう面があると思います。なので、小さい活動によって刺激を与えて、変化を可視化・定量化することで、交流の場の質や価値、影響力を上げていくような取り組みをまずしていかないと、自発的に機能する仕組みをつくれないと思っているんです。 その考えは、現状では仮説でしかないのですが、そうした取り組みによってコミュニティが醸成できるのではないかと思っています。
また、事業としても、小さい取り組みであれば、それなりに合理性があるのではないかと思っています。小さい活動であっても、「安心・安全の場所」というアピールができればエリアの価値も上げられるので取り組む価値は十分にあると思っています。
やっぱり街づくりの会社が、自分たちが関わっているまちについて非常時のことも考えていると示せるのは社会的にも価値があることではないかと思っています。
研究と実践の両輪で深めていく
──仮説を今後の取材の中で深めていければということですね。現在は、具体的にどういうところに取材していきたいと考えていますか。
特に力を入れて考えたいと思っているのが「情報発信」です。SNSのような、オンラインのコミュニティをうまく活用できないかと考えているので、その観点で取材していきたいですね。
その観点で一番注目しているのは「コミュニティFM」です。中央区が運営しているコミュニティFMは定期的に防災の番組を放送しているんです。熊本地震の際に行われた「ICTメディアで何が一番役に立ったか」というアンケートがあって、コミュニティFMの順位が高いという調査結果もあるので、コミュニティFMがどのようなことを考えて情報発信をしているのかを聞いてみたいなと思っています。
中央エフエムでは防災・減災に関する知識を伝える「防災ラジオ 防災ジョジョ」などが放送されている。
後はNTT US総研のオフィスがある秋葉原にはデジタルサイネージが至るところにあって、それらも防災時に活用されることもあると思うので、運営している会社がどのような意識で取り組んでいるのかも聞いてみたいですね。
また、やはり行政にも聞いてみたいですね。現在も色々な地域に災害対応の組織もあると思うので、それらがどのようなことを考えているのかも気になります。キッチンカー協会というところにも防災意識の高い人がいると聞いたこともあったり、候補はいくらでも出てきますね。
──一見、直接的には防災に関係なさそうなところも気になっているんですね。具体的な候補がどんどん出てきていますが、どのように候補を決められているのですか。
「なんでもかんでも防災に繋げる」が私の防災の考え方でして。
小さいことをたくさんやることが防災に繋がると思っているんです。最初に言ったように人の健康と同じように小さなことを積み重ねておけば、より効果を生む。
だから、あらゆる情報発信媒体が気になっているんです。その中でもコミュニティFMやデジタルサイネージはリサーチしても、災害の中でどのように役立ったのかという詳しい情報があまり見つけられなかったので、しっかりと聞いてみたいなと思いました。
──「コミュニティ」と聞いて「何人かが集まってクローズドに交流する」みたいなイメージを抱いていたのですが、今言っていただいた候補はそういうものではないですね。
コミュニティのイメージは明確に持っているわけではないのですが、ある情報が自然とほかの人に波及していくような、何かしらの繋がりを持っているイメージをコミュニティとしてとらえています。防災を明確に意識しているというよりは、日常の中で自然と防災に関する情報が流れてくるような状況ですね。なので、SNSやデジタルサイネージ、コミュニティFMのようなものも重要だと思っています。
「この番組でこんなこと言ってたよ」みたいな感じで防災に関する情報が自然と広まっていくという意味で、これらもコミュニティのようなものなのかなと考えています。
──現在、早川さんがNTT US総研の中で取り組んでいるのは「研究」だと思うのですが、研究のアウトプットとしてはどのようなものを考えているのでしょうか。
2025年度は品川を対象にして研究していたのですが、2026年度は秋葉原を中心として秋葉原タウンマネジメント株式会社の方と連携して、小さなコミュニティ活動にも取り組んでいきたいと考えています。
秋葉原だと、外国人旅行者の防災意識を高めることができないかという課題があり、その課題へのアプローチとして観光のツアーガイドの方のコミュニティを醸成することにフォーカスしたコミュニティ活動を行っていこうと思っています。なので、研究としては、実際の活動というよりは、先ほど言ったように「情報発信」に焦点を当てようと思っています。
──なるほど。こちらがイメージしていたようなクローズドなコミュニティのようなものにアプローチする活動もされるのですね。そのように違う観点で実践と研究を並行して取り組んでいくのは興味深いですね。それぞれの成果がシナジーを生み出すと面白そうです。
(2026年2月13日収録)

編集後記
最近、役場に併設した複合機能施設としては日本で初めてフェーズフリーの考え方を取り入れた北海道小清水町の「ワタシノ」を案内してもらったり、プロジェクトに関わった乃村工藝社の方に話を聞いたりする機会がありました。エリアマネジメントの分野ではまだまだ防災を積極的に取り組めていないのは、やっぱり災害を特殊な状況のものとして見ていて自分事としてとらえられていないという理由があるからだと思います。
話を聞いていると、フェーズフリーの考え方がようやく日本にも取り入れられたことによって、だんだん防災意識を強めてもらえるようになったそうです。早川さんも言っていましたが、結局防災は自分事にならないとすぐに動けないので、防災意識の向上は重要ですよね。
なので、早川さんが研究や実践を通して得た知見を、我々が関わる地域にうまく取り入れることで防災意識を高める役割を担えるようになればいいなと思っています。(今中)
聞き手:福田晃司
構成・編集:福田晃司
編集補助:小野寺諒朔、春口滉平
