ミルク60㏄分の戸惑い
赤ちゃんの泣き声は、理由を教えてくれない。
それでも、大人はその声に耳を澄ませ、答えを探し始める。
「専用のスプーンに粉ミルクを入れて、そこに熱湯から冷ましたお湯をできあがりの3分の2ほど入れる。じゃあ、60㏄のミルクを作るなら、今、どのくらいのお湯を入れればいいんだっけ?」
なんともほほえましい光景である。
出産して退院してきた二女夫婦が、我が家に帰宅し、初めてミルクを作った。
説明書を何度も見返しながら、二人で首をかしげている姿は、どこか頼もしく、そしてほほえましい。
私はその間、初孫をずっと抱っこしていた。
小さな体は想像以上に軽く、腕に伝わるぬくもりは柔らかい。
娘三人を育てたとはいえ、もう20年以上前のことだ。
抱き方も知っているつもりでもいざ抱いて見ると、頭の方をもう少し上にした方がいいか、赤ちゃんが苦しい思いをしていないか、考え始めるときりがない。
新生児は日々成長していて、今日と明日で違う。
小さく産まれた赤ちゃんは、飲んで排泄して眠ってを繰り返しながら、目に見えないところで体が作られていく。
初めての育児が始まった若い二人は、お互いを気遣いながら我が子を育てようとしている。
そして私は、久々の赤ちゃんを抱き戸惑っている。
しかし、出生届を二人で出しに行っている時間、赤ちゃんのお世話を任されることになった。
何度も抱っこし、何度も顔を覗き込むうちに、「これでいいかも」という感覚が手の中に戻ってきた。
さっきまで寝ていた赤ちゃんが、突然顔を真っ赤にして泣き始めた。
どうしたの?
お腹が空いた?
オムツが濡れている?
「おーよしよし」とだっこする。
ママと違う声に赤ちゃんが一瞬泣き止んだ。
しかしすぐにまた泣き始めた。
お尻にあたった手の感触では、オムツではなさそう。
口が縦に大きく開いている。
これはミルクかなぁ。
ミルクの乳首をそっと口もとに触れさせると、ためらいなく強い力で吸い始めた。
良かった。
小さな体のどこに、こんな力があるのだろうと思う。
赤ちゃんの黒くて大きな瞳を見つめながら、声をかけてミルクを与える。
私の声を、確かに聞いている気がする。
飲み終えて、ゲップをさせようとしたがうまくでなかった。
そういう時もあると自分にいいきかせ、少しの間、頭が高くなるように抱いていた。
背中にあたる手でトントンしながら。
やがて黒い大きな瞳から時々白めになり、そして目が閉じた。
お人形さんのような顔がそこにあった。
そっと、足からおしり、そして背中、頭の順で布団に下ろして寝かせた。
寝ている間に片づけをしようと思ったが、この時間は一緒に休もうと思った。
赤ちゃんの顔がすぐ見える位置に枕を持ってきて私は横になった。
しかし、数分もしない内に赤ちゃんの手がばたつき始めた。
私はすぐに起き上がった。
さっき、ゲップができなかったからかもしれない。
吐くかもしれない。
そう思うと寝てはいられなかった。
赤ちゃんの背中をトントンしてみた。
すると安心したのか静かになった。
良かった。
私は毛布を掛けて横になった。
肩に力が入っていたのか、そのあたりが「休みたい」といっていた。
私は眠りに入っていった。
しかしまた数分も経たないうちに赤ちゃんがぐずり始めた。
私は起き出し、赤ちゃんをトントンする。
添い寝をすればいいと思ったが、部屋の構造上、それは無理だった。
やがて赤ちゃんは何もなかったように眠り出した。
私は少しの安堵を求めて横になる。
体がほぐれそうになる手前でまた赤ちゃんがぐずりだす。
その繰り返しを何度もした。
育児とはこういうものだと思い出した。
自分がいくら頑張ってもすぐに結果は出ない。
何度も同じことを繰り返していく。
根くらべのような時間だ。
赤ちゃんも若い夫婦も初孫を抱く私も
小さな赤ちゃんを覗き込む長女と三女も
みんな一年生。
一緒に育っていく。
ミルク60㏄分の戸惑い
毎日note連続投稿2448日目
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※優谷美和さんの画像をお借りしました。
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