夕暮れにだけ現れる、小さな嵐
夕方になると、部屋の空気が少しだけ重くなる気がする。
昼間はよく眠り、目を覚ましては泣き、ミルクを飲んでまた眠る。
そんな単純なリズムを繰り返している孫は、日ごとに体がふっくらしてきて、抱き上げるとほんのり温かい。
小さな手が指に触れると、かすかに湿っていて、生きている重みのようなものを感じるのだ。
育児をしている二女は赤ちゃんが泣いても動じない。頭を手のひらで支えながら、赤ちゃんの目を見ながら声をかける。
「うーん」
「そうだね」
その声は特別優しく、落ち着いている。
赤ちゃんは、ミルクかおむつ替えをして抱っこをすれば、大体は泣き止む。
泣く理由がまだ単純なうちは、こちらも対処しやすい。
しかし、何をしても泣き止まない時が出てきた。
小さく生まれた孫だったが、成長と共に、泣き声も太さが出てきて、部屋いっぱいに響く。
窓の外まで届いてしまうのではないかと、つい余計な心配をしてしまうほどだ。
ああ、あれが始まったのかと私は思った。
赤ちゃんを抱っこしながら娘は相変わらず声をかけ続けている。赤ちゃんが声を発する度に娘も言葉を差し込んでいく。その姿は堂々としている。
「夕方やある一定の時間帯に大泣きするようになったんだ。黄昏泣きって言うんだよ」
娘が言う。
そう言いながら、腕の中の小さな体を揺らしている。
おお、ちゃんと分って接しているんだ。
赤ちゃんが激しく泣く。親としてはうろたえてしまいそうだが、それに名前がついているだけで、少しだけ輪郭がはっきりする。理由は分からなくても、「そういうものだ」と受け止められる気がするから不思議だ。
それでも、泣き続ける声はなかなか強い。
抱いている腕の重さも、だんだんと現実的になってくる。軽かったはずの体が、少しずつ重みを増していることに気づく。
泣き声も、重さも、まだ成長の途中なのだろう。
娘は相変わらず落ち着いている。あやしながら、特別なことは何もしない。ただそこにいて、声をかけている。
その様子を見ていると、こちらのほうが静かにほどけていく。
泣き止まない時間があってもいいのだと思えてくる。
夕方の少し重たい空気の中で、赤ちゃんの泣き声と、娘の短い返事が重なっている。
それは大変そうに見えて、不思議と整っている時間のような気がする。
夕暮れにだけ現れる、小さな嵐
毎日note連続投稿2539日目
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※優谷美和さんの画像をお借りしました。
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