新文体システム(仮)

お題:
「ホームの跨線橋も、構内踏切も、切符切りの駅員もみんな無くなった」


ホームの跨線橋も、
構内踏切も、
切符を切っていた駅員も、
気がつけばみんな姿を消していた。

消えた順番すら覚えていない。
ただ、駅を出入りするたびに
静けさが増していったことだけははっきりしている。

かつては夕方になると、
足音と笑い声が鉄骨の橋に響いた。
木の札を叩くような切符の音も、
どこかの売店からこぼれた焼き菓子の匂いも、
全部そこにあったはずなのに。

——もう誰もいない場所に
 残されたものだけが
 時の底を歩いている

そんな詩の一節が、
ふいに耳の奥で揺れた。

昔の風景が、
ひとつずつ剥がれて落ちるみたいに
町から消えていった。

今の駅は便利で、
明るくて、
迷う隙間もないほど整っているけれど、
そのぶん、あの頃の温度はどこにも触れられない。

——その変化を、
 この土地の誰も止めることができなかった。
 ただ、時の流れだけが
 静かに駅を磨き、
 古いものを連れていったのだ。

電車を待っていると、
隣で誰かが小さくつぶやく。

「そういやさ……昔、この駅に踏切あったらしいよ。
 知らないけど、親が言ってた。」

その声が、
まるで記憶の底から呼び起こされたみたいに
淡く胸に沈んだ。

便利になった今のホームで、
その言葉だけが小さな影となって残る。

そして電車が入ってくる直前、
消えた跨線橋を思い出した。
夕方の風が吹くたびに、
橋の下で揺れていたあの影も、
もう二度と帰ってこない。

それでも、
なくなった景色の痕跡は、
ホームのどこかに
薄い跡だけ刻まれたまま残っている気がした。

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