創薬ベンチャーの海外パートナリングは現地に行かなければ始まらない
創薬ベンチャーのパートナリングは、資料やオンライン面談だけではなかなか前に進みません。
実際に相手と会い、空気を感じ、短い会話の中で信頼の芽をつくる。その重要性を、あらためて痛感したのが、2025年6月にボストンで開催された「BIO・インターナショナル(BIO International Convention、通称「BIO」)」でした。
今回は、投資先のパートナー探しを目的に現地に足を運び、見えてきたことを書いてみたいと思います。に、投資先のパートナー探しのために参加してきました。

中村学
新生キャピタルパートナーズ マネージングパートナー
株式会社FREST、Chordia Therapeutics株式会社、Alphanavi Pharma株式会社の社外取締役
BIOは、創薬ベンチャーの世界への登竜門
BIOは、世界最大級のバイオテクノロジー関連の展示・商談会です。
製薬会社、創薬ベンチャー、ベンチャーキャピタル、大学関係者、研究機関、医薬品の開発や製造受託業者(CRO、CDMO)など、医薬品開発の「エコシステム」を構成するあらゆるプレイヤーが参加。新しい医薬品や技術の開発に向けてパートナーを探したり、情報交換を行います。
ボストン、サンディエゴなど米国の都市で毎年6月に開催されていて、70か国から約2万人が参加。6万件の商談(パートナリング)が実施されます。
今回私はベンチャーキャピタルの投資担当としてではなく、投資先の社外取締役として、投資先のパートナー探しのためにBIOに参加しました。

ボストンは公園が広く、とてもきれいな街です。東京は30度以上の日が続いている時期でしたが、こちらは涼しく過ごしやすい気候でした。

ホテルから会場まではシャトルバスも出ているのですが、歩いて向かっても20分くらい。気候も良く街も安全だったので、毎日、歩いて通っていました。
世界の製薬・創薬産業が集まる都市、ボストン
ITベンチャーの世界の中心はシリコンバレーで、中でもスタンフォード大学からほど近いメンロパークの「サンドヒルロード」には、セコイア・キャピタル、アンドリーセン・ホロウィッツなど、数多くのベンチャーキャピタルが集まっていて、「ITベンチャーの聖地」とも呼ばれています。
一方、世界の製薬・創薬産業の集積地といえば、ボストンおよびその隣のケンブリッジ周辺、サンフランシスコベイエリア、サンディエゴ、スイスのバーゼルなどがあげられます。
この中でも、ボストン/ケンブリッジが最も集積が進んでいます。さらにその中でも、ケンブリッジのマサチューセッツ工科大学(MIT)のあるケンドール・スクエアが、IT産業のサンドヒルロードに該当する創薬産業の聖地といってもいいと思います。
ケンドール・スクエアにはMITがあり、ハーバード大学も地下鉄で2駅の距離です。CRISPRで知られるブロード研究所やモデルナ本社が集まり、大手製薬会社のR&D拠点や、フラッグシップ、アトラス・ベンチャーズなど創薬系VCもオフィスを構えています。

こちらは、ケンドール駅からすぐのMIT ・スローン・スクール(MITのMBA)。留学するとき第一志望だったんですが、あえなく不合格になりました。家族のおみやげにMITのTシャツを買いました。

いよいよBIOの会場へ

いよいよ会場が見えてきました。進行方向に見えているのが、BIOの会場となるBCEC(Boston Convention and Exhibition Center)です。



会場の中に入る前に、セキュリティチェックを受けます。金属探知機はありませんでしたが、犬が数匹。セキュリティチェックは、カバンの中を見せるだけでOKでした。

登録証のストラップには、日本のバイオベンチャーの雄、ネクセラ・ファーマの名前が!


右手が展示場、左手がパートナリング会場です。IT関連のイベントと比較すると、スーツの人が多く、女性比率も高いと思います。
会場には、JETROの日本ブースも出ていました。

京都大学のブースです。私もこの大学の卒業生です。

こちらは売店。クレジットカードで勝手に決済してくれる無人店舗でした。

パートナリング会場で面談がスタート
パートナリング会場に入ります。ここから商談の時間が始まります。

前述のパートナリングシステムを使って製薬会社に面談を申し込みますが、創薬ベンチャーは立場が弱く、断られたり返信が来ないことも少なくありません。最大150件まで申し込みができ、断られた分は追加申請が可能なため、枠をフルに使って1日10件程度の面談を確保しました。
左右に小部屋が並んでいて、ここで、30分、パートナリングの面談ができます。時間は朝の7時から18時まで。最大で22面談が実施されます。

30分の面談で、自社技術を正確に理解してもらい、次につなげられるかが勝負です。簡単な挨拶の後、半年かけて練り上げた資料を使い、投資先社長が約10分プレゼンを行います。その後、質疑応答を通じて双方のニーズやネクストステップの有無を確認します。
面談相手は米国を中心に、欧州、オーストラリア、中国など多国籍で、当然すべて英語です。相手が技術に関心を持っているのか、ネクストステップを考えているのかを見極めるのは容易ではありません。
もっとも、比較的ダイレクトな反応も多く、ニーズが合わなければ30分を待たずに面談が終わることもあります。

面談ブースはAからCまでエリアがあり、連続した面談でAから一番遠くのCに行くときなどは急いで移動しないと間に合いません。
今回は、投資先の社長、事業開発コンサルタント(M&Aやライセンスアウトの仲介を行う人)、私の3人で、面談を行いました。私は、横で聞いていて、時々、発言するだけなのですが、専門用語を交えた英語でのコミュニケーションはついていくので精一杯でした。
アルツハイマー病はAD、パーキンソン病はPD、加齢黄斑変性はAMDなど、疾患名を思い出している間に話が先に進んでしまいます。
投資先の社長は毎回、英語でのプレゼンと質疑応答に本当に苦労していたと思います。事業開発コンサルタントにも的確に議論を前に進めてもらい、チームワークの大切さとありがたさを改めて実感しました。

面談ブース内の椅子は基本的に4脚です。うちのチームは3名なので、相手が2名以上のときは1人が立つか、近くのブースから椅子を借りてきていました。
ちなみに、大手製薬会社は独自のブースを持っています。ネクセラ・ファーマのブースもありました。

セッション会場では、さまざまなセッションが行われていました。ジョージ・W・ブッシュも来ていたようです。

こちらは、ランチ会場。なぜか、ブルーの照明でした。

ランチは無料です。サンドイッチやラップ、スープが並んでいます。私は、カレー・カリフラワー・クランベリー・サラダ・ラップを選びました。


BIOの来場特典など
希望者はバッグがもらえます。私は気に入って毎日使っていました。

Tシャツも無料でもらえます。色は2種類、柄は3種類です。

私はMサイズを選びましたが、日本のMサイズよりも大幅に大きいです。Sでよかったかも。

日中のパートナリング終了後には、製薬会社主催のレセプションやジャパン・ナイト、コリア・ナイトなど、さまざまな催しが行われます。JETRO主催の日本企業向けピッチイベントもあり、多くの創薬ベンチャーが登壇していました。
特に印象に残ったのは、創薬ベンチャー経営者の英語力です。ITベンチャーと異なり、創薬ビジネスはグローバル展開が前提となるため、英語はもはや必須スキルです。
実際、ピッチイベントでは流暢な英語で質の高いプレゼンが続き、世界市場を見据えて最適なパートナーを探そうとする強い意志が伝わってきました。

【まとめ】薬を患者さんに届けるには世界に出ていかなければならない
薬の開発は、まず、大学や研究機関の実験室で画期的な研究として生まれます。その研究が進んで、薬になりそうとなった段階で創薬ベンチャーにバトンが渡され、その研究を更に前に進めることになります。
創薬ベンチャーは、新しい薬のタネをある程度まで育てますが、そこから先の開発を進め、その薬を実際に世に出して多くの患者さんに届けるには、多額の開発費や世界中に張り巡らされた販売網などが必要になります。
そのため、ほとんどの創薬ベンチャーは、開発をある程度まで進めた段階で大手製薬会社に「この薬の開発・販売を引き継いでください」と持ちかけることになります。これを導出(ライセンスアウト)と言います。
また、場合によってはそのまま会社ごと買収されて、大手の一部として開発が進むこともあります。これは、創薬ベンチャーにとっても、薬の出口を作るために必要な選択肢です。
つまり、創薬ベンチャーはどこかでバトンを製薬会社に渡さなければなりませんし、製薬会社は創薬ベンチャーが開発中の医薬品(パイプライン)の中で自社に取り入れたい(導入、ライセンスイン)ものを常に探しています。
BIOのようなビジネスマッチングイベントは、創薬ベンチャーにとってはバトンを渡す優良なパートナーを探す、とても貴重な機会なのです。
今回、BIOに参加して改めて感じたのは、「薬を患者さんに届けるには、日本の創薬ベンチャーも必ず世界に出ていかなければならない」という事実です。
私が、ITベンチャーに投資をしていたとき、日本のITベンチャーの多くは、「日本で勝って、その次に世界を目指す」という戦略をとっていました。
それとは異なり、創薬ベンチャーは最初から世界を相手にする必要があるのです。世界の壁を超えるのは簡単ではないと思いますが、投資先の創薬ベンチャーとともにトライし続けます。
編集協力/コルクラボギルド(金子千鶴代・頼母木俊輔)
