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【レポート】「政策経営」講座 政策をレバレッジにした事業グロース──自治体連携・ルールメイキングの実践

こんにちは!『PoliPoli Enterprise』の西村(@tonikakuhope)です!

今回は、港区立産業振興センターと共催で開催したイベント「スタートアップの『政策経営』講座 by PoliPoli」の様子をお届けします。

スタートアップの成長は、資金調達・顧客獲得・仲間集めの掛け算で加速します。その中で見落とされがちなのが、「政策」をレバレッジにするという選択肢。

自治体との連携で一気に事業を広げたり、国のルール形成に関わることで市場環境そのものを変えることができる。実は、限られたリソースで戦うスタートアップこそ、政策の動向を捉えて「成長のブースター」として活用できるのです。

スタートアップ経営者の方にはぜひ読んでいただきたい内容です。
それでは、セッションの様子を振り返ります!
※オフレコイベントのため、一部抜粋してお届けします。


【セッション1】自治体連携による事業グロース

PoliPoli代表取締役の伊藤(@kazuma12222)より、政策経営と自治体連携に関する基礎知識とマインドセットについて講演しました。

伊藤:PoliPoliが提唱している「政策経営」は、政策を経営資源の一つとして活用する考え方です。

スタートアップの政策経営において特に重要なことは2点で、

① 政府と対話し、ルールメイキングに関わること
② 自治体営業や公共調達を成長ドライバーにすること

「いつから政策経営を取り入れるべきか」とよく聞かれるのですが、多くの場合はスタートアップが最初から政策に向き合う必要はありません。シード〜シリーズAの頃は事業づくりに集中すべきです。ただし、規制産業のように政策が死活問題になる場合は例外です。

一般的にはシリーズB以降、事業規模が数十億円規模になってから本格的に政策に関与していくのが現実的です。

①ルールメイキングの事例として、タイミーさんの事例を紹介します。
まず、政策にアプローチする時に大事なポイントは3つあります。

  1. 正しい課題設定 ── 社会的に意義がある課題であること

  2. 正しいロジック ── データや根拠に基づいてストーリーを組み立てること

  3. 正しいアプローチ ── 適切な順序で適切な人に伝えること

当初、タイミーが提供する「スポットワーク」は新しい概念ゆえに、社会一般に認知と理解が浸透しておらず、政府としても業態を把握できていない状況でした。

さらに当時は「闇バイト」問題が社会的に注目を集めており、短期・単発の仕事マッチングという仕組み自体が、誤解をもって受け止められるリスクもありました。

一方で、働き手不足という社会課題の観点からは、“人手不足解消につながる”という明確な意義もあります。

タイミーはこの“人手不足解消”を政策アジェンダとして設定し、関連データを揃えてロジックを構築。いきなり大臣に直談判するのではなく、まずは所管の課長級に丁寧にアプローチしていった結果、厚生労働省よりグレーゾーン解消制度を通じた適法回答を取得するに至りました。

このように、課題設定・ロジック・アプローチの三拍子が揃わなければ、政策はなかなか動かないのです。

②の自治体営業については、多くのスタートアップが興味を持たれるところだと思います。自治体と言っても大きく2種類に分類されます。

  • 改革志向で“最初に手を挙げたい”自治体

  • 他の動きを見てから追随する自治体

多くの場合、スタートアップが狙うべきは前者です。
たとえば、静岡県の場合、鈴木康友県知事が改革志向が強く、スタートアップと連携しやすい環境にあります。

さらにその上で、営業の進め方にはポイントがあります。

自治体は予算サイクルがはっきり決まっているので、動くタイミングを間違えると成果が出ません。また総合計画や地域課題はオープンに公開されているので、それをしっかり読み込んだ上で、“ここに自社のサービスが当てはまる”とストーリーをつくることが必要です。

実績をつくれたら、次はその成功事例を国に持っていく。地方から国に波及させるのは政策経営を進める上でも有効な戦略です。

ただ、注意点としては1社だけで提言しても、利益誘導だと思われてしまい、行政は動きづらいことが多くなります。

そこで有効になるのが業界団体です。たとえば私達が関わっている「Govtech協会」は、ガバメントテックのプレイヤーを束ねる団体で、自治体や政府と一緒に政策を作っていく仕組みをつくっています。イベントやカンファレンスの実施も、業界全体の課題として提言する手段になります。

最後に、自治体連携で大事な3つの視点を挙げます。

  1. 本当にその自治体の課題解決につながるか。

  2. その連携は自治体の現場レベルで必要とされるか。

  3. 単なるツール導入ではなく、総合的な解決策になっているか。

行政は“プロダクトを買う”のではなく、“課題を解決するパートナー”を求めています。売り込む姿勢ではなく、一緒に課題解決に取り組む姿勢こそが重要なのです。

これらのポイントを押さえた上で、ぜひ自治体連携を推進いただければと思います。

【セッション2】先端技術とルールメイキング

このセッションでは、『PoliPoli Enterprise』ディレクターの小倉(@mago8220)より、先端技術領域におけるルールメイキングへの挑み方について、講演を行いました。

小倉:なぜいま先端技術とルールメイキングをテーマに取り上げるのか。

AIや量子、ロボティクスといった分野は今後の市場のゲームチェンジャーであり、政府側も非常に注目しているからです。かつては大企業や大学の研究者が中心でしたが、今ではスタートアップが有識者として政策形成に関わる機会が増えています。

AIの分野では新しい法律や戦略が次々と生まれています。量子分野では株式会社QunaSys、ロボティクスでは株式会社Qbit Robotics、「スタートアップ大賞」を受賞したTELEXISTENCE株式会社が経産省の審議会の有識者として関わっています。

特に、ロボット政策は大きな転換点にあります。自民党 山際大志郎議員をはじめとした議員連盟が立ち上がり、“ロボット産業を日本の新しい柱に”という旗を掲げています。

ここで強調したいのは、“政策経営はがむしゃらにやればいいわけではない”ということです。重要なのは政策の流れをモニタリングし、波に乗ること。

たとえばロボット政策は、まさに今、大きく動こうとしている局面にあります。こうしたタイミングを捉えて事業を政策とつなげていくのは、非常に有効です。

ルールメイキングを実践する際に大切なのは、まず“なぜそれが必要なのか”を明確にすることです。コストやレピュテーションリスクもあるので、戦略を持たずに走ると危険です。

次に、“誰にどうアプローチするか”を緻密にマッピングすること。
課長に話すのか、実務担当に説明するのか、あるいは議員に持っていくのかで結果は変わります。

あまり馴染みがないかもしれませんが、国会会議録を見ることもヒントになります。

また、政策提言時も技術の細部を説明しても伝わらないことが多くあります。“結局この技術は、これからの社会において何が大事なのか”が伝わらなければ響きません。だからこそ、政策提言書の形にまとめ、“相手が理解しやすい言葉”で伝えることが必要です。

さらに、政策提言をする上では、過去の政策経緯を踏まえることも大事です。たとえばロボット政策は10年前に新成長戦略の一環でスタートしましたが、こうした歴史を理解して初めて“今ここを変えるべきだ”と説得力を持って言えます。

最後にお伝えしたいのは、優先順位づけとスケジュールです。政策分野には数多くの論点があり、“全部大事”となりがちです。しかし行政もリソースが限られているので、“このテーマが一番大事だ”と絞り込んで提案することが重要です。

また、「ここで立案をしておくと検討に向けて動きやすいだろう」というようなスケジュールを把握し、時系列で捉えることもポイントです。

「政策経営」は一朝一夕には成果が出ません。
だからこそ、情報収集・分析・信頼関係構築を繰り返し、戦略的に取り組む必要があります。

特に先端技術の分野は、政策の波に乗れば大きなチャンスが生まれる領域です。ぜひ皆さんの事業にも、この視点を取り入れていただければと思います。

【質疑応答】参加者からのご質問

講演後は参加者の方から多くの質問をいただきました。抜粋してお届けします。

質問1:自治体営業における競合対策について

参加者: 自治体営業で競合に負けてしまうことがあります。どのように競合と戦えば良いでしょうか?

伊藤:
まず前提として大事なのは事業の独自性です。スタートアップであれば“この会社しかできない”という尖った価値を提示すること。

その上で一つ目は、競合がひしめく市場では戦わないこと。小規模自治体などブルーオーシャンを狙うのが良いです。もう一つは、熱意のある担当者を見つけ一緒に事業を作っていくこと。こうした積み重ねで、やがて大きな自治体とも対等に向き合えるようになります。

質問2:自治体営業の判断基準、政策提言の時間軸について

参加者:どの自治体を狙うべきか、また政策提言はどのくらいの時間軸で考えればよいでしょうか?

伊藤:狙うべき自治体は“独自の戦略や発信を持っているか”で見極められます。アプローチすべき自治体は、総合戦略を読めば分かります。また、市長のSNSなどの発言からも温度感は掴めます。例えば、「〇〇(市の名前)モデル」などを掲げる自治体は先駆的な取り組みをしている自治体です。

小倉:政策提言をする時間軸だと、内容にもよりますが「年単位」で考えるべきです。政府は毎年6月に「骨太の方針」を発表します。そこに乗るためには半年前から仕込みが必要で、結果的に1年半以上のスパンで動くこともあります。大きな政策を狙うならなおさら、早い段階から関係構築が欠かせません。

質問3:政策経営・公共営業における担当者は誰が担うべきか

参加者:スタートアップでは誰が政策渉外や公共営業を担うべきでしょうか?

伊藤:基本は社長です。上場前後のスタートアップでも、政策提言は社長が出ていきます。大企業だと政府渉外チームや専門役員が担当しますが、スタートアップの場合はトップが直接動かないと進みません。経験上、これが原則だと思います。

質問4:日本におけるロビー活動のトレンドと欧米との違い

参加者:欧米のロビー活動と日本のそれはどう違いますか?

伊藤:まず、“ロビー活動”という言葉は日本では使わない方がいいと思っています。日本では「押し売り」のようなネガティブなイメージが強いため、私たちは「政策経営」や「ルールメイキング」と呼んでいます。

トレンドとしては、有志で数社の企業が連携して、特定の制度を変える動きが増えています。日本は、霞が関主導で政策形成が進んできた文化がありますが、民間企業にも、もっと現場視点を持ったルール形成に関わってほしいという流れも出てきており、日本独自の進化をしていると思います。


約40分間の質疑応答も盛り上がり、今回はオフレコイベントということで、PoliPoliだからこそ提供できる具体的な事例と共にお話をさせていただきました。

引き続き、政策に向き合う皆様にとって有益な情報をお届けできるよう取り組んでまいります。

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