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#017 「最適化できない最適化システム」の話──配車システムとその先にある現実配車システムを組める技術者が少なすぎる問題

配車の話をきっかけにしていますが、これは物流全体に共通するテーマでもあります。 現場の複雑さ、システムとのギャップ、人材育成の難しさ——それは倉庫や在庫、受発注など、あらゆる業務に通じる話です。

物流業界の「要」である配車業務。その最適化を担うシステム開発は、今やDXの花形とも言える領域です。けれど、その裏で大きな問題があります。

「配車システムを本当に構築できる技術者が、足りていない気がする」というのが、私自身の実感です。

私自身、物流系のITベンダーとしてこの業界に携わってきましたが、配車システムに関しては特に「現場を知ること」「アルゴリズムに落とすこと」の両立が非常に難しいと感じます。

今回は、この課題とその背景、そして今後に向けた教育や育成の視点についてまとめます。


配車システムとは何か?

配車システムとは、荷物の届け先、ドライバーの空き状況、車両の積載能力、交通情報、納品時間の指定など、さまざまな制約条件を踏まえて「最適な配送計画を立てる」ためのITシステムです。

配車システム

紙の地図と電話でやりとりしていた時代から、AIやルート最適化エンジンによって自動化・効率化が進んでいます。しかしその裏には、現場ごとの複雑なルールや事情が存在しています。



配車システムは何を最適化すべきか?

配車システムというと、「最短距離」や「積載率の最大化」などが注目されがちですが、現実にはさまざまな最適化の軸があります。



  • 積載率や車両稼働率の最大化(キャパシティ最適)

  • ドライバーの拘束時間や負担軽減(時間的最適)

  • 慣れた順番で回ることによる誤配・ストレスの回避(心理的最適)


たとえば、毎日違う最短ルートを走るより、ドライバーが慣れた順番で回るほうが、探し物や誤配が減り、結果的に早く回れる──そんな“現場最適”のほうが重要な場面も多くあります。

AIが考えたルートより、人が安心して動ける順序のほうが強いのです。


現場運用と配車の複雑化

配車システムの複雑さは、現場の運用そのものにも起因しています。たとえば、かつては拠点や店舗ごとに在庫を小分けで補充する“横持ち物流”が多く見られました。

在庫スペースやリードタイムの都合上、合理的だったのです。


現場運用と配車の複雑化

しかし今では、大型センターで在庫を一括管理し、在庫・販売状況をリアルタイムに把握できる時代。

にもかかわらず、昔ながらの横持ち運用を見直さずに続けることで、配車の難易度だけが上がってしまっているケースもあります。

もちろん、横持ちを一律に否定するつもりはありません。時代や制約に応じた設計であることは確かです。

ただ、運用を見直さずに配車だけ効率化しようとすれば、システムはどんどん複雑になり、技術者の設計負荷も膨れ上がります。

今は、“運ばなくていい仕組み”を作ることも視野に入る時代です。その発想こそ、配車の最適化に必要な視点です。



技術者が少ない理由

配車システムには、以下2つの異なる知識が求められます:

  1. 物流現場の知識(ドライバーの動き、現場ルール、顧客調整など)

  2. ITの知識(要件定義、アルゴリズム、データ連携など)

この両方を理解できる人材が非常に少ないのです。ITに強い人は「点を結べばルートができる」と考えがちで、現場の細かな判断や例外処理の重要性を軽視してしまいます。

一方、現場出身者はシステム開発に不安や苦手意識を持ちやすい。


技術者が少ない理由

結果として、壁にぶつかり越えていく人もいれば、何度も越えられずに諦めてしまう人を数多く見てきました。



“足りない前提”で設計する力

AIやソフトウェアはモノを運べません。

実際に運ぶのは人と車両であり、その運用のリアルに即した設計が求められます。


今どうしてるの?

特に重要なのは「データがそろっている前提を捨てること」です。現場では:

  • 発着荷主からの情報が来ない(FAX・電話)

  • 単位がバラバラ(本数はあるがケース数やパレット数が不明)

  • フォーマットが揃わず使えない

たとえば「100本の製品がある」と言われても、それが何ケースで、どれくらいの荷役時間がかかるのかがわからなければ、配車計画は立てられません。

こうした現実に向き合うためには、まず「今、どうしてるの?」という問いを投げかけることが欠かせません。

足りないデータ、あいまいな運用、不完全な指示。

それらに対して、“理想のあるべき姿”を押し付けるのではなく、「現場は今どう動いているのか?」を丁寧に理解し、それを出発点として設計を組み立てていく力が問われます。

そのうえで、設計者には次のような工夫が求められます:

  • 手入力やExcelの受け入れ

  • 欠損時の代替処理やアラート設計

  • 配車意図のログ化や属人化の回避

などが求められます。


心理的な働きやすさとITの役割

“労働力不足”と言われる時代、だからこそ本質的な対策は“働きたくなる現場をつくる”ことだと思います。


ドライバーの働きやすさとIT

たとえば:

  • ガラケーで連絡

  • 紙伝票を手書き

  • 毎日違うルートで300km以上走行

  • 1日200件の配送

  • ボトルケース100ケースを手おろし

  • 早く着いたら待たされ、遅れると怒鳴られる

そんな現場では、新人は1週間で辞めてしまいます。

「何が正しいのか分からない」「精神的にきつい」という声を何度も聞きました。

逆に、ナビがあり、作業負荷も見える、連絡手段も直感的な現場であれば、「ここでなら続けられそう」と感じてもらえるはずです。

ITは効率化のためだけではなく、安心して働ける空気をつくるツールでもあるのです。

たとえば、「早く着いたらポイントが付く」「丁寧な作業に対して評価される」といったインセンティブがあれば、現場の空気は大きく変わるかもしれません。

実際、会社はCO₂排出量や配送効率といったKPIには投資し、ダッシュボードで可視化するのに、ドライバーの努力や工夫は“見えないまま”です。

人の頑張りこそ、もっと評価されていい。それを支えるのもITの力だと思います。


教育に求められる視点

配車に関わるシステムを現実的に構築するには、「現場とITの間の翻訳者」を育てることが重要です。

けれどもIT技術者の中には、“例外処理”や“慣れ”を嫌う傾向が強く、現場の実態を理解することに抵抗を示す人も多いと感じます。


ドライバー教育に求められる視点

だからこそ、教育の中に以下のような体験を組み込む必要があります:

  • 配車業務の現場体験

  • ドライバーとの同行やヒアリング

  • 紙・電話・FAXによる非構造情報との格闘

  • なぜ“この順番”で回っているのかを感じる経験

こうした体験を通して、「システム上の正しさ」と「現場での納得感」が一致しない場面の存在を知ること。それが技術者の幅を広げます。

さらに言えば、「現場に合わせた仕組みを作る」だけでなく、「現場の運用自体を変える発想」も必要です。


これからどうするか

物流DXを進める上で必要なのは、「配車業務に強いIT人材」や「ITに通じた現場人材」を育てること。

そのためには、産業界と教育現場が手を取り合い、以下のような仕組みが必要です:

  • 物流現場のOJTを前提にしたエンジニア研修

  • 配車業務経験者がITリスキリングできる環境

  • 現場運用設計から見直すコンサル育成

配車業務の肝は、ただのルート計算ではなく、「いかに運ばずに済ませるか」「人が安心して動ける順序にできるか」「情報が揃わない中で、どこまで精度を保てるか」といった極めて複雑で人間的な問題です。

その“矛盾”と“リアル”を直視しながら、テクノロジーをどう活かすか。

「配車エンジニア」という職種が、もっと注目され、育成・支援される未来を心から願っています。

そしてこれは、配車に限らず、倉庫管理(WMS)や在庫管理、庫内作業、受発注管理など、あらゆる物流システムに共通する課題でもあります。

たとえば倉庫管理では、システム上の棚番と実際の作業導線がかみ合わなければ、逆に非効率になります。

在庫管理では“在庫あり”と表示されていても現場にはない──というケースも多々あります。

受発注では、取引先ごとに異なる細かなルールや運用が、システム化の壁になります。

つまり、配車は象徴的な入り口に過ぎず、「現場のリアル」と「システムの理想」をどう橋渡しするかという構造的な難しさは、物流全体に共通して存在しています。

特に請求業務や回収物流、BtoC配送といった配車周辺の業務では、システムでの自動化や標準化が難しく、現場判断に依存する場面が多いのが実情です。

こうした領域でも“間をつなぐ設計力”が求められています。

また、デジタル点呼や電子日報といった“見えにくい業務”のIT活用も、人の安心や効率化につながる大切な要素です。

単に見積やルートの最適化だけでなく、こうした裏方業務の改善もきちんと評価されるべきです。

さらに、AIが導き出した最適ルートが、実際には狭い道やUターン困難な住宅街を含んでいて、ドライバーが現場で再度ルートを組み直したというケースもあります。

テクノロジーに頼りきるのではなく、それを現場の知恵で補いながら使いこなす視点が必要です。

そして、もしこの文章に少しでも共感してくださった方がいたなら——


物流の未来を語り合いませんか


配車のこと、物流のこと、現場のこと、システムのこと。

話してみたいなと思ってもらえたら、私はいつでもウェルカムです。

一緒に考え、一緒に悩み、そして少しずつでも、現場をよくする仲間が増えていくことを、心から楽しみにしています。

AIがあれば何でもできる——そんなふうに語られる時代だからこそ、その力を正しく使いこなすための“人”の育成が欠かせません。

どんなに高度な技術も、最後に現場とつなぐのは、現場を知っている人間の言葉と判断です。

だから私は、人と話し、一緒に現場と向き合える仲間を増やしていくことに、これからもこだわっていきたいと思っています。

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