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財務省解体デモとイケニエの話(スケープゴートメカニズム)

歴史から何を学び、何を考えるべきなのか

オシンテック代表の小田真人です。突然ですが、イケニエって、古い言葉ですよね?でも、今でも形を変えて行われていると思いませんか?

今月、日本では「財務省解体デモ」という運動が注目を集めています。この運動は、増え続ける生活負担に対する不満を束ね、多くの人々の共感を呼んでいます。

国民にとっては上がる一方の税と社会保険料、いまや国民負担率は北欧諸国に迫る勢い。それなのに、北欧のような手厚い福祉があるとは言えず、今後高齢化もあいまってさらに増加することが見えている・・・。そうした政策のツケを払わされる行き場のない怒りが、特に若者を中心として、「財務省解体」というスローガンに収束していきました。

しかし、私はこのスローガンには一つの危うさが潜んでいると思っています。それは、「財務省」という特定の組織をスケープゴート(イケニエ)にして、それを「解体する」ことが目的化してしまい、変えなければいけないシステムを変えきれない可能性があるという点です。

私は、スケープゴートを作って溜飲を下げ、大切なことから目を逸らされてしまう、という構造が残念でしかたないので、本noteでは人類が幾度となく陥ってきたスケープゴートメカニズムの危険性を知り、それを避けることで、こうした運動をより建設的に展開できることを論じたいと思います。


1. 財務省解体デモが支持を集める背景

(1) 長期的な緊縮財政と社会の閉塞感

「1990年代のバブル崩壊以降、日本は財政赤字の抑制を優先するあまり、公共投資や社会保障の削減が続けてきた」と主張する人がとても増えたように思います(実際には、アベノミクスで2013年以降、数十兆円規模の補正予算が組まれ、日銀が国債を大量に買い上げる「異次元緩和」を行いましたので、上記の認識はあまり正しいとは思いません)。

しかし、政府の支出が向かった先である法人が、法人税減税の後押しも受けて潤う一方、国民の所得は増えず、社会保険料の増加と消費税負担の上昇、さらにインフレによって多くの人々が「生活が苦しくなっている」と感じている状況があります。

また、少子高齢化の進行や経済成長の鈍化により、「このままでは将来が厳しくなる」という不安が広がりました。

(2) 財務省の強い権限と不透明な政策決定

「財務省は、健全な財政の確保、適正かつ公平な課税の実現、税関業務の適正な運営、国庫の適正な管理、通貨に対する信頼の維持及び外国為替の安定の確保を図ることを任務とする。」

これは、財務省設置法第三条に記載されている財務省の目的です。ゆえに、財務省は、「国民の生活よりも財政規律を優先している」との批判の対象になりやすい性質があります。

この財務省設置法は1999年に成立したものですが、かつて財務省は「大蔵省」という省でした。

1990年代、日本はバブル崩壊後の金融危機で、山一證券や北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行などが相次いで破綻し、金融行政(銀行監督)と財政・予算を一手に担っていた大蔵省は、業界との癒着や監督不行き届きを猛烈に批判されました。「大蔵官僚スキャンダル」を記憶されている方もいらっしゃると思います。

こうした批判から、大蔵省は2001年の省庁再編時に、財政や予算編成を担当する財務省と、銀行や証券などの金融監督を担当する金融庁に別けられたのですが、この時にも求められていたのが「透明性の確保」や「官僚権限の集中是正」でした。(つまり、いま財務省解体デモに参加している人の多くが感じている不信感のもとは、大蔵省の再編があってなお、解消されなかったとも言えます。)

(3) SNSの影響と「敵」を求める心理

現代ではSNSを通じて情報が急速に拡散します。これほど感情的な訴えが人々の共感を得やすくなった時代もないかもしれません。そして、多くの国民がこれほど大手メディアの言説を信じなくなった時代も初めてかもしれません。

しかし、特定の「敵」を設定し、それを批判することで、問題がシンプルに見えるようになる手法は古くから多用されています。

実際は問題の構造は単純ではなく、財務省を解体しろと主張したところで、日本の財政や経済が直ちに良くなるわけではない(どころか、悪くなるかもしれない)ことに気づいている人たちも多くいるのではないでしょうか。


2. スケープゴートメカニズムの危険性

スケープゴートとは、古くはイケニエの羊から来た言葉ですが、本来複雑な問題の責任を特定の個人や組織に押し付け、その排除によって社会の不安や混乱を解決しようとする行為です。この古くから人類によって多用されてきたメカニズムには、以下のような危険があります。

(1) 真の原因を見誤る

財務省の政策には問題があるかもしれませんが、それだけが原因ではありません。

例えば、社会保険料がどんどん増加していますが、その計算に用いられる保険料率や計算方法の詳細は、厚生労働省等が決定する「政令・省令」で定められます。つまり、国会で議論されて決まるのではなく、健康保険法などの法律の委任を受けた政府が、時代や経済状況に応じて「柔軟に対応できるようにしている」んですね。パブリックコメントなど、ルール通りの運用ではあるものの、ここに本当に国民の意思が反映されているのかは疑問が残ります。気が付けば、お給料のかなりの部分が天引きされて手取りが少なくなっていることの背景の一つがこの社会保険料の問題です。

このほか、民間企業の投資不足や、新産業を産みにくい規制(ライドシェアもまだ実現していない国は少数派になったのではないでしょうか)や、デジタル・トランスフォーメーションが進んでいないことで、無駄なコストが発生し、間接的に国民の懐事情に影響していることなども原因にあげられるでしょう。

(2) 社会の分断を招く

スケープゴートを設定することで、社会の対立が深まる可能性も高まります。「財務省 vs 国民」という構図が生まれ、感情的な対立が激化すると、冷静な議論が難しくなります。米国で共和党支持者と民主党支持者が、ロシアとウクライナが、冷静に話し合うのは残念ながらかなり難しくなってしまいました。本来、社会を良いものにしたい人たち同士なわけですから、建設的な議論を分断しないような話し方で行うことは人間の叡智ではないでしょうか。

(3) 新たなスケープゴートを生む

仮に財務省が解体されたとして、上にあげたような問題が解決するわけではありません。そうなると、人々は次なる「悪者」を探し始めることになるのです。魔女狩りは、次の魔女、その次の魔女と粛清していきました。当時は日照りは魔女のせいだったのです。魔女狩りは、日照りの原因を科学的な説明に求めることによって終わったといいます。歴史から学ぶということは、これを繰り返さないことです。


3. では、どうすればよいの?

(1) 財務省を「敵」と見るのではなく、改革を促す

財務省の職員が「日本の状況を悪くしてやろう」と思っているわけではないでしょう。色々あれど、アプローチが違うだけかもしれません。であれば、必要なのは信頼関係の回復です。

良く見えなければ人は疑いを持ちます。まずは、解体ではなく、「より透明な財政運営や情報公開を求める」ことや「財務省と国民の対話を増やす」といった建設的なアプローチが必要です。これをすることは、活動側にも勉強が必要になりますが、これこそが社会を前に進め、人の活躍の場を増やしていくのです。

(2) 財政問題を多角的に捉える

財政赤字の原因は単純ではありません。日本が緊縮財政を続けてきたという人もいれば、日本のように放漫財政を続けてきた国は類を見ない、という評価の人もいます。歳出削減と増税のバランス、経済成長戦略、社会保障のあり方、人口や移民など、多くの視点や広い視野を持つ必要があります。

(3) 感情ではなくデータに基づく議論を

SNSの発達により、感情的な言葉が広がりやすい今こそ、市民がメディアリテラシーを発揮する時です。冷静なデータ分析に基づく議論が不可欠になってきたと言えるでしょう。


おわりに

私は、財務省解体デモに共感する人々の気持ちは理解できます。彼らは、現状の財政政策に不満を抱え、日本社会がより良くなることを願っているわけで、声を上げること自体は素晴らしいことだと思います。しかし、そこで止まってほしくない。単純な「敵」を作り、それを排除することで解決しようとするスケープゴートメカニズムには、大きな分断をうみ、なかなか癒えない傷を残してきた歴史があるのです。

私たちがすべきことは、「財務省を潰せば良くなる」と考えるのではなく、「財務省をどう変えていくべきか」「財政政策をどう改善するべきか」という建設的な視点を、人任せにせずに各自が持つことです。感情に流されず、冷静な議論を通じて、より良い未来を築いていくことこそが、私たちに求められる行動ではないでしょうか。

一人一人が独立自尊の精神で、敬意をもって対話し、意見を持ち、世界でしっかり役割を果たしていく。そんな素敵な共同体にしたいですよね!

様々な意見はあって然るべき。お互いのそう考える理由を理解して、より良い納得解を人々が導き出していく。そういった世界に向け、オシンテックは、合意形成の知恵を広めていきます。

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(広報後記)
ちょうどこの原稿を貰った日に私はブックカフェで「社会はこうやって変える コミュニティオーガナイジング入門」マシュー・ボルトン著を手に取っていました。まだ読了していないものの、主張を訴えたい相手をいかに敵にせず変えたい方向に促していくのか、という観点がまさに章立てに載っていました。社会運動の難しさは私自身骨身に染みているからこそ、先人の知恵に学びたいと思います。

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