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走り出した「アテンダント」たち──20万人来場のプロジェクトで守り抜いた命と尊厳

0.1秒の決断と、無数の傘。巨大プロジェクトの最前線で「命と尊厳」を守り抜いた名もなきプロフェッショナルたちへ

その夏、私のインカムは一日中鳴り止まなかった。
アスファルトが熱を吸い込み、数万人の波が押し寄せる真夏の現場。
怒号が飛ぶわけでも、誰かが倒れたわけでもない。
それでも私は、最前線に立つ200人の背中を見るたびに思っていた。
この人たちは、プロだ。

※本記事では、某巨大プロジェクトの最前線で戦い抜いたスタッフたちへ最大限の敬意を込め、彼らを単なる案内係や一スタッフではなく、正式名称である「ゲストサービスアテンダント(通称:アテンダント)」と呼称します。 他の記事やメディアではボランティアにばかりスポットライトが当たっていますが、この記事の主役は、自ら考え、現場を走り出した「アテンダント」達です。 彼らの素晴らしい助けと誇りがなければ、私たちは誰一人として全力で笑ってゴールテープを切ることはできませんでした。心からの感謝と愛を込めて、この記事を書きます。

■ 鳴りやまない無線と、最前線のリアル

「〇〇より野中Dへどうぞ…… 現在〇〇にて傷病者発生。意識アリ、嘔吐の症状アリ。熱中症と思われるが軽症、救護班を要請。歩行困難ですが軽症のため、ストレッチャーではなく車椅子を要請します、どうぞ」

連日20万人を超える人々が押し寄せる、真夏の巨大プロジェクト。アスファルトから突き上げる熱波で視界が歪む中、私の耳元のインカムからは、一日中こうした緊迫した報告が飛び交っていた。

この無線の言葉には、現場を回すための「すべて」が詰まっている。 現在地、意識の有無、具体的な症状。そして何より重要なのが「軽症のため、ストレッチャーではなく車椅子を要請する」という瞬時のトリアージ(資源配分)だ。限られた医療リソースをどこへ割くべきか、現場の人間が自らの目で見て、0.1秒でジャッジを下す。

私たちのチームは、全員が同じ情報をリアルタイムで共有する「チーム無線」を採用していた。一部のリーダーだけでなく、現場に立つ全員が常に全体状況を把握している状態。これが、後に彼らを「最強の自走集団」へと変貌させる核となる。

私が現場を統括するにあたり、200名のアテンダントたちに最初に伝えたのは、極めてシンプルな哲学だった。 「みなさんは、お客様に『ファーストアプローチ』と『ファイナルアプローチ』が出来る最高のポジションです。ゲストにとって一番記憶に残る、この巨大プロジェクトの顔です。ですので、絶対に笑顔を忘れないでください

実際に私の口癖は「最後まで笑顔を忘れずにね」だったと今でも思い出します。

ただ立って道案内をするだけではない。入場から退場まで、彼らの声かけ一つがゲストの体験の質を決める。 疲れてむすっとした子供も、アテンダントが笑顔でお見送りをしたら満面の笑みで手を振り返してくれる。日々動き出したアテンダント達を見るのが、本当に誇らしかった。

その誇りを胸に刻んだ彼らは、もう「指示待ちモンスター」などではない。自走を始めたアテンダント達は、早々にマニュアルの枠を超えていった。

■ 命を守るための「エスカレーション」と、自発的なケア

連日の猛暑の中、ゲストの安全を守るためには、まず「自分たちの安全」を確保しなければならない。私は朝礼のたびに、全員の顔を見て確認した。 「朝ごはんはしっかり食べた? 寝不足はない? 今の時点で少しでも体調に違和感がある人はいない?」

炎天下で長時間立ち続ける過酷な現場。真面目なアテンダントほど、少々の不調なら「大丈夫です」と強がってしまう。だから私は、彼らに逃げ道を作った。 「もし辛くても、私(ディレクター)には言いにくいかもしれない。そんな時は、隣にいるアテンダントの仲間に言ってほしい。あなたたち200人(エリア全体)は全員仲間だ。遠慮なく伝えて、聞いたアテンダントは絶対にDやADへエスカレーション(報告)してほしい」

このシステムは完璧ではないが確実に機能した。ある日、1名のアテンダントが炎天下で倒れ、中等症で数週間現場を離脱するという痛ましい出来事があった。しかし、その悔しさをバネに、チームの連携はより強固なものになった。「少し顔色が悪いよ」「長めに休憩に行ってきな」。スタッフ同士で声を掛け合い、OS-1を早めに飲み、身体を冷やす。異常があれば即座に無線で私にエスカレーションが上がる。結果として、私たちのチームは他と比べて圧倒的に重症化するスタッフが少なかった。彼らは自分たちで自分たちを守る術を身につけたのだ。

■ 尊厳を隠す「無数の傘」

プロジェクト現場では常に「命を最優先」それが合言葉だった。ただ、命と同じくらい守らなければならないものがあった。それは倒れたゲストの「尊厳」だ。

プロジェクトが開幕して初期の頃。猛暑の中で倒れ、苦しんでいるゲストに対し、あろうことかスマホを向けて撮影するモラルの欠如した客がいた。発見した瞬間、私は腸が煮えくり返るほどの怒りを覚え、その人間を血眼になって追いかけた。しかし、人混みに紛れて見失ってしまった。守るべきゲストに対して、とてつもなく申し訳ない、かわいそうなことをしてしまったと深く唇を噛んだ。見せ物じゃない。命がかかっているんだ。

そこからだ。私が「傷病者で倒れている方を発見したら、ゲストを傘で隠してほしい」というマニュアル外の指示を出したのは。

幸い、猛暑対策のレンタル傘は現場の至る所にあった。「傷病者発生」の無線が入るや否や、手が空いているアテンダントが自発的に傘を複数本抱えて現場へダッシュする。特に女性の傷病者の場合は、女性アテンダントが率先して駆けつけた。救護隊が到着するまでの間、男性よりも女性が対応した方がゲストは安心する。その心遣いも自発的に生まれたものだった。

倒れたゲストの周囲を傘の壁でぐるりと囲み、心ない視線やスマートフォンのカメラから完全にシャットアウトする。仮にディレクターやADがいない状況でも、救護隊が到着するまでの間、彼らが自らの判断で「場を繋ぐ」のだ。

この動きは瞬く間に私の担当エリア全体の暗黙のルールとなり、やがて他部署の警備隊や救急班にまで波及していった。命を守るだけでなく、人としての尊厳を守り抜く。アテンダントたちは、確固たるプロの矜持を持っていた。

■ 「モーゼの道」と、自走する組織の完成

来場者が連日20万人を超え出すと、現場はまさにカオスと化す。 救護所へ向かうには、どうしてもゲストで溢れかえる最も人口密度の高いエリアを抜けなければならない。ストレッチャーや車椅子、緊急時には救急車を通すため、初期の頃は私たちディレクター陣が拡声器(トラメガ)を握りしめ、「道を開けてください!傷病者が通ります!」と怒号に近い声を上げ、人混みを無理やりこじ開けて文字通り「モーゼの道」を作っていた。

しかし、組織が完全に走り出してからは、景色が一変した。

無線で傷病者のルートを察知したアテンダントたちが、私が指示を出す前に自ら動線を確保し始めたのだ。「こちらを通します!」「少し立ち止まってください!」。彼らは自分の頭で考え、数十メートル先まで完璧なルートを構築していく。

ひとつの自主性は、強烈な伝染力を持つ。 外国語の対応が必要なゲストがいれば、その言語を話せるアテンダントが真っ先に走る。その結果空いてしまったポジションには、別のアテンダントが阿吽の呼吸でスライドして穴を埋める。誰に指示されたわけでもない。彼らは現場の全体最適を瞬時に見極め、最終的にはクレーム対応まで自己完結できる、強靭なプロフェッショナルの集団へと進化していたのだ。

▪️「巨大プロジェクトを振り返って」


以下は私の個人的な言葉です。
私の記事のルールとしてはできるだけ感情はフラットにしようと思っておりますが少しだけ感情を込めて。


本当はもっと書きたいエピソードが山ほどある。彼らがどれほどゲストを愛し、この大型プロジェクトを愛していたか。「バスで帰るひとー!」と喉を枯らして叫んだ夜のこととか、最後の1ヶ月に現れたモンスター客へのギリギリの対応とか。でも、これ以上書くと私が仕込んだ身バレ防止のフェイクが崩壊してしまうから、泣く泣くこの辺りにしておく(笑)。溢れる思い出を全部語ろうとしたらキリがない。

世間のスポットライト、メディアや写真集などは「ボランティアの活躍」ばかりを報じるかもしれない。けれど、あの極限の夏を、圧倒的な熱量と責任感で回し切ったのは、間違いなく最前線で泥水をすすりながらも自律し、走り抜けた「アテンダント」たちの力だ。

あなたたちが毎日作り上げてくれた「笑顔の入り口と出口」は、誰が何と言おうと最高のプロの仕事だった。あの混沌とした現場で、あなたたちと共に戦い、最後に全員で笑ってゴールテープを切れたこと。それは私にとって、一生の誇りです。

心からの感謝と、最大の敬意を込めて。 本当に、ありがとう。

『野中まどか』


ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

このnoteでは、
綺麗な正論だけでは動かない現場で、
泥臭く人と向き合いながらチームを前に進めてきた経験を書いています。

理屈だけでは回らない。
でも、気合いだけでも続かない。
そのあいだで、現場を守るために必要だった言葉を残していきます。

はじめての方へ向けて、
「野中まどか」がわかりやすい順に読めるマガジンをまとめています。
続けて読む方はこちらからどうぞ。
https://note.com/nonaka_madoka/m/m17c603ddfb5c

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